転生したらなんかウマ娘に懐かれてる件について 作:和菓子甘味
携帯からなる「プルプルプル」という聞きなれた電子音。2コールもしないうちに、相手は電話に出てくれた。
『どうした正坊。お前さんから連絡するなんて珍しい』
相手は俺の叔父、陸上総隊勤務の樋野憲哉(ひの けんや)1等陸佐だ。俺のトレーナー就職反対の1人なのだが、内情を知ってそうで、かつ聞きやすいのが叔父しかいないので腹を括る。
「憲哉叔父さん、先日発簡された命令で気になったんだけどさ...【公益性の高い施設に施設警護の為の自衛隊員派遣等に関する法律】ってまさかとは思うけど...メジロ家とかシンボリ家が関係してるのか?」
『...まあまあってとこだな。そうだ、今回の法律設立に関してはその両家が圧やらなんやらをかけたそうでな。面倒になったもんだ』
「叔父さん。何があったって言うんだよ?なんでその両家は法律設立に動いたんだ?両家の家の警備させるわけでも無いんだろ...?」
『...そうだな。本当ならお前の父から聞くべきなんだろうが...事に関しちゃ、自衛官の俺が詳しいからな。説明してやろう』
そして俺はとんでもない事を聞く羽目になった。
それこそ江戸時代まで大昔になるんだが、俺たち樋野家は稲戸家って家だったそうだ。因みに武士の家系だったらしい。
で、明治時代になり、更にここからややこしくなってくる。
シンボリ家とメジロ家の台頭だ。
この両家、元々は最上家という1つの家だったのだが、御家騒動が激しかったらしく、明治の文明開化を期に家を分けることになった。両家共に名ウマ娘を輩出するが故、対立が酷かったらしく、その間を持ったのが稲戸家だという。
つまり稲戸家とシンボリ・メジロの両家は持ちつ持たれつの関係だったそうだ。実際、稲戸家から専属トレーナーも輩出している。
だが、それだけで話が終わるわけもない。
重要な転換期となる1904年。日露戦争開戦である。
人より力が勝るウマ娘は戦争が始まると歩兵や砲兵、伝令等に積極的に徴用され、その流れで今で言うURAに相当する団体が軍部の統制下に置かれる様になる。それは結局、昭和の初期まで続くこととなった。
そして昭和になり始まった太平洋戦争。ここでも数多くのウマ娘が散っていった。ある者はガ島での飢えやマラリアで。ある者は敵戦車へ自爆特攻で。ある者は伝令中の爆撃で。ある者は玉砕で。ある者は戦艦と共に海へ。挙げればキリがない。
そして1945年。数多の犠牲を支払った上で大日本帝国は敗戦を迎える。
敗戦後は団体はGHQの統治下に置かれ、ウマ娘達はレースへ復帰していった。
だが、稲戸家はそうはいかなかった。
元々専属トレーナーを輩出していた樋野家の人間は軍部の命令により、ウマ娘部隊の指揮官になる様に強制された。とどのつまり、ウマ娘をサポート・ケアする立場から、ウマ娘を死地へ送る立場になったのだ。
無論、稲戸家の人間はこれに反抗し、ウマ娘達を救う手段を模索した。然しながら、当時の特警や憲兵によって摘発・逮捕され軍法会議で、命令不服従により死刑や無期懲役、軽くても軍から懲戒免職及び一族のトレーナー資格の永久剥奪等が待っていた。
これは稲戸家に限った話ではなく、当時の民間トレーナー達にも起こっていた話である。
因みに稲戸家だけは、敗戦後GHQにもトレーナー資格の永久剥奪が容認されていた。理由としては軍部に協力したからとの事。
話は戻り、当時は『ウマ娘は鬼畜米英を淘汰する陛下の神兵足りうる存在である』等言われたそうだ。内情は酷いものだが、省略する。
そんな事があり。俺の曾祖父さん達は軍部の加護で私腹を肥やした団体の人間に恨みを抱いていたそうだ。
というのも、団体の人間は優秀なウマ娘を見つければ、その情報を軍部に差し出し、徴兵する代わりに賄賂を受け取っていたという。
そして戦争が終わればGHQに対して、『我々は軍部に脅されてやった』等と言い放った。
URA創立以降も政治的権力争いに参加し、比較的最近まで反自衛隊の立場をとっていた事も有名である。
そして俺が生まれる十数年前...昭和の最終期に大戦期の汚職の資料と、稲戸家の軍部対策資料が元憲兵隊の老人宅から発見され、URAの重鎮が処分を受けるという一大イベントがあったそうだ。
その際に政府は全面的に謝罪。GHQの決定を取り消し、稲戸家はトレーナー資格の再交付が認められた。
ただそれは昭和最終期の話。大戦当時の曾祖父さん達は死ぬ間際まで、「URAのバカ共を信用するな。アイツらはウマ娘を自分の金儲けの道具としか考えてない。トレーナーもそうだ。もしウマ娘を守りたければ、教師や自衛隊、警察官になれ」と口酸っぱく言っていたそうだ。それ故に俺の父さんまでの代は、殆どが公務員として働いている。
俺の従兄弟達からようやくトレーナー資格を取ることが出来るようになったが、それも親族の一部が拒否をし始めた。
理由はシンボリ家とメジロ家の対立が深まったからだ。
昔から仲が悪い様であったが、特に分家がやりたい放題の紛争をしており、血は流れないものの面倒ごとは頻繁にあったという。
そんな中でかつて間を取り持った稲戸家の存在。
つまり樋野家の存在が取り上げられたのだった。
稲戸家は大戦のドタバタで樋野家に姓を書き換え、軍部の処罰を逃れようとした。その名残が今の樋野家というわけだ。それがまあ、ある記者が見つけたらしく、面倒にもシンボリ家とメジロ家の耳に入ったらしい。おかげで両家の一部過激派が、未だに優秀な人材を輩出する樋野家と繋がりを持とうと動いているそうだ。
多分ルドルフはそういう意図で動いている訳では無いだろうけど。
そういうこともあり、今回のトンチンカンな法律がシンボリ・メジロ両家の圧とコネで通過した訳である。
なんてことをしてくれたのでしょう。一気に絶望が押し寄せてくるではありませんか。
『というわけだ』
「というわけだ。じゃねえ!完全にあのふたつの家の欲が俺に降り掛かってるだけじゃねえか!」
『まあ、お前の望んだ道に行けたんだ。良かったじゃねえか!ハッハッハッハー!』
「笑い事じゃないんだよなぁ...」
豪快に笑う叔父の声に俺は頭を抱える。
とりあえず、シンボリ家とメジロ家は要注意だ。確かマックイーンとかメジロ家のウマ娘は今年度にいたはずだからおそらく俺に接触してくるだろう。...あれ?俺詰んでない?
『詰んでいるかもしれないが、もう俺たちの管轄じゃないからどうしようもないな。お手上げだ』
「はい?」
『お前が望んだ未来だ。後は頑張りな。』
「ちょ!まっ...切れた」
ああ....胃が痛い....コンビニに胃薬買いにいこう....。