ブラック・ブレット~Another story~   作:雪桜士紋

2 / 3
初めまして、雪桜士紋と申します。
小説を書くのは初めてなので、文章力にはあまり期待せずに読んで頂けると助かります。

この物語は、原作のブラック・ブレットのストーリーの裏側で起こっていたとしてもおかしくないのではないか? と思えるような作風にしたいと思っていますので、あくまで原作のストーリーの流れ自体を変更するようなことはしないようにしています。


一章 『開幕の朝』
一話 -開幕の朝-


カーテン越しの窓の外からチュンチュンと鳥の鳴く声が聞こえ、閉じていた目蓋をゆっくりと開く。

白い天井がぼんやりと見え、何度か瞬きをして少しずつ視界を鮮明にさせていく。

天井がはっきりと見えるようになったとき、霧咲優は、それが自宅の天井だということにようやく気がついた。

 

 

「優……?」

 

 

自分のすぐ近くから女の子の声が聞こえた。

その声には感情のようなものが感じられず、聞く人のほとんどが冷たい口調に聞こえるだろう。

しかし、優はそうは感じなかった。

 

 

――何故なら、自分はこの子のことを知っているのだから。

 

 

声がした方向に首を動かすと、そこには十歳程の少女が椅子に座りこちらを見つめていた。

 

 

肩まで伸びた青みがかった髪に整った顔立ちをしており、そしてなにより印象的なのは、感情を感じさせない虚ろな瞳。

 

 

「おはよう、雪希」

 

「おはよう……もう平気……なの?」

 

 

小首を傾げながら雪希は優に平気かと聞いた。

サラサラとした綺麗な青髪が、首を傾げた動作と共に揺れ動いていた。

優はまだ寝ぼけていて、なにが平気なのか全く思い至るところがなかったのだが、次第に意識が覚醒していき、ようやくその言葉に込められた意味を理解した。

 

 

自分は二日前から高熱で寝込んでいたのだった。

 

 

 

「ああ、もう大丈夫だ。 心配かけたな」

 

「ううん……。 良かった……」

 

 

雪希は安堵の吐息を溢すと、虚ろな瞳のままうっすらと微笑んだ。

 

満面というには程遠い笑みだが、これが雪希の最上級の笑顔だということを優は知っている。

雪希は滅多に微笑まない。

そんな彼女が微笑んだということは、心から優の回復に喜んでくれているのだ。

 

その笑顔に癒されて、優は体調管理はもっと徹底しようと心の中で誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ……。 そういや、社長に連絡入れるの忘れてたな」

 

 

リビングで朝食のトーストをかじりながら、優はうわ言のように呟いた。

 

高熱で寝込み始めてから二日間、自身の働いている会社に連絡を入れるのを忘れてしまっていた。

 

つまり、無断欠席をしてしまったということだ。

 

 

「雪希、社長から連絡来てなかったか?」

 

 

無断で二日間会社を休んでしまったのだ、連絡が来ていたとしてもおかしくない。

 

話かけられた雪希はトーストをかじろうとした所で手を止め、うーんと言いながら考え始めた。

 

 

「無かった……。多分」

 

「多分って……。 相変わらず適当だな……」

 

 

雪希は言われたことを気にも止めず、トーストに夢中でかじりついていた。

優は呆れ混じりに溜め息を吐いた。

雪希と一緒に生活してもう三年近く経つ優だが、今だにこの適当さにだけは頭を抱えていた。

 

雪希は頭の中で自分がどうでもいいと判断したことは、三歩歩いた鶏の如く、すぐに忘れてしまうのだ。

 

 

――真面目な話はちゃんと覚えといてくれるんだけどな……。

 

 

「まあいっか、あいつのことだから大して気にしてないだろ。 ……そもそも出勤したところで仕事の依頼来ないから行っても意味ねーし 」

 

「……確かに」

 

「でも流石に今日は顔出さないとな。 二日間も無断で休んじまったんだし」

 

「……うん」

 

 

話が済み、二人は残ったトーストを一気に平らげ、コップに注がれたコーヒーを飲み干した。

優と雪希は立ち上がり、それぞれ自分の食器を台所へと持って行った。

 

 

「食器は帰ってから洗うとして…… 雪希、出かける準備してきてくれ。 会社に顔出しに行くぞ」

 

「わかった……」

 

 

雪希は頷き、自室へと向かって行った。

優も自室へと行き、クローゼットから外出用の服を引っ張りだし着替え始めた。

 

黒のワイシャツを羽織り、黒に近い灰色のジーンズを履いた。

 

そして、腰にホルスターを装着し、机の上に置いていた "拳銃とナイフ" を手に取りホルスターに納めた。

 

支度を終え、自室を出てリビングに向かうと、先に着替え終えていた雪希が待っていた。

 

白いTシャツの上に袖の無い黒のパーカーを着ており、長さが合わず裾を捲った栗色のチノパンを履いている。

女の子というよりは、男の子がするような格好だ。

 

 

「よし、行くか」

 

「うん」

 

 

リビングから玄関へと移動し、優は黒のブーツ、雪希は白を基準としたスニーカーを履き、玄関を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅から徒歩三十分ほどで目的地へと到着し、

携帯電話の時計を確認すると、時刻は九時を回っていた。

優たちの目の前には、いかにも人が寄り付かなさそうな不気味な佇まいをした七階建てのビルが立っていた。

 

そのビルには、ところどころに亀裂が生じており、建てられた時は真っ白な色をしていただろう塗装は色あせていた。

 

夜になれば、何かが化けて出てくるのではないかとさえ思えるだろう。

一見廃墟にしか見えないビルだが、正面入り口の横に一つの看板が立っており、それを見るにこの建物は営業している会社だということがかろうじてわかる。

 

 

――『太智川民間警備会社』

 

 

「民間警備会社」とは、イニシエーターとプロモーターのペアを雇い、エリア内の"ガストレア"の駆除や、臨時のエリアの戦力等をする会社で、総じて「民警」と略称されている。

民間警備会社はいくつもあり、大手会社から今にも潰れそうな小さな会社もある。

 

 

「やっぱ何度見ても営業している会社には見えねーよな……」

 

 

今にも潰れそうな目の前の会社を見て、優が苦笑しながらそう言うと、雪希も納得した様子でコクッと頷いた。

 

軽くヒビの入ったガラス張りの手動ドアを押し、中へと入っていった。

 

中は以前、このビルで営業していた会社の内装のままとなっており、受付場所などがある一階だ。

人気が無く、受付待ちの為に設置されていた縦長の椅子はほこりをかぶっていた。

受付場所を通り過ぎ、真っ直ぐ向かったところには階段があり、二人はそれを登っていく。

二階、三階と次々に登っていき、最上階の七階まで登り終えると、その廊下を歩いて行く。

廊下の一番奥にあった部屋のドアの前まで到着すると、そこで足を止めた。

 

そのドアは他の部屋のドアとは大きく異なっており、そもそも素材からして違っていた。

頑丈そうな金属で作られているのだ。

 

そのドアには監視カメラ付きのインターフォンが取り付けられており、優はそのボタンを押した。

ピンポーン、と音が鳴り、応答を待つ。

 

三秒ほどして、金属ドアからウィーン、ガチャッと音がして、ロックが自動で解除されたのを知らせる。

優は何も言わずにそのドアを開けて、雪希と共に中へと入った。

その部屋は、ビルの外から見たら到底想像のつかないような内装をしていた。

 

高級そうなデスクにオフィスチェアー。デスクの上には三台の最初式のパソコンが置かれており、他にも高級そうなソファーなどもあり、リフォームをしたのか、壁や地面はとても綺麗に塗装されている。

 

 

――太智川民間警備会社の経営者の部屋。

つまり社長室だ。

 

 

オフィスチェアーには一人の男が腰かけてパソコンとにらめっこをしていた。

 

見た目は20代半ばほどの青年で、右瞼から縦に続く大きな傷と、茶と黒の色でアシンメトリーになっている髪が印象的で、どこか飄々とした態度の男。

 

男は見ていたパソコンから視線を外し、優たちに向けた。

 

「やあ、霧咲くんに雪希ちゃん。おはよう、 二日ぶりだね」

 

 

男は優たちを見るとニッコリと微笑み、飄々とした態度で二人に挨拶をした。

 

「よう、太智川」

 

「おはよう……タチ」

 

 

優と雪希も太智川という男にそれぞれ挨拶をする。

二人の挨拶を聞き太智川は苦笑すると、困ったような顔で言った。

 

 

「……霧咲くん。 ちゃんと社長って読んでって言ってるよね? 君がそんなんだから雪希ちゃんが俺に変なあだ名付けちゃうんじゃない」

 

「いいじゃねぇか、 似合うぜ? タチ社長」

 

 

優が皮肉混じりにそう言うと、太智川民間警備会社の社長、太智川昌吉(たちかわ まさよし)は諦めたように肩をガクッと落とした。

それから「まあ、いいか」と立ち直り、太智川は優に視線を向けた。

 

 

「ところで、霧咲くんはもう体調は大丈夫なのかい? 昨日電話したら雪希ちゃんが出て、君が高熱出したって言ってたから凄く心配したよ。 なんせ君たちはウチの大事な唯一の "民警ペア" なんだからさ」

 

 

太智川は相変わらずの飄々とした態度で皮肉混じりにそう言った。

 

 

――そう、優と雪希は十年前から突如出現し始めた寄生生物「ガストレア」の"駆除"を主な仕事とする、プロモーターとイニシエーターの民警ペアなのだ。

 

 

優は連絡を入れ忘れていたことを思い出し、バツが悪そうに頭を掻いてから口を開いた。

 

 

「体調はもう大丈夫だ。 それより……」

 

 

太智川に体調の回復を伝えてから、優は隣にいる雪希を呆れの混じった表情で見つめた。

その視線に気付いた雪希は、目を合わせたまま何ごとかと首を傾げ、頭の上にはてなマークを浮かべた。

どうやら今の表情では雪希に言いたいことが伝わらなかったらしく、優は言葉で伝えることにした。

 

「雪希……。 連絡、来てたんじゃねぇか 」

 

「そういえば……あった……。かも」

 

「はぁー………」

 

 

 

大きな溜め息が出た。

雪希は相変わらずの平常運転(適当)だった。

優は気を取り直し、二人のやり取りを微笑ましく見ていた太智川の方へ視線を戻した。

 

 

「社長。俺がいない間に仕事の依頼は来ていたか?」

 

 

優が聞くと太智川は首を横に降った。

 

 

「来てないよ。 …… 確か、前に仕事の依頼が来たのって一月前だよね。 やっぱ知名度ないよね、ウチの会社」

 

「知名度だけじゃねーだろ…… 外から見ると明らかに廃墟にしか見えないこのビルも問題あるだろ。 こんなんだから仕事こねーんだよ」

 

 

優の皮肉に太智川はムッとなり、やや早口になりながら優に言った。

 

 

「今更それ言っちゃう? 俺は気に入ってるんだけどなぁ。 それを言ったらウチの唯一の民警である君のIP序列が低いからっていうのもあるんじゃない?」

 

「ぐっ……てめぇ。それは仕事がなかなか来ないから序列が向上しないんだろうが……!!」

 

 

IP序列とは、イニシエーター・プロモーター序列の略で、全世界で七十万といるイニシエーターとプロモーターのペアを、戦力と戦果で格付けしたもので、国際イニシエーター監督機構「IISO」がそれを管理している。

 

二十九歳と十八歳の男の情けない言い合いが始まり、雪希はそれを退屈そうに眺めていた。

二人が言った通り、太智川民間警備会社には仕事が滅多に来ない。

 

優が言ったように、営業してるかも危ぶまれるような会社だという理由もあり、太智川が言ったように、仕事に出る民警である優・雪希ペアのIP序列が低いからという理由もある。

IP序列が低い=実力がないという考え方が普通で、仕事は自然と高位序列者へと回ってしまうのだ。

 

因みに優・雪希ペアのIP序列は十万三一位。

決して低いという訳では無いのだが、優たちの住む "東京エリア" には、高位序列者が多数存在しており、それらと比べてしまうと低いとしか言いようがないのだ。

 

これらの負の条件が揃えば、この会社に仕事の依頼が来ないのも当然と言えるだろう。

 

 

「とりあえず社長。 あんた金だけは無駄に持ってるんだから、まずは会社を全体的にリフォームするか、新しく会社を建築しろ」

 

「それは断らせて貰う。 俺は今のこの会社が気に入ってるんだ。 これだけは譲れない」

 

 

優は一端冷静になり、太智川に会社の今後のことについて提案を寄越すが、太智川はそれをあっさりとはねのけた。

 

 

「このわからず屋がっ……!」

 

「君こそ俺のポリシーを理解してほしいね」

 

 

睨み会っている二人の視線から火花が飛び散る。

そんな中、優のケータイの電話の着信音が鳴った。

 

 

「誰だこんな時に……。 おっ、貴島からだ」

 

「貴島ちゃんから?」

 

「ああ」

 

 

この会社で働いている社員の最後の一人、秘書の貴島からの着信で、太智川との言い合いを一端中断し、電話に出た。

 

 

「もしもし」

 

『霧咲くん! いまどこにいる!?』

 

 

いきなり怒鳴り声にも似た大きな声が聞こえ、優は思わずケータイを耳元から離した。

 

 

「貴島……声でけーよ。今は会社にいるけど、なんかあったのか?」

 

『丁度良かった! 喜んで! 一ヶ月ぶりに仕事の依頼が来たよ!』

 

「「なに!?」」

 

 

太智川と優の言葉が同時に重なり、あまりの息のピッタリさに雪希は口を半開きにしながら驚いた。

 

 

『仕事内容はステージⅠガストレアの駆除! 現在、第三十一区にいるそうだから、他の民警に先越されないよう急いで向かって!』

 

「二つ隣の区か。 了解、今から向かう」

 

 

電話を切り、太智川に向かって頷くと、彼も同じように頷き返してから嬉しそうに言った。

 

 

「久しぶりの仕事だね。 宣伝も兼ねてさ、いっちょ派手に倒してきちゃってよ」

 

「派手にとか無茶言うなよ。 おい雪希、行くぞ」

 

「うん」

 

 

優と雪希は勢いよく社長室を出ていき、太智川はその二人の背を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会社を出て走り出してから十分が経過したが、今だ目的地である第三十一区には到着していなかった。

 

多少はスタミナに自信がある優だが、全力の一歩手前の速度で走り続けている為、徐々に息を乱し始めていた。

 

 

「はぁ……はぁ……。 あーくそっ、自転車でもあれば少しは楽なのによー……」

 

「優……。 走るの遅い……スタミナ無い」

 

「結構速い方だろうが……!! スタミナだってある方……。ツッコミやらせんなよ、余計疲れる……」

 

 

雪希も優と同じ速度で走っているが、息を全く乱していなかった。

十歳の少女の歩幅で優の速度に追い付き、息すら乱していない姿を見ると、自身のスタミナが無さすぎるのではないかと錯覚しそうになる。

しかし、それは違う。

 

何故なら雪希は、普通の人間の身体能力を上回る 人間である"イニシエーター"だからだ。

 

 

走っていた広い道路を右に曲がった途端、猛スピードで走る車が優の真横をすれすれで走り抜けていった。

 

 

「あっぶねぇ……。 ガストレアと闘う前に死ぬところだった……ん?」

 

 

振り返ると先ほどの車がUターンし、またしても猛スピードでこちらに走って来た。

 

もしや自分たちを引き殺そうとしているのではないかと思い、優は身構えたが、車は優の真横まで来るとキィーッと耳障りな音をたてて急停止した。

頭にきた優は、運転手を怒鳴りつけてやろうと思い運転席に近づくと、ウィーンと音をたてながら運転席のミラーが下がっていった。

 

 

「急いでんだよ! 邪魔すん……」

 

「霧咲くん! まだこんな所にいたの!?」

 

 

優の言葉を最後まで聞かずに遮ったのは、夕日に染まる茜雲のような色をした長い髪を後ろで一つに束ね、ポニーテールにしている少女だった。

 

先ほど電話で仕事の依頼を知らせてくれた太智川民間警備会社の秘書、貴島美羽(きじま みわ)だ。

美羽は腕時計で時間を確認した後、焦りの混じった表情で優を見て言った。

 

 

「時間が無いから乗って! 送っていくよ」

 

「そりゃ助かる。 雪希」

 

「うん……」

 

優は助手席に座りドアを閉めると、雪希は助手席のドアを開け、優の膝の上に座った。

 

「……雪希、後ろの席空いてるぞ?」

 

「……ここがいい」

 

「シートベルト閉めて! いくよ!」

 

 

美羽に言われて、雪希ごと挟んでシートベルトを閉めると、車が猛スピードで走り出した。

あまりのスピードに、車に表示されている速度を確認すると、七十キロをオーバーしていた。

 

 

「スピード出しすぎだ、サツに捕まるぞ」

 

「ここら辺の人達は皆既に避難してるから目撃されないって。 バレなければ問題なし。 他の民警に先を越される訳にはいかないもの」

 

 

美羽が無邪気な笑顔で優にピースをした。

素敵な笑顔の筈なのだが、言っていることがことなので、かえって不気味だった。

優は苦笑しながら「そうだな……」と適当に返事をした。

 

 

――やっぱウチの会社にはまともな人間がいねぇ。

 

 

優が頬杖をついて窓の外を見つめていると、前を向いた体勢で座っていた雪希が、突然身体を捻って優にもたれかかり、右頬をそっと胸にあててきた。

 

優は一瞬ドキッとしたが、雪希の顔を覗き込むと、僅かに頬を綻ばせながら目を閉じていた。

その表情を見て優は何かを察したのか、雪希の頭にポンッと優しく手を置いた。

 

「なんだ、眠いのか?」

 

 

優の質問に雪希は一瞬肩をピクッと動かしてから「え……ちが……」と小さく呟いたところで口を閉じ、胸に顔をうずめた。

 

 

「う、うん…… 眠いの…… だからこのまま」

 

 

優は「へいへい」と言って雪希の頭を優しく撫でると、気持ち良さそうに喉を鳴らす声が聞こえた。

 

 

「本当に仲がいいよね、二人とも」

 

優は美羽の方へ顔を向けると、微笑みを浮かべながらこちらを見ていた。

優は気恥ずかしさから頭を掻きながら言った。

 

 

「当然だろ。 家族なんだからよ」

 

「うんうん、親子みたいだもんね」

 

「この状況においては娘というよりペットみたいだけどな。 こうして雪希の頭撫でてると、何故か落ち着くんだよ」

 

優が微笑みながら雪希の頭を撫でていると、胸元から「娘……ペット……」というやけにトーンの低い声が聞こえた。

 

優が雪希に声を掛けようとしたところでカーナビが喋り出し、あと千メートルで目的地である三十一区に到着することを知らせてきた。

 

それを聞いた美羽の穏やかな表情が真剣なものへと代わり、優も気を引き締めた。

 

車の中に緊張感が走る中、美羽が「そういえば……」と言って前を向きながら優に聞いた。

 

 

「霧咲くん一ヶ月ぶりの戦闘だし、少し鈍ってるんじゃないの?」

 

「 舐めんな。 一ヶ月程度で鈍っちまうようじゃウチの会社でやっていけねぇよ」

 

「ふふっ、頼もしいね」

 

 

自信満々な優の言葉を聞き、美羽はニッコリと微笑んだ。

 

 

「そこの角を曲がったらもう着くよ」

 

「ああ」

 

 

車がその曲がり角まで到着し、右折した途端、突然目の前に大きな"何か"が飛び込んできた。

 

 

「きゃっ!」

 

 

いきなり目の前に飛び込んできたものに美羽は驚き、急いでブレーキを踏んだが、その大きな何か は、美羽の車に勢い良く跳ねられ、後ろに転がっていった。

いつの間にか眠っていた雪希が今の衝撃で目覚め、何事かと回りをキョロキョロと見渡した。

 

それから少しして車が停止すると、ハンドルを握っていた美羽が酷く真っ青な顔をしていた。

 

 

「ど、どうしよう……。何か轢いちゃった……」

 

 

美羽が青ざめた顔で泣きそうになっていると、優は不敵な笑みを浮かべ、雪希は相変わらずの無表情で美羽に言った。

 

 

「貴島、良くやった。 挨拶には丁度いい」

 

「うん……丁度いい」

 

「……へ?」

 

 

美羽は優と雪希の言っている言葉の意味が理解できずにいると、優が「ほら」と言ってバックミラーを指差した。

 

美羽が恐る恐るバックミラーを見ると、轢かれた何かが道路に倒れ込んで悲痛の唸りをあげている姿が写っていた。

 

美羽は驚きで眼を大きく見開いた。

 

 

――美羽が轢いたのはガストレアだった。

 

 

四本の足と全身の鮮やかな毛並み、尖った耳と尻尾、そして口元の大きな牙。

 

その姿は狼そのものだった。

 

ただ、普通の狼とは明らかに異っていたのは、瞳 の色と身体の大きさだ。

 

瞳は真っ赤に輝いており、全長は五メートルほどある。

 

 

「ステージⅠの割にはデカいな」

 

「よ、よかったぁ…… 人じゃなくて」

 

「安心するのは結構だが、とりあえず距離を取れ。 そろそろ回復して襲いかかってくるぞ」

 

 

美羽は安心したのも束の間、優に言われてバックミラーを確認すると、狼のガストレアはゆっくりと立ち上がり始めていた。

 

 

「そ、そうだね! まずは距離を取らないと!」

 

 

美羽は急いでアクセルを踏んだが、エンジン音が鳴るだけで、車は走り出さなかった。

「あれ?」と言ってもう一度アクセルを踏むが、一向に走りだす気配は無かった。

 

 

「ま、まさか……」

 

「ああ。 ぶつかった衝撃で故障したな」

 

 

美羽の顔が再び真ざめていった。

 

 

「ま、まずいよ! どうしよう!」

 

「落ち着け、とりあえず降りるぞ」

 

 

優が冷静に対応しシートベルトを外すと、美羽も「わ、わかった!」と言ってから急いでシートベルトを外した。

 

優と美羽が外に出ようとドアに手を掻けたところで、雪希が「あっ」と呟いて後ろの方を指差し た。

雪希が指差した方向に優と美羽が振り向くと、二人も同じように「「あっ」」と呟いた。

 

 

ガストレアがこちら目掛けて突進してきたのだ。

距離はあと二十メールを切っていた。

 

 

「と、跳べぇっ!! 」

 

 

優は雪希を担ぎながら、美羽は酷く慌てながら急いでドアを開け、三人は車から飛び出した。

 

三人が地面に叩きつけられた瞬間、ガストレアが車に勢い良く突撃し、車は数十メートル先まで吹っ飛ばされていった。

それからガストレアは後ろに向かって大きく跳躍し、優たちから距離を取った。

 

車はひっくり返っており、ミラーは割れ、全体的に大きく凹んでしまっていた。

 

優は雪希を担いだまま立ち上がり、未だ倒れたままの美羽のもとへ駆け寄り、手を差し伸べた。

 

美羽は優の手を取って立ち上がり、自身の車の無残な姿を見ながら大きく溜め息を吐いた。

 

 

「あーあ……昨日買ったばっかりなのに……」

 

「命あってこそだろ。 それよりお前は今すぐここから離れて何処かの建物の中に隠れろ」

 

 

優が美羽にそう言いながら睨み付けているのは、五十メートルほど離れた距離からこちらの様子を伺いながら威嚇してきているガストレアだ。

 

 

「わかった。終わったら呼んでね!」

 

「へいへい」

 

 

美羽は優と雪希に手を振ってから走って離れた所へ向かっていった。

優はその背中を途中まで見送ると、ガストレアのいる方向へと向き直った。

 

 

「……さてと。 雪希、油断すんじゃねーぞ」

 

「……うん。 優もね……」

 

「ああ」

 

優は腰に装着しているホルスターから、刃が三十センチメートル程ある黒いファイティングナイフを抜き取った。

前方に見えるガストレアを睨み付けながら、雪希に向けて小さく言った。

 

 

「力を使え、雪希」

 

「うん……」

 

雪希がコクッと頷くと、黒かった雪希の瞳が真っ赤に染まった。

雪希と目が合ったガストレアが一瞬ビクッと肩を震わせた。

 

 

「アオオオオォォォン!!」

 

 

ガストレアが吠え、臨戦体制に入ったのを確認し、優と雪希も戦闘体制に入った。

 

互いが睨み合い、相手の出方を伺っていた中、先に動き出したのは優だった。

優はガストレアに向かって勢い良く走り出した。

 

 

「行くぞ雪希っ!」

 

「待って……」

 

 

突然雪希に待ったをかけられ、優は足に急ブレーキを掛け「うおっとっと」と言い体制を整えながら止まった。

 

 

「どうした雪希? まだ眠いとか言わねーよな?」

 

「……わたしの武器は?」

 

「……えっ?」

 

 

そう言われて雪希の手元を確認すると、武器を持っていない丸腰の状態だった。

 

そして優は思い出した。

 

 

「しまった! 家に置きっ放しだ!」

 

「優……。だらしない……」

 

「いや、お前の物なんだから普通は自分で持ってくるんだぜ?」

 

 

そうこう言い合っていると、待ちくたびれたのか、先ほどまで一向に動こうとしなかったガストレアが自ら攻撃を仕掛けてきた。

 

五十メートルあった距離を瞬時に詰めて跳躍し、前足の鋭利な爪で襲い掛かってきた。

 

優と雪希はそれを瞬時に交わし、優はすれ違い様にガストレアの横っ腹を切ったが、少量の血が流れるだけで、致命傷には至らなかった。

 

 

「ちっ……浅いか。 おい雪希っ」

 

「……ん?」

 

雪希が振り向くと、優は不敵な笑みを浮かべて言った。

 

 

「こいつは俺が仕留める」

 

 




文章力無いですし、進行も遅いですよね……すみません。
もっとテキパキ進められるように努力します。

ご指摘やご感想などお待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。