壊れた少年のマーチ   作:オリの中のカナリア

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神の救済

僕と彼女は家まで帰ることにした。一応彼女は今日の学校は休むつもりだったらしい。

こいつは本当に大丈夫かと思いつつ食事を作ってやる。

 

彼女との関係は顔見知りの友達だって尋ねられた時には答えればいいか。

・・同じ寮の人に迷惑にならないようできるのだろうか心配する程度だが。

 

「そういえば僕は空腹を感じないが」

「臓器の動きも血液の動きも止めたせいでしょうね。恐らく朝学校に行った状態のまま魔法をかけここまで来たからです」

「寮部屋ではおんなじ人に迷惑かけんなよ」

「そこら辺はうまくやりますよ」

 

取り敢えず信用することにする。

 

「・・あの戦いは?」

「・・どの?」

「学校でですよ」

「それは一旦結果は保留にしました」

「そうか・・」

「?」

「そうだ、昔のことについて話してもいいかね?」

「ええ」

「この機会を得られたことに感謝するよ。あれは何年前だろうな・・」

 

§

 

僕がまだ部隊に所属している時に僕に俺を名乗る奴が頭の中にいた。

そいつは必ず「身体を寄越せ」っていうんだ。なかなかに変だと思うだろう。僕も最初は聞き間違いじゃないかって思っていた。

そして“あの時”が来たんだ。間違いない。あの戦況で言えるのは『肉体は確実に死んだ』ってことだろうな。“あの時”に発生した相手が悪すぎたんだろうな。

 

俺がその時に遭った奴は分類コード2048-通称厄災と呼ばれる奴だったんだ。

 

厄災は噂には聞いていたさ。黒い髪を持っていてめちゃくちゃ強い。それでもって発生源は不明とされてきた伝説とも言えるような怪物さ。

僕はそいつに抵抗した。結果は先述した通り全然ダメだった。攻撃は掠りもせず、相手の攻撃を何百回とくらっていたからだった。腕も脚も元々骨があったのかっていうぐらい穴が空いて軟着陸の態勢を取れば肋骨が胸部を圧迫し出血が増えるという地獄さ。

普通こんな状態になれば退却を選択するだろう。ただ僕達にはその選択肢がない。何でかって?そりゃぁ《big》帰るところなんてないからに決まっている《big/》。

死んだやつは運の尽き、生きて帰ったら次の目標へ、って言われてきた世界だった。死んだ奴は頭を破壊、死に損ないは死なせる手伝いをする世界だ。今となっちゃイカれてる話だろう。でもそれしかなかった。それが常識だった。

だから僕も見送られる時が来たんだろうって思ったんだ。そうしたら身体を寄越せって言っていた声にもう一度同じ質問をされた。どうせ死ぬ運命だと思ってな、やってやるって言ったら意識が切れてな。起きた時には自分の仲間が声をかけていた。体もボロボロだったはずなんだが戻っていた。戦績を見れば分類コード2048撃破と書かれていてな。びっくりしたんだ。

その時そいつがもしかしたら本当にいるんじゃないかと思ってな。それが最後に奴の声は聞かなかったが先ほど聞いたということはそいつなんじゃねぇかなと思ったから話してみた。

 

§

 

「・・っていうのが僕が知っている俺だな」

「なかなかに興味深いものですねぇ」

「そうかい?」

「厄災撃破に関する話は聞いたことがあるんです。でも三国が共同で倒したって」

「そりゃそうだろう。仮にも僕のことを言ってみろよ。国家が全部崩壊するぞ」

「なぜ?」

「パワーバランスだよ」

「ああなるほど」

 

僕のことを言えばどうなるか。

まず一つ目に牽制し合う国家のバランス崩壊だ。これが起これば経済はもちろん人民も混乱する。

二つ目に俺らについてがバレる可能性がある。俺らについてバレれば同じ方法で自分と同じ人間が作られることになるのは避けておくべきだ。

そして三つ目にして一番困るのが僕達の処理だ。処理するにしても(幹部)まで調べ尽くすのかどうかによって対応が変わる。もし(幹部)までやったとなるとたくさんの“裏側の人間”が関わる話になる。それは半分粛清であり、半分身内斬りとなる諸刃の剣である。

 

「確かにこんなの(野生獣)をどこかの誰かが糸を引いてたなんてなったら大変ですね」

「・・僕はどこまで行っても危険な迫撃砲ですから」

「少なくとも私にとってはそうでもないですよ」

「過大評価はやめていただきたい」

「いいえ、事実ですよ。だって貴方がいなければこの世界の表には出るはずのない物体でしたから。貴方がいてくれたおかげでこの世界の良さも理解できたのですよ」

 

本当にそうだろうか。彼女の助けとなれたことはまだないはずだ。むしろ彼女は僕によって傷つけられた側なのではないだろうか。

 

「・・まだ学校に行きたいと思いますか?」

「ええ、もちろん」

「僕がいても、ですか?」

 

もし彼女が僕のことを拒絶するのであれば彼女の為に学校へは行かない。僕の意志で行きたいと思ったとしても彼女が行きたくなくなるならば僕は邪魔してはならないのだ。

だが、反応は違った。

 

「そりゃ当然です。ヴァルの学校での行動を見ることができるのですもの」

 

なぜ彼女は僕を拒絶しないんだろうか。

僕はあんなにも酷い扱いをしたのに。

 

「それに私の生活の根幹を担ってますし」

「・・生活ぐらいは自分でできるようにしましょう」

 

神は何を思い生かしてくれているのだろうか。今までの(sinn)を償う為だろうか。

そう思っていると背中に嫌な感覚を感じた。そうか。今日は()()()か。

 

「ルーナ。今晩から三日間夜に家を空けます。朝には帰ってくるので心配しないでください」

「・・重大な問題なの?」

「はい。鍵は閉めていただいて結構です」

「一緒に行ってはいけないのですか?」

「文字通りの帰らぬ人となりますよ」

「・・分かりました、ただし確実に帰ってくることを条件とします」

「これが終わればまた共にいられますよ。では」

 

なるべく急いで彼女の家から出て離れる。目指すは裏の森だ。

なるべく人として自然に会話をしたがどうだろうか。そう考えた瞬間背に強烈な痛みを感じその場にうずくまる。

 

「うっ・・ぐぅ・・」

 

背中から刺すような痛みと共に腹部の鈍痛が襲う。

 

「あと・・もう少し・・だけ・・」

 

なるべく被害が広がらない森の奥を目指す。

 

「がう・・ぐぅっ・・」

 

体の中から侵食される感覚がする。骨の中から割られるような感覚だ。

 

「こんな・・痛み・・まだ・・」

 

調整されていない体での暴走。それに加えた肉体の致命的な損傷。

そして自分の体質による激痛。

全ては()()()から始まった。

 

「今日の・・月は・・」

 

寝転び空を見る。明るい月は闇の中に消えたようだ。

 

「今日も・・なし・・か・・」

 

やはり誰にも迎えられない。

そう思いながら意識を喪失するのであった。




次回予告
壊れた心。その欠片は自分を崩壊させる。
異常な姿を見せた少年。その姿は歯車が狂った社会に打撃を与える。
差し伸べられる慈愛の手。その手は善意か、はたまた悪意か。
次回! 希望の光
さーて次も、サービスしちゃうわよ‼︎
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