壊れた少年のマーチ   作:オリの中のカナリア

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長いので二分割します。(長すぎて1話9,000文字オーバーとかになっちゃったので許して)


せめて、人間らしく

ヴァルフが部屋から出て行った後、私たちは部屋に残っていた。

 

「・・何かがおかしい」

 

私は何か変だと思う。彼らには分かるだろうか。

 

「何がだい。あれは彼が判断した一番賢明な対応だろう?」

「それもおかしいんです。こう、皆が止まるべき場所をなくすような・・」

 

わざわざ人を遠ざけようとする発言をする。まるで自分だけ進みたいと言ってるように。

 

「明らかに能力を過剰に判断してますよ、国ひとつを一人で支えきれるはずがないです」

「それはそうだが何故あの判断をするのかが俺には分からない」

「人が多ければ多いほど戦力になるはずなのにわざわざ削るなんて常人ではないんです。関わる方が間違いですよ」

「・・本当にそれが正解なんでしょうか」

 

本当に人間が多ければいいのだろうか。

 

「部隊が作られる理由はそうだろう」

「・・こんなことはあまり話したくはないのですが、本来の彼について知っていますか?」

「本来も何も、今が正解だろう?」

「ヴァルがこんなところで足を止めるわけがないのに、ですか?」

 

ジュークもヴェリアも理解できないと言う顔をしている。

 

「・・どういう意味だ?」

「正直に言ってしまいます。彼は一人で生きられますしやろうと思えば一人で世界全土を掌握できます」

「んな訳がないだろう。一つの国の戦力がどれだけ低いと思っているんだ」

「データから言いましょうか?血液だけですがかなり面白いものが採れましたよ」

「・・普通の人間とは違うってこと?」

「ええ、それこそ本来あるべきものがなくて、なくなったはずのものがあるんですから」

「・・それでは人は生きれないだろう?」

「そのはずなんです。しかも自傷した時の出血量は3ℓ程度とされていて体内には約四分の一しか残ってないんです」

 

あの時は正直びっくりした。何度も調べ直した。だがそれは事実だった。

 

「それなら酸欠で死ぬ・・筈よね?」

「ええ、むしろ生き残る方が謎です」

「なら何故生きている。人間の域を超えているぞ」

「見立てとしては正解です。まぁ、一番わけが分からないのもそこなんですが」

「死ななかったことか?」

「いえ、()()()()()姿()()()()()()()ですよ、食事を摂らないのに」

「・・食べないのか?」

「いえ、食べますよ。()()()()()()()()()()()()()()()。本来は痩せてしまうはずです」

 

ヴェリアが同意する。

 

「彼は姿に関して何も変わってないもの、私の目からすると気持ち悪いくらいにね」

 

彼はどのような体をしているのだろうか。私たちの手に負えるような傷を持つ人間なのか。

 

「食事を摂らなくとも戦闘能力が落ちず、怪我をしても動き続ける・・まるで傭兵のために産まれたようだ」

「傭兵のように、ですか・・本当にそうかもしれないですよ」

 

明らかに事の運びがうますぎる。何かが裏にあるのだろうか。

 

§

 

これでいい。これでうまくいくはずだ。

こうすれば本来の被害を最小限にできる。

本来は人間の被害は大きくなるはずだ。だがそれも今日は違う。今日は僕がいるのだから。

 

「これでいい、そのはずだ」

 

なのに。

 

「なぜ、自分は後悔しているのだろうか」

 

わけがわからない。

 

「必要な人間は生かし、不必要な人間は殺す」

 

ただしいはずだ。

 

「あいつらは全員大事なはずだ」

 

僕が全ての代わりになる。

 

「神の想像を裏切ればどんな顔をするだろうな」

 

きっと酷いだろう。それこそ僕という存在を消そうとするかもしれない。

 

「まぁその時は殺すが」

 

予定となる時間まで後少し。それまでこの体は持つだろうか。

 

「おい。“俺”はこの体にいるんだろう?」

 

ー面白くないやつだな、お前は

 

「安心しろ。お前に体の動きは任せる。頭は寄越せ」

 

ーどういう考えだ

 

「簡潔に言ってしまうと“反射と思考の融合”だ。人間はどちらかの動きをするためにはどちらかを止めなければならない。それを僕と分担することで反応速度を上げる。高速戦闘がより高速化するってわけだ」

 

ーお前らしい考えだな

 

「面白いでしょう」

 

ー今日はどこから?

 

「おそらく防御が甘い西だろうな。あそこは住宅街もあるため大きな被害も見込める」

 

ー取り分はどうなる

 

「6:4で君を6にするのはどうだい?流石にそれ以上は譲れないが」

 

ー好きにしろ。最低は4までだ

 

「ふふ、交渉成立だね。あと君へのプレゼントもあるが・・それは後にしよう」

 

ーやっぱりお前は面白くない

 

「お前・・もしかしてツンデレ?」

 

ー俺は今お前の生殺与奪を操れる。覚悟しとけよー

 

「まぁ俺を殺したらお前も死ぬけどな」

 

ーチッ

 

「もしかしてキレ要素もある?」

 

ーそんなことをほざけるのは今のうちだぞ

 

「まぁプレゼントとは言ってもちょっと変わったものだと思うが。文句はなしだ」

 

ー貰えたものに文句は言わない。貰えたものにはありがとうが基本だー

 

「そこらに関しては優しくて助かるよ」

 

さぁ、もうそろそろだ。さぁ、皆で角笛を吹こう。

ほら、もう来た。逃げ遅れれば世界を散らかすゴミとなる。

ゴミとなりたくなければ逃げるがいい。

この世界は、必要なものだけでいいのだから。

 

「あれが今回の目標(ターゲット)ですね」

 

空が赤く染まる中逆光で黒く見える目標(ターゲット)

危険性はわからない。ただ、言えることはひとつ。

 

「アレ、かなり強いんじゃないかなぁ」

 

ーだろうな。動きが異様に滑らかだ

 

「なんか嫌な予感するなぁ。ま、倒すだけなんだけど」

 

ーで、プレゼントとやらは?

 

「接敵してからにしましょう。ここだと障害物が多い」

 

正直なところ怪しさしかない。

こんなものを送りつけるやつなど決まっている。

 

「にしても・・挙動おかしすぎないか?あれ」

 

まずデカい。そして素早い。そこまではいい。

しかし明らかに動きが左右に迷うように動いている。

何故真っ直ぐこっちを目指さないのだろうか。

まぁ倒すだけだ。問題はない。

 

「ってことで代わろか」

 

相談の内容通り受けてはくれるらしい。

 

「この城壁を越えると確実にヘイトが来るが・・準備はいいか、俺はできてる」

 

問題なく、と僕は答える。

 

「さぁ、血祭りの開催だァァァ!」

 

・・こんなに荒ぶるようなやつだっけ?

 

グゥアアァァァ‼︎

 

声うっさ。

ってか何かがおかしい。反応速度が魔物以上なんだが。

 

「はっ、こいつも熱に浮かされてんのか。尚更面白れぇじゃん!」

 

こいつ殴りばっかやってくんな。当たるまでが遅いけど。

そういや弱点となる核は・・ありゃ、ねーや。

 

「いやねぇじゃねぇんだよ!探せ!」

 

本当にないんですが。魔眼:探索(シーク・オン・アイ)で見つからないんですが。

いや待てよ・・ああ、そういうことか。

 

「どこだ!どこにある!」

 

聞いて驚くなよ、そいつは()()()()()してやがる。だから中は殺すな。

・・とはいうものの部位破壊を起こせば痛みがそのまま人間に来るんだが。

 

「どうやって対処する!」

 

 

そうだなぁ、と思案する僕。正直なところ対策は非常に難しい。

眠らせる技術を持たない上に時間を止められないからだ。

・・でも前見た戦友(ダチ)はなんか色々弄ってたな。それなりに技術は要りそうだ。

 

 

「昔話はいらねぇ!」

 

・・お厳しいことで。

まぁ癪だがアイツらからのプレゼントを使うしかないのかねぇ。

 

「使えるもんは全て寄越せ!」

 

言われずとも。

そのプレゼントの包みを開いた瞬間世界が黒く染まる。

 

「おお、こりゃ面白ぇ!」

 

見えないが。

 

「こりゃ良いもんじゃあねぇか!なんで最初から出さねぇ!」

 

いや知らんし。あんま使いたくないし。

 

「おい、聞こえねぇのか!」

 

あ、聞こえないんだ。

 

「シカトかよ。とりあえず中の人間とやらを死なせなきゃ良いんだろ」

 

まぁ、そうなる。

 

「まさかこんなになっちまうとはなぁ。右腕から頂戴しようか」

 

身体が浮遊感に包まれる。

・・え?なんで飛んでんの?

 

手に肉を切る感覚が伝わる。吹き出た生ぬるい液体を感じる。

視界のモヤが消えてくる。

 

「やっぱ血祭りはこうこなくっちゃなぁ!」

 

その背には、黒く染まった羽が生えていた。

・・思ってたより危険なものがきたな。

 

「人間はどこにいるんだろねぇ?」

 

首の位置に人の形のようなものはある。

 

「なら首筋ぶっ叩くか」

 

・・それ人間確実に死ぬよ。せめて首筋以外を切ってね。

にしてもこの羽、思ったよりも面白い機能あんじゃん。

 

「なんだよ、面白いのって」

 

まぁ奴に近づけ。そこから開始する。

 

「吹っ飛ばされて身体の機能を失うぞ?」

 

問題ない。僕の代わりはいる。

 

「・・どうなっても知らんからな」

 

首筋に取り付け。後は僕がやる。

 

「これでいいか?」

 

ああ、上出来だ。

とりあえず検証でこれを使うか。

 

生体汚染(バイオコントロール)

 

羽から触手が伸びる。やっぱりか。

この羽は、物体じゃない。()()()()だ。

 

「そのまま侵食、神経接続を全て切断しろ」

 

そしてその主導権は、この体だ。

 

§

 

警報が鳴る。この鳴り方は・・

「A級侵攻用警報ですね」

「まさか彼が言ったことが本当に起こっているんでしょうか」

「さぁな。ただ危険だってことは確実だ」

 

彼が言っていた事の真偽は分からない。ただし最悪の想定はしないといけない。

 

「避難するとして一番安全とされるのは学校よね」

「あそこは建物自体丈夫ですしね」

「向かうか?」

「勿論」

「時間は足りるか?」

「強化魔法に魔力をそのまま入れれば」

「そんなのできるの?」

「理論上はね」

「実際には?」

「そんな馬鹿げた事誰もしないわ」

「命の保証なしでやるかやらないか。どうする?」

「やるしかない。そうでもしないと守れるはずものも守れない」

 

昔の私のように。

 

「んじゃやるか。まぁ間に合わなければ国と一緒におさらばだ」

「学校までの距離からしてどのぐらいの消費なの?」

「角度を約22度にして屋根の上から飛び、着地寸前に約56度の角度で上に飛ぶと届くかと」

「すごいな。どうやって出したんだ?」

「計算ですよ。彼のメモの中に書いてありました」

 

彼のベットの上に紙が丸められた状態であった。その紙を開いたら・・というものだった。

 

「よく計算ができたものだ」

「うぇー、数字と謎の記号だらけ」

「よくこんな式を考えついたものです」

 

少なくともこの世界にない式だらけであることは確かだ。何故彼がここまでできたのかは謎だが。

 

「とにかく急ぎましょう、A級は危険です」

 

こちらにはさらに危険な人間がいる、とは言えなかった。




次回予告
彼が背負った代償。その影響は彼の生命に影響し始めていた。
神は初めて笑った。まるでそこまでが仕組まれた物語であるかのように。
生きるためには誰かを殺す。それは抗うことの出来ない自然の摂理なのだから。
次回! 思惑 希望の羽は、消えてはいない。
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