壊れた少年のマーチ   作:オリの中のカナリア

18 / 62
前回の続きです
原作とのずれを修正しつつ進めていますが・・大丈夫かな?


思惑

神経接続を切っていた彼の触手は途端に動きが怪しくなる。

 

「何かおかしい」

 

帰還するよう言っても動かないしな。

ならばこいつらを切って肉体を救出させろ。なるべく早く。

 

「ふん、言われずとも俺はやる」

 

 

背に刃を入れた瞬間、いきなり暴れ出す。

 

 

「まさか・・」

 

恐らく中の人間に干渉したな。ならば許可する。中のやつごと殺せ。

 

「了解・・って言いたいとこだが中のやつを見てからにしよう」

 

珍しく躊躇うな。

 

「エゴだよ。殺す人間に対して『殺せ』は聞いたことがあるが殺すなと言われた人間に『殺せ』は初めてだからな」

 

・・分かった。手早くまわりだけ切れ。絶対に無駄な時間はかけるな。

 

「了解」

 

 

手早く奴の核のまわりだけを切る。

 

 

にしても切れ味のいい剣だな。

 

「魔力で出力を上げてるしな。で、こいつはどうする。捨てるか、殺すか。どっちだ」

 

・・いやお前生かしたいって言っただろ。

 

「俺の意見が通るんだな」

 

そりゃそうだ。第一目標は生かす事だからな。

 

 

手に持とうとした瞬間、触手が反応する。

 

 

「こいつらなかなかタチ悪いな」

 

しょうがねぇ、肉塊からできるだけ離した状態で転がせ。後で回収させる。

 

「お前にダチがいるとはな」

 

勝手に言ってろボケが。

 

「あっひどーいそんなこというんだー」

 

棒読みで言われても通じんぞ。

 

「お望み通りの声にできるだけ寄せたほうが良かったか?」

 

やめてくれ。想像しただけで吐き気がする。

 

「なんだよ良いじゃねぇか」

 

そうだ、アイツらの元に行くぞ。でないと危険な気がする。

 

「遠いぞ」

 

問題ない。いるとこまで飛ばす。

 

「なかなかの荒技だな」

 

我が仕えし主君の元へ向かえ。我が肉体よ。

 

 

これで飛ぶはずだ。そう思ったのに肉体はその位置だった。

 

 

「・・この羽じゃね?悪いの」

 

はぁ、めんどくさ。

 

§

 

学校へといけばそこには数多の人々がいた。

 

「一旦散らばりましょう。このままだと混乱が起きる」

「ああ、しかも集団はパニック状態だ。一番危険だな」

「え?え?」

「落ち着きなさい。あなたに指示を出すわ。ここにいる人を守りなさい」

「え、あ、はい、わかりました、でも、私にできますかねぇ?」

「できるから頼んだわ。できなければ最初から頼んでいない」

「なら、わかりました」

「今の状況は?」

「分からない。だからあなたは集団を混乱させないようにして」

「貴女は?」

「私は脅威がないか確かめてくる。必ず帰るわ」

「・・了解した。気をつけてくれ」

 

あのままだと集団が危険すぎる。なるべく早く落ち着かせてほしい。

それに静かすぎる。街に攻めたりもしなければ集団を狙うこともない。一体何を狙っているんだ。

周りを見渡す。明らかに誰もいない。

 

その瞬間、激しい閃光が飛んだ。

 

「!」

 

上空にいたのは人間の形をした何かだった。

身体は機械に支配され、身体の端からメタリックな色が月光で輝いて見える。

 

「何なのよあの魔法!イカれてんじゃないの?!」

 

何より一発一発が大きな威力を持つのだ。今はヴェリアが防いでくれたがいつまで持つか分からない。

奴は2射目を撃とうとしていた。

 

「連発制限時間が短い!」

「あれではヴェリアごと・・俺がやる!」

 

2射目を打ち込む。ジュークが守ったために被害はないが彼の顔は歪んでいた。

 

「あいつ・・展開と同時に吸収しやがる」

「そうなると持久戦が不利ね・・」

 

相手は3射目を当てようと構えていた。

4射目を撃たれた時に耐えられるかしら。

そんなことを考えていた時だった。

 

空を舞う黒き獅子によって奴は地に叩きつけられた。

 

§

 

どうも、絶賛後悔中の男です。

何故後悔しているかというと後ろを見ると分かります。

確かに早かったけど・・地面が抉れているもん!綺麗な道だったのに!

 

「うるさい。黙れ」

 

あ、こいつ見たことあるかも。代わって。

 

「・・今は代わってやる。その代わり耐えろよ」

 

耐える?わけがわからないな。

意識を移してもらうと同時に至る所から激痛が起こる。

 

「お前・・」

 

ー耐えてやってたってのに。馬鹿なやつだー

 

意外と良いやつなのか、お前。

神域獣化転生(メタモルフォース)を切る。これで人間に近づくはずだ。

 

「お前の名は?」

「名はない。貴様に教える義理などない」

「そう噛みつかなくても良いだろ。おい、待てって」

「消えろ、イレギュラー!」

 

おいおい、挨拶がわりに魔法撃つやつ久しぶりに見たわ。ってかお前。

 

「『ダチュラ』か?」

「・・名乗る義務はないだろう」

 

やっぱりそうみたいだ。

まぁしょうがない。この世界。

 

殺らなきゃ殺られるのだから。

 

騙した方が悪いか騙された方が悪いか。そりゃもちろん騙された方だ。

じゃあ殺した方が悪いか殺された方が悪いか。当然ながら殺された方が悪い。

この世界は、どこまでも残酷な世界で。

誰かの死体を見なければ生きられない世界だから。

 

誰かが死んだ。それがどうした。

誰かを殺した。そうかよかった。

そんなやり取りしかできなかった世界だから。

 

「お前を・・殺す!」

「そうか。ならやってみろ。勝てるわけがない」

「馬鹿だな、不完全な姿しか見なかったやつが理解できるはずがない」

 

壁が来れば飛び越えられる。

 

だって今は羽があるのだから。

一人なんかじゃないから。

僕を僕として扱う人がいたから。

 

だから僕は。

この世界に生きられる。

 

やっとみんな会えたのだから、みんなで笑い合おう。

笑い合えなくなる理由を作るやつなんて、消えてしまえばいい。

 

ー俺の出番か?ー

 

「ああ、僕がこいつにケリをつけさせてやる。人間の素晴らしさってやつをな!」

 

ー待っていたぞ、少年ー

 

「おい、どういう意味だ」

 

ーお前に最期のプレゼントだー

 

1つのカテゴリが脳内に追加される。

 

La+(ラプラス)だ。パンドラの対となる()だー

 

「・・」

 

ーこれをお前に託す。使い方も任せよう。君の“終わらない世界”を楽しみにしているぞー

 

「・・大馬鹿野郎め」

 

声が返ってくることはなかった。

 

「ああ、もう全てやってやるよ!」

 

「貴様、覚悟しろ!」

 

この手で、全てを終わらせる。

 

禁忌に近い封じられた魔法を解放する。

その瞬間羽から伸びた触手が自分に絡みつく。

 

「・・ははっ、ハハハハハッ」

 

限界は存在するものじゃない。作るものだからうまくいかないだけだ。作らなければどうということはない。

 

§

 

もう、見えている世界が違った。

ああ、これが命を賭けた争いなのだな、と思った。

彼からの一つの言葉が、こんな違いになるなんて。

 

Limit break!(全制限解除)

 

それを唱えた瞬間、彼の姿は変わった。

獅子のようなプレッシャーを持ち、同時に人間のような姿かたちを持つ生き物。

身体は漆黒の隙間から黄色が淡く光り、目は青白く光っていた。

まるで生き物の魂を人間に入れたように獰猛な精神。

たった一つの呪文、それだけで『最強』を感じさせる。

装備した武器は何もなく、依然不利だと思われたこの戦い。

しかし。

 

生体汚染(バイオコントロール)

 

彼は、もうすでに触手の能力の上限を外していた。

 

「ぐあ゛っ!」

「どうした?もう終わりか?面白くないな」

 

触手の攻撃範囲が広がり、同時攻撃数も増える。

 

「ならばこの肉、しっかりと味わおうか」

「この・・くろぐァッ!」

 

触手が首に絡みつく。

 

「おっと、君への発言権は許していないしそれは言わないでもらおう。もし言うなら・・この首ごともらうね?いいよね、『ダチュラ』?」

 

黒すぎる微笑みと共に死刑宣告が下される。

 

「なに・・」

 

その瞬間首が締め切られる。彼の触手が首の骨ごと切っていた。

 

「ま、こんな奴だし。いっか」

 

まさしく彼の姿は堕天した天使のようだった。

 

「さ、汚物は消去しなくては」

 

彼が地上に降り立った瞬間、黒の翼が大きな蛇2匹に代わっていた。

彼の体から小さな蛇を生み出し、彼の肉を削いでいった。

 

私は彼に呼びかけた。

 

「ヴァル、なんでこんなことになって・・」

 

彼は音を立てずに私に踏み込み、加減する事なく地面に押し倒した。

彼の目は、もう正気を映すような目ではなかった。

 

「退いてッ・・」

 

彼は思いっきり肩を掴み、右腕を振り上げた。もう痛い世界は嫌だと思った。

 

私の耳元でぼきりと鈍い音が鳴った。

横を見ると彼の手は地面にぶつかりあらぬ方向に曲がっていた。

 

彼は一言だけ言葉を発した。

 

「羽・・落とせ・・」

 

もう誰も失いたくなかった。私の目の前からいくつのものを失わさせれば良いのか分からない。

こんな時にまで私を悲しませるのか。

 

「切りますよ!良いですよね!」

「・・」

「何か言ってください!でないと生きてるかどうかも分からないんですよ!」

「・・」

 

彼は何も言葉を発しなかった。その代わり蛇の動きがかなり鈍くなっていた。

 

月光(ムーンライト)

 

私は問答無用で蛇を切り落とした。蛇は斬られ、出てきた液体は黒くドロリとした液体だった。

彼は何も動かなくなった。

 

「ちゃんと生きて帰って来ますよね」

「・・」

「帰ってきたらとりあえず褒めてあげます。だから、死なないでくださいね」

「ルーナ殿、もう・・」

「まだ生きてますよね、私を守るには生きていなければなりませんよ」

「ルーナさん、流石にもう・・」

「大丈夫です、大丈夫ですから。今度は私があなたを守りますから。

 だから、必ず帰ってきてください」

 

私だって彼に聞こえているかどうかぐらいわかっていた。

それでも問いかけようとする自分がいる。

分かりきったことなのにそれを否定しようとする自分。

この事実を受け入れろという方が残酷な答えだった。

 

 

「離れてください」

「何故ですか」

「それはあなた自身が知っていることが理由です」

「・・」

「彼の最期くらい優しく看取って欲しいわ」

「・・望んだこと・・」

「?」

「それは本当に彼が望んだ事ですか?」

「それは・・分からないわ。彼に聞かなくちゃ」

「ならば来ないでください。私が一番彼のことは知っています」

「・・ふふっ」

「何がおかしいのですか?」

「いえ、本当に好きなんだな、と思って。好きじゃなかったらさっきまでの会話で離れていたもの」

「本当にその感情があっているんでしょうか?」

「どういうことかしら?」

「私は彼を愛しているかどうか分からない。人を困らせている私を彼が認めるかどうか分からないもの。その状態を好きと言えるのか分からないんです」

「人間ってそういうものよ。互いの違いを認められないし、すぐに相手を傷つける。いつも自分が中心にいる」

「なら・・」

「でもそれを思い描いている彼の姿から抜いてみて。絶対にそんな状態では好きになれないから」

 

考えてみればそうだ。いつも考えの相違がある。彼を困らせることもあれば彼に困る時もある。

でもその時を楽しんでいる自分がいるのは事実だった。

私は彼をちゃんと愛することができているのだろうか。

そもそも彼は私を愛しているのか。

 

「不安になったって良いのよ。それが普通。むしろそんなことを気にしなくなるのは老後くらいよ」

「老後ですか・・その時でも私は不安そうですがね」

「あら良かったじゃない、ずっと愛してもらえるのだもの。息を吹き返せば彼もいい嫁を取れて幸せなのにね」

 

ほんと、嫌な世界だ。

 

「そういえばあなたは・・」

 

その時、上から轟音がして見上げると。

白い人型の立体が現れた。体長は20mほどか。

 

「あれは誰のだ?」

 

周りがざわめく。

 

「どうやら終わりみたいね」

「何・・?」

 

「先の質問の答えはいずれ分かるわ」

 

白い巨体は膝を突き手を伸ばして彼に近づけた。

 

「・・大丈夫かしら?」

 

「乗れって言っているわよ?」

 

一瞬目が光った気がした。

 

「・・分かったわ、あなたを信じる」

 

彼を抱え、手に乗る。

すると胸の部分が開き席が1人分空いていた。

 

「彼と共にここにいろと」

 

どうやらそういう事らしい。彼を座らせ、左のパネルの手の形に彼の手を合わせる。

すると数値が出てきて100%と出てきたため彼の手を離す。

入ってきたところの蓋が締まり、完全な暗い密室となる。

 

「彼は・・」

 

つい彼の顔を見るために体を背もたれに押しつける。すると何かが当てはまりガチャリという音がする。

 

「?」

 

すると彼の体がいきなり引き攣る。

 

「グゥゥッ!」

「大丈夫ですか?」

「・・ああ、大丈夫ではないが大丈夫だ」

「どこが大丈夫ではないですか?」

 

ギューンという音と共に密室にに明かりがつく。

 

「行くよ、相棒(バルバトス)

「ふぇ?」

 

身体に浮遊感を感じる。

 

「西門を経由して、彼女の家まで行ってくれ。あ、その前にあの汚物(ゴミ)、撃って沈めといて」

「?」

 

巨人の右腕が骸へと向く。

 

「消えろ」

 

恐ろしいほどの爆発音と共に腕から硝煙が出る。

撃たれた先は大きな穴が空いていた。

 

「よし、清掃完了。向かおうか」

 

すごい加速度と共に高度が高くなる。月が大きく見える。

 

「ヴァル、月が綺麗ですね」

「・・ああ、そうだな。届きそうな気はするが届かない、人と眺めるのが一番美しいもの。それが月だと僕は思ってる」

「なんかあやふやですね」

「そうか?手に入れられないから美しいものもたくさんあると思うぞ。ただ僕はすぐに自分のものにしてしまいたいと思うが」

 

ああ、美しい。

月はいつも正直だ。自分の見せる面を理解して隠す事なく見せている。

自分もこんなふうに正直になりたいと思いつつもなれない自分が悲しい。

 

「ところで西門に向かうのは何故なのです?」

「ちょっとした副産物を取りに行くためですよ」

「副産物?素材とかですか?」

「もっとすごいものですよ」

「ますます謎です、あなたがそんなに興味を示すなんて」

 

少し羨ましい。そんなものを持つものがあるなんて。

 

「まぁ、いずれ色々分かるさ。僕が気に入っているものとかも」

「・・すぐに知ってしまいたいのに」

 

そうすれば貴方はこちらを見てくれる。互いに補えるような関係にもなるはずだ。

 

あなたはどこまで私に遠ざかってしまうのでしょう。

せめて手が届く位置にいて欲しいと思ってしまう自分が虚しいものだ。

そんな気持ちはいつになれば貴方に伝えられるのか。

 

月は何も答えてはくれなかった。




・連発制限時間
魔法にはクールダウン時間が存在する。そしてそれは魔力消費量から導かれる。
これが短ければ短いほど相手を早く追い詰めることができ、逆に長いと長期戦になりやすい。
なお、ロスを減らしたり使い込んだりすることで短くできる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。