壊れた少年のマーチ   作:オリの中のカナリア

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堕ちた星

§

 

「本当、おかしな話です。人間が作った(モノ)によって人間が死ぬとは不思議でしょうがない」

 

家が燃えている。燃えたもの(人間)が足元に落ちている。皮膚はケロイド状になり身体を引き摺っている。

しかし身体の中の機能は生きているようだ。

 

「・・ミディアムレア。美味しくない」

 

いらないのであれば消し飛ばせ。さもなくは自分に降りかかる。

 

「・・穢らわしい。消えろ」

 

脚を使い踏む。力を入れることなく潰れ、生焼けの肉が出る。

 

「水も滴るいい男とは言いますが・・これは惜しいものを無くした」

 

足で踏む。鈍い音とともに身体が変形する。

 

「中身がやっぱりダメですね。消さないと」

 

続けて踏む。やがて水っぽい音へと変化していき、原型がなくなる。

 

「もうちょい硬い方が喜べるのですが・・匂いと感触で許してあげます」

 

子供が泣いている。

 

「で・・」

 

蛋白質が焦げる匂い。家が燃える音。硝煙の香り。体を刺すような痛み。

その全てが、通常よりも快感を感じる。

 

そして一番快感が得られるのは。

 

惨殺、特に子供のが一番気持ちいい。

 

「君も同族のようだ」

 

手を首の位置に軽く触れる。首は暗い闇に弾け飛んでしまった。

静寂が戻る。残されたのはただ一つだった。

 

「ああ、静かだ・・また静かになってしまった・・」

 

飛んでいった頭が落ちてくる。顔が嫌いだったから踏み潰した。

 

§

 

図書室は静かだ。そもそも本を読むような人間が少ないのかもしれない。

 

「やはりここ(学校)の地下に関する記述はないな」

 

地下に関する記述がされた本は無かった。あるのは神話や歴史書、魔術指南書ばかりだ。

 

「どれか一個借りましょうと言いたいのですが・・必然的にコレになりますね」

 

手に取ったのはこの世界における神話全てをまとめた本だ。あまり読まれていないのだろう、本の背のみ焼けている。

貸出可能な本はこれだけだった。

 

「信頼に値するかどうかは不安ですが・・借りてみますか」

 

本自体が古い。そして重い。

 

「何というか・・借りられなかった理由が感覚的に分かった気がします」

 

見た目から総ページ数は800程度だろうか。というかよくこんなものを本棚に置いたものだ。

需要はほぼないだろう。もしあるとするなら僕のような変態ぐらいだ。

 

「ほんとよくこの本の審査が通ったな、調べた奴は全部読んだのか?」

 

もう陽が暮れそうなので本を借りルーナの家へと戻る。

借りる際に変な顔をされたが気にしない。そんなものを気にする余裕はないのだ。

もちろん加速(ブースト)は使えない。本がバラバラになってしまう。

しかし徒歩で行くと遠いものだ。

 

「あの都市に気づかれないくらい離れて自動車(バルバトス)呼ぶか、あっでも朝あいつ寝てたわ」

 

寝ているところを起こすのは少し後味が悪いなと思いつつ歩いていると白い飛翔体がこちらに来る。

 

「・・何だありゃ?」

 

白い飛翔体が近づいてくる。

正体はバルバトスだった。

 

「・・ほんとお前って呼んだらすぐ来るな、助かる」

 

明らかに反応速度がおかしい。ちょっと前に呟いただけなのに数分後には来ている。

それにここは結構離れているはずだ。

 

「バルバトスは後で整備な」

 

異常があっては困る。こいつは僕の大切なものだ。

 

「あの位置までよろしく」

 

バルバトスはすぐに理解する。こいつは昔から変わったやつだ。なぜか感覚を共有できる。

 

「にしてもこの本は変わった本だ、具体的には分からんが」

 

この本から何かを感じる。

 

「・・後で解析入れるか」

 

またやることが増えてしまった。

 

§

 

ルーナの家へと帰る。まずはバルバトスの整備からだ。

 

「バルバトス、コントロールパネルを開いてくれ」

 

開かない。どうやら拒否するらしい。

 

「うーん・・開いてくれないと一旦全身バラバラにしないといけないね。工具はどこにしまったかなぁ?」

 

すぐに開いた。なんだこの手のひらドリルは。

 

「うん、ちょっとバーニアが焼けてるかな。配線は問題なさそう。後でスラスターは修復しよう」

 

システムの異常がなかった分整備は楽だ。ものを入れ替えればいいだけだ。

 

「んで、二つ目があの子の処置か」

 

借りて来た本を簡易ベッドの上に置いておく。今日は読み切らなくていいだろう。

手早く着替えてあの子の処理を行いに彼女のラボへと行く。

すでにラボではルーナがいた。

 

「遅かったですね」

「少々やらなきゃならないことが立て込んでな」

「今はバイタルサインも安定しています。それとあの薬について・・」

「あの薬はとりあえず1ミリずつやってみてくれ、副作用を見る」

「分かりました。現状入ってる分が抜けた瞬間が一番危険ですので注意を」

「分かっているさ。あの薬は昔の僕にも入っていたから。違法だが人を助けるためには必要だ」

 

今からやろうとしていることは違法薬物の投与だ。ただし、正確には薬物依存の状態の治療だ。

 

「もうそろそろ麻酔も切れるかと」

「拘束はされているね?」

「ええ、確認済みです」

「なら始めてくれ」

 

薬を投与する前に状況をみる。依存状態の確認だ。

 

その子は無事に目を覚ました。ここからが大変だ。

目が合う。

 

「いやあああぁぁぁぁ!」

 

狂乱状態の中腕のベルトを引きちぎろうとする。

握った手からは血が滲んでいた。

 

「やはりか」

「どういうことですか?」

「ルーナ、銀の頑丈そうな箱を僕の部屋からぶつけず持ってきて」

「・・持って来ますね」

 

想定通りというか。こいつはかなり厄介だ。

 

薬の効果には身体強化や精神強化、限界拡張と呼ばれる肉体安全装置(リミッター)解除など様々な効果を発揮するものがある。

しかし、これらは重い『代償』の上で実現される。精神強化であれば脳に直接ダメージが入る。

そしてこの子の場合は全身が『代償』としてなっている。

つまり、薬がなければ肉体の崩壊を自分で行なうということである。

 

さらに厄介なのが体がまだ成長しきっていない状態にあることである。成長しきっていない体に多大な力が加わると成長が止まる。さらに力を加えると力に耐えきれず自壊する。

それを防ぐために拘束をした。それでも引きちぎろうとするということはもはや自分が見えていないのだろう。もしくは『痛い』という感覚が切られているか。

 

「これでいいんですか?」

 

どうやらルーナが持って来てくれた。箱を台に置き中を開ける。

中に入っているのは特注型の連続注射器だ。

 

「ああ、むしろこれがないとあいつは死ぬ運命だ」

「死ぬ・・」

「死ぬのは嫌!ダメ!怖い!」

「分かってる、死なせてやらねぇようにするから」

 

無理やり腕を押さえて鎮静剤を打つ。結構な量を打つことになった。

打たれた方は意識が遠ざかっていったようだ。動きが止まった。

 

「どういうことなんです?」

「要するにあいつはヤク漬け状態で精神も肉体もボロボロってこと。あの反応からいうとかなりの量だ」

「よく分かりますね?」

「隣にいたやつが僕の余った分を飲んでた。そしたら数日後死んでた。あいつと似てた。まぁ隣のやつの方が酷かったが」

 

体が弱っているのに奇声を上げ続けつつ腹を抉ってから頭を粉々に打ち抜いて死ぬっていうかなり面白い死に方をしていたからな。

 

「・・で、対策は?」

「まず薬物の量を少しずつ減らしてなくす。そして人間らしい生活を送らせる。まずそこまでだ」

「そこまで?」

「とりあえず人間に戻すところからだ。そこから先は後で決める」

 

もうあの組織の思惑通りにはさせない。

 

「そういえばなんであなたはあれほど強いモノを?」

「バルバトスに乗った後は背中が痛むんです。そしたらアレを使って抑えるんですよ」

「だからと言ってあんなに強いものは・・」

「致死ギリギリで長く苦しむかか強めを一発ですぐ済ませるかしか選択はないんです」

 

僕の身体には薬物耐性がついてしまっている。ダメな飲み合わせで耐性を弱めるか強烈なものを入れるかの違いだ。

肉体に損傷が入り、再起不能と判断された瞬間“処理”される。相手に隙を与えればそこで人生終了だ。その結果強烈なものを入れるしかない。

 

「“死は最高の救済”だなんて誰が言ったんでしょうね。おかげで何度か死にかけました」

「死にかけた?」

「前に言ったでしょう?あの中では“自殺以外が許される”って。なので本人の許可なしで麻酔を打ってもいいわけです。麻酔を打たれていることを知らない人がそれを見たらどう思いますか?」

「・・死体に見えますね。でも肉体に触れて体温を感じるのでは?」

「そんな動作をしていたら数が多いので片付きませんよ。それに間違えて殺してもあまり損害はないですし」

「・・よく起きれましたね」

「僕は運が悪いやつで処理場がちょうど立て込んでたんです。気づいたら血の匂いがしたので危険だなと思って袋の中でのたうち回ってみたら助かりました。皮肉にも運の悪さで助かりましたよ」

 

自分が助かるために相手を殺させるのはしょうがない。みんな動物を殺して生きている。

 

「この呪いも似たような感じです。重傷でも死なないのである意味ラッキーですが逆にいえば死んだらなくなる痛みがなくならないってことですから」

「・・もし腕を切ったら?」

「その部位が完全に回復するまでそれ相応の痛みが続きます。まぁ腕ならまだマシですが胸とかになるとかなりきついです。呼吸をするたび激痛が走りますから」

 

まぁ当たらなければいいということもその時によく覚えたが。

 

「その時にこいつを使って打ち込めばとりあえず助かりはします、副作用も大きいですが」

「諸刃の剣といったところですね」

「まぁデメリットなんて考えてる暇はないんで。さっさと彼女に投与しますか。恐らく限界値以上入れているでしょうけど」

「それだとその後が・・」

「恐らく帰ってくる前提じゃないんだと。まぁ所詮電池で動くおもちゃですから消費前提です。後釜はいますし」

「・・未来がない生き方は嫌ですね」

「こいつに点滴用のルートを固定して。薬を入れて会話ができればそのままで」

「できなければ?」

「そりゃあもちろん、パーンです」

 

頭を指先で示しながら言ってやる。まぁこれで分かるだろ。他にも色々やるけど。

 

「・・処理した残りは部屋に残さないようにしてくださいね」

「その結果を受け入れるなんて珍しいですね。反抗するかと思いましたが」

()()()()の人間ならば向こう側の方法で処理するのが当然です。ま、最後の手段にはしてくださいね」

 

まぁほとんど確約された未来だが。




全ての生物に渡された1日の時間は24時間。これは決まっている。
ならば、その24時間は本当に1日になるのか。
さぁ、実証しよう。悪魔と魔女が微笑む実験を。
新たな代償を決めたシナリオは、形を変えて動き始めた。
次回! 二番星 世界の総意は、いつでも残酷だ。
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