壊れた少年のマーチ   作:オリの中のカナリア

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来週の分が間に合うか分からないので日程変更は金曜日までに活動報告で流します。
変更なしでも流すのでがっかりはしないでください。


二番星

「これでいいのかしら?」

「ああ。とりあえずはな。まぁ鎮静剤の効果が強すぎてオダブツかもしれんが」

 

ルーナが点滴のルートを通したことで必要最低限な薬剤は彼女の体内に入った。

ルーナは仕事が的確で助かる。ビジネスパートナーとして素晴らしい才を持つ子だ。

 

「にしても・・こんなに薬を打ち込まなくても良いのでは?」

「この子にとっては必要な量かと。それに僕が新しく出したのは抗うつ剤のみです」

「いくらこんな量を1日なんて・・」

「半日分ですよ。まぁ昼は睡眠薬が減るだけマシです。これでも抑えた結果ですが」

「これを毎日2セット・・身体異常どころか死亡まで見えますが・・」

「ところが人間の体は勝手に学習する。薬の効果が薄くなるからこの子は運良く生きれているんですよ。まぁ見た感じもっと前で使い切って捨てる予定だったようですが」

 

命こそあるが身体機能の弱体化は否めない。心拍数も少ない状態だ。

恐らく薬の効果が切れれば衰弱死するだろう。

 

「まぁもう起きてる時点で大丈夫だと思うが。寝たきりじゃ薬が与えきれない。起きたらどうだ?」

「起きている?」

「・・」

「そのまま突き通すとは強情ですね・・薬を打ち込んだときに手が少しだけ震えていましたよ。痛かったんでしょう?」

「・・」

「そんなに僕を殺したいのですか?殺したいなら殺せばいい。拘束具も外そう」

「ヴァル、それは私が止めますよ?」

「僕にとっては問題ないさ。さぁ、どうする?殺して任務完了かこのままか」

 

全く動かない。

 

「・・流石に眠っているのでは?」

「・・ならば尚更良かったです。動かないうちにやりますか」

「まだ起きたとは限らないのでは?」

「起きたら隷属化(口封じ)、失敗すれば殺してた。どっちにしろこの運命だ」

「そこまでしなくてもいいのでは?」

「僕が生きていること自体がおかしいんですよ。それがバレればあなたまで死ぬこととなる。最大限の譲歩と救済がこれだっただけです。鮮血を見たくなければ部屋を出てもいいですよ?」

「・・いえ、私を守るための犠牲は私が見る義務があります」

「苦しくなったら目を閉じ耳をふさいでくださいね。そうすれば何も見えなくなります」

 

滅菌袋から一本のメスを出す。本来は悪性腫瘍等があれば使うために用意されたものだ。

 

「本当に技術とは素晴らしい。人の快楽を追い求めた結果に出てきた素晴らしい能力なのだから」

 

悪性腫瘍とは誰を皮肉ったものなのだろうか。

 

「しかしそれが相手の快楽を削ることもある。その実現例を今ここに示そう」

 

刃先を見る。

綺麗な銀色の刀身に映し出された自分の顔。

部屋の明かりに照らされ光り輝く刀身に自分の髪が写り影を落としたような図となる。

 

「さようなら、規格外(アブノーマル)

 

彼女の肋骨の中心部を左手で軽く抑え、上で刃を握り、振り下ろす。

 

 

 

その対象に、自分の手の甲を定め、なるべく出血が増えるよう斜めに。

 

音もなく切れた肉の感覚を感じつつ端まで切り続ける。

痛みを感じる。その痛みに幸福を覚える。

 

そうだ。これで心臓の左側を貫けば。そうすれば。

 

「なぜ手を切ったのですか!」

 

ルーナの声に意識を引き戻される。

 

「ルーナはそこで動かないで。今の状態だとあなたを切り刻んで取り返しがつかなくなる」

「ですが・・!」

「君は優秀だ。だからこそ僕以外に能力を使いたまえ」

 

赤と黒が混じった色の血が溢れ出す。自分の中の影が動く。

 

「さぁ、これを君に与えよう」

 

彼女の顔の上に指を下にして左手を持ってくる。

左手の一文字を起点とした複数の線が指先に向かい描かれる。

手の赤線が細くなるにつれ黒に近くなる。

狂い果てていたあの人を止めた時から還ることのなかった血が解放され雫を作る。

彼女の頬に落ち黒の線を作る。鉄分による鼻につく匂いで彼女の鼻が動く。

 

「・・血のにおい」

 

彼女の目が開かれ、緋色の目が手を捉える。

 

「どうだい。君が思い出せるならいいだろう」

「・・おいしそう。ちょうだい」

「どうぞ。君がそれで納得するのならば」

 

許可を出すと食いつくように血を舐める。

彼女の瞳はどこかで見た正気を写さない鏡のようだった。

 

「・・おいしい」

「君は本質を捉えるのが早いな。どうやらこちらも想定内で収まったようだ」

 

彼女は指の間まで舌を器用に絡め残さず舐め取っていく。

 

「ルーナ、白紙を何枚かとペンを持ってきてくれるかい?筆記能力等を考えなければならない」

「・・絶対必要ですか?」

「ああ」

「・・しょうがないです。持ってきます」

 

彼女に物を頼み退出してもらう。

 

「・・行ったな」

「あんたねぇ・・人前でざっくりやってんじゃないわよ」

 

目の前の少女が何事もなかったかのように起きる。

 

「君も君だ。すごい誤魔化し方だな。下手すれば気づかれてたぞ」

「でもそんな時はあんたが解決してくれるじゃない?あんたの前では無茶しても大丈夫だもの。ほら、手出して。結構深く切ったでしょうし直すわ」

「いやいい。今は魔力で傷をふさいでるから出血はない。それにこんな短時間で直っては変に思われる」

「・・あっそ。あんたの傷をわざわざ直してやろうと思ったのに」

「そう拗ねなくたっていいだろ。今回は矛盾を減らすためなのだから」

「拗ねてないし!」

 

砕けた口調で話す彼女。錯乱していた時とは大きく変わるせいで対処が難しい。

 

「・・おかえり、『ステラ』」

「・・ん、いま帰った」

 

こいつとは昔に面を合わせて会ったことがある数少ない人間の一人『ステラ』だ。

 

「約束は守ったわ。後はアンタがさいを振るだけ」

「・・そうか」

「・・約束を守った報酬ぐらいあってもいいんじゃないかしら?」

「・・検討する」

「・・あんたからは何かないの?」

「・・あの組織はどうだ?変わったか?」

「全く。それよりあんた、事故死判定になってたわよ?」

「・・は?なぜ?どう考えても叛逆による処刑死だろ?」

「そう思うけどね。つまるところあんたの1回の死は無駄だったってことよ。残念だったわね」

「結構大きな問題になったはずなんだが・・」

「そりゃなったわよ。結果はこっちの締め付けがかなり強くなっただけだけど」

「・・なんかすまないな。どうやら負担を上げたようだ」

「過ぎた過去はもう取り戻せないからもういい。それよりあの返事、聞いていないのだけど」

 

どーしよ。このままだと修羅場突入じゃん。

 

「いない間に他のメスとよろしくやってるみたいだけど・・納得できる答えは出せているわよね?」

 

・・逃げよ。うん、逃げよ。

 

「逃がさないわよ?」

「ナンデ!?ナンデバレテンノ!?」

「逃げる時の癖と困った時に出る癖が同時に出てる。ま、どこかは教えないけど」

 

・・ルーナも気づいたんだろうなぁ。

 

「・・教えてくださいお願いします」

「やだ。教えたら直されて逃げられる」

「・・もしや他にも?」

「あるわよ。焦っている時、困った時、相手が罠に掛かった時・・挙げればキリがないわ」

 

多すぎるだろ。どうなってんだ、俺。

 

「何でそんなに知ってんだ?」

「・・見てたら分かったのよ」

「そうするとステラはずっと僕のことを見ていたと」

「別に見たくて見てるんじゃないし!」

「見ていたことは否定しないんだ?」

「むぅ!別にいいじゃないですか!かっこいいと思っていたって!」

「・・お前墓穴をかなり深く掘ってるよ?気づいてる?」

「・・な!忘れろ!」

「やだ。墓まで持ってく。・・そもそも死ねないんでしたね。つまり一生・・」

「・・選ばさせてあげる。思いっきり殴られるか踏みつけられるか。どっち?」

「うーん・・じゃ踏まれる方で」

「・・変態」

「そういう君もかなり変わってると思うよオっ!」

 

思いっきり鳩尾を殴られた。

 

「あんたが悪い。異論はなし。いいね?」

「・・絶対王政反対」

「何か言った?」

「イエナニモ」

 

反論を出したらもう一発殴られる気がする。

 

「ならいい」

「・・薬も大丈夫そうだな」

「そもそもあんたが合わせた薬だから大丈夫でしょうが。だいぶ落ち着いてるし」

「無理しなくていい」

「あんたの前ぐらい強がってもいいじゃない?」

「とりあえず寝とけ。お前を絶対に治す」

「絶対なんてありえないわ」

 

この世に絶対など存在しない。それはいつの時であっても変わらない固定概念だ。

 

「大丈夫だ。僕ならできる」

 

しかし、それは()()()()()()()()

 

「・・ま、気楽に待ってあげる」

「ステラは何が気になるのかは知らんがルーナとは少し手の掛かる友達程度の関係だぞ」

「・・ふーん」

 

興味がなさそうな声を上げる。知りたいのはそこではないようだ。

その時ルーナがドアを開け入ってくる。

 

「紙とその他諸々いるものを持ってきました。大丈夫でしたか?」

「ええ、こちらは問題なく。この子は『ステラ』と呼んでください」

「分かった。どこまで仕事が終わったの?」

「従属化はしてあります。とは言っても相手を傷つけないという制約のみですが」

「・・そういえば私に対してもやっていたような気がするのですが?」

「それは所有権を『組織』から『ルーナ』に変え、僕の『副作用』を抑えるためのものです。本当は魔力で所有者に所有格を入れられる方がいいのですが魔力量的に不可能ですしもらったチョーカーがあるので」

「・・彼女には?」

「血を舐めさせたでしょう?その時に所有格を『組織』から『僕』に変えたんです」

「・・ならいいです」

 

何がいいのだ。何が許容範囲なんだ。

この子の判断基準を教えてほしい。

 

「で、これで終わりですか?」

「いや、学校から持って帰ってきた本がちょっと怪しくてな。原因究明をしたい」

「まぁいいですが・・そんなに変な本ですか?」

「まぁ変わってるといえば変わってますが。少々お待ちを。本を持って来ます」

「早めに帰って来てくださいね」

「そう遠くはないですよ」

 

学校から持ち帰った本を持ってくる。本当に変な感じがする本だ。

 

「これが問題の本です」

「・・これが学校に?」

「ええ。結構危険な匂いがしたので」

「・・これ危険どころじゃない邪気があるわよ」

「ステラは分かるか?」

「・・ステラ、それ、しってる」

「どういうものか分かるか?」

「ううん。ひらくなってずっといわれてたからひらいてない」

「そうか・・開いてみるか?」

「大丈夫なの?」

「中は見ないと分からないものです」

結界(テリトリー)、いる?」

「多分大丈夫でしょう。もしダメだった時は・・一蓮托生ってことで」

「・・開く以外選択肢がないのでは?まだ死にたくないし」

「ですよねー。ということでステラ、この部屋の範囲だけでいい。できるだけ強固なものをよろしく」

「・・りょうかい。アテナ、かんぜんてんかいせよ」

 

ステラの周囲に魔法陣が展開され、壁が薄い白色に輝く。

 

「・・第五段魔法陣ですか?」

「型はあっているが種としては亜種だな。効率化等の改修が行われている」

「どうやって作るのでしょうか?」

「一度バラバラにしてそこから複合させたと見るのが一番現実的だ。あれを煮詰めると僕のものに近づく」

「彼女の属性は?」

「調べないと分からないな」

 

ほぼ分かってはいるのだが。

 

「できる?」

「多分。開かなかったら開かなかったで終わり。危険なものが出たら始末。最悪この本ごと吹き飛ばすつもりで」

 

本にかかっているベルトを外し表紙を開けようと端を触れた瞬間、手から魔力が引きずり出される。

 

「・・ルーナ、この本を氷漬けにして。大きめのを展開する」

「分かりました、時間は5秒間でいいですか?」

 

本の表紙を押さえつけつつルーナに指示を出す。ルーナも想定はしていたようだ。

 

『せめて外に出してからにしろや!』

 

聞きなれない声がする。

 

『こっちや!』

 

声の元は本の中らしい。

 

「どうします?」

「そのまま続行で」

 

『何でや!お前ら鬼か!』

 

別にいいと思ったがダメらしい。

 

「そうだ、実験体にしよう。それならなにも無駄にならない」

「いい考えですね」

「ステラ、さんせい」

 

『あほか。助けろ言いよんねんぞ』

 

「ああ?オメー本ごと封印かけて燃やすぞ?ここには強い奴が2人もいるしな」

「・・まぁ強いかと言われれば強い方ですかね?学年次席ですが」

「ステラ、つよい」

 

・・ルーナって次席だったんだ。首席は誰だろう。

 

『んな無体な』

 

本から出すと追いかけっこが始まるだけだ。わざわざ捕まえるのはめんどくさい。

 

「じゃあ利用方法考えるか。案ある人?」

「召喚の生贄。生き物以外でやってみたい」

「ステラ、まとあてゲームする」

 

『もっと他にやることあるやろ。助けるとか助けるとか助けるとか』

 

「ならばとりあえず氷漬けにしましょう。そこからまた方向性を考えては?」

「いいなそれ」

 

『・・それが一番マシに聞こえるな、今までが酷すぎるせいでやけど』

 

「とまぁふざけるのはここまでにしてもうそろそろ真面目にやりますか」

 

『いやいまのふざけてた?明らかに殺意しか無かったで?』

 

「ですね。とりあえず種族の理解からしましょう。そこから奴隷なり実験台なりにすればいいと思いますし」

「・・これでしょうもないものだったら悲しいですね」

 

『しょうもなくは無い!王の名を冠したものじゃぞ!』

 

「なら何で閉じ込められているんです?」

 

『ま、まぁそれは色々あったのだ!そう!色々とな!』

 

「どうせしょうもない罠にでもかかったんだろう?」

 

『・・』

 

そうなのかよ。王ならせめて気づけよ。

 

「わなはかんたんだとわかりにくい。こまる」

地雷(マイン)系の罠とかは『圧力を感じたら作動』とかいうクソ簡単な構造だからな。結構な割合で罠検知をすり抜ける」

「他のものってそんなに複雑なのですか?」

「ああ、振り子(ペンデュラム)系は特に複雑だ。発動条件、起点の高さ、おもりの重さ、おもりの形状、初速、向き、往復回数を必須とするからな」

「情報だけでも多い・・」

「まぁそれに否定条件とか補足条件を足す物好きもいるらしいが」

 

一時流れているその噂が事実だなんて思いもしなかったが。

ステラは機嫌を損ねたような顔をするが気にしない。気にしたら負けだ。

 

「んでもって、こいつは捕まって本に封じ込められたと。とても王には似つかないな」

 

『使い手が上手かっただけじゃ!』

 

「その言い分だと『自分を殺せる相手に見逃してもらった』っていうことになるぞ?」

 

『雇い主が弱かっただけじゃ!我々の強さは雇い主に比例する。だから我を出すのだ』

 

「言い方が違うぞ。正確には『出してくださいお願いします』だろう?」

 

『誰が主に頼むか!絶対に言わんぞ!』

 

「ほう・・そうだ、この本をもう一度封印したい人いる?」

「生意気だから一票」

「ステラも」

「ということで全会一致だ。どうする?」

 

『卑怯だぞ貴様!我をここに閉じ込めておいて好き勝手言いおって!』

 

「ふっ・・知らんな。これが我らのやり方だ」

「・・なんかびみょう」

「当たり前のことをカッコつけて言わないでください。気持ち悪いです」

 

ルーナの言い方が一番刺さった。事実そうだけど。




組織の存在。厄災戦。そして失った八年間。
世界を操る鍵は崩壊し、大きく変わってしまった。
予言の崩壊と不確定要素の発現。政府の癒着と裏社会の進出。
大義のための戦いとは何なのか。戦う意味とは何なのか。
次回! 縛る者と縛られる者 この次も見てくれよな!


・・今の情勢(戦争、宗教問題)で次回を流せるのだろうか?
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