「何もかもが、変わってしまったか」
授業は面白いと思える。
自分が知らない情報を得られて、知っている情報を更新できるからだ。
「歴史は見る面が変わると大きく違うな」
『厄災』の始末は誰がつけたのか。紛れもなく俺が潰した。
だがその歴史は絶対に残らない。残っていればいくつかの国家は転覆するだろう。世界には『知るべきこと』と『知らぬべきこと』があるのだから。
「『平和を実現する人々は、幸いである』だったっけ」
平和とは何なのか。何をすれば平和といえるのか。
「すべてを、拾うために」
僕は、
“皆を守ることが正解ですか?”
”力のみが正義なのでしょうか?“
何を求め続けているのだろうか?
自分の核心をのぞけばノイズが入り思考が薄れる。
何が僕を守ろうとしているのだろうか。
守りたいものって何だろう。
何を今考えているのだろう?
“僕”って何だっけ?
存在意義とは、何だ?
「ーですか?」
「え?」
「大丈夫、ですか?」
「あ、ああ。問題ない」
右隣の人間が声をかけてくれた。
「いま、君は何をやっている?」
「?」
「今、我々には何が求められているのだ?」
首を傾げる。分かりにくかったのだと判別する。
「何をすればいいか、分かるか?」
「開く、読む、理解する」
「ありがとう」
単語のみではあったが理解した。
「ページ、23、28まで」
「たすかる」
「・・」
不思議な子だ。何かを感じる。ピリピリとした精神を軽く焼く感覚。
(・・憑かれている子、なのか?)
「・・当たる」
「?」
何か喋った。
同時に鳥が窓を突き破ってきた。
僕は反射神経のみで反応し手を伸ばす。
「邪魔だ」
反応し掴もうとした瞬間、爆ぜた。
比喩ではなく、本当に爆ぜた。
鳥の血を浴びる。そこまで酷くはないので続ける。
嘲笑うような声が聞こえたが気にしない。
「・・ごめんなさい」
何故右の人間が謝る。理解不能だ。
「私、悪い」
「何故?」
「いるから」
「本当?」
「そう」
「君の鳥かい?」
「違う」
「そこ、私語を慎む。ヴァルフは後で動きなさい」
「・・仰せのままに」
怒られた。しょうがないことだ。
「・・ごめんなさい」
また謝っていた。分かり合えなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
授業が終わってから声をかける。
「おいで」
「・・何故?」
「検証のために必要だから。命と身体の保障付きでどうだい?」
「・・分かった」
共に教室を出る。異常は感じない。
「どこ、行く?」
「どこか。君のためになれる場所さ。時間がない。少し抱える」
「分かった」
落とさないように抱える。軽い。
廊下を挟んで教室の向かいにある窓を見る。
「しっかり掴め」
「でなければ?」
「死の世界、かな」
握る力が強くなる。大丈夫だと判断しまっすぐ向かう。
頭が当たらないように体を軽く上げてから窓枠を思い切り踏みつけ、空を舞う。
向かう先は当然、地上だ。
「
地上からの高度1mで魔法を実行する。
x-tグラフがあればとんでもない形を描いていただろう。
目標高度は地上15mー屋上だ。
屋上に足をつき、下ろしてやる。
「ここなら落ち着いて話ができるだろう。少し驚いたかい?」
首を縦に振る。
「まっすぐに聞いてしまおう。君の周りには何かいるかい?」
「・・視えますか?」
「姿は見えないが存在は分かる。感覚でしかないが」
「・・います。そこに。すごく嫌っています」
「ありゃ残念。仲良くなりたいのに」
「・・変わってます。皆気持ち悪がるのに」
「そうかい?君は普通だと思うよ。僕はいろんなものを“強く”感じてしまう人間だからあまり言えないけど。仲良くなれるかな?」
「難しい、と思います」
「会話できるのかい?」
「伝える、だけです」
「すごいじゃん。僕が知らない世界を君は知っている。それは大きな強みだと思うよ」
「分からない、です」
「じっくりわかればいいさ。それより怪我はないかい?」
「・・ない、です。それより」
「この程度大丈夫さ。ちょっと本能が騒いだだけ」
「・・そう、ですか」
何かを感じる。着地点は隣のやつだ。
・・今日は上からか!損失は気にしねぇつもりかよ!
「ごめんね、迷惑でも受け取って」
「!?」
思いっきり手を引き抱き寄せ、右に倒れる。
右半身で2人分の重力を受け止めると同時に銀色に輝く剣が屋上に跳ね、左に飛び転がる。
・・これ左いってたら2人で串刺しだったな。
「・・大丈夫、ですか」
「この程度は問題ないさ」
「やっぱり、私が」
「それは無理だね。それが事実だとすると君はとっくに死んでいる」
「なら、なぜ」
「僕さ。奴らは上への反応を甘く見たんだろう。恐ろしく緻密な罠さ。未来を読む奴ってことかな」
「何が、見えているの?」
「僕にも分からない。ただ、目的のための犠牲は気にしないことがはっきりした。気をつけてね。なるべく君に当たらないようにするよ。君のそばにいる子にも助けさせなよ?」
「視えた・・?」
「いいや、見えてなんていないよ。伝えるのは君だよ。君のみ持つ能力だからね。さぁ、帰ろう。みんなで守れる所へ」
もうそろそろ潮時か。思ったより良かったな。
「・・助けて」
「もちろん。君のためになるなら」
§
放課後にに彼を呼び出した。八つ当たりのためではない。
彼が渡してきた紙に書いてあった内容は“異常”でありながら“理解可能”だった。
・魔法には階位が存在する。
・魔法は収縮、形成、発射の3段階である。
・唱えるものにより性質が変化する。
・日々の努力で能力が強化される。
これが基本、世界における常識だ。
しかし、彼はこの全てを否定した。
・魔法は『戦闘魔法』と『儀式魔法』がある。
・魔法は考えた形になる。鮮明となればなるほど無駄が減る。
・考えた形により性質は変化し、威力は鮮明さに比例する。
・魔力は少なくなることで増えるため、小威力を連発することは時間の無駄である。行うのならば攻撃の形をはっきりとさせること。
もはや訳が分からない。今までの常識が全て通用しない。
「これは本当にそうなのか?」
「君には活躍してもらっているからね。僕の経験による理解だ。一部ロジックもあるが」
「・・とりあえず最初から説明してもらおうか」
「最初?・・ああ、概念の話か。具体的に言うと『
「何が違う?俺には理解ができない」
「まぁ落ち着きたまえ。結論から言ってしまうと今までやっていたのは”お遊び“の魔法ってことさ」
彼は続ける。
「『戦闘魔法』は戦闘時に使われる。いわゆる『何かを壊す・殺す』ための魔法さ。魔法において殺傷能力は死活問題だからね。僕が出したらしい手持ちの武器があっただろう?あれがそうだ。
『儀式魔法』はこれらを”形式的に“行うものさ。人が死ぬことはない。
だから属性ありの人間が重要視される。”足止め“の能力は属性で可能だからな」
「なら何故ここで『戦闘魔法』を教えない?」
それならば実戦的な動きの方が大切になるはずである。そのための学校であるはずだ。
「簡単さ。学校が殺し合いの責任を持ちたくないからさ。もし僕と君で魔法の撃ち合いをしたとしよう。そして僕が死んだ。誰が悪い?子供か?学校か?それとも親か?」
「・・」
「その時に言われるのさ。『学校側が管理しなかったから死んだんだ』ってな。殺したのは生徒でも学校側が悪く言われる。それを避けるためさ」
「・・だが、それは正確でない。生徒1人をずっと見られる訳じゃない」
それでは人間の数は圧倒的に足りなくなる。実現できないだろう。
「そうさ。だが何も知らない奴は新聞などで情報を得る。親は管理者である学校を批判する。問題は情報屋さ」
彼が手を出し、床のチリを魔力で集め動かす。どうやら動きで説明するようだ。
「情報屋の奴らは事実を上手く書く。僕たちの親はお偉いさんがいるから迂闊に手を出せない。学校は叩きやすい。だから悪者に仕立て上げて見事な勧善懲悪の物語を完成させる」
人型のチリが学校の形のチリを叩き崩す。学校のチリは崩れ硬貨の形になる。
「自分の情報は売れ、学校は評判を落とす。それをさせたくないから学校側が元を無くす」
「・・」
「どこの偉い奴だって知っていることさ。表に言わないだけで」
そんなことはない、とは言えなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
母は前からいなかった。思い出せる頃には既に死んでいた。
父にとって母がいなくなったことは悲しかったのだろう。笑顔も暗かった気がする。
母は貴賤結婚であったために国葬にはできず、公表はしなかったらしい。
父は周りを押し切ったと笑いながら話していた。昔は笑えるような話ではないはずだ。
何回も周りから反対され、情報屋が嗅ぎつけて鬱陶しかったらしい。
その後父は再婚した。父が幸せになれるならばいいと配下たちは思ったらしい。
その数年後に婚約取り消しの申請が来たらしい。情報屋がうちの父ではなく、相手の家に纏わりついたのだ。父が国王の権限を使い、囲い込んで誤解を無くすことでどうにかしたと言っていた。
誰かが悪い訳じゃない。だが誰かを悪くしないとまとまらない。向こうもそれが仕事だからと父は言っていた。
本当にそれはなくせないものだったのか。どうすれば誰も困らなかったか。
善悪は必ず存在しない、と父は言う。
ならばどうすれば皆が納得するのだろうか。
どのような答えを出すように努めればいいのか。
『王として』の正解は何なのだろうか。
父の配下に聞いたが、誰もが答えを教えてくれなかった。
全員が“自分で考える“という答えだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「話を戻そう。ならばどこでそれを使えるようになるか。それがないのさ」
「それでは意味がないではないか」
「だから君がその魔法を理解するのさ。なに、そう難しくはないさ。調べれば分かる」
「狙いは何だ?」
「『有事』に使える戦力を確保すること、だな」
「・・近いか?」
「分からない。ただ、確信はある」
「・・分かった。なるべく努力してみよう。続いてその下だが」
「『
「そっちじゃなくて2段目だ。形を想像するというのはどういうことなのかを説明して欲しい」
「それならもっと簡単だ。攻撃の時相手を倒すための“形”を考えるだろう。その形が自由だってだけ。『“小さい玉”を“いっぱい”ぶっ放す』と『“大玉”を“1つ”ぶっ放す』が同じっていう理論さ」
「・・わかるようで分からん」
「常識に阻まれるからな。まぁやったら分かる。分からなければ分かるまでやれ」
「1つだけ無関係な質問をいいか?」
「何だ?」
「君は何を目指す?何のためにここまでする?」
何がその発想の後押しをするのか。そこが一番理解できない。
「・・罪を償うため、って言ったらどうする?」
「罪とは何だ?」
「・・この世界の法に触れることは大抵やってると言えば分かるか?」
「つまり法に裁かれない人間だと?」
そんな人間はあり得ない。
全ての人間は法によって縛られるのが当たり前だ。
「そうだ。養子として入れてもらっている以上その務めを命ある限り行うことが贖罪として周りに受け入れられると思っている」
「それが君を動かす理由か?」
「ああ。『“本来の自分”を探す為』にな」
「君が君でないような言い方をするんだな」
「逆に誰がそれを正しいと認めた?僕は誰にも認められたことはない。だから昔のことを思い出せない。必要な過去を『忘れてもいい』過去として自分が受け入れているからだ。それだけ重要でない記憶だっていうことさ」
「誰だって必要とされる。必ずそうさ」
「それが言えるのはまだ全てが見えていないからさ。ざっとこんなもんでいいかい?分からない所は説明した」
「・・」
「沈黙は肯定として見なす。じゃあな」
「・・ああ」
彼は背を向けて去る。影は長くなっていた。
「・・必要とされない人間を見つけることが全てを見ること、になるのか?」
全てにおいて彼の発言は分からない。真意をつくことを一切言おうとしない。
ただし、全てにおいて正しいことを指摘しているのは確かだ。
「君の眼には一体何が映っているんだ?」
居なくなった人間に問いかける。答えは返ってこなかった。
次回予告
「どうするんですか?ネタ切れですよ?」
「やって見せろよマフティー!何とでもなるはずだ!」
「私はマフティーではありませんし何ともなりません」
「・・ショボン」
「・・そのぐらい想定しなさい。次回予告の時間よ」
「作者より『次回 襲来 つなぎよろしく!』だそうです」
「なんか小さく一言載っているわね」
「え〜と、『頑張ります、なので褒めて』だそうです」
「嫌ね。死んでも嫌」
「可哀想な作者だ・・」