1つの生物が全面が黒の部屋にいた。
「この動き・・流石と言うべきかな」
ある生物が喋る。見ていた資料は「例のモノ」だった。
「これもいいねぇ・・やはり俄然として願望は耐えないよ」
一つの計画書を見る。
「ああ、見事だ。この計画は発動すれば・・もう誰にも止められないッ!」
口元が歪む。
「これさえあれば僕のプログラムはほぼ完成だ!・・ああ、君をすぐに迎えなくては。待っていてくれ、今度は僕が助けてあげようじゃないか。君は奴を倒してくれ。そうすれば何もかもが幸せさ!」
§
「今日は何をしますかねぇ」
殺風景な部屋は相変わらずスカスカのままだ。
この部屋には学校で必要なもの、そして
絶対に誰かに取られたりしないように箱から一度も出していない。
「・・久しぶりの解体ショーでもやりますか」
久しぶりに出したナイフが月光を反射する。
「改良しましょうかねぇ?でも現役の頃から使い慣れた物だしなぁ・・」
正直なところコイツより使える道具はある。だがどれも大きく整備が面倒なのだ。
ツイストダガーの場合は少量の鋼があれば製作可能で所持がバレにくいのがありがたい。
「スペツナズは回収が面倒だし・・まぁいいか、このままで」
改造計画は無事お蔵入りした。
「んじゃ、シバきますか」
ここからは
「この辺は人に見せられないものだからあまり使いたくはないんだけど・・
強化魔法をかける。想像する姿は『気体』だ。
「自分はOxygen、Oxygen is・・」
肉体の感覚がぼやける。この枠を外せば完了だ。
(形は忘れずに取っておくように・・っと)
後は部屋の隙間からぬるりと出ていけば終了だ。
(今日はどんな収穫かな)
全身に目をつけるように探す。『気体』としての性質だからこそできることだ。
(あれは・・だいぶ仕上がってるな)
歓楽街の方は明かりが灯され賑わっている。通りには
(平和ボケか、それとも真正のバカか・・まだここがよく分からないな)
住宅地の方にも明かりがついていた。もう遅い時間帯だがまだ明かりをつけている家もあるようだ。
(多分、彼らにとっては『平和』なんだろうな・・平和なんてあり得ないのに)
どうすれば平和か。
この考えを辿っていくと人間の存在が一番の障壁となっていることとなる。
人間は『嫉妬』という感情を持つ。
嫉妬は相手を恨む、もしくは妬むことで発生する。
その感情は人間の『向上心』を作った。しかし、同時に『排他心理』を生み出した。
人は絶対的な力を手に入れるため、技術を手にした。それが『武器』だ。
相手の絶対的な力に危惧し、同じ『武器』を作り自分を守るため『排他』する。
つまり、誰かが武器を所持している限り絶対に平和は訪れないのだ。
そして、人間が『嫉妬』の感情を抱く限り、確実に武器は無くならない。
そこで人間は考えた。
絶対的な力により人々を服従させることで『疑似的な』平和は作れるのではないかと。
人間を力で抑え、情報を制限し、指導者に従わせることで争いを表面に出さない。
それが今の国家だ。
(まぁそれでも上の人々が僕達を使って牽制していますが)
この方法は半分成功、半分失敗だった。
国民は限られた情報で暮らし、国家に対する批判は減った。
しかし、拘束できない層があったーー貴族だ。
貴族には『縦のつながり』だけでなく『横のつながり』もある。
情報の漏れを塞いだとしてもそれは『縦のつながり』であり、『横のつながり』から伝わってしまうことがある。
下手に規制すればヘイトから殺される可能性がある。そのせいで強く出られない。
その事態が『僕』の存在を生み出した。
(・・おや?面白そうな人がいますね。密売でしょうか?)
路地裏に人影が見える。3人のようだ。
(2人は取引として・・1人はどうしたのでしょうかねぇ。まぁ様子を見て決めますか)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
屋根上に近付く。ここが最短になるはずだ。
(
(何を話し合ってるのでしょう?まぁ大抵分かっていますが)
聞き耳を立てる。この距離なら聞こえる。
「・・だけでいいか?」
「ああ、コイツとひき・・いいな?」
「もとからそう言って・・ろう?支払ったぞ。出してくれ」
「やってやるよ。ところでなん・・うんだ?」
「教えないといけないか?」
「それを含め引いたんだ。・・うぞ?」
「分かったよ。欲のためだ。ここらは・・甘いからな」
「・・そうか。枯らさない程度に楽しめよ」
(思いっきり真っ黒だな)
典型的な域の犯罪だ。むしろテンプレすぎて飽きるレベルだ。
相手は男が2人、もう一人は恐らく取引物だろう。
(さて、お掃除の時間ですかね)
「
全身を黒の仕事着で包む。
「Optical camouflage 実行」
降りた勢いのままダガーで頸動脈を貫通させ素早く引く。返り血が勢いよく噴き出す。
その勢いのまま二人目の左心室を深く刺し飛び下がる。
3人目の存在を目視で確認しつつ体勢を整える。
(・・獣人の女か)
大きな耳と尾を持つ長髪の女だ。首には不恰好な首輪がついている。
「Optical camouflage 解除」
目が少し大きくなる。驚いたようだ。
「アンタはどうする?」
「・・」
「質問が悪かったな。コイツらみたいになるか、それとも自由に暮らすか、あるいは僕についていくか」
「・・安楽の地へ」
「何だって?」
「私は『安楽の地』を望みます」
「・・つまりどうすればいい?助けるのか、放置か、殺されるかだ」
「契約の更新を望みます」
「アンタなぁ・・まぁいい、どうすればいい?自前でいいならあるが」
「自身で隷属化が可能だと?」
「まぁできなくはない」
「ならばそれでいいです」
(『それで』って・・コイツは立場が分かってるからなのか?)
「とりあえず今あるものの破壊からするか。それ邪魔だもんな」
「まぁ邪魔ですが・・」
「なら壊す。同期してるものないよな?」
「同期?」
「『連動するもの』っていう解釈でいい。ないな?」
「肉体と連動を」
「うわぁめんど・・」
今主流となっている状態に驚く。
前は『表面上』での固定が主流だった。契約主の更新が多かった都合上である。
どうやら今は『絶対的』な固定を行うようだ。面倒な世の中だ。
「とりあえずやるけど・・アンタの種族は何?」
「・・半狐です」
「分かった。とりあえずアンタらが嫌う属性は避ける。とは言っても併殺程度だが」
「感謝します」
「とりあえず『spatial disconnection』実行、効果範囲を周囲10mに制定」
「何をするつもりですか?」
「空間を一時的に切り離して世界の理を崩す」
「並行世界、といった感じですか?」
「正確には並立世界だ。アンタのは5次以上が必要だ」
「5次?」
「こっちの話だ。それで、どの接続の仕方だ?破壊と同時にか、破壊と連動か」
「どういう違いですか?」
「壊れた時に巻き込まれるか、壊れてから身体的要素を喪うかの違いだな」
「さぁ?試していたらここにいません」
「どっちもクリアにするか。あと下手に動くなよ。ただでさえ不安定なんだ、動くと体のどこかが無くなるぞ」
揺れていた尻尾がピタリと止まる。
「・・いやある程度はいいからな?」
「欠損する危険性を鑑みれば妥当かと」
「まぁそうだけどな」
変なとこ真面目だな。
「首に触れるぞ」
「どうぞご自由に。私は抵抗する術を持ちませんので」
目を閉じ首輪を介して魔力を流す。
「少し痛いかもしれないが耐えてくれ。できるだけ速やかに終える」
細くした魔力を身体に通す。同期させる箇所には“結び”があり、それを辿り“元”を破壊することで的確に解除できる。
「んっ・・」
「やっぱり無機物は通しにくいな。少し負担が増えるかもしれん」
「どうぞ・・」
「数が多いな。封印まで兼ねてんのか」
「そう・・ですが・・」
「うーん・・よし、やめよ」
「はい・・?」
「アンタの体の方から出てる。恐らく焼きで入れてるんだと思う。焼印とか押されてないか?」
「あります・・」
「よし、じゃあ止めよう。これじゃ意味がない」
そっと引き抜いてやる。肉体への損傷は最低限のはずだ。
「どこにある?」
「背と腕と足に」
「3箇所もかよ。露出できるか?」
返事もなしに脱ぎ始めた。流石に後ろを向いてもらったが。
「こんな体によくやったもんだ。よく耐えられたな」
背を見る限り細かい傷があり、左上に魔法陣が押されていた。
背中でこの状況ならば全身そうなのだろう。
「これで母は助かると」
「んな訳あるか。利用価値がなければ捨てられる。助けるんだったら一緒に連れてきてるはずだ。一緒に来ていないんだったら殺されたか売られたかの2択しかない」
「私は・・騙されたということなのか?」
「確定はないがここにいる時点でまともではないな」
「・・もしこのままなら?」
「いいとこ獣じみた人間を相手にしてるんじゃないか?悪けりゃ飼い殺し」
「・・・・」
「いい飼い主ならそれなりの衣食住はありそうだな。ただ上へ行ったとしても
「今までの行動は・・無駄だというのか・・?」
「ぜーんぶ無駄だな。少なくともアンタの目的通りにはならない。向こうからすれば手間が掛からない商品として優秀だな」
「ならば・・私は何の為に生きれば良いのだ?」
「自分のために生きろよ。そのための自我があるんだろーが。この焼印をさっさと消しちまうぞ」
「・・すまないな、手を煩わせる」
「そう思うんだったら自分のために生きやがれ馬鹿ギツネ、『
「誰が馬鹿ギツネだ・・ああ私のことだったな」
「認めたらそこで負けだぞ?」
「・・貴殿は味方なのか敵なのかはっきりしないな」
どう考えても敵だろう。こっちはたった2人の人間を殺した『犯罪者』だから。
「悪いようには使わないだけの悪者だ、『
「そうか?私には善人に見えるが」
「どこか見間違えたんだろ。それか生物として終わっているかだな。『
「『私は1人じゃ何もできないダメな生物です。人間に簡単に騙されます。』これで良いか?」
「・・やっぱお前馬鹿だ。終わってなくてよかったな」
「終わってしまう方が切ない気もしますがそっちの方が私にとっては幸福ですね」
「生ある限り生きることが動物の基本だ。真面目に生きろ」
「生きたくもないのに生きるってしんどいんですよ。だからさっさと終わってしまう方がいいんです」
「じゃあ『生きたい』と思わせれば良いんだな。やってやるよ」
「無理ですよ。生きるための希望を無くしたんですから」
「『希望』ならまだマシだな。僕は生きる『方法』をなくした。それでも生きてんだ。もうそろそろ終わりだ。少しだけ意識飛ばすぞ。でないとかなり痛いと思う」
「まぁ失敗しても文句は言いません。代わりに呪います」
「ダメじゃねぇかよ。『shutdown』」
半ば無理矢理だが意識を落とす。
「ここからは実力のみか。『shadow:program/system/page?=1』実行」
“影の分身”と呼ばれる存在を作り出しマニュアルを読み込ませる。
「世界改変魔法を実行。“
少々めんどくさい魔法を組み立てる。
「これを無視できるような奴はいなかったはず。これで全ての危険性を潰した。さぁ開始しよう、やり直すために」
§
「世界改変魔法を解除、『shutdown』解除」
意識を戻してやる。
「もう終わったのか?」
「まぁ意識を無理に繋いでるしな」
「特に違和感はないが」
「ならいい。さっさとその邪魔なものを外してしまうぞ」
首輪に手をかける。
「
首輪が外れる。中には魔法陣が削り入れられていた。
「これは僕のものだ。僕が片付けよう」
「外れなくなるんじゃないのか?」
「そうだな。だがそれがいい」
「・・変態だな」
「自己完結するだけマシさ。僕は“僕の存在”を留めるものが好きなだけ。場合によってはアンタに情欲を持つことで形を保とうとする奴もいるさ」
「・・気持ち悪いな」
「倫理観は狂ってなさそうで良かったよ。もうやりたい事も終えたし行こうか」
「・・ずっとここにいられないのか?」
「この世界もいずれ崩壊する。それに巻き込まれたいならいいが」
「一生を使い果たすのが生まれた者の責任だというのなら私はそれを果たす。答えは決まっている」
「なら戻るぞ。『spatial disconnection』解除」
路地裏に戻る。死体が2つ転がったままだった。
「delite」
邪魔なものは捨ててしまえ。
「狭いな。飛んで広い所へ出てしまおう。ついてきてくれ」
屋根の上に着地する。
「あれは何だ?私は見たことがない」
「・・やっちまった。最悪の貧乏くじを引いた。どう直せばいい」
「どうした?」
「お前はさっさと逃げろ。でねぇと死んじまうぞ」
「訳がわからないんだが?説明しろ」
「僕がやったことが原因で全てが詰んだ。それだけだ」
「なぜ詰むんだ?」
「転移しただろう?その時に世界での存在が“理由不明”で消失。世界自体がそれを解決するための新たな生物を作り出した。そこに何らかの干渉があって補いきれなくなった為に巨大化、異質化した。これでいいか?」
「それの何が危険なんだ?」
「“何なのか”が一切わからない。でっかい爆弾かもしれないし危険な生命体の可能性だってある」
「それなら最後の質問だ。
質問の意図を汲み取る。
「・・そういうことか」
「それ以外ないと思うのですが」
「全くもって悪いのは僕だな」
「そういうことです」
「どうにかしてみるか。絶対に近づくなよ」
「全く同じことを貴殿に返します」
「んな無茶な」
「とにかく伝えておきます。アレは危険。言っても無駄ですが言っておきます。『無茶するな』」
「本当に無駄だな」
「ならばこちらも。『死ぬな。アンタはまだ必要とされている』」
「・・なんか懐かしいな。どこかで聞いた気がする」
「こんなことを言ったのは初めてですよ。言霊は本当にあるらしいので言ってあげます」
「まぁいいか。とりあえず騎士団止めて明日の朝攻撃する」
「どこで待っていましょうか?」
「どこも同じさ。
「勝つ方法はあるんですね」
「無策ではない。ただ勝てるかは知らん」
次回予告
「ついに私が出たか」
「いかにもそうだねぇ・・」
「嬉しくないのかい?」
「まぁ嬉しいんだが・・この後が、な」
「まさかの1話落ち!?」
「そうじゃない。あのデカいやつをどうしようかって思ってな」
「ちょちょっとやればいいんじゃないですか?」
「それを具体的に考えているんだが?」
「あっなるほど、分からなかったです」
「意志ははっきりしような?ということで次回は『落とし穴』。次回もよろしく」
「もうそろそろ私の部分も増えるかな?」
「さぁ?」
「・・私もしかして半殺しにされた?」