壊れた少年のマーチ   作:オリの中のカナリア

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2週間おきにさせてください。というかします。異論があるものは足の指を上げよ(暴挙)


落とし穴

走りながら撃墜目標を確認する。

 

「いろいろ想定外だな・・見る限り大きさは2桁、浮遊能力持ち、原動力不明、思考回路不明、目的不明。これ本当に生き物か?」

 

どうやって人的被害を減らすか。

1番の問題は騎士団だ。無駄に死んでほしくはない。

 

「・・やるにしても朝か」

 

外はまだ暗い。少しすれば日は昇るだろうが町は混乱するだろう。

 

(騎士団の方に朝イチで顔を出して話を通すか。そうなるとアイツは行くべき所が決まる。ついでに計算もやっておかなければならないな)

 

やることを決めたらさっさと取り掛かる。

相手が攻撃をしてこない辺りは不審だが逆に言えば暫くは問題がないということだ。

 

奴の元に帰りこれからのことを()()伝える。

 

「すまない、待たせた」

「この程度問題はない。それでどうだった?」

「今は大丈夫だ。どうなるかは知らん」

「そうか。どうするんだ?」

「一旦撤退だな。今は暗すぎる」

「そうか。付いて行くべきか?」

「そうだな。来ると・・」

 

(そういや隙間をすり抜けてきたが・・どうやって帰ろうか?)

 

「・・小さくなれるか?」

「・・小さくか?」

「ああ。いろいろ事情があってな」

「・・脱走か」

「・・まぁ、いろいろ」

「下手だな」

「許せ」

「私に言うべきことではないだろう?まぁなれる。ただ・・」

「ただ?」

「質量は変わらない。重たくなるぞ?」

「その程度は問題ない。”想定された“事項だ」

「体重を分かっているのか?」

「・・見れば。的確に言ってやろうか?」

「それを言うのは私が死んでからにしてくれ」

「・・よく分からんが言わないことにはする」

 

なぜそこまでこだわるのだろうか。

 

「それでどの程度だ?」

「そうだな・・手で抱えられる程度であれば。あと小動物くらい可愛らしくな」

「つまり今のまま小さくなればいいということだな。分かった。変化(ミラージュ)

 

姿形が全て変わる。その姿はまさしく狐だ。

 

「・・自己肯定感高いんだな」

「そりゃあ何でもできるからな」

「一応口で喋れるのか。んじゃ帰るか」

 

小動物と変わり果てた奴と歩いて帰る。

 

「温かいな」

「しょうがないだろう。小動物は皆体温が高い」

「尻尾も耳も柔らかそうだな」

「勝手には触らせないが?」

「つまり頼めば触らせてくれるということだな」

「・・もう決めた。貴殿には触らせん。反省しろ」

「そんなに悪いことを言いましたかね?」

「ああ、十分にな」

 

寮はさほど遠くはない。すぐに着く。

 

そのはずだった。

 

「・・なかなか着かないな」

「ああ、もう着いてもおかしくはないんだが」

「方向は合っているだろう?ならなぜ着かないんだ?」

「・・周りのものを記憶して。仮説の立証を行う」

「分かった」

 

()に風景を覚えさせつつ走る。

 

「・・やはり何かがおかしいな。周りはどうだ?」

「変なものは見ていない、というかすべての家が同じ形のせいで分からないな」

「んなわけ・・」

 

前を見る。光の当たり方こそ違うが同じ家が並んでいた。

ドアの位置も、花壇の花の背丈も、だ。

 

「確かにな。こりゃ見分けができない」

「それで?実証とやらはできたか?」

「ああ。結論は『一部が繰り返された状態にある』ってことだ。理論的には『エンドレスエイト』状態だな」

「『エンドレスエイト』とは何だ?」

「夏が終わってほしくない、と一部の人間は思うらしい。そこから来たある一定の期間を繰り返すことを指す言葉だ。発現条件は『外部もしくは内部からの()()()力』」

「・・それがあの生物、ということか」

「だろうな。人間には到底無理だ」

 

どうやら帰してくれないようだ。

 

「どうする?」

「帰らなきゃ話にならない。無理にでも帰らせてもらう。“破綻点”を見つけて突けば世界は崩れさる。まぁ作りが荒い場合だが」

「そうか。なら今の状態を・・」

「無理だな。少なくとも同じ形の家はあり得る可能性がある。絶対にあり得ないことを見つけるべきだ」

「何だろうな」

「気付かないか?家があるなら人はいる。だが今回において人は見なかった。あまりにも不自然だ」

「・・切り取られた世界だから発生するのか」

「そういうことだな。じゃあそれを片付けよう。家の中を開けてみろ」

「大丈夫か?」

「問題ない。引いてみろ」

 

腕の中から飛び出てドアを引こうとする。しかし、開けられない。

 

「狐のまま開けられると思うな」

「いや、そうじゃなくてな。戻れないんだよ」

「・・」

「そんな白けた目で見るな。虚しくなる」

「・・そういうことか」

「どういうことだ?」

「戻って来い。もっと簡単な方法があった」

 

戻ってくる。やっぱり柔らかく、暖かく、そして重い。

 

「重いとか思っただろ」

「・・はい」

「正直なだけ許す。次は首が飛んでいるぞ」

「覚悟しておきます」

「それで、どうするんだ?」

「簡単さ。『魔法防護球(マジックバリア)』」

 

魔力で身体ごと1つの球体で囲む。

 

「このまま突き進む」

「そんなのでいいのか?」

「この世界は『状態が変わる』と対応できないようだからな」

 

繰り返されている家の間まで来る。そのまま突き進むと風景にヒビが入り崩れ落ちた。

崩れ落ちた先にはちゃんと人もいた。

 

「どうやらうまくいったようだ。『魔法防護球(マジックバリア)』解除。帰るか」

「そうだな」

 

通りを走り抜ける。人がいる所は飛んで避けた。

 

「今度は異常なし、だな」

「世界を複製しようと考える時点で無茶だ。それに複製すると必ず綻びが出るからな」

 

寮にはすぐに着いた。

 

「ここが家か?かなり大きいが」

「学生寮だ。身元の安全は最低限保証される。概念的には巣が近い」

「構造が面白いな。中央から分かれるようになっているとは」

「まぁこの中は血の気が多いから小動物になってもらった。困ったら言え」

「どこに居る?」

「正面の左の3階、町側から2番目。どうせ一緒に行くことになるがな」

「貴殿は正面からだ。そして怒られろ」

「証拠がないのに?」

「大声でやっていたことを言えばいいか?」

「それは困るな」

「なら行け」

「嫌だね。今まで足跡を残さなかったから。というかアンタ戸籍を持ってねぇだろ」

「そりゃ“元商品”ですし」

「その状態で僕のことを言うっていうのはお互い様なんじゃないか?」

「・・悔しくもそうなりますね」

「だろ?だったら一旦休戦としよう」

 

これはれっきとした取引だ。狐と人だが。

決して逃げようとしているわけではない。多分。きっと。

 

「いつかは弱みを握ってやる・・」

 

怨念が聞こえる。

 

「まぁ許せ。こっちも緊急だ」

「・・ふん」

「僕のところに住み着いてくれて構わん。どうせ1人だ」

「仲間はいないのか?」

「この異能のせいでな。人間は不可解なものから自分を切り離そうとするからどうも寄り付かない」

「惨めだな」

「全くもって同意する。どこで間違えたんだろうな」

 

人とは最初から運命は決まりきった生物なのだろう。

 

「部屋まで送る。休んどけ。あと部屋から出るな。アンタまでは巻き込みたくはない」

「何があるかは聞いていないが」

「逆に聞きたいか?」

「・・いや、いい。興味がなくなったからな」

「そうか。なら向かうぞ。」

 

部屋の窓まで飛んで行く。

 

解除(ハック)、これでアンタは通れるだろ」

「ああ、問題なく」

「じゃあ入っとけ。ちょっとだけ仕事がある」

 

地面に飛び降り魔法を発動させる。

 

「衝撃波《インパクト・ラム》」

 

地面に向けて打ち込む。地面の足跡をわかりにくくするためだ。

 

「こんなもんか」

 

部屋に帰る。何故か寝床を占領されていた。

 

「・・そこで寝るのか?」

「貴殿はここに寝るというなら・・まぁ譲ることも考えなくはない」

「権利が優先されるのは所有者なんじゃないか?」

「貴殿は地面で十分であろう?」

「んなわけあるか・・あるな。そこで寝てねぇし」

「なら私が使う。問題なし」

「まぁいいけど・・その姿のままか?」

 

変化した小動物の姿のままだ。愛嬌は丸まっている分前よりある。

 

「こちらの方が都合が良い。大きく空間をとることはないし暖かいしな」

「・・そ。ならいい」

 

こちらとしてもやりたいことは山ほどある。持ってきた紙に式を書き込む。

 

(加速度と出力制限の調整が厳しいな・・材質ごと変える必要さえありそうだ)

 

バルバトスの場合出力はほぼ無限だ。しかし、それを制限する『リミッター』が無ければオーバーヒートで機体破損の可能性がある。下手に壊せば爆弾となり得るバルバトスにおいては致命的な問題である。

 

(・・最善はこれか。これなら安定するはずだ。後はこれに関するプログラムを作るだけだ。増えたのは速度と姿勢制御と重量だが・・凄まじく面倒なことになった)

 

何せ重量を変えたせいで重心が変わったのだ。全ての動きの軸がズレる。

 

(・・いっそのこと壊れることを前提にするか?)

 

もはや自暴自棄(ヤケクソ)である。脳みそが完全に思考を放棄した。

 

(まぁそれでいっか。それなら修正簡単だし)

 

必要な式を組み立て、ついでに暗号化した手順も書く。

久しぶりに書いたが意外と体が覚えているものだ。簡単に書ける。

 

(・・月も欠けてきましたねぇ。もうすぐで半分です)

 

月の明かりが減っている。困ったことに手元が見えなくなる日は近いようだ。

 

「・・ここに居られるのはいつまでなんでしょうね」

 

ずっと許された存在であるはずがない。

どこかでこれまでのことが精算されるはずだ。

そう思い続けて生きているのだ。なのにその期限がいくら経っても来ない。

 

「・・消えてしまうのは困るな」

「まだ起きていたのか」

「1日ぐらい寝ずとも死なん。それよりも今のは本当なのか?」

「知らん。聞くな」

「貴殿が言った事だろう?知らないわけがない」

「答えとしては『神の意のままに』だろうな」

 

自分とて全てを知っているわけではない。

あくまで『実験として』生かされているだけなのだから。

 

「貴殿は死ぬのか?それとも消えるのか?」

「どうだろうな。ただいつそうなってもおかしくはない」

「・・寂しくなるな」

「消えたところで代わりの人間はいる。そいつを探して慕え」

「貴殿のような人間は生まれぬと思うが」

 

核心を掠める質問だった。

 

「世界は広い。探してみろ」

「見つかるわけがないであろう。何せ()()()()からな」

「・・頑張れ」

「冷たい奴だな」

「社会はそうできてる。でなきゃ殺し合いだ」

「ならばどう生きれば良いと言うのだ?」

「僕以外が帰ってきたら伝言でこう言え。『ムゲンのアイは底よりこぼれ落ちる』」

「何なんだそれは?」

「言った相手はのちに理解する。それだけは確実に伝えてくれ」

「それだけか?」

「ああ、驚いた人間には姿は出すな。謎に思った人間には姿を出していい」

「分かった」

 

全てを解決させるための鍵は誰に渡るだろうか?

予防のための文字を紙の端に記す。

 

Time waits for no one.

If so what will you do at that time?

 

これで伝わるはずだ。

 

「来いよ」

「どうした?食べても美味しくはないぞ?」

「狐は食べたくないな」

「・・ふん」

「・・可愛いやつだな」

「褒めたところで何も出ん」

「褒めたと思っているのか?その通りだ」

「素直に言え。分かりにくい」

「毛がもふもふ。柔らかそう。触りたい」

「・・まぁ及第点はくれてやる」

 

奴が膝元にくる。不思議なまでに可愛がりたくなる姿なのだろう。

 

「あまり抱え込むな。私はここにいる」

「苦しかったか?」

「そうじゃない。貴殿が、だ」

「・・何も抱えてなどいないぞ」

「嘘だな。それならば私なんぞ呼ばぬ。・・何か不安要素があるのだろう?」

「・・帰って来ることができないとしたらどうする?」

 

自分でも驚いた。こんなに弱気になることなんてなかった。

 

「私はとりあえず生きている内にやっておきたかったことをやるな。行きたいところや見たいところを全てやってから行く。そうすれば帰って来れなくなっても後悔はなくなる」

「・・そうか」

「まぁ貴殿が死ぬことはないだろうな。遠くに行っても必ず帰ってくれそうだ」

「流石に時空は飛べないけどな」

「相手が強かったのか」

「・・何も意思を感じなかった。思考も読み取れなかった。まるで死を望むかのような虚無のみだった」

「それでも何か掴めたのだろう?」

「ああ、“外からの干渉が不可能”という絶望がな」

「・・それで?」

「外からできないなら内から仕掛ける。生きて帰れれば奇跡だな」

「・・」

「・・こんなに死にたくないなんて思ったことはないや。僕は死ぬために生まれた存在なのにね」

「死ぬための生物など居ない!」

 

強く否定される。

 

「生まれた命は“生まれるべくして”生まれているんだ!」

「・・知れば戻れない。それでも僕を知りたいかい?」

「・・ああ、その思考の元を教えてくれ」

 

幾分か落ち着いた声が返って来た。

 

「何故こんな数字を書くのか知っているか?」

「知らぬな」

「簡単な答えさ。これが僕にとっての“言葉”だからさ」

「それと貴殿の思考にどこに繋がりがある?」

「まだ続きはあるのさ。何故数字を教えるか。それは普通の言葉を言うより楽であり、重要機密を外に出さないためだ」

「どういうことだ?」

「数字を言われたらそれに合った行動を取る。つまり数字と行動が直結する。動作の名は知らない。これが非常に楽なんだ」

「?」

「自爆しろと言われて素直に従うか?」

「嫌だな」

「これを1とし、手元のボタン、つまり自爆起動装置を押すとする。すると1と言えば自爆すると知らせずに自爆させられる。このようにして刷り込むだけだ。向こうに聞かれても『1』としか答えられない」

「貴殿は言葉が話せるだろう?」

「長く生きていればな。大抵3ヶ月以内で9割は死に、1年経てば見知る顔は無くなる。長く生きていれば部隊指揮権を得て覚える事ができるがかなりしんどい」

「・・他にも居たのか?」

「居たさ。全員死んだが」

「・・そうか。聞いて悪かった」

「毎日死ぬ奴はいたから別にいいさ」

「・・よく生き残ったな」

「死ぬ時には悪い“気”を感じるんだ。それを避けていた、いや逃げていた。迎えるべき運命から逃げ続けたためにこうなったんだろうな」

「それでも良い。生きていなければ話すらできなかったからな」

「・・よく分からない」

 

生きていて喜べる概念がよく分からない。

 

「最後にいいか?」

「何だ」

「僕はいつになったら皆の所へ戻れる?」

「・・」

 

返事は返ってこなかった。




次回 いざ、決戦 よろしくゥ! 

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