壊れた少年のマーチ   作:オリの中のカナリア

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英検更新のため受けてたら遅れました。いやー英検ムズい(小並)


いざ、決戦

雲の端が明るく見える。呼ばれる時間だ。

 

「行ってしまうのか?」

「ああ。行かなければたくさんの人が死ぬ。それよりは、な」

「貴殿が生きることを望むものがいる。それだけは忘れるな」

「・・止めないんだな」

「止めてもどうせ行くだろう?少し言ったところで変わるような弱い人間じゃないことを十分理解したからな」

 

コイツは底抜けなまでに良いやつなんだな。

 

「帰ってきたらアンタに名をつけてやるよ」

「ここでずっと待ってやる。未来のために戦って、そして帰ってこい」

「ああ。行ってくる」

 

出入り口に鍵をかける。手は震えていた。空気が冷たいせいだろうか。

 

「・・脆いな。ここまで人間が脆いとは」

 

死を望む者が生きたいと思うとは何事だろうか。

 

(帰りを待つ人がいるだけマシか)

 

階段を降りエントランスを通る。誰もいないようだ。

受付に手紙を書き置き『緊急急送』と書いておく。

ドアを開け外へ出る。

 

「さぁて、天使狩りの開始ですね」

 

§

 

騎士団の駐屯地を探す。確か壁沿いにあったはずだ。

 

「やっぱり壁を走るとぶつからない分早いな。まぁ壁はこのためではないが」

 

壁の少しの歪みを足場にしつつ重力を推進で相殺し、残った力で進む。

一見効率が悪いように見えるが常に加速できるアドバンテージがあるため長期戦では効率がいい。

 

「・・ここか。前より防御能力を高くしているな。修正しているようで感心だ」

 

入出国門にあった前までは対外防御を中心にしていたのに対し今は両方に対応するようになっている。良い傾向だ。

 

「果たして例の名義で通るだろうか」

 

地に足をつけ入出国門の前へ行く。

 

「何用だ」

「騎士団長に用がある。ガゼフ・ストロノーフ、の名を出せばいいかい?」

「し、失礼したっ!少々待ちたまえ。すぐに対応しよう」

 

どうやら今も変わらず鬼畜教育らしい。

少し待っていると先ほどの人間が騎士団長を連れて来た。

 

「どうした・・って坊主か。どうした?」

「少々込み入った話だ。下手すりゃ全部吹き飛ぶ」

「そうか。とりあえず中に入れ。話はそこからだ。休憩室を開けろ」

 

休憩室の中の人間を追い払い入れてもらう。

中にいた人は・・まぁご愁傷様ということで。

 

「んで・・坊主は何故ここに来た。ここには来ないとか言ってなかったか?」

「学校から資料が来ただろう?それが“俺”だ」

「・・どういう巡り合わせだ?」

「さぁな?そこの嬢に気に入られて養子を組んだ。それは事実だ」

「本当に変だな。何の用だ?“お貴族様?”」

「やめてくれ。気持ち悪い」

「はっはっは。なら前と同じでいいな?『レイヴン』」

「ああ。もう知っているだろう?あのデカブツ」

「報告があった。つまりそういうことか」

「話が早い。できれば・・」

「そもそも引き抜くつもりではあったから問題ない。どうせ偵察に行きたいとかだろう?俺は却下だ」

「何故だ。どう見ても確実に一撃で人を殺し切る相手だ。無力化が最優先だ」

「だからだ。最後の切り札を最初から切る奴がいるなら相当な馬鹿だ。それに坊主は今『貴族』の頭数だ」

「能力の確認のための犠牲は最低限にすべきだ。その面から見ると妥当なのは俺だ。それに所属を変えること自体は話にあっただろう?」

「『学業との両立』を条件にな。要するに損傷は最低限にしろとよ。上は無茶を言いやがるぜ」

「そこらは大丈夫だ。自分で対応すればな」

「んな訳あるかと言いたいところだが・・認めざるをえんな」

 

そもそもアンタが判断ミスって国1つ潰しかけたのを1人で対処したから分かるだろ。言った結果は見えているため口には言わんが。

 

「たった1つの敵のために100の命を捨てる必要はない。それと観測結果からだがあれは敵でない可能性がある」

「何故そう言える?間違えれば全員死ぬ」

「武装を出していないところから戦闘が目的ではないと思う。友軍ではないが敵対もしていない」

「中立は一番面倒だ。敵に倒れては不利になる」

「だから実験したい。できるだけ平和的な解決でな」

「どうやってだ?」

 

手段を説明する。恐らく1番効率的で楽な方法だ。

 

「・・ついにこの仕事も降りる日が来たか」

 

騎士団長が席を立ち腰袋からあるものを渡す。

 

「これは?」

「魔石付きの識別札だ。追跡機能が付いている。存分に行って帰れ。反応がなくなれば12時間後に死亡と見做す。いいな?」

「12時間もいるのか?」

「魔力を込めすぎて割れてしまう可能性が()()()()あるからな」

「・・しょうがないだろ。放出時に多少は魔力が漏れるのだから」

「その量が多すぎるんだ。ったく、対策に高くついたぞ」

「前のから改良したのか?」

「改良しねぇと使い物にならねぇだろうが。そのくらいはしてやる」

「・・ありがとよ。冥土の土産に持って行きたいもんだ」

「冥土に行く前にその分を働いて返せ」

「まったく、金には相変わらずケチ臭いな」

「必要な時に思い切って使う、だろうが」

 

以前と立場が変わっても同じ会話ができる。

それが一番の幸福だった。

 

「ちなみにどうやって調べるつもりだ?」

「いつも通りかそれよりちょいと派手にやるかだろうな」

「・・死ぬなよ」

 

今日の天気は雨になりそうだ。

 

§

 

「今日は嫌な天気ですね・・髪が言うことを聞いてくれないようです」

 

定刻通りに起き支度を始める。外では雨が降っていた。

自分の意思で伸ばすことを望んだ髪の先が跳ねている。地味に鬱陶しい。

 

「これだから雨は嫌いなんですよねぇ・・」

 

雨は嫌いだ。何も片付かない。

曇りも嫌いだ。重苦しい空は圧迫感がある。

私は晴れが好きだ。何もかもから解き放たれる日だ。

 

自分が家から送った日用品の箱を開ける。中には生活必需品がぎっしりと入っている。

 

「・・ヴァルは大丈夫でしょうか?」

 

彼が持っていた箱はかなり小さく軽かった。ちゃんと準備しているだろうか。

 

「・・まぁあの人のことですしどうにかしているでしょう。こちらも“見られるための”準備をしますか」

 

跳ねた髪先を整える。面倒でも得たかった物である。手入れをしっかりと行う。

 

学校へ行くことの目的は主に2つに分けられる。

学力・実力の向上を求めるため、そして社交場に名を通すための2つだ。

父からは後者の目的で承諾を得た。

そしてヴァルフの目的に沿うため前者の目的を実行中である。

 

私は完璧に仕事をこなせば認められる。そして親族間のいざこざもなくなる。まさしく“理にかなった”計画である。それを実行すればすぐに目標は達成だ。

 

「大丈夫、私にならばできる。私は私に夢を与えた人の逆を行えばいい」

 

完璧を作り出すものにとって過ちは最大の天敵だ。

同居人も今さっき起きたようだ。

 

「おはようございましゅ・・」

「あらおはよう。今日は雨だから支度が大変ね」

 

いかに間違いを無くし、正解を踏み抜き続け、相手を蹴落とすか。

まさしく戦術ゲームだ。

 

「今日も彼と共に進むべき道を選びましょう」

 

その時、部屋全体が強い光に一瞬照らされ、窓が揺れた。

 

「うぇ!?」

「ふぇぇ⁉︎」

 

状況把握を早急に行う。冷静な判断が全てを決定する。

 

「まず物的被害はなし、種類は戦術兵器群、爆心地は・・市街地の方面?」

「あわわわ・・」

 

何故大きな爆発が起こったのだろうか。戦闘なんて起こる原因はないはずだ。

 

「あ、あれって何でしょうか?」

 

同居人が指を指して言う。

 

「・・黒い物体?」

 

窓の位置が悪いせいであまりはっきりとは見えないがどこかで見たような黒の物体が浮いていた。

 

「・・どういうこと?」

 

あの生物は生態系にいないはずだ。どういうことだろうことだろうか。

原因を知りたいが学校に遅刻してはならない。しょうがないので諦めた。

 

「・・あの人がそこにいなければ」

 

どれほど嬉しく、そして悲しくなるのだろうか。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

1人で傘を差し歩いて学校へ向かう。雨が地面を叩きつける音がする。

あれだけの爆発があったのだ。2次災害を気にしつつ足を進める。

学校の敷地内は荒れていたが目立った被害は学校に見られない。流石の強度だ。

 

「どうかここにいてください」

 

言っても無駄だ。未来は1つの思惑では変えられず、声は雨音に掻き消される。

 

「ほぼない可能性に全賭けなんてアホらしいですが・・信じなければあり得ない」

 

昇降口から入り傘を畳む。雨垂れが不気味なまでに嫌なものを連想させる。

 

「・・この手に負った罪も、いつかは受けねばなりませんね」

 

傘立てに傘を立て入れる。下に水が集まり大きくなっている。

 

「できればこのまま、誰にも知られないまま生きていたいですね」

 

不可能なことに願いを重ねることは無意味だ。

そう頭ではわかっているのに口から溢れだすかのように願いを述べる。

どこまで歩いても絶望しか生まない世界はしんどすぎる。

そんなことを考えながら教室へ向かう。中にはいつも通りの面子がいた。

 

「おはよう」

「ルーナさんは大丈夫だった?私は一応窓から離れていたから無事だけど」

「ええ、大丈夫。ちょっと驚いたぐらいよ」

「流石3大貴族の人は格が違うね。私もそこまでなれるかしら」

「簡単になれるわよ。なるべく周りのことに気をつければね」

「そういやもう1人はまだのようですが・・知っていますか?」

「ヴァルね・・今日は流石に分からないわね。いつもなら大体予測はつくけど今日は分からないわ」

「そうでしたか・・いつもならどこにいるの?」

「私の部屋の中、寮、裏山ぐらいかしら。大体9割そこにいるわ。残りは他の場所が1割くらい考えられるわね」

「凄いです!そんなにパッといる場所を発想できるなんてまるでずっと一緒にいるみたいです!」

「そういやルーナさんの部屋に彼がいる的なことを言っていた気がするのですが・・どういう風に一緒にいるんですか?」

 

教室の空気が一瞬止まる。

 

「基本的には護衛する者としてそばにいる感じ。あの人は強いから信頼は大きいの。一応夜も1人でいるよりマシだから側に着かせている状態だったわ」

「でも夜に男といるって大丈夫なの?寝ている間に・・とか無かったの?」

「ヴァルは不思議な人ね。あの人は寝ているだろうからそっと外へ出て勉強やらしようかなーって思って外に出ようとしたらヴァルに捕まって寝るように戻されたりしたわね。

あとあの人いつ寝ているのか分からないわ。いつも元気というかいろいろやっているからだと思うけど」

「・・なんかすごく良い人に聞こえるのだけど本当?あの見た目で?」

「本当よ。見た目で損してるだけで他は良い人よ」

「話しかけても噛み付かない?」

「どういう人だと思っているのよ・・良い人ですよ。ちゃんと言うことは守りますし言ったことは理解してくれます」

 

相手の考え方に“合わせる”というより彼がその型に“合わさっている”の方が正しいが。

 

「見た目があんななのに本当なの?あの大戦の主格と同じ姿よ?」

「・・貴女と同じ姿をした人がいたとしたら貴女と同じ動きをするかどうかの問題です」

 

まさしく愚問である。そんなことが起こるというのならもう既に世界は崩壊している。

 

「ルーナさんは彼のことはどう思うの?」

「意外と気になるわよね・・距離感近いし」

 

どうというか。

敢えて言うのならよく分からない。

私は彼についてをほとんど知らない。知っている内容といえば昔に軍隊にいたことだろうか。

そういえば何故あそこまで自分について話さないのか謎だ。

 

「どうもこうも無いですよ。特に交わることはない関係ですし」

「意外とあるんじゃないの?ときめく瞬間とか」

「ないですよ。共に寝るぐらいですし」

「「・・え?」」

「え?」

 

・・どうやら望まれた答えとは違うらしい。

 

「なんて言いました?」

「共に寝る程度だと言ってるでしょう?ヴァルは意外と基礎体温が低いんですよね」

「・・“寝る”って何をしたの?」

「寝る時に無理休ませるためにベッドまで引きずり入れたぐらいですよ。朝には抜け出していたようですけど」

「・・その言い方で親が聞いたら卒倒するわよ」

「そんなに深刻ですか?」

「・・とりあえず語学を完璧にしてくれば分かるんじゃないかしら」

 

まわりも何故か同意している。

そんなに深刻だっただろうか。

 

「・・ああ、“そういうこと”ですか」

「ええ、逆にそれを思い付かない方が不思議よ」

「私は隠しても意味ないし真っ直ぐ言うけど。最終手段で“子供できたし許してね”って言えば押し切れる気がするのだけど」

「・・もう倫理観が無茶苦茶ね」

 

確かあの人も通せると言っていた気がする。

 

『親は絶対に子供を見捨てたりしない。見捨てる時には最初から育てたりしない。どこかで本人を心配する心があるから怒るし喜びもする。だからアンタはそれをまず理解しろ』

 

・・思い返せば思いっきり戒めていた。どうやら変わっていなかったようだ。

 

「できるだけ修正を検討するわ」

「・・絶対治らない人が言うことね」

 

チャイムが鳴る。今日もいつもと変わらない音だ。

 

「今日の欠席はなし、連絡としては知っている人も多いと思いますが未知の生物の出現によって午前中のみです。それとルーナさんは校長先生から呼び出しがかかっています。忘れないように。連絡は以上です。それでは」

 

呼び出されるとはどういうことだろうか。

まぁいっか。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

ノックは4回、自分の名を言い目的を言う。

 

「フォーマルハウテ・ルーナです。呼び出しの命よりここに参りました」

 

ドアが開く。親切なことだ。

 

「いきなり呼び出して悪かったの」

「・・それで用件とは?」

「其方の家の養子のフォーマルハウテ・ヴァルフが騎士団の加入の打診を所望しておってな」

 

嫌な予感がする。

 

「今日の早朝、“緊急急送”という文面で書類を送ってきた。内容は騎士団に加入すること、承認の文面のみを早急に送ることが書かれてあってな。ギリギリまで遅らせたが無理だった。そして朝に1つ連絡が来た。『推定で死亡が仮確定』らしい。あの爆発が最後の姿だそうだ」

「そう、ですか」

「肉体は相手に“取り込まれている”状態だ。もし12時間以内に反応が再発現しない場合死亡と見做すと書いてあった。意向があれば従うとのことだがどうする?」

 

何故彼は騎士団に所属しようとした?何故死が『仮確定』なのか?

どうするも何も頭がうまく回っていない。そんな状態でまともな会話ができるわけがない。

 

「少しだけ、考える時間をください」

「もちろんだ。これは私が承認を送ったことによる落ち度だ。この場を持って謝罪する。本当に申し訳ない」

「・・良いんですよ、どちらにしろ帰って来ないのですから」

 

ヴァルフを返せ、と言いたかった。

言ったところで無駄だとわかっていながらも足掻こうとする自分が虚しく感じた。

蓋をした感情の箱を理性の紐で括り、きつく縛る。

 

「・・手伝えるのならばできる限り手伝おう。無理も私の名ならばある程度通る」

「大丈夫です。合鍵はありますか?彼の所有物をまとめておきます」

「ああ、頼めば出してくれるだろう」

「ありがとうございます。残り時間はどの程度ありますか?」

「ざっと10時間ほどだな。解決の糸口が見つかれば良いが」

 

会話の種を作るために頭を働かせるがどんどん頭から思考が流れ出していく。

何を言うべきなんだろうか。

 

「・・無理に話さんくて良い。片付けるのであれば早く行った方がいいだろう?」

「・・はい、ありがとうございます」

 

信頼していた相手が死んだ。あれほど『死ぬことはない』と言っていたのに死んだ。

本当なのかよく分からない。実体がうまくつかめない。

 

「早退ということにしておいてください」

「うむ、どうにか調整はしよう」

「要件は以上でしょうか?」

「ああ。できるだけ周りを頼れ。其方は孤独ではないからな」

 

周りの誰か。そんなもので代用できるわけがない。それだけ重要な人間だったのだ。




次回 境界線 宜しくデース! (cv.髙橋ミナミ)
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