壊れた少年のマーチ   作:オリの中のカナリア

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タグに掲示板関連がついていないのはこれから書く予定がないからです。
モデル元の事情より今回の国の真っ黒な意図が出なくなりました。いずれ補完させます。




彼の部屋に入る。本当に何もない部屋だ。

小さな箱が1つ置いてある。持って来てそこに置いたのだろう。

中に入っていたのは最低限の服と複数の薬だった。外に置いてあるものもこの箱に収まるのだろう。

 

「・・残ったものは箱一つ。まさしく軍隊式というか・・結局救えなかった」

 

箱の中に外に置いてあるものを入れ、箱を持ち上げる。ガラスがぶつかる音が中からする。

いつかと変わらない最悪の結果。それだけは避けたい。

 

「残された時間は9時間半・・」

 

彼がどうなるか私は知っている。いや、知ってしまったという方が正しいだろう。

 

§

 

以前にもこの形に似た生物はいた。

 

研究記号 ι(イオタ)

完全な自給自足を行う生物にして最高の防御能力を誇る生命体。

完全なる人間(ネオ・ヒューマン)の開発での失敗例の1つとして想定され、試作・研究が行われた生物。

外部からの力に対し絶対的な壁を持つとされ、軍事転用が図られたが計測段階から事故が多発。

結果、書類全てに『計測不能』という印が押される珍しい結末で終わった記録の1つだ。

 

これらの計画『軍事用超生命体開発計画』。

終戦まで開発、運用された狂気の兵器『NX-Sシリーズ』。

『名無しの銘品』とまで呼ばれた自己補完型自立システム。

私はこれらを知っている。そしてこれを誰が主体で動かしていたのかも。

 

これはこの世界の全ての人間が絶望で埋めつくされたとしても言ってはならない『黒歴史』だ。

 

一部の人間はこのことを部分的に知る者がいるだろう。しかし、絶対に公表されない。

彼らがいかに生温く、見せ掛けのみで作られた平和を享受しているかを知らせない為に。

人類がいかに愚かで非力であることを知らせない為に。

結局は誰かの思うようにしか動かないのだ。

 

常に人間は結果からの利益を計算する。

都合が悪ければどうすればいいか。言わなければいい。知る者を殺せばいい。

 

情報による思考の統制など簡単にできてしまう。

それほどに人間は愚かで、疲れ切っているのだ。

 

§

 

「・・そういえばあの人前に毒薬を持って来ていた気が」

 

箱の中を見る。ガラスの瓶が3つあった。

 

「何が何だか全然わかんないですね・・」

 

何せ中身の色が同じなのだ。分かるわけがない。

 

「これは成分分析で調べるとして・・この数式は解いてどうにかしろってことですよね」

 

如何にも見ろと言わんばかりの数式が並んでいる。これを見たらやるべきことは一つだろう。

 

「全く・・()()()()()答えを出してくれて助かりますね」

 

これを解くとなると時間延長は必須だ。無理やり通してやろう。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「んで、何の用だ」

「それはあなたが1番解っているでしょう?」

 

かなりの堅物だなぁ。ま、すぐに片付けますが。

 

「言いたいことがあるなら言え」

「じゃあ簡潔に言ってしまいますね。『死亡判定時刻を72時間まで延長せよ。また、これらの権限は養子縁組の親権の判断と魔法学校校長の助言のもとに成立している』この一言で全て解決してくれますよね?」

「お前なぁ・・元から会話するつもりないだろ」

「勿論。見えている地雷に近寄るつもりはないので」

「全く・・アイツはとんでもねぇ輿の奴に拾われたな」

「私は解答のみを求めています。出来れば平和的解決で済ませたいとは思っていますが」

 

権限を学園長の名と養子縁組から持って来て、望まぬ答えを力により蓋をする。

まさしく誓約(制約)された選択権だ。

 

「それは駄目だな。というか不可能だ」

「何故ですか?」

「簡単な話だ。発生位置が大通り付近、つまり交通の要所だ。そこを塞いだ際の金銭的問題をどう解決するか。億単位で金が飛ぶぞ。それを補填できる力を用意できない」

「新データ獲得による技術確立によって得られる利益は?」

「そんなことしてみろ。すぐにでも大戦争が始まってここらが火の海だ」

 

厄災戦が過ぎてから戦いの目的は大きく変わった。

領土が目的の戦いから情報が目的となる戦いへと。

 

「ならばどこが限界ですか?」

「それが12時間だと・・」

「それは『定義』の限界でしょう?私が求めているのは『損失金額』の限界です。どこで赤字に転換するのか。その限界の位置を知りたいと言っているのです」

「・・覚悟はできているか?しくじれば損害補填が向くぞ」

「多分大丈夫です」

「随分と気弱じゃねぇか」

「今では不確定要素が多すぎますから」

「今『では』ってことは目処は立っているようだな」

「目処は立つものじゃないですよ。『立たせる』ものです」

「・・50時間。限界がここだ。これ以上は資金が億を割る」

「・・ええ、十分です。これだけあれば全ての裏打ちができます。それでは時間に追われているのでここで話を切らせてもらいますね」

 

無駄話は必要ない。

 

「相手の説明はいるか?」

「・・取り敢えず聞いておきます」

「まず浮いている部分。あれは虚体だ。攻撃は当たらん。本体は下の“影”の部分だ」

「どこからデータを?」

「とんでもねえ大馬鹿野郎がぶっ飛んだ方法で検証したからな」

「ぶっ飛んだ方法?」

「・・いや、なんでもねぇ。今のは忘れろ」

「嫌です。何があったかを知るために必要なので」

「駄目だ。お前が知るべき情報じゃねぇ」

「それでも、知らなければならない事実があるのです」

「・・最高にイカれた自爆兵器、とだけ言っておくか」

 

自爆兵器。

 

「・・桜花改」

 

騎士団長はこちらを窺うような目だ。

 

「・・なぜその名前を?」

「データがこちらにあったんです。開発をしていたんだと思いますよ」

「なぜお前が知っている?」

「偶然の産物が偶然を引き寄せた奇跡の結果、というのが1番正しいですかねぇ・・」

 

今度は苦虫を潰したかのような顔になった。

 

「・・もう造られてはいないよな?」

「ええ、かなり厳重な封じ込めと消去があったので」

「ならいい。絶対に作るなよ」

「むしろ今造る方が難しいかと」

「・・話が逸れたな。今のが奴の出したものだ。これで納得か?」

「それを理解する方が難しいかと思いますけどね」

「お貴族様をあんま近づけたくはないんだがな・・絶対に離れんなよ?」

 

騎士団長の後をついていく。大通りのすぐ横の脇道から姿が見えた。

 

「見た感じ2桁ほどの大きさはありそうですね」

「影はもっとデカいからな。急遽外縁20キロを封鎖しているが実態がわからん限り解決は難しいようだ。何か感じることはあるか?」

 

じっと見つめる。

 

「・・あまり変なものは感じられませんね」

「本体が影である以上こちらも干渉しにくい。出来ればいい方法を考えて欲しいのだが」

「・・まぁ前向きに検討しますね」

 

見た目は研究記号ιに似ている。そうなのであればかなり干渉は難しいだろう。

 

「それでは状態観察をよろしくお願いします」

「言われなくともやる。それが仕事なら尚更な」

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

自分の家にもう1人の荷物を持ちつつ帰る途中で思い出す。

 

彼が言っていたのは恐らく特殊攻撃機『桜花改』のことだろう。

 

NX-ST2M 特殊攻撃機『桜花改』。

大戦時に造られた最高速度が音速を超える500kg成型爆弾を装備した特殊攻撃機。

元の『桜花』の破壊力は兵器トップクラスを誇り、速度は全兵器中最速という兵器だった。

しかし攻撃の命中精度が悪く、撃墜王であっても命中率5%以下という酷い命中率を出していたため『桜花』を改造し効果的な運用を行うべく造られたのが『桜花改』だ。

 

『桜花改』は最高速が音速を超える兵器である特徴を生かし、推進力をも破壊力に加えた兵器だ。

上昇をロケットエンジンで行い、限界高度到達後に方向調整を指揮官の指示から固定するある意味斬新な、ある意味狂気に満ちた手段。機体ことぶつけることで爆弾の投下による慣性移動を考慮せずとも当てるようにした。

 

改良により生み出された命中率は85%。ただし、これは『指揮官の目測が合っている』かつ『相手からの攻撃がない』場合であり、実際の命中率は10%もない状態だった。

 

「止まらぬ衝動、か・・」

 

桜花改の俗称。音速を超えて飛び、与える損傷が桁違いに大きいことからつけられた。

 

「何が目的であの兵器を使ったのかが分かりません・・」

 

どうして秘匿された桜花改を作り出し、使ったのか。

そもそもなぜ構造を知っているのか。

そして何故すぐに気付いたのか。

 

もし推測が正しければ─

 

「答えを教えてくださいよ、もう良いでしょう?」

 

脳裏に浮かぶ慕い続けたあの人の姿。

もうすれ違いたくなどない。私を導いて欲しい。

 

「私はどうするのが正解なんでしょうか?」

 

応える声はなかった。




次回! 水銀灯 それではアンニューイ!



乳酸菌摂ってるぅ?()
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