「・・これで一つ目」
1枚目の式を解く。1枚目で4時間も掛かってしまっている。
「恐らくこれがどこかで使う数値で、他の数値と共に補うことで解決させる形であることは分かりますが・・数が多いですね」
6枚も同様のものがあるのだ。気が滅入る作業だ。
「2つ目は・・」
iγ^{μ}∂_{μ}ψ(x)-mψ(x)=0 h=1,c=1
こちらは簡潔にまとめられた式が1つと簡素な図が載っていただけだった。
「これは何を表しているのでしょう?」
図は反転したハの形をしている。
ただでさえこの式も面倒だというのにこの図が謎を深める。
「アレの力はあまり使いたくないですが・・」
折角フタをして封印までかけているのだ。開けるべきではない。
1人の命と封印された意義が天秤に掛けられる。中々難しい選択だ。
そんなことを考えていると文鳥がそばに飛んで来る。
『聞こえるか?こっちで問題が起きた。参考人として召集したく願う』
言葉を騎士団長の声で読む小鳥。少しちぐはぐな感じがする。
言葉を発し終えると魔石に戻った。
「これまだ現役だったんですね」
戸棚を漁る。確か前に作ったはずだ。
「・・あったあった。多少ホコリは被っていますが大丈夫なはずです」
鷹の形をかたどった装置。これがさまざまな欠点のある魔石型よりも効率が良い通話機だ。
唯一の欠点は製造費用だけという素晴らしき製品。
まぁそのせいであまり普及はしなかったのだが。
「残念なことに何度も行き来させられるほど時間はないんですよ」
胸の位置に専用の魔石を嵌め込み起動させる。
「この魔石の発信者まで行っておいで」
羽が金属板が擦れ合う音とともに展開され空を飛ぶ。
到着すれば受信機に反応が返ってくるはずだ。
「どうにか量産はしたいですが・・構造が根本から異なるからできないんですよね」
追いつくためにも努力が足りなかった。後塵すら拝めなかった。
どこまでも追いかけた影は幻想だったのだろうか。
「まだまだやらなければいけないことはありそうですね」
鍵さえ見つかれば彼の発想の理解はできるはずだ。
あの日の影の先へ。そうすれば、皆が喜べる。その世界を作るために。
§
「え〜今回はお忙しい中お集まりいただいたことに関して感謝いたします」
なんでこんな老人会をやらされてんだ俺は。
「今回集まっていただいた趣旨としては皆さんご存知の脅威に対しての対策会議となっております。参考人として技術・データ分析に精通しているフォーマルハウテ・ルーナ様を呼ばせていただきました」
お前らの古ぼけた頭の代わりに脳みそを呼んでやったんだがな。これで大人しくなってくれりゃ御の字だが。
「本人はどこにいるというのだね?」
「この機械の発する音声を元にしております。彼女には時間の猶予がございませんので」
「本人が話す確証はどこにあるというのだ?」
「厄災戦時に使われた通話機と同型とわかっております。確証ははご自身で」
まぁどうせこいつらは触ったことがねぇんだろうな。
にしてもあの娘がこれを持っているっていうのも珍しいもんだ。どっから掻っ攫ってきたのだろうか。
「今回の議題としては現時点での損失、そしてこれからの対応の統一を図るためでございます。どうか議論から大逸れたことはご遠慮いただきますようご協力のほどを」
「対応の統一は本当に必要なのか?」
『はい。そうしなければ損失は確実に国を失くすでしょう』
周囲にどよめきが走る。そりゃそうだろう。どう見ても無害なものが国を一つ握りつぶすと言っているのだから。
「現時点での状況確認ですが現時点の状態確認では『全土に突如発生した』という認識で十分でございましょうか」
「こちらでの損傷は市民家屋100棟余りが損害を受けておる。その補填はどうするつもりじゃ?」
「それをいえばこちらとて市を開く土地の上にて被害が発生している。経済的損失は未知数だ」
「こちらでは人的被害も大きい。市民を住宅ごと飲み込み30人弱が行方不明だ」
やっぱりこいつらは一つ話せば我は我はと口を開きやがって。
『何を言っているのです?全然マシではありませんか』
コイツ・・燃えている所にとんでもねぇ油をばら撒きやがった。
「そういう貴様のところはどうなっているというのだ?」
『前線にすら出ないような人間に貴様と呼ばれる筋合いはありませんが。こちらでは死者がもう既に出てます。物理・魔法による干渉も不可であり、相対消費量が増えたせいでこちらの方が赤字額は大きいですし物流も止まっているせいで市民生活自体が脅かされているという事実もあります。むしろそちらの状況の方が羨ましいとまで言えますが?』
「・・事実なのかね?」
「はい。現状では観測も魔力反応も不可能、特殊爆破攻撃による損害なし、損失として騎士団員1名の殉死と約100人の行方不明者を確認しています」
まぁ正確には死亡(仮)と52人の行方不明者なのだが。
「それで?対応とは何を取るというのだね?」
『まずこれ以上の損害の拡大を防ぐためにも発生地域の半径20kmを封鎖、立ち入り禁止とします。そして効果的な対抗策が見つかるまで観察を続けてください』
これに関してはほぼ確定事項だ。反論が出るだろう。
「これ以上は国としての財政が傾く可能性もある。それを加味しても、かね?」
『はい。そこら辺は正直言って国家の具合によって変わると思っています』
「どういうところが変わるというのだ?」
『簡単な話ですよ。先ほどの答えの人民より経済を重視する姿のように前提が狂っていれば話は変わるということです』
「つまり国の政治では経済を気にしてはならないと言うのかね?」
『いえ。人民なくして国家なし、ですよ?みなさんご存知ですよね?』
「国なくして人民は育たぬ。元が倒れれば混乱に陥ることは自明の理であろう」
『そういう名義で税金を国民からむしり取るのもどうかとは思いますけどね』
「国民からの税は国民へ還元している。何も問題はない」
『それならあなたの国は安泰ですね。ならばあなたは尚更ここにくる必要性はないでしょ
う。何せ「自国で全て解決できる」のですから』
「貴様・・顔が見えぬからと図々しい真似はやめておけ。これ以上はそちらが痛手を負うこととなるぞ」
『あら?私は特に痛手を負うようなことをしておりませんが。むしろあなたの方が痛手を負っているように聞こえますよ』
「随分と口の回る人間だ。この憂慮は無駄であったか」
『こちらも結構抑えている方ですよ。主にホコリを払う面で』
「そこまでにしてくれ。緊急事態である今、こんなことをしている暇はない」
これ以上炎を撒き散らすな。物事が厄介になって後処理が面倒だ。
『現時点で考えていることとしてまず観察、弱点もしくは表面的な変化があり次第騎士団長の元にに報告するようにしてください。こちらで情報整理と対策を行い可及的速やかに処理を行い、適切な答えを導くことで最小限の人的被害で整理します』
「情報の確からしさはどうなる?」
『つまりこの国家元首の中に事態解決を望まぬ裏切りの星がいるということですか。確かにその可能性はあり得ます。しかしそれを考えてみてください。もし周りと違う不自然な情報が来た場合を』
「・・元から気付く見本が事例がたくさんあるために識別できるということかね?」
『左様でございます。またこちらではある程度の確信のある情報を持っています。そこから考慮しても裏切りの声を上げること自体が自殺行為に近いものになっておりますことを理解していただきたく思います』
「もしどれもが違う個体であるとするのならばどう識別するというのだ?」
『群れを作らぬ動物はおりません。もしそれほどの知能も持たぬ動物だとするならばもう既に自分で身を滅ぼしていることでしょう』
生存本能に逆らう生物は自滅する。
そこから考えても敵単体が独立した思考で動いていることは考えにくいと言うようだ。
この短時間でここまで理由をつけるとは・・意外と頭が回るな。
「待ち時間は幾らだ。待ってやってもいいがその値次第だ」
『1日で十分です。勝算は一瞬だけ、しかし確実に満ちます』
「ほう・・その心は?」
『そうですね・・灯、ですかね』
「・・分かった、協力してやろう。但し、条件をつける。立て直しの際に資金援助を半分受け持て。それで私たちは対応してやる」
『・・いやー、ここまで愚かな人間の集まりだとは思いませんでしたねぇ』
「だな。何が『条件をくれてやる』だ。困っているアンタらのためにこれを開いてやったっていうのに」
流石に笑いが隠せない。下属の分際でありながらあまりにも図々しい。
「何がおかしい!貴様らは情報がいると言ったではないか!」
『そんなことは言っておりませんよ?私たちが望んだのは国家間の連携ですが。それに私たちは確信のある情報があると言ったはずです。誰もあなた達の情報が必要だとは言っていないのです。あくまで情報整理の段階で"参考に"するだけです』
老人達は虚をつかれたような顔を皆している。
参考人として、1人の未来の王女候補の見方として彼女はそのまま続ける。
『正直に言ってしまいますとこちらとしてはもうすでに必要なデータは揃っているのです。簡単には読み解かれぬよう解読不能にしているために再翻訳をかけているだけですのでこちらは1日もあれば片付くんですよ。そのデータをあなた達にそのまま渡したところで絶対に解読さえもできないのでわざわざ戻して渡そうとしているのですがあなた達はそれを甘受しようという意識すらもないのですからねぇ?渡しても意味がないんじゃないかって思うんですよね』
「まぁそうだな。ちなみに想定撃破時間は?」
『問題なく進めば2時間程でしょうね。全てが予測通り行った場合のみですが』
「十分と言った具合だな。んで、どうすんだ?そのまま帰るか、それとも自惚れを改めてもとの条件のまま話を進めるか」
やっと老人達が慌ただしく動き始める。これだから頭が凝り固まった老人は嫌いだ。
この案を聞いたときにはどうなるかと思ったがうまいことまとめたものだ。
『そんなことにすら気づかないとは。随分とボケに大きく回ってくれたものですね』
「まぁ想定の事態ではあったがな。随分と大きくやってくれたもんだよ」
『本当はあそこから金をむしり取ってやろうかなぁと思っていたんですけどね』
「・・それはやらなくて結構だ」
そこまですれば間違いなく国際問題だ。
「私たちはその協定を受け入れる。条件は何だね?」
『いや言ったで・・』
「お前はちょっと黙っとけ。・・先ほど述べた通りの条件でございますが・・当然、覚えていますよね?」
「あ、あぁ。問題ない。ただ、何というか・・確認がしたかったのだ」
「ならばこれで今回の会合を終了させていただきます。ご参加いただきありがとうございました。くれぐれもお足元にお気をつけくださいね。さもなくはすぐ掬われますよ」
まぁこの程度釘を刺せばいいだろう。
『・・結構冷えましたよ今のは』
「まぁこんなもんだろ。本当はもっとやりたいけどな」
§
「招集理由が老人会ってのはどうかと思いますよ?本当に」
『まぁそれはそうなんだがな。どうやら周りの国は経済的に裕福なここの弱みを掴みたかったらしい。結果は返り討ちだったが。それで確信的な情報っていうのは?』
「彼が確実に生きていて相手は確実にダメージを食らっているってことですかね」
逆に言えばこれぐらいしか思いつかなかった。
『それじゃあさっきのと矛盾しているだろう?』
「いいえ、矛盾なんてしてませんよ。
『・・どこからその確証が?』
「考えてみれば分かるんですよ。なぜあそこまで大きな生命体が周りに一定以上の被害を出さずに存在できるのか」
『・・自己を補完することに全てを振っていると言うのか?』
「そういうことです。そして中でそれだけの損傷を与えているのはおそらく彼でしょう。彼の攻撃は喰らうとかなり重いのでそれを再生することに全ての力を注いでいると思われます」
『アイツが全てを止めている状態か』
「はい。彼がいなくなっても全ては解決します。世界の終焉という形で」
本当に洒落にならない終焉を迎えることとなる。生存は個体数から考えても絶望的だ。
『実質的には破滅じゃねぇか』
「ええ。ですが1つだけこれにも問題があるんです」
『・・始末はどうするのかか?』
「惜しいですねぇ。林檎だと思ったら梨だったっていうぐらい惜しい」
『あんま惜しくねぇだろそれ』
「中と外で攻撃の瞬間を合わせることです。10億分の1秒単位で合わせないといけないんですよ」
『他の方法はないのか?』
「ええ、逆に言えばこれ以外に干渉ができないか彼が死んで終焉を迎えるでしょうね」
最悪の選択肢を全て避けた結果がこれなのだ。
もし失敗すれば2度目はほぼ不可能だ。
「他の可能性は模索しますが何か変化があれば教えてください」
『分かった。なるべく注意深く見ておく』
音声が切れる。そのうち帰ってくることだろう。
「どうしましょうかねぇ・・解体・封印を徹底するよう言われているんですけどねぇ」
地下施設へと入るための隠し扉を開ける。
最悪の場合には封印を切っても良いだろう。問題はそれがいつなのかだ。
「あの人がいないせいで尚更やりづらいものです」
そもそも存在自体が人智を超越してしまったのだ。解体・封印はしょうがないだろう。
そんなものを作った張本人はもういない。いや、機械に呑まれたと言うべきか。
「全てを起こしたSPs、か。大戦中の狂気とはいえ恐ろしすぎるわね」
次回予告 本能 締め切りはいつだって最後まで絶望感たっぷり。
2/18 tex変換機能追加