壊れた少年のマーチ   作:オリの中のカナリア

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きっと・・セーフだ(色々アウト)


本能

目が覚める。蛍光灯の光が眩しい。

腕を動かそうとするも重く動きにくい。

向こうではベッドの上につまらなさそうにいる若い兄さんがいる。

 

どうやらここは病院らしい。つまりは失敗だ。

体力が5下がった!パワーが10下がった!と言う謎の声が聞こえた気がした。

 

「・・とまぁ、そう簡単に行くわけないか」

 

そんなに簡単に世界が回ってたまるものかと我ながら思う。

 

「生きとったんやな」

「あ゛?」

「初対面にガラ悪いなぁ。別に噛み付いたろなんて思っとらんて」

「ふーん」

「アンタのケガ見る限りすぐ外出られるで。良かったな」

「さぁ?」

「何や?随分と食いつき悪いな」

「別にいいだろ」

「そうはならんだろ。いくらそこで寝とったか知らんのか?2日やぞ」

「・・それでこんなに無駄な管と線が」

「アンタ、この辺の機材がわかるんか?」

「そりゃ・・見たらな」

「すげぇな。俺は馬鹿だからわかんねぇよ」

「馬鹿ではねぇだろ。どう考えても」

「そりゃあテストは赤点だらけだったからなぁ・・」

「ならば人生はテストで全て決まるのか?」

「そりゃあ決まらねぇけどよ・・」

「なら賢い人間だ。この世界を生きることはすごく難しいことさ。ただの脳みそじゃ生きられねぇ。複数のことを同時にできる賢い脳みそじゃねぇとな」

 

明日を生きる確信があるとは。随分と呑気だ。

 

「お前はいつからここにいる?」

「ざっと1年と半分ちょい前といったところや」

「病名は?」

「色々らしいで。検査すれば蜻蛉返りやから外には滅多に出られへん。特に夜は」

「夜?」

「何でも『月の光が寿命を縮めている』なんて話らしくてな。気づけば俺の余命はあと3年や。まぁ1年前もあと3年だったんやけどな」

「良かったな。寿命が伸びた」

「それならええねんけどな。ただ確実に死が近づいていることは実感してる。3年間生きられりゃ万々歳や。その間俺はベットに縛られて何もできひんけど」

「3年あれば何でもできる。ゲームも3年あれば量産できるし本も読み放題だ」

「そんなつまらんことやったっておもろない。どうせやるんやったらもっとデッカいことやりたいねん」

「豪遊すりゃいいだろ。当ててやる」

「ええなぁそれ。ガッポリやって死んだろ・・ってどこで買うねん。出れへんで」

「頼めよそれくらい。『俺の最後の願いだっ!』ってつければ通るだろ」

「アホか。一生のくだりこんなところで使いとうないわ」

「なら可愛いやつ呼んでラブコメしろ。せいぜい幸せに爆発しとけ。教会ぐらいなら立ててやる」

「んなこと言われても元の交友がねぇよ」

「看護の人間に当てたらどーだ?」

「まぁ別に悪かねぇけどよ。でももうちょい若けりゃちょうど・・」

「歳取ってて悪かったですね」

「はぁ!?いや今のは・・フリや!そう!フリ!せやろ?」

 

こっちを振り向く。

うん。

うん。

 

こっちに振ってんじゃねぇ!

 

「まぁ今のは・・」

「今のは?」

 

看護師の顔が貼り付けたような笑顔だ。

 

「ギリ・・」

「ギリどうや?」

 

眼光こわっ。

 

「アウト」

「ノォ!」

 

まぁ同意は送ってやるけどよ。

 

「いやまだ全然いけるだろ。十分かわいいじゃねぇか」

「そーですよ。みんな気付かないだけです。体温測りますね」

「それによ、これより若くしたら病院が違法になっちまうだろ」

「いやそこまで若くはないからね?流石にそこまでないわよ」

「ほんなら三十じィっ!」

「まだ行ってません。それ以上はセクハラで訴えますよ?」

「・・すいやせんした」

 

まぁとりあえず。

 

「昼か」

「そういやアイツの分は?」

「いやぁ〜連絡も兆候もなく起きたせいで準備できてないのよね」

 

うん、まぁ知ってた。

 

「そんなに無視されてたのか」

「そもそも2日寝てるお前が異常だからな?」

「というわけで・・ちょーっとだけ遅くなるから、よろしくね。体温も正常」

「中身は?」

「時と場合と費用によりまーす、ということで、楽しみにしときなさい」

「まぁ気長に待ってますよ」

 

看護師が出ていく。

 

「いつもよりごっつテンション高かったな」

「そうなのか?」

「高い方や。退院した人が出たんじゃねーの?」

「退院できるのか」

「いや退院できひん病院なんてそもそもないで?」

「・・いや癖で。前に病棟を見た時はずっと同じ場所におんなじ爺さん達ばっか居てな。退院できないものだと思ってた」

 

実際は死亡診断待ちで溢れてただけなんだけどな。

 

「それで?アイツのどの辺がええねん」

「本能的なもの。理由はない」

「なんや。しょーもな」

「期待するお前が悪い。それにあの睨みには耐えれなかった」

「あんなん安いもんや。口喧嘩はもっとエグいで。目線が全部言葉に変わるからな。ホンマにマシンガンやで」

「ふーん」

 

その後も先ほどの人がどれだけ危険なのかを説明していた。随分と饒舌だ。

 

「・・せやからアイツは嫌われるんや。お堅い人間じゃ誰も拾ってくれへん」

「その分信頼は厚いし仕事も的確だけどな」

「そうなのか?あまりそうは見えなかったが」

「本気で言ってるのか?お前がやったら絶対3分以上かかるぞ」

「ほんならあの一瞬で何やってたんや?」

「まず入ってきて顔色の確認と心拍と輸液の残量を見てた。そこから軽い問診で会話に異常がないかを判断して体温見て出てったぞ」

「ごっつい仕事量やな」

「な、大変だろ?特にお前の場合は入退院を繰り返すから尚更仕事が多くなる。兆候はできるだけとっておかないとお前や同じ症状の人間への対処がどんどん遅れる。死んでからでは遅すぎるからな」

「負荷が上がってるんか?」

「いや。外へ出られるからまだ少ない方だと思う。回る量を少なくして回しやすくいるんじゃないかな。多い人は棟の1つの階を丸々持っていたりするだろうし」

「えらいしんどいなぁ」

「それが働く者の義務だよ。1つの仕事を行う時にはそこに心血を注ぐ。熟練した人なら尚更これに気をつける」

 

地獄のような勤務状態になると休む暇すらなくなる。

来た患者を診断し、入院させるかどうかを空き数から判断し、入院患者の適切な管理を行う。死亡した患者の死亡判断を行い、遺族に説明し、焼き場へと送ることもやる。

この作業を1日100人以上、毎日行うのだ。気がおかしくなるなんて日常茶飯事だ。

 

「・・やめやめ。辛気臭い話は終わりや。そんで?あんさんの名前は何や?」

「・・分からない。思い出せない。身近な人の顔は思い出せるのに」

「記憶なくなってまったんか?それにしては随分とピンポイントで忘れたんやな」

「昔からそうだ。人の名前を覚えていない。今も顔と声からしか分からない」

「そうか・・ならあんさんの名はソウマや。ワイがソウマて言うたら返事しや」

「ソウマ。僕の名はソウマ。君の名は?」

「ワイか?ワイは海斗(かいと)。体の調子がダメになってまった人間や。よろしくな」

「カイト。君の名はカイト。僕の名は・・ソウマ」

「そやで。あんさんの名はソウマ。んで、ワイの名前は・・」

「カイトだな。完全に理解した」

「そら良かったわ。それでソウマ、あんたは何故ここに来たん?」

「探している人を見つけようとしたら怪我をした。んで目覚めたらここだった」

「へぇ・・探してる人ってのは見つかったんか?」

「見ることすらも叶わなかった。あともう少しだったのに」

「そうか・・そりゃあ残念やった。これからもやるんか?」

「当然だ。そうでなければ見つかるものも見つからない」

 

欲しいものを手に入れる時にはそれに見合う何かを捨てなければならない。

物々交換の基本であり、社会の基礎だ。

持ちし者は全ての権限を得られる。

持たざる者はねだる事すら拒まれる。

これが社会の基本であり、世界の全てなのだ。

 

「少し待たせすぎましたかねぇ。まぁこれで許してください」

「リンゴか。ええなぁ」

「リンゴは体にいいですから。ビタミンやポリフェノールが多く含まれるんです。特に皮が多く含んでいるんですよ」

「リンゴ1個分は茶碗1杯分のご飯と同じだけの糖質があるし十分な水分も摂取できる。まるで病人のためにある果物のようなものだからな」

 

皿に乗せてあるリンゴを見つめる。

 

「意外と知識あるんですねぇ。感心です」

「あ、あとアレルギーのデータってありますか?血液でもプリックでもいいので」

「じゃあ持ってきます。書類は君にとってはそのままで良さそうですし」

「ちなみに取ったのは誰かっていうと・・」

「私ですよー。記憶もちゃんとあるので心配しなくとも取り間違えません。少し待っててくださいね」

 

パタパタと鳴る足音が小さくなる。

忙しなく動く看護師だ。

 

「プリックって何や?」

「皮膚にアレルギーの原因となるものをつけて反応を調べる方法だ。血液よりも種類を多く調べられるし遅れて出てくるアレルギーにも気付くことができる。血液の方もちゃんと出るからどちらもあまり変わらないけど」

「ソウマは物知りやな。ワイが知らんことまで知っとる」

「知識として知ってるわけじゃない。前に見た経験から言っているだけだ」

「どこまで知ってんのや?」

「死んだ後はどこへ行くのか、とかかな」

「死んだ後はどこに行くん?」

「どこにも行かないさ。体の中で眠り続ける。骨だけになって崩れた時に初めて自由になれる」

「つまり自殺した奴は死んだ後でも天国に行けないんか。随分と鬼畜やな」

「そもそも天国という概念がないんだ。自由になった後はどこにでも行けるんだがもう1度生を受けることはない。同年代の奴らが皆死ぬまで新しい世界に行けない」

「新しい世界?」

「自分が知らない世界のことだ。カイトだって行ったことがない場所があるだろ?そこには皆が死ぬまでいけないんだ」

「生きとる奴は随分としんどそうやな」

「生きてる人間はしんどいさ。何せ今までに死んだ奴の重みを背負うからな。だから死ぬ人は40を過ぎてから増えてくる。抱え込み過ぎ始めるからな」

「生きていることはきついことばかりやな」

「そりゃそうだ。何事にも苦しみは存在する。それを乗り越えた先にあるものが祝福でもあるが。まぁそういうもんだと思っておいてくれ。それと食べるんだったらさっさと食べる方がいいぞ」

「ソウマもやけどな」

「嫌なんだよ。このリンゴ、変な感じがする」

「何や?好き嫌いか?」

「いや、それとは違う・・本能の面から嫌がる感じがする」

 

何かが危険なものだと反応する。見た目は何も変わらないというのに。

 

「食べへんのやったらくれへんか?」

「駄目だ。栄養管理を崩せばカイトが死にかねん」

「ケチやなぁ、1つぐらいええやろ」

「死因にリンゴを食べたことって書かれたいか?大分ダサいぞ」

「それは・・嫌やな」

「なら食べるな」

「そんなご無体な・・」

「カイトの命がリンゴ1つで足りる訳がないだろ。それに無体って言われるほど酷いことはしていない」

「ワイにとっては酷かったんや」

「そうか」

「そんだけか。随分と冷え切ってんな」

「元からだ」

 

まぁ後で処理するか。意外と隣人もうるさい人間だし。

 

「・・何か悪いこと思いよったな」

「いや、特に何にも。ただ隣人がうるさい人でつまらんくなりそうだと思っただけだ」

 

 




次回 真のアタイ よろしくdeath!
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