悪い人間に石炭や小枝を入れて去ってしまうそうです。
皆さんも24日の夜は注意しましょうね(手遅れ)
隠し扉を通り地下エレベーターで地下へ降りていく。
「酷いものよね、用途がこんなことだけなんて。これのための贄も可哀想だけど」
SPシステム。脳の不要部分の記憶を消去、空いた記憶層に戦闘システムを刷り込ませ「最適化」するシステムだ。
生活関連はもちろん、発声、場合によっては歩行も不可能とさせることで戦闘に対する恐怖・緊張をなくすことができる極限戦闘システムの1つとされる。
最先端技術や自律進化においてかなりの優位点を持ち、戦後技術発展に貢献したとされる。
人間を機械の一つとして固定し、回避プログラムより生物的で無駄のない動きをするようになったが生命管理に問題点が多く、『砲台のついた棺桶』とよく呼ばれた。
大戦終結時に死者が多くなったのはこのためであり、現在ではシステムの搭載・複製が条約で禁止されている。
結果として「最適化」は使用禁止となり現存機は存在しない、というのがオモテの建前だ。
ウラは解体し「そのままでは」使用不可能にして置いてあるものがほとんどだが。
「これが動力炉でこっちが入力。これで発電を開始して安定化を確認した後に通電」
まぁ当然だが配線を繋げば使えてしまうわけで。
条約で禁止されているのは搭載と複製であるわけで。
「本当、利用を禁止されていないって頭がおかしいんじゃないかって思ってたんですけどね。私が使う時が来るとは」
発電機が重い唸りを上げる。まだ全力で稼働させていない為音はまだマシだ。
「人間を超えるために人間を使う機械、か・・」
人間を処理回路として利用する発想は悪くない。むしろ行き着いた完成型とも言える。
だが配線ぐらいはどうにかならなかったのだろうか。おかげで管理がすごくしにくい。
「あの機械も恐らく同じかそれ以上のものがあるのでしょう」
彼はあの機械をバルバトスと言った。
同名の機械は厄災戦時に存在した。部隊解体の際に解体処分を受けていたはずであり、解体された際に出た部品の一部が研究物質として供出、もとい押収されたはずだ。
だとすれば誰がこれを再度組み上げ、欠損した部品を補ったのだろうか。
『キドウ、オールグリーン』
「やっと起きてくれましたか。計算をよろしく」
『ヨミコミチュウ・・カンリョウ、ヒョウジ』
「・・やっぱりですか」
計算結果は1つが正、1つが負だ。ここまでは想定通りだ。
「この式から図に表して」
『ツイカシレイカクニン・・カンリョウ』
「やっぱりここが1番わからないんですよねぇ」
物質の変移によって直線的にこの世界の端に当たることまではわかる。ならば何故壁にぶつかった後に2つのエネルギーが生じるのだろうか。普通ならばそのまま透過するはずだ。
「随分とお困りのようですね」
「・・誰?」
黄色の耳と尻尾が生えている。誰だこれ。獣人に関わる人はいないはずだ。
「使いみたいなのですよ。あと通った道は閉じるべきかと」
「関係ないでしょ。それで要件は?」
「恐らくぶつかっているであろう壁への手引きみたいなものですよ」
「アンタに私の思考が見えるっていうのならね」
「その子が如実に語っていますよ。あと電圧負荷を上げすぎです。本来の能力を引き出せてません」
「私の勝手でしょう?」
「それでいながら貴女は最大の答えを求めようとしている。矛盾していますよ」
「ならやってみなさいよ?説明書がないのよ」
「ならば喜んで。よろしくお願いしますね、キマリス」
キマリス。悪魔の名だ。それぞれに名があるというのだろうか。
電源装置をいじり倒した上でもう1度起動させている。少なくとも前よりは配線がまとまっている。
「さて。起きてくださいね。あなたの調整は済んでいるのですから」
『オーダー了承。プログラム再読み込み完了。待機状態へと移行』
「これで効率はグッと上がるはずですよ」
「よく分かるわね」
「音が聞こえるんです。挿した時に『痛い』とか『苦しい』とか。その時に配線を変えただけです」
獣人にのみ聞こえるのだろうか。
「それで?伝言ってのは?」
「『ムゲンのアイは底よりこぼれ落ちる』だそうですよ。意味はわかりませんが伝えるよう言われてはいましたので」
「ムゲンのアイ・・?」
手元にある式を見つめる。アイ、iは一応存在する数字で置き換える『代数』のはずだ。
もしこれが無限に入るのであれば。
・・ああ、そういうことか。
「・・感謝するわ。全てが解決したかもしれない」
「やはり貴女でしたか。良かったです」
「やはり?」
「あの人が『伝えるべき人間は理解する』と言っていましたので。やっと達成されました」
「・・あの人の名前は?」
「ヴァルフ、と言いましたか。お使えするには素晴らしく良い人でしたので」
「・・へぇ、随分と仲がいいのね」
「私を拾ってくれた人間ですもの。我が心と身体の全てを使って感謝しなければならないでしょう。いずれは全てを使って返せればいいなと思っております」
彼にとってはあの女の方がいいと言うのだろうか。
・・なんか嫌だ。
「・・そう、良かったわね」
「いつかは必ず帰りますよ。彼のことですもの。そのためにも待ってあげなくては」
まるでヴァルフの全てを知っているかのように話すものだ。
自分ですらほとんど知らないというのに。
・・ああ、腹が立つ。
「帰らないの?」
「帰るも何も、ここまで見たのに生きて帰してくれるというのですか?」
「別に良いわよ。どうせ(言っても)変わらないし」
「ならここにいさせてもらうわ」
「は?」
「だって、どうせ(いてもいなくても)変わらないのでしょう?ならばここにいます。ここならいずれ彼は帰るでしょうし」
「いや・・分かった、居ていい」
さっさとご退場を願いたかったが今回ばかりははっきりと言わなかった自分が悪い。
どうせ彼は何かを説明してくれるだろう。
「それともうそろそろ来客がありますよ」
「そう。応えてくれる?」
「想定された人間以外が出てきて驚かない人間が居るのならば良いですよ」
「・・分かったわよ。私が行くわ」
「そうしていただくのが最善かと」
「いじったりしないでよ。変に変えれば全てが無に帰るわ」
「そもそも基本がわかりませんので」
「・・あっそ」
「ついて行っても?」
「・・ご自由に?」
いちいち気に触る話し方をするものだ。
「誰かは予測がついているの?」
「ええ、恐らく貴女が知っている人かと」
「そもそも知っている人しかこんな所に来ないわよ」
地下エレベーターを動かし地上まで登る。
「そういえばどうやって来たのよ。エレベーターを使わなかったのでしょう?」
「・・勘のいい人は分かっていますよ。ここにはいろんな侵入方法があるって」
構造上地下室は密閉されているはずだ。どう入るというのだろうか。
「推測って難しいわね」
「そうでもないですよ。考えられる中から出来ないことを除けばいいのですから」
考えられる選択肢。どんなのがあるだろうか。
「まぁ時にはゴリ押しっていうのがいいんですけど」
「結局場合によるじゃないですか」
真面目に考えた自分が馬鹿だった。
§
来客の対応をする。ヴェリアとジュークだった。
「元気かしら?」
「ええ。肉体的にはとてもね」
「学校を休んだらしいから見舞いには来たが・・結構元気なんだな」
「ええ。諸問題があって」
「諸問題・・あの物体か?」
「まぁそういうことです」
「でもあれは騎士団と国王で協議してるって・・」
「表向きはね。裏はかなり複雑よ」
老人たちに付き合わなければならないのだ。結構苦痛に近い。
「そこに君も関わってくると」
「それだけは伝えてあげられる情報。それ以上は変な血が飛ぶかもしれないから言わないでおくわ」
「また物騒なことになってるわね・・」
「大丈夫。私はどうにかできる。私は1人でも強いから」
「こちらとしても手伝えることはする。あとアイツはいるか?」
「・・・・」
「聞いてはならない域か。ならばいい」
「どちらにしろ伝えなければならない事実よ。あなたたちに必要なことが生まれたわ。とりあえず上がって」
「でも私は・・」
「・・そうだな、とりあえず話を続けよう」
「え」
「中でしか話ができない。最悪こっちで張らせる。そのために必要だ」
「・・分かったわ。ついて行く。但し確実にうまく行かせて」
「確証はないわ。でも目の前で知っている人が1人死なずに済むかどうかが決まるわ」
「その言い方はずるいわね。でも好き。乗ってあげる」
部屋を案内する。居間にしか通せないがまぁいいだろう。
「事前に連絡してくれれば準備したのに」
「すまないな。こちらも動かなくてはならなくてな」
「時間って本当に非情ね」
「にしても案外広いのね」
「空間を細かく切ってないだけよ。普通の部屋割りにすればかなり狭くなるわ」
机の下についている隠し棚を動かし盗聴防止用魔術器具を用意する。
「意外なところから意外なものが出るな」
「まぁ今までに色々あったので準備としてね。『コア起動』」
「音声認識型?」
「正確にはこれを核として魔法発動をやりやすくしているだけよ。あの人が残してくれたいくつかの物だから他より使いやすくなっているだけ」
「あの人?アイツか?」
「私の過去になってくるからそこはダメ」
「そうか」
青い粒子が展開され移動が安定する。
「さて・・ここからは下手すれば国が滅亡する話よ」
「随分と飛躍したな。もっと抽象的に頼む」
「まぁある意味抽象的よ。これをしくじればそうなるのだから」
「私たちにどうしろと言うのかしら?」
「ここらは私事に近いかもしれないのだけど聞いてほしいの。まずヴァルフを知っているわよね?」
「ああ」
「その彼があの物体、まぁ正確には捕食したであろうから生物なのだけど、があの中にいるわ。人間の形を保っているのは確か。外からの干渉は無理だと分かっているの。それで今やろうとしていることは彼を核として内側から魔力の暴走による爆破をしようとしているの」
「それってつまり・・人間自体を爆弾にしてしまうっていうことよね」
「ええ。確実に倒せるであろうし被害も1人で済むって算段よ。私も最初はそれでいいと思っていたのだけどある問題が発生したの」
「何だ?」
「彼はもう
「・・つまりどういうことだ?」
「彼の死んだ事実はただの無駄死にになる可能性がある、ってことよ」
「ちょっと待ってよ。なんで2人共ヴァルフさんが死ぬ事実を受け止めてるのかがわかんないんですけど?」
「ならば最善はどうするというんだ?未知数の破壊力に対して攻撃される前に排除できなければこちらが全てを失うというのだぞ?」
「それでもどうにか助けられる方法はないの?」
「それが今から言う方法よ。まず別次元にいる彼をどうにか引きずり戻します」
「どうやってだ?」
「そこら辺は目星が立っているわ。最悪の場合の保険はないのだけど。そして彼を捕食者から遠ざけ保護して彼の暴走を利用し撃破する、っていうのが1番実用的なのよね」
「・・彼が回復しなければ?」
「終劇ね」
「アイツが暴走しなければ?」
「同じく」
「撃破できずに捕食されたら?」
「右に同じよ」
「つまりほとんどダメだと。どうするんだ?」
「これが1番うまく行った場合。うまく行かなければ私たちで抑える」
「抑え切れるか?」
「ほぼ不可能ね。だから少しの希望に賭けてしまおうかと」
「希望はあるんだ」
「あの巨大な機械が主人に反応すればね」
「失敗すれば?」
「どうせ死ぬ。みんな仲良くね。だから最後の機会よ。死ぬか死なないかの最後の競争」
「・・知っているのは?」
「4人、もとい3人と1匹だけど」
「「1匹?」」
2人して首を傾げる。
「ここからは切って話をしましょう。『コアクローズド』」
「談笑の中失礼いたします。命じられた刻より立ち入らせていただきますね」
「・・獣人か」
「あら、嫌い?」
「苦手ではある」
「ならばこちらの方がよろしいでしょうか。
人の姿から狐の姿へと変わる。
「魔法も使えるのか」
「ここはまだ家系能力の域でございます」
「喋れるのかよ・・」
「実際この子はいろいろ賢いのよ。あの案を思いついたのはこの子だし」
「こんな状態がいいものをどこから買ったんだ?」
「・・買った?」
「奴隷商売においてよくある手なんだよ、その歩き方が。獣人を動物として持ち込んで人間にして売り捌く時に楽なように矯正されるんだ。それが微妙に入っている。知らぬ人はわからないぐらいでこの狐にな」
「これは・・売り物?」
「売り物ではない。逃げてあやつに拾われた。たったそれだけだ。印も首輪もないだろう?」
「まぁそうだが・・」
「あやつが綺麗に消したからな。あやつに我の首輪がついておるからあやつは生き残っているだけじゃ。ならばそれを辿ればいいこと」
「奴隷証のアレか」
「そうじゃ。あれのおかげであやつは自我を失っておらん。だから助けられるってだけじゃ」
「で?結論から行くと私たちは彼を助けて足止めをすればいいと?」
「それとどうか彼との会話をしてみて欲しいの。何か見つかるかもしれない」
「一応こちらはできる範囲でやる。幸運を持てよ」
「忙しい中ありがとうね」
「いいわよ。ヴァルフさんとルーナさんが元気でいてくれればいいです」
「なるべく他は模索するわ。ただこれで行く可能性が1番あるわ」
「それじゃあ、また」
ドアが閉まる音がする。
「・・随分と難儀しているようで」
「・・いいでしょう?あれぐらい」
「本性を隠してまで、でしょうか?」
「意味はあったわよ。あとは賭けだけ」
「どれだけうまく行くかは?」
「今は1割行かないくらい。あるだけマシってものよ」
「ひどいものですねぇ。どれだけうまく行くか見ものです」
「元はあんたが言ったんでしょう?それにとんでもないものまで持っていって」
「それが『契約』というものです。それに用事は済みましたので」
「随分と早かったわね」
「運命が都合によって変わってくるかもしれないですよ。あれにはその力があります」
「相当なものだった、ってことかしら?」
「正確には反対ですよ。チャチなくせに見逃せない重要要素を持ってしまっています」
「どういう意味よ?」
「秘密は明かしてしまえば意味のないものになりますよ。その時が来るまでのお楽しみ」
「楽しみだけで終わればいいわね」
確実に血は流れる。うまく対処しなければ全てが血に染まる。
「あとは不確定事項の確定性だけですね」
次回 狂い切った歯車 よろしくなのです。