…ちゃうんすよ、2話分くっつけたんです
「お目覚めですか」
ここに見覚えはある。あの時の部屋だ。無駄に何もない。
「2回目だな」
「そうですね」
「とりあえずここはどこでお前は誰だ?」
「すごく難しい質問ですね。どうお答えするのが正しいのでしょうか」
「どうもこうもないだろ。自分が何か聞いているだけだ」
「そう簡単に言っていますが結構難しいものですよ。特に比べるものがなければ」
そうですね、と続けて話す。
「『私であり、僕であり、俺である』というのが1番の正解でしょうか」
「…ますます訳がわからん」
「でしょう?だから迷ったのです」
「でも正しいのだろう?」
「はい」
正しいのならそれでいい。嘘を言ったならば殴り殺すが。
「それでもう一つの質問の答えは?」
「そうですね…世界と世界の狭間、って感じですかね」
「もっと簡潔に」
「そうとしか言い表しようがないのですが」
…まぁいい。軽くわかったなら進歩だ。
「呼んだのはお前か?」
「いえ」
「誰が呼んだ?」
「分かりません」
「何故ここに来れた?」
「誰かがここを指定したからです」
「だーかーら!それが誰かって聞いてんの!」
「知りません」
何だこいつ。だいぶストレスが溜まる相手だ。
「…お前はずっとここにいるのか?」
「はい。あなたが生まれてから生きている瞬間全てを見ています」
変な話だ。自分でありながら自分と同じ道を歩み続けている。
「お前が言う『世界』とは何だ」
「あなたが暮らす社会のことを言います。現在、2つの『世界』が同時に進行しています」
「数は全部で?」
「5つです」
「残り3つは?」
「破綻しました」
「…見れるか?」
「残念ながら不可能です。私としても不本意ですが」
「思ってねぇだろ」
「はい」
「そこは否定しろ。随分と融通が効かない自分だな」
「融通が効かない?」
「要するにお前が周りより鈍くてとろいってことだ」
「…分かりません。何故、他人と合わせるのでしょう?」
「縦社会は準わなきゃ殺される。嫌でもわかることだ」
「私しかいない世界でそれは不要です」
「まさかそれは…」
よく考えてみれば変だ。何故こいつと会った。何故ものがない。何故自分は私と言うのか。
これは自分の心だ。何もかもを否定し、拒絶した状態の具現化。
「ここには私以外は不要です」
「…そっか」
「あなたはここにいるべきではない」
「そう、かな。そうだね。僕は部外者だ」
「あなたは決められたきまりに従い、繰り返すだけでいいのです」
「繰り返す?」
「私の手となり、脚となる存在。時に目となり、力となる存在。それらはとても重要です。だからこそ継続して繰り返されます」
「僕は何度も同じことを繰り返し続けているのか?」
「それは違います。多少の差は生まれます。ただし、最終的な到着点は揃うので結局は同じと言うだけです」
スタートとゴールは決まっている。マラソンのようだ。
「…前に見たのは、どの世界だったんだ?」
「5つ目のあなたが今暮らす世界です」
「それだとおかしく…」
ありません、と遮られる。
「『世界』は決して混ざる、もしくは飛ぶことはありません。他の人と共有は可能ですが直接的な接続を伴います」
「直接的な、接続?」
「はい。強い意志─『想い』が『願い』とともに届き、それが相手の精神に合う場合のみ成立します」
「中身は?」
「さまざまです。怨念や叫び、告白、警告等々ですね。場合によっては祝福とも言うようですが」
祝福。神からの伝言。
もしそれが警告であるのなら。
「…もし、もしなんだが。その想いが無理やり共有されたとして。それが何らかのメッセージ性を持つことはあり得るのか?」
「『想い』のカタチとしてはあり得ますね。ただし恐ろしいほどその人物に関心がないと無理ですが」
「それを自分で形成することは?」
「できます。ただし1つだけです。なのであなたはもう作れません」
「何故だ?」
「この『世界』があるからです」
「僕はそれを作り出していない」
「いいえ。あなたは作り出しました。自我を保ち続けたいと無意識に望んだ瞬間に」
自分を保つために。何故保とうとしたのだろう。
「納得できましたか?これ以上もこれ以下もない内容ですが」
「いいや、全く」
「なら良かったです」
「どこがだよ」
「納得ができなかった、ということは納得ができるまで考え続けるつもりだ、ということですから。でなければ『できなかった』ではなく『したくない』と言うので」
「…そうかい。じゃあな」
「とはいっても帰り道がわからないので帰れないと思いますが」
「…そうだった」
結局誰に呼ばれたかわからなかった。
「まぁ大丈夫ですよ。そのうち向こうに帰れます。帰っても忘れないでくださいね」
「本当つまんねー奴だな。お前」
「それは実質的にあなたに言っているのですが」
「でもよく考えるとあり得ないほど負荷かかってるんだよな。よく頑張れたな」
「…見事な手のひらドリル」
「うるせぇ。時にはいいだろ」
「ドリルがグッサリ刺さりました」
「そうかいそうかい。君はそういう奴だったんだね」
「突然のエーミール」
「お前何気に博識だな」
「まぁ腐ってもあなたなので」
「…なんかお前の言動には無性に腹が立つ」
「それはただの風評では?」
視界が眩く光る。意識が遠のいていく。
あいつのことを多少は認めてもいいのかもしれないと思った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
もう1度目を覚ます。今度はちゃんと記憶に残っている世界だ。
というか何故ルーナが上に乗っている。
「すまない。退いてくれ」
「はい?はい。…はい?」
「今のは全部意味が違ったな」
「え?え?」
「今のは同じだな」
「…どういうこと?」
「とりあえず落ち着いて素数を数えろ」
「2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,37,41,43,47,51,53,59,61,63,67,71,73,79,83,89,97.…」
「随分と冷静だな」
「その程度はできます」
「よし戻ったな。とりあえず迷惑をかけた」
「その程度なら大丈夫そうですね」
「全くもって怪我はない。ある程度は痛いが」
「どこがですか?」
「手が。まぁじきに直る」
「手当は不要ですか」
「そうだな。それと質問があるが」
「答えられる範囲で答えますよ」
「何を探していた?」
「…黙秘権を行使します」
「そうか。まぁあまり深入りはするなよ。でないと頭と身体がおさらばだ」
「洒落になってませんよ」
「洒落込んだつもりはないが」
「でもまだいいかもしれませんね。変な人に殺されるぐらいなら貴方の手で全てを終わらせてしまいたい」
「でも現実はそう甘くない」
「ですよねー」
「瞬間が生死を分ける。その一瞬を見分けろよ」
「善処します」
ふぅ、と息を短く吐く。
「さて、あの竜は持って帰った?」
「いえ。まだあるかと」
「そ。まぁいっか。さて、バルバトスを直そう」
「いつまで掛かりそうですか?」
「まぁ少しですかね。今日には終わるかと」
「なら準備しておきますね」
「ああ、それと」
これは預言だ。大事な預言。
「星は堕ちました」
「はい?」
「もうそろそろ陽も沈みます。やがて夜が全てを埋め尽くします。覚悟して受け入れるようにしてくださいね。すべてあなたたちの選択なのですから」
「…何を言っているのかわからない」
「今は分からない方が得です」
「いつにも増して変ですね」
「困ったことにこれが本来のいつもです。さ、いつも通りに進めましょう」
皮肉なまでにに、いつも通りだ。
ドアを開けてバルバトスの元へ向かう。そこにはあの狐もいた。
「久しぶりだな」
「こうなったこともここにお前がいることも全く予想外だがな」
「貴殿が直すのか?」
「ああ。直せない部分は変えるが」
「だから型が合わないわけか」
「まぁこいつも意思はあるからな。大切に使わねぇと」
本当にボロボロだ。よく核爆発を起こさず済んだものだ。
「…バエルか?」
「なんやあんちゃん。遅かったな」
「何か見つけたか?」
「このデカい人形が入ってた場所があってな。そこは見つけた。色々あったで。なんでか知らんけど警報鳴ったから見るだけで帰ってきたけどな」
そんなに厳重だっただろうか。覚えてない。
「とりあえずご苦労さん」
「全くや。バルバはいきなり無茶し出すしあんちゃんの嫁はんはいきなり突っ込むしで無茶苦茶やったで」
「嫁じゃない」
「そういうことにしたるわ。にしても随分と男勝りな嫁はんやな」
「そうなのか?」
「そらあんさん、デカい龍を前にしてビビらへん奴は相当な器やで」
「…別人じゃないか?」
そんなに肝が据わっている人間など見たことがない。少なくともルーナは違う。
「それだけはないて。あんな白い毛ぇ蓄えた女が見分け付かんわけがない」
「…そんなにすごい気がしないが」
「まぁあんちゃん基準になってまったら全員大したことないで済んでまうからな」
確かにルーナには抑えている力はある。ただ跳ね上がるような力ではないと思う。
どちらかと言えば『場合に合わせる』機能性が非常に高いのだと思うのだが恐らく一生理解されないだろう。ルーナがひたすらに隠す限りは誰も気づく事すらできない。
「バルバトスは?」
「今は仮眠状態や。まぁ起こせばどうなるかは判っとんな?」
「んじゃ起こすか」
「おい待てや。言うたやんな。起こせばどうなるか」
「殴られるだけだろ?なら問題はない」
「その殴りが人に耐えれないから言うてんねんけど」
「死なない。死ぬほど痛いだけだ」
「それで全て通すのは少し強すぎるやろ?」
「大丈夫だ、問題ない」
「問題があるやつしか言わんヤツやそれは」
バルバトスを低速起動させる。緊急用バッテリー直結回路から動かしたせいか音の違和感がすごくある。
「すまんなバルバトス。お前のそれを修理するからしばらく寝とけよ」
表示画面にシャットダウンの文字。オン時間0分。問題なし。
「ここまでおとなしくなるんか」
「いつもこんな感じだが」
「あの『猛犬』とまで言わしめたバルバが友好的になるんやな」
「逆にそっちを初めて知ったな」
魔力の塊を薄く伸ばして本来あった形に近づける。型取りさえしてしまえばすぐに治せる程の損傷だったが故にできる修復方法だ。マイナーな部類ではあるが十分な効果を得られる。
流石に重要部を壊されれば即ジャンクだったが運が良かった。
「もう1度行くんか?」
「いや、今回は閉じて終わりだ。完全修復にはある程度時間がかかるししばらく開けるつもりだからな」
「珍しいな。あんちゃんがバルバを止めるなんて」
「止める時は止める。しばらく乗らない時は特にな」
「乗らへんのかいな?」
「もうそろそろ
「…何故私にいきなり振る。そちらで話してるのであろう」
「ありゃ?アンタが僕の人生を終わらせると思ったんだが」
「根拠もなく疑うな」
「根拠はあるよ。その後ろ手にあるナイフとか」
普通には見えない。ただし、うっすらと差し込む月の明かりに反射して光っているところが何回か一瞬あった。ただし普通に見れば特に気づかない程度で。
「どうせ向こうの依頼だろ?『とにかく殺せ』とでも言われたと思うが」
「まぁ大方そうだ。多少は違うが」
「そしてお前はそれを聞いてやってきて、向こうが黒く染め上げ損ねたお前は殺すのに躊躇したと」
「…」
「狙い損ねた獲物を1度踊らせて仕留める。上手くやれば横つながりまで判る。恐ろしく効率的で常套手段であるが故にバレやすい。だからこそ内側に引き込ませて意識を弱める。簡単な任務だ」
「なら何故狙い続ける?相手に警戒されていながら続けるのは不都合だ」
「それを超える理由があればできるものさ。そうだね…命と引き換えに、とかはよくある条件だな」
「命のためなら行動できると?」
「本能的に揺さぶられる場合も含めてね。脳を軽く麻痺させて記憶を飛ばして刷り込めば事実も改変できる。そうすりゃ都合のいい手駒さ」
手駒に成り下がればあとはどうにでもなってしまう。
だからこそ俺はそこを避ける。いかに抵抗するかを事前に考えておく。
「さ、そんなことはどうでもいい。早急に刺し殺したまえ」
「…抵抗しないのか?」
「抵抗したって何も変わらない。向こうも手を打っているだろうからね」
「そもそも私に決定権はないということか」
「そゆこと。君は君の仕事をするまでさ」
「……」
「早くしたまえ。君とて死にたくはないだろう?」
「別に」
「やはり微妙に向こうに染まっているというか…こりゃ間違えるわけだ」
建前上の精神はあちら側だが実質の精神は元のまま。元を潰し損ねたようだ。
「ささ、遠慮なくぅっ…」
真っ直ぐ、躊躇なく刺してきた。
基本に忠実な吶喊。典型の一言で収まることがない程所作全てが洗練されている。
「これが、君の仕事か?」
「あとは死んでもらうだけだ。お疲れ様」
「そういうわけにも、いかないんだよ」
「何故諦めない」
「お前についた、
「…そんなものは、ない」
「本当か?その、胸の痛みも、そうなのか?」
「…そんなものは、ない」
「いいや、ある。俺と同じ運命を、辿らせるつもりは、ない。
無理やり胸の辺りから魔法でぶち抜き獲得する。
手の中にあったのはダニに形のよく似た機械。中に1発だけ鉄杭が入っている。
「痛っ…くぅっ…」
「やっぱり、あるじゃねぇかよ。随分と立派なのが」
「何だ、それは…」
無理やり引き抜いたおかげでナイフから手が離される。離してさえくれれば俺の体は直る。
「こいつを覚えてねぇか…まぁ大抵ここまでを消すから覚えてねぇか。こいつを自分で飲み込んだんだよ」
「こんな、ものを…」
「まぁもっと小さいけどな。体内で魔力を吸収して大きくなる。んで心臓近くに行って最終的には…そこはこいつの構造的にわかるか」
少しずつ外から魔力を加えて機械に負荷をかけていく。みしり、と音がした後にぽんと軽く音をたて爆発した。
「これがこの機械に出会っちまった奴らの最期さ。最後のが体内で起こる時点でほぼ想像がつくだろ?」
「…」
「僕の体には少なくとも3個ついてる。2個は無理やり進行を抑えてる。1個ももうそろそろだ。だから同じなんだよ。お前は」
「そんなわけが…」
「まぁじっとしてろ。下手に動けば心臓がぶち抜けちまうからな」
寝室からまたあのアタッシェケースを出して開ける。
いつもの注射器に強めの鎮静剤を少し入れていつものアレを刺してやる。筋肉と接続された部位があったためかかなり効くだろう。
「ふぅっ…」
「向こうじゃまともなことすら受けれねぇ。こっちで気づけてよかったじゃねぇか」
「何故っ…貴様は助ける…?」
「お前と僕が似ているからだよ。何もかも言われた通りに従って、身を削って誰かの役に立とうとして、どうにかして自分の存在意義を見出そうとする言動や所作が完全にそうだ」
「私とお前は、違う」
「そうだな。だから"似ている"と言った。僕が俺となって失ったものがあまりにも多すぎた。お前も部族の中で"訳あり"として生きていたからあの組織に入り浸ったのだろう?」
「…」
「僕だってそうさ。こんな周りとの見た目の違いだけで忌み嫌われ続けて嫌になったからあの時の俺はのめり込んだ。自分が自分である証明がしたかった。それが地獄の入り口であることに気付かずにね」
「なら、何故」
「薬は確かに人にとっては素晴らしいものだ。ただし、他の部分を食い荒らして見た目上の改善を貼り付けるものであることに変わりはない。だからこそ、人間は薬に堕ちる。目先の利益までしか見えないからだ。俺はきっとそれに気付いてた。そして組織もそれに気付いた。だから抜け出した僕をどうしても囲い込みたいんだよ。歩く危険薬物の物的証拠となりうるから。そのためには逃げさせないための構造が必要。だからあの機械を作り上げた。まぁついてる本人が気づいているから何とも言えないが」
「もう、あれは止まらない」
「分かっているさ。だから僕が元を壊すしかない。僕には失うものなんてないから」
僕は何もかもを壊した。だから進められる。
どれだけ止められようとも、どれだけ壊されようとも。
もう、僕には何も遺されていないから。
「さ、治療しよう。このままだと君の胸に空洞が開いたままだ」
「…これから私は、何をすればいい?」
「自由にすればいいさ。
「貴様は、何をする?」
何をするか。
わからない。考えていない。
そもそも、そんなものが訪れることがないから。
僕はまた、仮面を被った。
「また何かしてると思うよ。世界を変えるようなこととか、人を困らせることとか」
「出会った奴は苦労しそうだ」
「そうだね。本当に、迷惑だ」
「…何か抱えているのか?」
「いいや。世界の方針がわかってしまっただけさ」
世界は、憎悪という黒雲に満ち溢れている。
それもいつかは、光によって切り裂かれる。
それが日光なのか、はたまた雷なのかは分からぬが。
第2章 輝き 終了です。
いやーきつかった(小並感)
モチベ低下が辛かった。まぁそれでも書くんですが()
とりあえず読んでくださった方々に感謝。
…え?これで終わりかって?
終 わ る わ け が な い だ ろ う
というわけで第3章 極夜 を鋭意製作中です。
1ヶ月後にご機会があれば会いましょう。それでは。