壊れた少年のマーチ   作:オリの中のカナリア

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閑話休題(お茶濁し)兼生存報告
階段から滑り落ちて大変でしたがとりあえず生き返りました。
なんでこうなったんだろうね()

前半はヴァルフ視点、後半は騎士団長視点です。


第3章 極夜
閑話休題ー??


 

時々、記憶の端にある景色がある。

でも、それはどんなものなのか分からない。

記憶にないものばかりが、どんどん埋め尽くして、さぁっと消えていく。

 

人によっては、幻覚だ、って騒ぐ奴もいると思う。

でも、何故かは分からないけど記憶にあるんだと思う。

だって、初めて見たはずのものを、納得してしまっているから。

あり得ないと分かっているのに、存在すると思って流してしまっているから。

 

初めて見たのは輝き続ける世界だった。

 

いくつもの高い建物から、いろんな色の光が自分に降り注いでいた。人々は、その光を気にすることもなく歩いている。人々の目には、光が灯っていない。

 

自分は、憧れていたのかもしてない。あるいは、怖かったのかもしれない。

とにかく、欲しい。知りたい。そう思った。

 

いつのまにか手は無意識に動いていた。

手が伸びて人に届きそうになると、サラサラと砂が流れるように風景が崩れてしまった。崩れて無くなったことに気づくまでだいぶかかかった。

 

それからしばらく経って、忘れかけていたときに、また別の世界が出てきた。

今度は、光も人もない、ただの暗闇。虫が、静寂な夜に協奏曲を奏でていた。

全く違う世界だと思わなかった。何故か同じ世界だと思ってしまっていた。

目が暗闇に慣れると、景色が見えてきた。

畦道の真ん中、田畑が広がる土地に一軒の家が見えた。生活の色はなく、声もない。

 

自然と、寂しい、と思った。根拠も何もない、ただの感情。

そっと触れるだけで全てが変わる。そう分かってしまうほどに脆い寂しさを感じた。

 

ここにいては危険だ。何かが崩れる。

 

気付かぬうちに、世界は崩れていた。現実との乖離が、激しく感じられた。

 

3つ目の世界は、自分の想いに入り込むように出てきた。

たくさんの笑い声。様々な色がついていた。

 

嘲笑。歓喜。容認。そして、失念。

すべて、誰かに向けてぶつけられた感情。

周囲を見渡す。真っ黒な世界。顔もなければ体もない。

不思議と、怖さを感じられた。何かが追い詰められていく。

声のみが聞こえる。その向きは自分でないはずなのにそう錯覚させる。

 

いきなりぷつんと声が消えて何かが落ちてきた。

自分は何故声が消えてしまったのかがわからなかった。

 

やがて、何かが落ちてきた。ぽたり、と顔に幾つかの水滴が落ちてきて、どさどさ、と他のものが散乱した。

細切れになった何か。何かはすぐにわかって。

自分は歓喜した。同族がいる。

わかり合える、そう思った。

でもそいつは、もう動かなくて。顔を見た瞬間、何かがぞわりと登ってきた。

目が、ない。頬の肉もない。赤に染まった白もある。

その肉は、一筋の削り跡に沿ってなくなっている。

 

そしてわかった。ここは、墓場だ。人間が、人間に忘れられてくる場所だ。

そして自分も、誰かに、あるいは全員に忘れられてここに来れたんだ。

ここにいられることに嬉しかったのかもしれない。誰の記憶にも残らず、自分が消えた事実に喜んだのかもしれない。身体だけがひしひしとよろこびに満ちる。

 

気づけば世界にヒビが入り、崩れてしまった。実体のあった自分が虚しかった。

こんな身体など、消えてしまえばいいのに。そう思った時には次の任務を告げられた。今度は護衛だった。

 

それ以来、見ることはなくなった。だからといって何かが変わることもなかった。

 

§

 

厄災。

人によっては聞きたくもない単語。

ある人は家を失い、ある人は財を失い、ある人は愛する人を喪った。

 

奴に出会ったのはそれの少し前、それこそあの坊主が現役で動いていた頃だった。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「今回の新入りはちょいと訳ありだ」

 

そう、上からの連絡はあった。また若い奴が来たと思った。

どうせまたイキがってるガキなんだと思っていた。

 

「─現地時間と依頼時間との一致を確認。これより配属となりました、よろしくお願いします」

 

驚いた。あのガキ共の中にちゃんと挨拶ができる奴がいた。

 

「本日の依頼は如何なるものでしょうか。全て、片付けて見せましょう」

「そうだな…あれを壊してみろ」

 

訓練用の壁際に置いた案山子を指差す。見た目は貧相だが実用性は高く、そして異様に固い。初心者の素振りから熟練者の相手まで多岐に渡るため重宝していた。

もう古いため訓練で壊れたことにして新しいものを上に頼むつもりだったために壊しても良い。それにどうせ壊れない。無駄なまでに頑丈だから。

そう、たかを括っていた。

 

「どの程度でしょうか?粉砕する程度か、ある程度壊すか。それとも跡形もなく、でしょうか?」

「まぁ本気で壊してくれりゃ何でもいい。どの程度かは見よう」

「了解しました」

「道具は好きに使え。諦めたければ言いに来い」

「不要です。道具を使えば()()()落ちます。それと破片は避けてください」

「効果?」

 

素手でスタスタと歩き、案山子の前に立つ。手を前に出し、触れるか触れないかの距離で奴は魔法を放った。

 

「『explosion』」

 

短い詠唱。その一瞬の言葉の後、案山子は爆破された。

多数の破片が飛んで壁に刺さっている。幸いこちらには来なかったが、飛んで来れば軽い怪我では済まない攻撃力だろう。

一切の躊躇もなく、圧倒的な力で容易に破壊する姿。それはある一種の恐怖をも生み出していた。

 

そんなトンデモ火力を発揮した奴はゆっくりとこちらへ向かってきた。体には幾つかの破片が刺さり見るにも痛々しい血が流れていた。

 

「目標の消失を確認。任務を完了いたしました」

「…そうか。よくできたな」

「お褒めに預かり光栄です」

「体の傷を治してから…」

「肉体にいくつかの軽度の損傷があります。但し任務遂行に影響はございません。如何いたしますか?」

 

これで『軽度の』『損傷』か。流石訳ありで入るわけだ。

 

「実はほとんどすることはない。やるとすれば訓練だが、君には不要なようだ」

「いえ、私には尚更必要です」

「何故使わない武器を練習する?君には魔法の才があるのだろう?」

「いえ。あれが1番早く破壊できるからです」

「なら何故魔法を使った?」

「あの中に核となる魔石を発見しました。よってそこを直接破壊すれば全て済むと判断しましたが、剣では到底届くことのない硬度でしたので魔力で飽和させ、不安定化させて爆発させました」

「つまり使おうと思えば使えるということか」

「左様です」

 

何だこいつ。才能の塊か?

 

「じゃあひたすら新入り共と訓練しろ。1日で治る程度の怪我は許す」

「了解しました」

 

…さて。ちゃんと手加減するようには言ったができるだろうか。

まぁ多少は問題ない。どちらかといえば想定内だ。

問題はどこに押しやるか。

 

「…どこに配属させるかな。厄介に動かれても困らん場所は…」

 

正直言ってどこでもいい。というかどこにいても変わらない気がする。

なら何故ここまで話が持ち上がるのだろう。わざわざ上から下ろさなければならない人材でもないはずだ。厄介払いする程ではない。

 

変に悪い噂があるわけでもなく、これといった問題点はなく。

なら、どこに異常性があるのだろうか。

実戦対応に十分すぎる程の高い知恵と力。むしろ単騎でも軍として成立できる。

 

ふと、ある1つの発想に辿り着く。それはその謎を解決させるには十分な答え。

但し、それは部隊自体の定義を否定する答え。

 

「…素の能力が高すぎるせいか」

 

能力・適性が高い。

これは非常に良いことだ。力になる者はむしろ歓迎する。

但し、これはあくまで個人単位で考えた場合。集団を単位とすると大きく変わる。

 

集団は能力が横ばいになりやすい。周りに応じた行動を取ろうとする人間の特性でもある。逆にいえば、変わった能力や技術を平坦化させてしまう。仲間はずれを極端に嫌う人間だからこそ自然と選択してしまう欠陥だ。

なら平坦にならない仲間はずれがいたならどうするか。当然、排除に走る。

集団戦術において指揮系統を狂わせる者は邪魔の他ならない。その時に調整を入れる。

但し、それはよく効率を重視した調整であることが多い。数十人に対し動きを統一させるか、1人に対し改善を求めるか。効率は火を見るより明らかだ。

 

「…直轄にするか。あぁ面倒だ」

 

直轄属。隊内において慣例的に作られながら唯一機能していない配属。

転属も登録抹消もない実質的な死に役という認識で広がっているが、実際は貴族護衛や偵察といった重要職を担っている役だ。

 

…実際のところ、そのような部隊を作らなくとも既成の部隊から出せば済むために配備されない方が多いが。

 

まぁそれはそうとして、問題はこいつの特性だ。見た感じ体の動きが強襲の動きであり、集団に一切と言って良いほどに合わない。いや、周りが合わせられない。そもそもあんな動きをすれば普通は体のどこかに不調をきたす。

 

「あいつの限界を引き出してやらないとな」

 

アイツは上手くやっているだろうか。

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

数分前に希望をかけたのが間違いだった。

 

「素振りが遅い。怠けるな」

 

「とろい。もっと周りを見ろ」

 

「持ち方がずれている。嫌なら武器を変えろ」

 

「軸がずれている。基礎からやり直せ」

 

躊躇のかけらもない叱咤。声の主はアイツだった。

 

「もっとだ。それでは先が触れる前に殺される」

 

練習量は理想だが先に潰れる。潰してはならない。

 

「やりすぎだ。もう少し躊躇え」

「何故だ。まだ水準に達しきれてすらいない」

「何の、だ」

「あんたの水準。分かってんだろ、明らかに練度が低い」

 

そう。全くもってそうだ。一切の練度が足りていない。

少なくとも試験に間に合う程度の練習はさせてはいるが例年よりは下だ。

 

「やり過ぎれば体を壊しかねん」

「お前は怖がりすぎだ。1.0耐えれるやつに0.9の練習をしても意味はない。必要なのは1.1の練習だ」

「どう見分ける?」

「顔を見ろ。必死な奴は表情に余裕が出ない」

 

顔を見る。全員いつもの練習よりずっと辛そうではある。

 

「壊れたならどう責任を取る?」

「そもそも壊れん。壊れるのは自分からそう思った時だけだ」

「根拠は?」

「ヤマ勘。ただ効率はいい。簡単なことをチンタラやるよりはずっとな」

 

そこまで言われるスジはないが、間違ったことは言っていなかった。

 

「まぁ今日は任せるか。最後にお前と打ち合うが…良いよな?」

「…ええ、是非とも」

 

…明らかに今何か変わったな。

 

「それと人前に出るならその傷をどうにかしろ。人が寄り付かん上に印象が悪い」

「ああ、そうでした」

「どうした急に」

「回復は無理なんで」

「先に言え馬鹿者。全く…応急処置だけでも向こうで受けてろ」

「申し訳ないです」

「思ってないだろ」

「はい」

「そこは世辞でもいいから否定しろ」

「いいえ」

「…あのなぁ」

「何か問題でも?」

「…いや、何でも。怪我はねぇように続けろ」

「了解。…いいかお前ら、5分休憩だ。絶対に5分休め」

 

アイツには大きな欠陥がある。

ただし、これは俺が口を出すことじゃない。自分で気づいて直さなきゃ意味がない。

 

「それでは黄昏時に待ってますね。本気で、よろしくお願いします」

「…ああ。互いに全力で」

 

約束は絶対。できるだけ限界を引き出して調べねばならない。

失うことを減らすために。




取り敢えず取り返せるよう身体を見つつ努力します
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