それは、力を超越して。
何でこんなところにいるんだろう。
「─そしてお前が殺した。そうだろう?」
何だっけ。この話覚えてないよ。
「答えろ!」
熱い。肉が焼けた匂いがする。お腹すいたな。
「全く…懲りない奴だ。随分捻くれた魔獣だな」
お前よりずっとマシだよ。その下卑た顔よりね。
「力で従わないとは魔獣以下だな。なら」
鎖を引っ張ってるね。倒れとこ。
「多少はキズありでもいいってことだよなぁ!」
…力弱いなぁ。もうちょい強くなってきてよ。
「お前が殺した奴らもこの痛みを味わってんだからなぁ。多少は分け与えてやらねぇとな!」
殺されてから言えよ。殺されてねぇのに死者の言葉を代弁すんじゃねぇ。
あとその気色悪い声で笑うな。聞いているこっちに憑る。
「ほんっと、お前みたいなのがいるからこっちも忙しくなんだよ!死ね!」
じゃあやめれば良いじゃん。なんで続けてんの?馬鹿なの?アホなの?
「感謝ぐらいしても良いんだぜ?『こんな愚かな下等生物の相手をしてくれてありがとうございます』ってな。
─おっと、お前には喋る知恵もないんだったな」
…いいや。こいつは死ぬべき存在っぽい。
「…はぁ。つまんねぇの。さっさと死ねば良いのに」
だから殺したいならさっさと道具使って殺せよ。やってること動物以下だぞ。
「やめたやめた。じゃーな」
そーでっか。つまんないの。
…涼しい。日が傾き始めているんだろうな。この壁は陽で焼けるせいで熱い。
でもまだ楽か。背中のアレはどうにか覆えてるし。
…静かだ。人も誰もいない。今日はバルバトスもいない。
なんか懐かしい。争いが終わった後にあるその場凌ぎの静寂に似ている。
誰も彼もが倒れて初めて生まれる静寂。その時だけは空を見上げていた
みんな綺麗な星になれただろうか。
きっと、次も勝たないといけないね。
尤も、勝てる戦いじゃないけど。
…そうだね。もうそろそろ行くね。
「休憩は終わりですよ、厄災」
…ほら、来た。
§
社会は変革を求めている。
だというのに人々は変革を恐れる。
革命は社会の起爆剤であり、加速剤でもある。
だというのに人々は革命を起こさない。
いまの生ぬるい水に浸って遊んでいる方が楽しいのだろうか。
それとも、自分たちが大鍋で煮込まれていることに気づけないのだろうか。
「…笑える、どころじゃないわね」
今からやることは至極単純。ターゲットの確保。
いかなる手段を用いても実行する。
逆に言えば、私が自由に選択ができるということ。
誰を、どれだけ、どうやって殺すか。全ては私の手で転がされる。
「まぁ─今更戻れませんけどね」
彼の位置は何となくわかる。彼との恩恵かもしれない。
「不思議ね、頭はずっと考えているのに─心は凪いでいる」
口をついて出る言葉は全て言い訳。必死に頭が納得しようとしているのだろう。
それさえ不要だと思える心。ずっと待った答えの先へ。必然を生み出す力と共に。
「さぁ、行きましょう。天使狩りよりずっと醜いものを得に」
黒光りする技術の粋の塊。
これはいずれすべての力を破壊する。それもそう遠くない日に。
思いついた人の顔を見たいものだ。
外に出る用意をする。あくまでこれは外回りの役だ。
誰が私を止められようか。誰が私を追いかけれれようか。
もう止まれない。全てはこのために。
私は、このために凍てつかせた命を燃やそうではないか。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
正面からは無理だろう。
となれば答えは1つ。裏から入る。幸いこの狐はその口を知っているようだった。
「少しは苦労すると思ったのですが…」
「最適な道順を導いただけだ。あくまで予想だったが」
「だとしてもこんなに人がいないものですかね?もぬけの殻ですが」
「都合がいいだろう?なら問題ないじゃないか」
驚くほど人がいない。すれ違う人もいない。
「ある程度巡回はしているはず…何故?」
おかしい。何かがおかしい。
「奴も死ぬ時は死ぬ。早く行かねばならない」
「…そうか」
「どうした?」
「あなた、レイヴンの知り合いなのね」
「…知らなかったのか」
「言ってなかったでしょう?」
「聞かれなかったからな」
「…同族嫌悪ってこんな感じなんですね」
この話の融通が通じない感覚。まさしくどこぞの誰かに似ている。
「そこを右…いや左だな?」
「はっきりしてくださいよ?私も混乱しているんですから」
「匂いの位置が一定じゃない」
「奇遇ね、私もそう感じる」
変な感覚だ。遠のいたり近づいたり、強くなったり弱くなったり。
特定の周期で繰り返される訳でもない。
「どっちかでしょうね」
「そうか?3択だろう」
「私たちに後退は存在しませんよ」
「分かっている、それでも3択だな」
「そう」
「待て。そこは怪しい」
「ここは違うような…」
「人の匂いがする。隠れるか」
「どこに?」
「どこか」
「あのねぇ…」
小さな物陰に潜む。人が2人。
「…にしても役回りが増えたなんて今日は厄介ですね」
「とはいっても報酬もそれなりにあったがな」
「それでもですよ。何で非番の俺らが動いているんでしょう?」
「さぁな。俺らが知るべきとこじゃねぇってことよ」
「団長は団長で地獄みたいなことになってますけどね」
「まぁいいだろ。あの人が決めたことだ。とはいえ働きすぎの気もするが」
「団長を飲み会にでも誘いますか?」
「バカいえ。あの団長だぞ。相当な理由がない限り来ねぇよ」
「ですよねぇ…」
「それにお前が酒を飲みたいだけだろ」
「ありゃ、バレましたかね?」
「たりめぇだろ、おめぇさんのお守りをいくらしてると思ってんだよ」
「かれこれ5年ほどですね。あの頃はどっちが先に死ぬか分からない状態でしたし」
「憎まれる奴ほど長生きするやつだよ、良かったな、憎まれる相手がいるぜ?」
「勘弁してくださいよ…」
「…過ぎたな」
「匂いは?」
「まだある。向こうだ」
「てか広すぎでしょ。限界まで壁薄くしてるのかしら」
「口が動く余裕があれば行動しろ。広いことは変わらない事実だ」
「はいはい」
何かを感じる。いつもと違う謎の感覚。
見るべきでないと本能的にわかる。それも段々と強くなっている。
するとある壁の前で狐が止まる。
「行き止まりよ」
「この先だ」
「本気?」
「ああ、触ってみろ」
「壁がある…あれ?ない」
「通れる人間だったか。なら行け。その先だ」
先にある螺旋階段を下る。どうやら地下があるようだ。誰もいないためかコツコツと足音が反響して響く。
地下深くから何かを感じる。いつもと感覚が全く違う。でも彼特有の雰囲気の感覚が似ている。となれば向かうしかない。
『おいでよ』
声が聞こえる。とても彼とは思い難い透き通った声。呼びかけているのは私だろう。
『待っているよ』
行ってはいけない。
そう思うのに足音は心拍数と共にどんどん加速していく。
ずっと回りながら身体が落ちていくような錯覚を感じられた。
『ここだよ』
綺麗とは言い難い舗装が施された床を歩き声の主を探す。
声の主は1番奥の扉だった。どこよりも扉が厚く隙間もないように作られている。
『押して開けて』
私はここで本来は気付くべきだった。
この声の主が、どうやって私に語りかけているのかを。
??:「綺麗な織物を作らねば。そのためにはこの色はいらない。あまりにも混ざりすぎている」