壊れた少年のマーチ   作:オリの中のカナリア

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崩壊。
それは、循環である。

美しくない物語。
それは、現実である。

呪い。
それは、愛である。


meltdown

自室として用意された部屋に入るや否や、私は機能不全に陥った。

 

「何よ、何よ、何よ…」

 

頬に感じた柔らかい感覚。今も熱を持っている。

そっと手を触れ、自分の頬であることを確認し、もう一度機能不全になった。

 

「…駄目よ、まだ、駄目」

 

焦げつきかけた思考回路を無理矢理働かせて考える。

 

「きっと、そんな意図なんてない、ないはず…」

 

思い当たる節を探す。

 

彼を助けた。

一緒の部屋に寝た。

生活の手助けをした。

一緒に食事をした。

軽装の姿を見られた。

 

…我にかえれば思い当たる節が多い。

 

そして。

 

これらの行動は、私が発端だ。

 

「…妥当、か」

 

そもそも彼のことなど知らないのだ。

どうせまたすれ違って終わりだ。

そう思っていても行動には映らない。

 

切り捨てたくとも選択肢がない。

得られる利益・失う損失どちらを取っても大きい存在だ。

 

「って、そんなことはよくて」

 

彼の言葉を思い出す。

 

必要なものを抜き取ってまとめる。

危ないと思ったら逃げる。

 

『君と僕の道は分かれていた。だからこそ必要なのさ。最小限の被害で抑えるには』

 

「違う。それは間違っていた。私たちは、運命を律する生物であった」

 

うめた記憶が蘇る。まるで昨日言われたかのように覚えている言葉。

 

「私たちはただ怖かっただけ。選択は、()()()()()()答えであった」

 

もうだめだ、と思った。

何度も何度も、諦めようとした。

 

それでも、続いてしまった。

願わくも叶わず、苦しみつつ死ねぬ身で何かを削り、自分のレールを作った。

 

まるで微かな光を頼りに育つ植物のように。

 

『民衆は望まないならばどうにか介入するしかない。出来るだけ、戦わせたくない』

『目的のない戦いなど無意味だ。介入に入る』

『もう無理だ。これ以上妥協できない』

『道標を立てろ。全員がはぐれたとしても、また、もう1度出会うために』

『俺はここまでだ。あとはお前たちが船を進めろ』

『振り向くな!過去に引かれるぞ!』

 

 

空を飛べても。

 

私たちには、もう飛ぶための舵がなかった。

 

「…もう、覚えていませんよね。もう無駄ですよね」

 

滲み出るように声がでた。

 

「やめましょう、諦めたほうがずっと楽です」

 

今は目の前の課題に集中を。

 

「必要なものを『抜き取って』まとめろ、ねぇ…」

 

抜き取る。わざわざ言うということは。

 

「馬鹿よね、私も」

 

配線をつなぐ。うまくいくように、何重にも重ねて。

 

「騙し、騙され、歪め合う日々ももう終わりですかね」

 

電源を入れ、ターミナルからプログラムを弄りぶち込む。

簡素というにはあまりにも雑なウイルスである。

 

狂気(なれ)の果て、とことん見てみなさい」

 

送信ボタンを押す。あとは自己増殖を繰り返し、自滅する。

何とも素晴らしい計画だ。

 

「食らいついた!」

 

ウイルスガードが反応し対処した。

この存在をあぶり出すことこそが本来の目的である。

 

「鹵獲完了、っと。自滅しなさい、行き過ぎた文明と共に」

 

消えていくセキリュティ。

 

それもそのはずだ。このガードは最新型であり、あまりにも全時代的でチャチすぎたウイルスであったために識別することができない。

 

古典的になればなるほど対策は忘れられ、脆くなる。

ガードの中身さえ分かれば対応できないウイルスも丸わかりである。

 

「…はぁ」

 

情報がデータとして流れていく。

 

「どーこかなぁ?」

 

2038。5件の完全一致を確認。

 

バルバトス。1件の完全一致を確認。

 

ステラ。1件の完全一致を確認。

 

2048。5件の完全一致を確認。

 

有機デバイス。38件の部分一致を確認。

 

「…あった」

 

見つけた。保存して暗号化するだけ。

 

「これで、また…」

 

また。

 

戦争が起こる。

誰かが死ぬ。

 

そんなことにはしない。させない。

 

私たちは、運命を変えられる。

 

同じ過ちは、繰り返させない。

 

そのために、私たちは”作られた”に等しい。

 

「…新しい未来が、構築できる」

 

私たちの”義務”を果たすこと。

これ以上の至高などない。

 

§

 

我が道をゆく。まだ所定位置についていないのに報告が来る。

 

「実験中フラクタル分子の崩壊を確認しました、実験は失敗です」

「そうか」

「荷電粒子砲はどういたしますか?」

「続行しろ」

「あの個体についてですが、照合した結果例の個体と完全一致とのことです」

「…ほう」

「扱いはどうしますか?」

「まだそのままでいい。もう少し泳がせる」

「了解しました。今日はどのような予定でしょうか?」

「しばらく籠る。外は任せる」

「承りました。その任、最高の出来といたしましょう」

 

自室(巣窟)に入る。

 

「…例の個体、か」

 

あれらは奇跡を起こした。

だからこそ、存在が危険だった。

 

作るものの責任、使うものの責任。

私たちが存在を消滅させること。

それこそが私たちの成せる成果であり、彼らに為せる謝罪であった。

 

2039から2047までを奇跡の産物として見込んでいた。主戦力であったとも言える。

そこで私たちはこの集団を『ナインボール』と称した。

そして2048。我々は奇跡を折り重ね、禁忌へ触れた。逆流(ゲームオーバー)である。

2039から2047は明確に強かった。しかし、それ以外は弱かった。

特に、連携能力においては顕著であった。

 

だからこそ、2048に対し散った。

 

しかし、2048は消滅した。

どこかにいたはずなのだ、番号のない手球が。

 

私たちは見落とした。番号を振らなかった本当の脅威(ブレイカー)を。

そして2038を動かした指導者(キュー)を見逃した。

 

「厄介なものだ」

 

私たちは2038を消滅させた。

しかし、発生しえる事件記録と一切計画が合わない。

証言は噛み合わず、能力もこれといった強みもない。

私たちは探した。どこかに本来の2038がいると。

 

寵愛者(ギフテッド)夢想配合(エクストラブルード)の奇跡、とまで持て囃された存在というのに、今となっては怪物扱いだな」

 

できうる限りの手を尽くした。しかし、見つからなかった。

私たちは諦めようとした。もう見つかるはずがないないという事実が私たちの心に安寧をもたらし、ささやかな幸福を授かった。

 

長かった。技術は発展し、対立した国も全て統合。経済は安定成長を続け、出来すぎた僥倖を人々は分かち合った。

 

「ここからどう動くのかね、イレギュラー」

 

私たちは十分なまでの幸せを享受できただろうか。

 

§

 

辛気臭いところは嫌いだ。

死の匂いが近づくときが1番怖い。

 

「……」

 

だからこそ外に出る。

恐怖から逃げるためか、それとも責任から逃げるためか。足は竦むことなく進む。

 

「見取り図が欲しいな、できるだけなめらかに動きたい」

 

あの人たちは何でもできるから。

僕は何もできないから。

 

だから事前に準備する。誰にも知られず、誰にも理解されずともやらねば。

 

『怠るな。さもなくば、死ぬぞ』

 

「分かってますよ。守りたければ、2倍頑張らないと」

 

ここも特殊な形だ。中央は吹き抜けで端はタイル敷き。

中央には黒い物体があった。

 

「これは…」

 

特徴的な曲線と規則正しく並んだ白と黒の突起。

間違いない。これは僕の記憶にある。

 

「何故ここに?」

 

状態ははっきり言って良くない。触れられた形跡もない。

 

「…孤独だねぇ、君も、僕も」

 

寂しさがない。表面的な美しさが全て。

不純物のなさのみ取り入れられた末路だ。

 

「一芸で成り上がるなど無理さ」

 

どれだけ美しくても、100点でなければ0点だ。

 

もし、これがまた期待通り旋律を奏でられるなら。

 

「キミに決めたよ」

 

僕は、文字通り心血を全てそこに注ぐだろう。

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