壊れた少年のマーチ   作:オリの中のカナリア

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希望描く船。
絶望の海。
1番に飛び立ったのはカラス。
さぁ、飛び続けろ。
歓喜の地に足が着くまで。


ただいま/おかえり

「そういえば」

 

ルーナが思い出したかのように口を開く。

 

()()()()?」

「何か、ですか…敢えて言うなら未来ですかね」

「そう、じゃあ今殺したのは?」

「カゲ」

「次は?」

「世話になった奴に会う」

「そ」

 

静かな廊下を2人歩く。足音は少し多い。

 

「なら、ですね」

「そうですね、私は同意します」

 

ルーナが足を止める。

 

「フリージア」

「アックス」

「スイートピー」

 

「「動け」」

 

足音が消える。

 

「2つもいる?」

「楽しかったので」

「それは何より」

「それより探し人は?」

「この先」

 

重厚なドアを示す。

 

「これって」

「知ってた?」

「いえ、あの狐が」

「アレか…」

「問題が?」

「アンタはものの見事にコナかけられたな」

 

ドアを押す。

 

「邪魔する」

「なぜだ」

「アンタに用がある」

「何だ?」

「俺を作ったのはお前か」

「何故答える必要がある?」

「聞いただけだ。答えろとは言ってない」

 

答えろとは言っていない。でも答えるつもりだった。

つまり、コイツだ。

 

「…こりゃ侮れんな、昔も今も」

「何故作った。どうして作ることになった」

「簡単な話さ。限界を作るためだ」

「なら…」

「待てよ、こっちにも権利はある」

「…そうだな」

「2048を殺したのはお前だ。その後どうした。答えろ」

「…俺が食った。この体で全てを消した」

「…そうか。ありがとう」

「ありがとう、か。何人も殺したとは思えぬ口ぶりだな」

「自己紹介はいらんぞ」

「…最後だ。俺の死に方を教えてくれ」

「…死ねないのか」

「ああ、()()()からな」

「…ははっ、こりゃすげえ」

「何がだ」

「遂に、遂にか!ああ!同志よ!実験は成k」

 

大音量が響いた。

 

「行こう。もう、価値はない」

「…流石ね」

「バルバトスはどこ?」

「えっと…」

 

降りた場所。乗ってきたはず。

 

「…あれ?」

「ちっ、止まんねぇのか、やってくれたなこのクソジジイ!」

「どういうこと?」

「バルバトス、向かうぞ、起きろ!」

 

起動音がする。

 

「行くぞ、バルバトス。未来を捻じ曲げる」

「ねぇ、教えて?」

「ここから行くぞ、止めろよ!」

「私はなに?」

「抱えるぞ、落ちるなよ!」

「私は、」

 

バルバトスに乗る。埃は被っているが全く同じ。

 

「待ってろ、すぐ帰る」

「……」

「解放許可を出した。やれ」

「……」

「意識は保てよ、でなきゃ治療ができない」

「…ああっ」

「オールクリアだ、バルバトス」

 

視界から光も影もなくなる。

 

「コード:tachyon!」

 

§

 

どれほど、経っただろう。

孤独だ。

誰もいない。

 

「ああ」

 

黒い。どす黒い。醜い。嫌だ。

 

「ああ…」

 

静かで冷たい沼だ。いずれ呑まれ、消えるだろう。

 

「ああ…!」

 

消えたくない。嫌だ。

忘れたくない。

楽しい思い出も、きつい思い出も。

全て、私の1つ。

奪わないで。私の“私らしさ”を。

 

「くっ…!」

『……』

 

上から引き上げられる。

引き上げたのは私によく似たヒト。

 

「…ありがとう」

「……」

「あなたは?」

『…導く者。我が種族の1つ』

「なぜ助けたの?」

『あなただけの身体ではない。しかしあなたは体の1部分を構成する』

「…そう」

 

よくわかんない。

 

『タスク。マスターを助ける。最優先事項』

「マスター…?」

『我が契約主。話せばすぐわかる』

「特徴は?」

『私に似ている。けど本質は違う。まるで双曲線の位相ようにすれ違う』

「…つまり?」

『あなたは一次式の直線。私にも、彼にも接点がある。だから融和できる』

 

…えーと。

つまり、『双曲線』という条件を満たし続けるために離れていて、近づくには私を介入する必要がある、そしてその役を私がし続けていると。

 

「つまり君はそのマスターとやらと会えないということかな?」

『半分正解、半分間違い。会うことはできない。ただ、あなたが弊害となっているだけ』

 

そうか。

これは、生存競争か。

 

「…競争してみる?」

『無駄。どちらもトリガーであるが故に潰せない』

「でもさ、私に利点なくない?それは君が望むだけでしょ?」

『彼の能力が完全に引き出せたと思うなら私は追求しない。もしあなたが無理ならそこに落として私が操るだけ』

 

昏き蒼眼の目線の先がよくわかる分、意図がよく読み取れる。

 

「結局強制なのね」

『私は強制していない。あなたが勝手にそう読み取っただけ』

「…あっそ」

『これで未来が変わる。きっと、滅亡も遠くなる。あとはあなた次第』

「はぁ」

『さぁ、選びなさい。神の子なら、できるはずよ』

 

§

 

「…緊急放熱を維持しつつ航行を。ダメージは逐次報告をして」

 

無機質な機械音のみが響き渡る。

 

「…我ながらよくできたものだな。損傷は軽微とは言えないが」

 

狂気に満ちたシステムの応用を行うなど危険でしかない。

でもうまくいった。それでよし。

 

「…あの子たちに、感謝しないと」

 

記憶から思い出される、微かな容姿。

 

彼女たちは言った。

私たちは人ならざる物であると。

使われることによって初めて価値が生まれると。

 

彼女たちは力を持つ。やろうと思えば世界を滅ぼせる。

でも彼女たちは力を行使しない。

 

物である故の制約という枷。

僕はそれを祓いたかった。

彼女たちが、心から笑える日が来るために。

 

「vanitas vanitatum, et omnia vanitas」

 

きっと僕は暴走する。

だからこそ無に帰す存在が必要だ。

そのための(ルーナ)だ。

僕と互角の力を出せて僕の動作を全て理解した者。

 

手の内など単純。されど、奥は深く。

 

来るものは拒まず、帰るものは引き摺り下ろす。

これこそが、僕の人生。

 

「しあわせって何でしょうね。誰かに定義されることもなく、証明もされないのに皆使う」

 

ああ、朝が終わる。

きっと皆は働くだろう。

与えられた宿命のもとに。

 

「バルバトス、君も考えてみな」

 

無機質な機械音が響き渡る密室。

このバルバトスもいつかは寿命を迎えるだろうか。

 

いったい、何人の死体を僕は見続けるだろう。

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