壊れた少年のマーチ   作:オリの中のカナリア

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空の向こうの支配のさき。
『自由』を求めて尚、『自由』に縛られるヒト。
結局は帰結するのだ。
結局、人間は支配の中にのみ生きていると。



プロビデンス

「…あっ」

 

目を覚ます。いつもの天蓋。

 

「帰った…?」

 

荷物をまとめた箱と溢れたゴミ箱。

いつも同じ形の簡易ベット。

 

「…ええ?」

 

夢でなくて。

でも現実らしくなく。

今は現実。そう体は語る。

 

「おなか、すいた…」

 

何かあっただろうか。なにもなかったはず。

 

「おはようございます、ルーナ」

「あ…」

「寝ぼけてはいけませんよ。出席日数が怪しいんですから。今日は学校へ」

「…行かないと、だめ?」

「はい。あなたを成長させるのが私の役ですから」

「そ…」

「今日は外食にしましょう。幸い繋がりはあるので」

 

つまり。

必要なことは着替えること。

じゃあ、着替えよう。

 

「…もう脱ぎますか」

 

彼がそそくさと退散する。

 

「ああ、それと。先日は助かりました」

「先日…?」

「あなたのおかげで正気になりましたからね。助かりました」

「そ…」

 

頭が働いてないせいでふにゃふにゃである。

 

「待ってますね。私はもう覚悟しているので」

 

§

 

「ごめんなさい、待たせました」

「別にいいですよ。想定範囲内です」

「それで何処へ?」

「まぁ街です。金はあるのでそれなりに買いつつ行きましょう」

 

加速(ブースト)をかけて地を翔んでいく。ルーナもちゃんとついてきている。

 

「そういえば」

「どうしました?」

「コネってどこ繋がりの…?」

「だめですよ。知るのはもっと後の方がずっといいです」

 

街が見える。相変わらず綺麗なことだ。

 

「…何もなかったようね」

 

何故か表情は曇っていた。

 

「良かったですね」

「ええ、本当にね…」

「ひとつ、聞いていい?」

「どうしました?」

「…やっぱりやめとく」

「そうですか」

 

簡潔で短いやり取り。

十分ではないが、繋がりはある。

それだけのことで安心を得られるようになった。

 

僕も甘くなったものだ。

 

「ここの下です」

「地下なのね」

 

階段を降りていく。さほど深くはない位置にドアが1枚。

 

「入るよ」

 

ドアを開ける。鈴が軽い音を立てた。

 

「もう閉店した…って、お前か」

「連絡通り来たよ」

「あいよ。そっちの嬢ちゃんは?」

「僕の飼い主。何か出してあげて」

「…しゃーねぇな。食えねぇモンはあるか?」

「い、いえ特に」

「そうか」

 

店主が奥へと戻っていく。

 

「ここってもう…」

「大丈夫です。鍵が空いていたので」

「開けてたんだよ、お前のために。全く、いきなり無茶言いやがって」

「ごめん、こっちも大変だったから」

「のべ1ヶ月の愛の逃避行が?」

「愛の…!」

「しんどかったさ。特に最後数日」

「そらご苦労」

「お前はどうすんだ?このままじゃ不利だぞ」

「僕に負けは許されない。それだけさ」

「相変わらず金属より硬ってぇ意志だな」

「お褒めに預かり光栄です」

「…皮肉なんだが?」

「そいつはご苦労、ただ俺は骨も食わぬものでな」

「…そうかい」

「金はここに置いとく。じゃ」

「何処へ行くの?」

「そこらの市場。世話になった奴もいるからな」

 

今日はいい日だ。外を歩いてもいいだろう。

 

§

 

「へいよ」

 

料理が来る。見た感じ安くはない代金だろう。

 

「ありがとうございます」

「あとあの袋は持って帰れよ」

「いえ、あれは…」

「代金なんていらねぇよ。お前らがちゃんと真っ当に育つならな」

「…重ね重ねありがとうございます」

 

ナイフとフォークを使って食べていく。

 

「堅苦しいなぁ、あいつと似て」

「…申し訳ありません」

「謝るこたぁねぇ。ただ、アイツにはそれくらいがいいのかもな」

「それくらい、ですか」

「ああ、お前さんは知らんか、アイツの話。まぁアイツも話せと言わない限り話さねえし無理はないか」

「…聞いても?」

「ああ、ただ条件がある」

「それは?」

「お前さんはアイツのことをどう思っている?」

「どう、ですか…」

 

どう思うか。

 

「…すごく、難しい存在です」

「というと?」

「きっと彼はずっと先が見えている。でもそれを示すことはない。だから私たちが気づけるように動いてくれる。その点では嬉しい存在です。但し、持ち得る力を考えると脅威であることは肯定されます。ですが、私としては彼自身が『飲まれている』と思います」

「それは?」

「危険な存在たり得るのであればそれなりの代償を伴います。ですが、彼はそれらを全て使いこなす。そこから私が立てた仮説は『彼自身が力に制御される』という大それたものです」

「確かに馬鹿げてるな。裏付けは?」

「少々特殊な言語を使いますが、それは彼の戦闘形式で説明がつきます。彼は適切なプロセスを用いない戦闘を好みます。しかし、それは単純な無知から来る衝動ではなく、『理論的に正しい』を突き詰め、地で走る圧倒的な自身の力のみで構成されていました。逆に言えば力を前提とした彼にとっての『破壊』が進むだけであり、直感的な反応が要求されます。もしこれが単純な破壊ではなく、破壊という名の救済であれば彼自身が持つ膨大な魔力量の行方や世界の秩序統一に説明がつきます。そのため、この仮説が成り立つならばこの今、彼と同等の存在がいまいるはずです。しかし、現在としてそれは存在していない。つまりこの仮説は誤りであり、別の彼自身が成立する理由があるはずです。ですので、説明によって解き明かすことができない存在、すなわち難しい存在となります」

「それが力に制御されることとどう繋がる?」

「理性で理解できることができないということです。彼自身は力によって体を動かし、相手に対する耐性を超越した強攻撃、あえていうならば暴力を加えているわけですから。例えるとすれば心臓を抜くために足ごと袈裟斬りしている、といったところでしょうか」

「なるほど、さっぱり分からん」

「でしょうね。あまりにも 異端児(イレギュラー)すぎますから。まぁ、簡単に言えば常識を捨てろってことです。常識で対抗しても大抵結論が出ませんし」

「まぁ実を言うと見立て自体は6割ほどあっている。力でぶん殴っているのも事実だし治安維持もしていた。ただだいぶ理性的であると思う」

「何故です?」

「まず身の引き方をわきまえていること。この時点で軍部は80点をつけるな」

「まぁ何と大味」

「どこもそんなモンさ。どんだけ良くても気に入らなきゃ0。それと仲間には同様の攻撃を行わないことだ」

「なんというか…判定が雑?」

「正確には緩くなったんだな、アイツらのせいで」

「他にも?」

「わんさかいたさ。大抵次には顔が変わるが」

「髪色は?」

「多種多様。大抵『人ならざるもの』として来る」

 

人ならざるもの。

戦場でモノとして使われるだけか。

あるいは、元から自我などないか。

 

「面白ぇことにアイツはその中の1人だ、だが今ああやって生きてる。何故だと思う?」

「…運ですかね」

「大半はそうだ、だがアイツは違う。自分に亡霊の声が聞こえるらしい」

「亡霊、ですか…」

「ステラがどうとかこうとか言っててな、なかなか気色悪い。ただ確実に強い」

「ステラ…」

 

ステラ。あの子が。

 

(ステラ)の名を冠した存在。

きっと、彼はそこに縛られたまま、常に探し続けた。

彼女と共に、眠るべき場所(ほし)へ辿り着くために。

 

だとすれば、彼の生きていた理由は『ステラのため』。結局彼のためにはならない。

 

どうにか、振り向かせれば。

 

「教えてくれるらしい。ここへ行けだの、ここで振り下ろせだの。待ち伏せもゲリラも察知するから中々の上玉だった。ただ、()()()()から変わっちまった」

 

変わる節目。思い当たるのは。

 

「ある機会…厄災戦?」

「大正解。それ以来獣に近い戦いになった。狂気じみた怪我で這いずりながら帰ってきたこともしばしばあった。それでも、アイツは死ななかった。医者に死んだ方がマシだと何度言われてたか」

 

──僕は、死ねませんから。

死ねないことが、辛い。その意味が本当に分かった気がする。

 

「そしてある日、急に居なくなった。俺はその日嫌な予感がして軍を抜けた。そしたらあの惨状さ。昔の見る影もない」

「しょうがないことです。栄枯衰廃は歴史の付属品です」

「それでも価値があっちまう。だから俺らはアイツをどうにか遠ざけないといけない」

「それが、今までの行動と?」

 

「まぁ簡単に言えばアイツは有益だってことだ。大切にしろよ」

「ですね。聡明で美しいヒトです」

「美しいはお前だろ」

「いえいえ、美しいですよ。特に戦闘時は舞っているので」

「そう来たか。それじゃ、学校行けよ」

「分かっていますよ」

 

危ない。半分忘れていた。

 

「それともうひとつ、彼の目指すものは何か分かりますか?」

「…アイツが?なら止めとけ」

「何故?」

「アイツの未来は死ぬことしか見えていない」

「もしその未来が変わったら?」

「…そりゃわかんねぇよ」

 

…よし。

 

勝った。

 

「じゃ変えてきます」

「頑張れよ」

 

路線変更はなし。

今日も今日とて、線路を破壊する。

 

§

 

「…ふぅ」

「おかえり」

「…待ってた?」

「ええ、ずっと」

「待たせて悪いわね」

「別にいいですよ。楽しかったので」

 

目つきが変わった。バレたか。

 

「…残りは?」

「5」

「状態は?」

「レベル1、但し集団」

「制限は?」

「5分」

「無視しましょ」

「ですね」

 

ついにバレたか。まぁいいや。

 

「で、問題があって」

「うん」

「このままだと遅刻ね」

「ですね」

「策は?」

 

んなこと言われても。

 

「ない…いや、あるか」

「どっち?」 

「手段を選ばないなら」

「ならそれで」

「それじゃ、『飛べ』」

 

景色が飛ぶ。着いたのは学校前。

 

「すごいわね」

「残念なお知らせですが残り1分です」

「見えてるのに遠いわね」

「何を言っているのですか?窓から行くんですよ?」

「…はぁ?」

「『手段を選ばない』結果です」

「…忘れてた」

 

ルーナが本当に困った顔をした。絵になる素体のせいで無駄に美しい。

 

「まぁ僕が付きますが。怪我しては困るので」

「それは助かる」

「さ、跳びますよ」

 

ルーナを抱えて飛ぶ。順調に不変の体重。ちゃんと食べさせているはずなのに。

 

「どこが教室です?」

「2階のその先よ」

 

ルーナが指差す。

 

「はいはい、そこでしたか」

「変わってなければねぇ!?」

 

一気に踏み込む

悲鳴が聞こえる。解せぬ。

 

「着きました」

「…本当、早いわね」

「今日の欠席は…ルーナさん、来ましたか?」

「先生、窓からですが来ました」

「おや、2人揃って登校ですか」

「いかにもそうだな。向こうの担任に伝えておいてくれ。『1限から出る』と」

「自分で伝えてくださいねー」

「…チッ」

「しょうがないでしょ、自分のことは自分でしなさいよ」

「それじゃ、置いていきます。ヤミアガリなんで一応気をつけといてください」

「報告ありがとねー。んじゃ、ホームルーム終わり。各自怪我に注意すること」

 

後ろに倒れ込み、5点着地。高所からの落下の基本である。

声が聞こえたような気がしたが知らない。

 

「さて、昇降口へ行こうか」

 

ちゃんとルールは守るのだ。

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