壊れた少年のマーチ   作:オリの中のカナリア

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まーた遅れてしまったよ()
人生3度目のクソデカ地震に遭い色々心は砕かれましたが私は元気です。


沼の底へ

今日の日は

 

いつまでも かえることなく

ともだちで いよう

あすのひは ゆめみて

きぼうの みちを

 

「ねぇ、聞きたかったのだけど」

「はい」

 

クラスの人の数人に囲まれた。

 

「あの子とはどういう関係?」

 

誰を指すのかはすぐに分かった。

事実をオブラートに隠していえばいい。

 

「どういう…どうもこうもないと思うのですが…」

「流石に無理があるでしょ、流石に。何で病み上がりなんて分かるのよ」

「やみあがり…ああ、そのことですか」

「病気の面倒を見てくれたわけでしょ、何かされた?」

「そもそも病気になどなっていませんが」

「でも病み上がりだって…」

「そのやみあがりじゃありません。闇から這い上がる闇上がりです」

「まさか頭を弄られたの?」

「いえ、実際に闇に傾いていました。だから調整する必要があったんです」

「…魔力のこと?」

「はい、最初からその話ですが」

「わかりにくいわね…」

「というか闇に傾くなんてあるの?」

「はい、私の場合かなり顕著な方かと」

「へぇ〜、どんな症状?」

「眩暈とか吐き気とか食欲不振とかですね。酷いと数日歩けなくなります」

「数日歩けなくなるとかワタシには無理じゃん」

「そうねぇ、1日ならまだしも、数日はね…」

「それで?今回は?」

「本当に死にかけました」

「…マジ?」

「ええ、彼がいなければここにいません」

「中々やるじゃん、あの子」

「んで、何もされなかったの?」

「ええ、特に興味もなさげで」

「アイツ人なの?こんだけ恵まれた身体見て何も感じないとか」

「いや流石にそれ本人の前で言うのどうかと思うよ?」

「思わない?こんなちょうど良さそうな女がいて都合のいい理由があったら触りたくない?」

 

背後にまわられ胸を揉まれる。別にこだわっているわけではないが少し嫌だ。

 

「まぁ…思わなくはないけど」

 

思わないでほしい。

 

「じゃあアイツがおかしいんじゃん。殴り込み行ってくるわ」

「いやアンタが判断してどうすんの。触られて嫌かどうかは本人だし考え方の問題もあるし」

「ビビりすぎなんだよ。男がもっと押せばすんなり通るってのに中途半端なところで手を引くからくっつけないし」

「と言ってるアンタの距離感も大概だけど。そろそろ離してやりな?困ってるよ」

「おっと、だいぶ柔らかかったのでつい」

 

やっと手を離してくれた。

 

「で、どう思うの?」

「男の側にいるのは本当に嫌です。死んでも嫌です。気持ち悪い」

「おお、中々言うねぇ」

 

自分から突っ込んでくる存在が特に嫌だ。

何故あなたに私のことを話さなければならないのかと思う。

 

「でも、あの人といると心地いい。どうしてかは分からないけれども、それがちょうどいい」

 

ヴァルフはラインを守る。絶対に踏み込んでこようとしないし過度の干渉もない。

だから話しやすい。

 

「ああ…なるほどね」

「ああ…そういうこと」

 

何がそういうことなのだ。分からぬ。

 

「どういうこと?」

「なるほどね、だからこうなるわけかって納得した」

「言うのは野暮ですし…」

 

周りの人で結託して結論が出たようだ。置いていかないで欲しい。

 

「ガッツリ押してみたら?」

「あ〜それあるかも。こんな子だし意外と落ちるかも」

「何が、ですか?」

「くっつくための戦略、かな?」

「どっちかというとおせっかいなんだけどね」

「というか前提として、どう思ってる?」

「…よくわかんないです」

「そっか…じゃまだ早いか」

「だね〜。頑張りなよ、他の子に取られるかも」

 

何故か満足げに帰って行った。

 

「…絶対に取りも逃しも、させませんが」

 

絶対に逃しはさせない。

あれは、素晴らしき器と魂。

私が待ち望んだ存在なのだ。

 

§

 

引き戸を開け、教室に入る。相変わらず静かなものだ。

自分の席の存在を認識し、席に着く。花弁が1枚、机の上に落ちていた。

花弁を摘み、匂いを嗅ぐ。特徴的な甘い匂い。

 

「この花…」

 

花に中程度の神経毒のある植物。

少量を痺れ薬に使うが、存在が貴重であり中々目にかからない種である。

周りを見渡す。特に動きはない。

 

「…残念」

 

しょうがないので授業の準備をする。

花弁だけ残すなど何と勿体無いことをするものだ。

 

「…うん」

 

食べちゃえ。

 

花弁を丸呑みする。

 

「!!」

「反応したね、君かい?」

「…何が?」

「この花。持ってきたのは君かい?」

「何言ってんだかわかんない」

「うん、微かな匂いも一致したね。とりあえず感謝するよ。ありがとう」

「…は?」

「花ごと置いてくれればよかったのに。全部食べてあげたのに」

「え?」

「あ、そっか」

 

知られていないのか。

まぁしょうがない。書物庫もどうせ焼けただろう。

 

「この花、毒があるのは花の種子の部分でさ。花弁は無害なんだよね。んでもって、おそらくこの本体はどこかにあると思うんだけどさ」

 

「これ、どこから買った?」

 

一瞬、目が泳ぐ。

 

「花屋にあった」

「中々度胸がある店主ですねぇ。この花、禁止レベル5の採取・所持・販売・交易禁止の品なんですけどね。もし発見した場合は速やかな報告が義務付けられていた筈ですが」

「…1つだけ安くあった」

「でしょうね。こんなの店頭に置きたくなどないですし、捕まるよりは利益無視で売っ払った方がためになりますからね。まぁ逆にいえば今、僕がそれを指摘した場合君が危ういという警告なのですが」

「私は持っていない」

「ほう、花屋で買ったのに持っていない。つまり君は毒物を街に撒いたわけだ。こうなるともはや問題という次元を超えますね。罪状は『毒殺未遂』と『密輸』と『不法投棄』と『報告義務怠慢』となりますね。最近ここまでの罪状も見ませんね」

「…私は持っていない」

「そこで話があるのですよ、今さっき花弁を食べたことによって物的証拠が消えた。ただし君が買った花の本体はまだ君に所有権がある。そして朗報だが裏市場の捜査を今やってる。このままだとおそらく君が買った記録から辿られて中々の罪を背負うわけだけど、ここで花の本体を僕にくれれば花を全て食べよう、と言っているわけだ」

 

つまらない話だ。理解はできるはずだ。

ただ、そこに 矜持(プライド)が関わるだけで結論が変わる。

 

「さ、どうする?」

「私は持っていない」

「つまり所有権もないと。このままだと『偽証』になりますが」

「『偽証』を誰が証明を?」

「現在の事実ですが。まさか理解できないのでしょうか?」

「分からないな」

「ならサルでも分かるよう言いますね。購入という行動は『金』と『権利』を売買します。あなたは花と金を交換し、花を扱う『権利を』得たのです」

「それで?」

「今、花を自由にする権利はあなたが持っています。もし、あなたが話に応じるというのならその権利が私に移ります。その代償である金があなたの持つ『罪』となるわけです。まぁ僕なんて多少の罪を被ったところでってところがあるので互いに利益があるわけです」

「こちらの利益は分かったが、そちらの利益とは?」

「毒のある花を手に入れる機会なんてないので。毒の味も知れますし」

「毒の味、か」

「おや残念。時間切れです。罪の味を味わってくださいね」

「……」

「ヤな人ですねぇ、自分で選んだのに。運命の先は宿命ですよ」

 

クロか。残念だ。もういないと思っていた自分が愚かだった。

 

『花よ散れ。永年(ときとわ)に』

 

真っ黒な闇が覆い、塊となる。

 

「しまった」

 

『喰らい尽くせ』

 

人が消滅する。ざわめきと恐怖が広がる。

 

『バラせ』

解方陣(ディスクエア)遅延(スロウ)

 

塊が散らばる。人の跡に一輪の花が落ちる。

 

「全く…余計に抵抗するからこうなるのです。素直に出せば代償なんて発生しえなかったのに」

「…ヴァルフ」

「…ジューク、どうしたんだい?そんなに怖い顔をしなくたっていいだろう?」

「何をした?」

「何って…本来の花の怖さを示しただけですが」

「人間の消滅が?」

「この花の怖いところはそこです。花自体はそこまで危険な花ではないのです。ただ、この花は所有者の生命を刈り取り続けるから問題なのです。とはいえ本来こうはならないのですが」

「ならどう説明する?」

「まぁ暗殺じゃないですかね。よく使う手ではありますし」

「目的は?」

「さぁ?そこまでわかればそちらを潰すつもりでしたが。中々吐かないので」

「そうか」

「…皆さんが本当に騙されやすくて僕は不安です。僕が暗殺の手助けをしたと考えないのですか?」

「そんな面倒なことをする必要がないだろう?君なら首を落として終わりだ」

「そうでしょうか。僕は何でもできますよ」

「それでいながら最適解のみを選択する君だろう?人に頼らないことに定評のある君が自分でできることをするわけがない」

「それが『フォーマルハウテ』の名を冠する状態なら、ですが」

「いま君は『フォーマルハウテ』の名を冠しているだろう?」

「なるほど。確かにそうです。ですが、あなたは『フォーマルハウテ』の名を冠しない僕を知らないはずですが」

「ああ、知らないな」

「なら何故『いま』であると限定を?そのような確証はないはずです。君は面倒ごと、特に語弊を嫌うきらいがあったはずですが」

「…よく見ているんだな」

「いつ刺されるか分かったものじゃないですから」

「…何が正しい?」

「簡単です」

 

全て狂っている。僕も僕の周りも。

 

「もう鬼ごっこは終わりです。さようなら、愛した世界(マイワールド)

 

世界にヒビが入り、砕け散る。

地面がなくなり、どこかへ落ちる。

 

「分かっているんですよ、ステラ。もうやめましょう?こんな醜い争い」

 

化かし、化かされの騙し合い。

そんなものに価値はない。

 

1度壊したものは、戻るわけではないのだ。

 

「もう大丈夫です、ステラ。悲しみも苦しみも痛みも、全て僕の感情です。僕は受け入れられます。だから解放してください」

 

僕は世界を壊してしまっていて。

その事実は分かっていて。

それでいて僕は普通で。

 

自己保身の塊(エゴイズム)なんて、いらないはずです」

 

ああ、何故気づかなかったのだろう。

 

何故僕と『俺』がいるのか。

何故壊したバルバトスが存在したのか。

何故記憶が思い出せないのか。

何故僕の記憶の1部分だけが欠落したのか。

 

全て分かった。これはステラが作った『現実に沿った夢』だ。

『もしかしたら』の全てが詰まっているのだ。当然、バルバトスがある。

そして現実だからこそ、1から人は増やせない。だから他の人に植え付けた。

1つの脳に2つの記憶など入りきらない。だから消えた。

他人の脳みそをいじり倒して不完全であるが故に思い出せない。

 

ああ、残酷だ。1人の人間の運命を変えてしまった。

いかにこの罪を償えるだろうか。

 

「大丈夫、また会えるさ」

 

パチンと弾けた音がした。

 

§

 

「…うぅ」

 

人の顔が視界に入る。

銀糸のように輝く銀髪に深く引きずられるかのような蒼眼。

肌は透き通るかのような白さを持ち、鼻筋の通った端正な顔立ちである。

腕は細く、胸も控えめながら全体のバランスに合っている。

 

まるでルーナ。

 

ルーナ?

 

違う。きっとこの子は

 

ああ、夢だ。

所詮は希望を持ったエゴだ。

 

「お目覚めですか、マスター」

「…ますたー?」

「はい、あなたこそが私の唯一の指導者(ハンドラー)です」

「はんどらー…?ルーナじゃないのか…?」

「記憶が混濁しているのでしょうか?やはりこの場での完全な回復は不可能なようです」

「すまない、全て説明を」

「はい、私たちは導かれし者(トラッカー)の任を受け、現在進行中です」

「…損害は?」

「今のところ少程度の損傷のみ確認済みです」

「撤退する」

「不可能です」

「は?」

 

Why?

 

「私たちは最終任務を遂行中ですので」

「条件は?」

「無期限の敵地偵察です」

「…おいおい、損失は?」

「およそ9割ほど」

「クソがよ…」

 

無期限の敵地偵察。

命ある限り敵地を調査し、奇襲する。

それが意味するものは。

 

「お前は下がれ。殿をする」

「いえ、その意味はありません」

「何故だ?」

「私たちは『機族』─主に使われるために契約し、そのために輝く存在です。ですのでマスターなしの私たちになど価値はありません」

「そのようなことはない」

「私たちは宿命に決められし存在。本命を果たせぬものに価値は」

「俺には価値がある」

「ですので」

「だからこそ残す。帰ってから寂しい思いをしたくはない」

「つまり同時に死ぬならば良いと」

「馬鹿か?死なねぇ方法を言っているのに何故そうなんだよ」

「ならどうすれば」

「…前線を下げろ。最低限のみ守れ」

「了解しました。─カノン、ラム、ラインを下げて。損傷の回復と立て直しを」

「立て直すな。そのまま下げ続けろ」

「ですが」

「いいからやれ。狙いを絞らせろ」

「─カノン、ラム。一気に下がって」

 

豆粒サイズの何かがいる。ラムとカノンか。

 

「正気か、コンパス」

「それがマスターの指示よ」

「策はあんの?」

「彼に」

「大型種のみ的確に潰せ。遠距離狙撃も構わずやれ。小型は数がきたら一気に掃討しろ。各自被弾を最小限にし、2人ずつ動け」

「そんなのでいいのか?」

「あとは俺が動く」

「危険です、そばに」

「お前たちの方が危険だろう?この程度どうとでも」

「なんねぇよ。なってりゃこんなことになってない」

「そうだな。大型種もかなり硬い上亜種がいる以上許可はできない」

「特性は?」

「カノンが射撃主体、ラムが近接主体です」

「よし、ラム。切り込め。落とせるなら落として構わない。ただ無理はするな。カノンはバックアップを。勿論数が多けりゃ褒美をやろう。ルー…じゃない、えっと」

「コンパスです」

「コンパス。戦況を逐次流せ。各自に対して指示は出す。当意即妙に反応しろ」

「…しゃーねぇなぁ。やってやるよ」

「射線に入るなよ。撃ち殺されても知らんからな」

「はぁ!?舐めないでよね!アンタこそ突っ込み過ぎないでよっ!」

「ラム、カノン、落ち着きなさい。本来の敵を見失っては本末転倒です」

「…ちっ」

「見失わぬさ。我が眼から逃げられると思うな」

「そりゃ僥倖」

「来ます、注意を」

 

地鳴りがする。

 

「射程内、いつでも」

 

一定のバラついたリズムが聞こえる。

 

「こっちもイケるよ、あとはアンタの指示だけ」

 

音がそれぞれ独立して聞こえる。質量的にも当たれば重症は免れられない。

 

「マスター、もうすぐ相手の射程内に入ります」

「まだだ。確実に内部へ切り込める位置になるまで待て」

 

数が具体的に分かる。

おそらく300は下らない。

 

「マスター、これ以上は危険です」

「動向が見えんな。出来るだけ消極的に戦え。仲間を討たせろ。いいな?」

「わあってるよ、ンなこたぁ」

「いいから指示を出せ」

「…脳天を貫け」

「了解。ラムは錯乱しろ」

「これだけ待たせながらサブか」

「適時場合に応じろ。勿論、報酬も上がる。キルレートを落とすな」

 

雄叫びが聞こえる。空気を切り裂くような高い音と共に地が揺れる。

 

「やれ」

『『accomplish!』』

 

カノンの目前に巨大な光弾が生まれ、高速で放たれた。

発射音こそ聞こえない。しかし、威力は圧倒的だった。

 

「敵反応3割消滅」

「カノン、次は垂直に拡散弾、その後超遠距離狙撃を」

『仰せのままに』

「ラム、全て薙ぎ払え」

『これでもぉ、喰らえっ!』

 

光線が一文字に走り、爆発する。それがラムの攻撃と気づく。

 

「こりゃ、すげぇな」

「地上勢力の壊滅を確認。潮時かと」

「カノン、修正を」

『網羅する』

「話が早いな。ラム」

『わかってる!』

 

遠くで遠雷のような音。ラムだ。

 

「撤退ライン消失。チャンスかと」

「カノン」

『駆逐する…!』

「ラム、下がれ」

『カノン、しっかりしなさいよ!』

 

高く光弾が撃ち込まれ、大爆音が鳴る。

 

「飛行勢力の弱体化を確認。地上勢力の壊滅を確認。勝利です」

「ラム、いけるか?」

『…何する気?』

「厄介な蝿を落とせ」

『報酬は?』

「何でもしてやる、だから…」

『了解っ!消し炭にしてやるわ!』

「聞け、1種につき1体だけ完全な状態でトドメだけさせ」

『お安い御用よ!消えなさい!』

 

一瞬、肌に冷たいものを感じた。




次回 目的と目標 お楽しみに!
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