やがて"最強"と呼ばれるウマ娘の話 作:心折れた騎士
入学〜スカウト
こんにちは!私、ヴィクティミア!走る事と読書が大好きなウマ娘!今日は待ちに待った中央トレセン学園の入学式!
ここで、私の夢である三冠バになる目的を叶えるために頑張るぞ!お母さんが女手一つで大変なのに入る事を許してくれたのには感謝しなくっちゃね!
「……然るに、レースにはグレードがある。ヴィクティミア、分かるか?」
はっ!窓の外で新入生歓迎会の準備をしている先輩達を見ていて話を聞いてなかった!ええっと、レースのグレードだよね?
「えーっと、G1、それにG2、G3もあったかな…?あはは、G7とかまであったりして!」
「ヴィクティミア…あなた、話を聞いていませんでしたね?」
「たはは……。」
周りのみんながクスクス笑う。やめてよぉ、恥ずかしい…!
授業終わりに、ぱっつん髪のふたつ編みの子が話しかけて来た。シャウトマイネームというらしくって、マイルCSに勝つのが夢らしい。
「ねぇ、あなたヴィクティミアって言うんでしょ?知ってる?このクラスに現生徒会長シンボリルドルフの秘蔵っ子がいるって。」
「シンボリルドルフって、あのシンボリルドルフ?」
だとしたらすごい事だ。きっと才能の塊なんだろう。良いなぁ、凄いなぁ。そう思っていると、突然私の近くの席の子が立ち上がって私たちの方を向いた。
「ボクの事、噂してた?フフーン、当然だよね!なんだってボクは無敗の三冠を取るウマ娘、トウカイテイオー様なんだから!」
聞いても居ないのに三冠宣言までしてきてくれた。トウカイテイオー、凄い迫力だなぁ。でも、私だって三冠を取るんだから!
「トウカイテイオーさん、三冠は渡さないよ。私が取るんだから」
私がそう言うと、トウカイテイオーさんは何故か私を蔑むような目で見た後肩をすくめた。
「レースの種類もわかんない様じゃ、ボクには勝てないよ?キミは大人しくG7レースにでも出ていると良いさ!それに、キミはボクにはレースに勝てないよ。絶対にね!」
「むっ、聞き捨てならないな!シンボリルドルフが何だ、七冠どころか、私は十冠とってやるぞ!」
ついカッとなってそう宣言してしまった。あの最強のシンボリルドルフを超える宣言を。マズったなと思い、教室を出る。今は一刻も早くここから出たかった。
「なんだって…?カイチョーを超える?キミ、本当に頭悪いんだね。そんな子、後にも先にも出てこないよ。わからないかな?キミ、傲慢だよ」
「傲慢なのはアナタもでしょ?トウカイテイオー。見てなよ、必ず倒すから」
私はまだ、この時は勝てると思っていた。だけど、現実は非情だった。私はこの後、才能の差という大きな壁を見せつけられることになる。
『トウカイテイオー!一着でゴールイン!入学歓迎レースの勝者はトウカイテイオーです!二着のヴィクティミアとは五バ身差だぞ!強すぎるトウカイテイオー!これがシンボリルドルフの選んだ才能か!?』
「はぁっ!はぁっ!くそっ、何で、何でだ!」
負けた。五バ身差の大敗だ。私だって入学前に努力は怠らなかった。毎日走り込んだし、元競争バのお母さんにもコツを教えてもらった。それなのに、この差だ。これが、才能。
「言ったでしょ?キミじゃ無理だって。ボクにちょっぴりでも勝てると思っていたの?お笑いものだね。じゃ、ボクはトレーナー選別に行ってくるから!」
惨めだ。あんな啖呵を切っておいて、このザマなんて。悔しい。悔しい。悔しい!
「な、なぁヴィク…アイツに負けても、二着なんだから元気出せよな?」
マイル部門で三着だったシャウトちゃんが私を慰めてくれているけど、ちっとも落ち着けない。
その日、私は初めて挫折した。案内された寮の一人部屋で私は一人泣いた。そしてまた起き、立ち直ることのない心を自覚してまた泣いた。
次の日、私が教室に入ると既にトウカイテイオーを中心に円が出来ていた。私は居た堪れなくなった。知らずのうちに、「お前の居場所はここには無い」と言われている気がして、トイレに篭って泣いた。昨日ですっかり涙は枯れたと思ったけど、そんなことは無かった。
私が惨めな思いをしながら授業をサボって廊下を歩いていると、突然男の人から声をかけられた。誰だろう?
「オイ、お前授業サボって何してんだ?」
見ると、眼鏡をかけた人相の悪い男の人が私を見下していた。いや、見下ろしていた。慌てて私は逃げ出す。だって、怖かったから。この人も私を否定するんだ。そうに違いない。だけど、この時男の人の目線が咎めるものではなく、期待するものに変わっていた事に私は気がつかなかった。
放課後、選抜レースに向けて個人練習をしていると遠くにトウカイテイオーが見えた。どうやら、専属のトレーナーを得ることが出来たらしく、チームリギルとの合同演習をするらしい。
「おや、君も練習かい?良ければ私達と一緒にどうだ?」
入学式で話していた偉そうな人…生徒会長のシンボリルドルフさんがそんな提案をしてくれた。私はすぐにも参加したかったけど、トウカイテイオーに止められた。
「カイチョー、その子カイチョーを超えたいんだって!無理だと思うけど、この子に情報を与えちゃダメだよ!」
「テイオー…君は私を勘違いしているようだ。私は常在戦場の心持ちでいるつもりだ。彼女が私から情報を取ると言うのなら、私だって彼女の情報を取って見せよう。そして、その上で私は勝負する。」
「わーっ!カイチョー凄い!そう言うことなら、キミも参加してカイチョーに情報を渡してよね!」
やっぱり、無理だ。もう私の心は折れてしまったみたいで、やる気が全く湧いてこない。
「え、遠慮します……。私は、離れたところでやってますから…」
私は全力で走り去り、校舎裏まで来る。ここまで来れば彼女達はいないだろう。はぁ、惨めだなぁ。
私が校舎裏で一人泣いていると、私に大きい影が差した。涙を拭って見上げると、そこには今朝の男の人が立っていた。
「なぁ、何で泣いてんだよ。お前、練習してただろ?何で逃げたんだ。」
よく観察すると男の人は走って来たのか、少し息が荒かった。私の醜態が見られていたのか。恥ずかしい……。
「はは…私、トウカイテイオーに喧嘩を売っちゃったんです。それで、ボロ負けして…凄く、惨めで、情けなくって、えぐっ、悔しくてっ!」
気づけば私はまた泣き出していた。男の人が私に目線を合わせて優しげな声で語りかける。
「なぁ、お前の夢は何だ?何でお前は走る?」
「そんなのっ!」
昔から、決まっている。初めて私が見た夢、ミスターシービーの情景を忘れられないからだ。
「私は、クラシック三冠バになりたいっ!誰にも負けない、"最強"のウマ娘になるんだっ!」
「よく言った!」
「わっ!?」
ビックリした。突然大声を出されるんだもん。でも、男の人はそんな私の様子なんて気にしないみたいに眼鏡の奥をキラキラさせながら私の手を掴む。
「お前、名前は?」
「ヴィ、ヴィクティミアです…仲良い人にはヴィクって呼ばれてます…」
「よし、じゃあヴィク!お前、俺にスカウトされろ!俺ならお前を最強にさせられる!お前は成るんだ、最強のウマ娘に!トゥインクルスターレースで一番を取らせてやる!URAファイナルズでもだ!G1は何個欲しい?いや、ヴィクが取れるやつ全部取ろうな!多少キツいかも知れんが、最強になる為だ、お前ならやれる!」
「は、はい…」
凄い剣幕で押される物だから、思わず頷いてしまった。さっきまでの尖ったナイフみたいな雰囲気はどこへやら、今の姿はさながら少年みたいだ。
こうして、私とトレーナーさんとの関係は始まった。
ヴィクティミアの名前の由来
VictoryとVictimを捩ったもの。
勝利とは何を犠牲に得るものか。