やがて"最強"と呼ばれるウマ娘の話 作:心折れた騎士
七馬身差は凄すぎる。これは偉業ですね。
最近の私の悩みは、専らヴィクティミアの動向にあると言っても過言ではないような気がする。
私は普段から多忙な方なのだが、それを忘れるぐらいにはどうしてもヴィクティミアを目で追ってしまう。私を倒すと宣言したウマ娘だ、注目しない筈がない。尤も、そのせいでテイオーに拗ねられてしまったが。
「──────と言う事で、私は1日だけ生徒会の職務を休みたいんだが…エアグルーヴ、ブライアン、構わないか?」
「構いませんよ、というか会長は働き過ぎです。もっと私たちを頼ってください。その為の副会長なのですから」
「あぁ、当然私も異論は無い。最近の会長は注意力がどこか散漫だったからな。丁度いいだろう」
おや、二人に気取られる程私はヴィクティミアを注視していたのか。私もまだまだ未熟だな、精進せねば。上に立つ者が完璧でなければ、私の理想は叶えるのが難しくなってしまうからね。
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そんな訳で一日休暇を貰った私だが、早速ヴィクティミアの尾行を開始した。最近、彼女はメキメキと力を上げて来ているように感じる。これも、オグリキャップやタマモクロスと共に練習した成果というものなのだろう。
尾行を続けていると、ヴィクティミアはシリウスがよく屯している空き教室に入って行った。二人は親交があったのだろう。だとしたらいつ知り合ったのだろうか?
「へぇ、ヴィク…お前にそんなシュミがあったなんてな……?」
「ふふ、今日は沢山やるからね…普段我慢してるんだから、手加減しないよ…?」
「ハッ、そうこなくちゃだ」
突然聞こえて来た声に息を呑む。この中で一体何が行われると言うのだろう。変な事を考えてしまった私は、恥ずかしさからその場から離れてしまった。
3時間ほどして、ヴィクティミアは汗だくで出て来た。くっ、恥じている私が情けない…!
汗まみれで出て行こうとするヴィクティミアにシリウスが声をかけている。何々…?『汗まみれだろ、シャワーかしてやる』だと…!?ヴィクティミア、なぜそこで頬を朱に染める!?
私は悶々としながら帰路につき、寮へ戻った。すると、私のウマホにシリウスからビデオメッセージが送られて来ていた。先程の事もあり、ついつい私は見てしまった。それは衝撃の内容だった。
『よォ、ルドルフ。見てるか?今日は随分と私のコトを嗅ぎ回ってくれたみてェじゃないか。まァ、良いや。今の私は少し上機嫌でな。良いコト教えてやるよ。ヴィク、来い!』
『い、イェーイ…ルドルフ会長、見ってる〜?えーっと、何だっけ?『私はの所だろ』そうそう!私は今、シリウスの私室にいまーす…?今から、シリウスと一緒にウマ娘用リングフィットアドベンチャーしまーす。あの、これで良いの?』
『あぁ、それで良い。見てろよルドルフ、お前のご執心らしいヴィクのアラレもない姿をよ…』
そこから先の光景は、健全なのだがとても破廉恥に思えるものだった。圧倒的な運動負荷の前に苦悶の声をあげるヴィクティミアと、その様子をニヤけながら見るシリウス。何故だか悔しい気持ちが湧いて来た。
それが暫く続いた後、ヴィクティミアの頬は上気し、疲れに喘ぎながら眠そうに蕩けた目で此方を見ていた。なるほど、これが所謂寝取られというものなのだろうか。別に、私とヴィクティミアはそんな関係では無いのだが何処となく敗北感を感じるのは何故だろうか……
────⏰────
「ルナ、どうしたんだ?そんな顔を赤らめて」
いつの間にかトレーナー君の元に駆け込んでいた私は、トレーナー君に事情を説明した。
「あのね、ルナのライバルがね?シリウスちゃんに取られちゃったかもしれないの!」
「シリウスにか?どうしてまた…それに、ルナからライバルなんて言葉を聞くのは本当に久しぶりだ。詳しく教えてくれ」
「あのねあのね、シリウスから変なビデオが送られて来たの。それを見てたらね、何だかここがムズムズして、変なの!」
「──────何?それ、見せてくれるか」
トレーナーくんがそうお願いするので、私はトレーナーくんにその映像を見せた。そしたら、トレーナーくんは妙に真剣な顔つきで「成程」と呟いた。それと同時に、ルナの…いや、私の思考もクリーンになっていく。
「ルナ、これは…所謂、"そういうもの"だろう。だが、これを見て変な感情を抱いたというのなら…そう言う事だ。」
「そうか──────これが…身から溢れ出る闘志か…!やっと理解出来たよ。私はこれまで、相手を打ちのめそうとする勝ちは望んでいなかった。だが、この昂りはどうだ?今すぐに戦いたい。鍛えたヴィクティミアと全力でぶつかり合いたいこの思いは…とても、素晴らしいものだ」
私が結論を出しトレーナー君に顔を向けると、そこには私と同じギラついた目をしている"男"が居た。ふっ、全く頼もしい事だ!
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最近、どうもジャリん子タマモの様子がへんでい。妙にそそっかしいっつうか…アタイに隠し事してる感じってェの?とにもかくにも、あンチビに一度問い詰めないとダメだなァ。
「つぅわけで、タマモォ!アタイに隠し事してねェか?江戸っ子に嘘なんざァ、意味ねえこった。さぁ、吐いちまいな!」
「るっさいわボケ!仮にウチが隠し事してたとして、なしてお前に言わなアカンねん!?江戸っ子かぶれに言うコトなんざあらへんわ!」
「んだとバーロー!隠し事ぐれェ、教えてくれてもバチぁ当たんねえだろうが!ケチタマモ!」
「倹約家って言えこのスカポンタン!」
いけねェ、コイツに絡むと喧嘩になっちまう。サッサと本題に斬り込まねえとな。
「イヤサ、最近付き合い悪ィじゃねえかよ。どうしたってんだい?引退してからは縁側のジイさんみてェな生活送ってた癖によ」
「…………お前には関係、あらへんねん。アイツは…ウチの
ほほぉ、良いことが聞けたな。つまる所、ガキンチョタマモに気になってる奴が居るんだな?それでソイツをルドルフ会長とオグリキャップで取り合ってると。面白えコトになってんじゃねえかよい!これは生意気なタマモに一泡吹かせられるまたと無い機会でい!
それに、花火や喧嘩は江戸の花って言うだろ?
「なァ、アタイにもその話噛ませろって!ソイツの名前、なんてんだ?」
「チッ、喋りすぎたわ。お前の顔見てたらウドンが不味ぅなる。ほなら、お暇すんで」
そう言ってタマモは行っちまいやがった。野郎ォ…絶対にその花明かしてやるからな!覚悟しとけ。
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「お前がタマモのスケかァ…フン、悪くねェ趣味してんなァ」
数日間尾行を続けて、ようやっとタマモの思い人の正体が掴めた。そんで今はソイツ…ヴィクティミアとか言うのに接触してる最中でい。
見た目は真っ白。目ん玉も真珠色や。幽霊みたいなやっちゃな。その癖目線はしかとアタイを見据えて離さない。
「タマモクロス先輩の…?何の用ですか?私これからトレーニングなんですけど」
「まァそう固えコト言うなよ。な、良いだろ?」
アタイはヴィクティミアの肩に手をかけ、誰もいない教室へ連行しようとした。だが動かねェ。まるで巌だぜこりゃあ…このアタイがジュニア級のガキに力負けだとォ…?許せねえ。
「良いからッ!来いってんだよォ!このッ!ふッ……グゥッ…!」
「無駄ですよ。」
「──────あぁ?」
今、何つったコイツは。
「聞こえなかったんですか?無駄だと言ったんです。その程度のパワーで、この私を超える事は出来ぬゥ!」
「…舐めやがって。力でダメなら、レースで勝負ってェのがウマ娘ってもんでい!お前、後で泣いても知らねェからな?」
「望むところだ…決着を。」
「ンでテメェは偉そうなんだよ」
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「良いか、このコインが地面に落ちた瞬間にスタートだ。距離は2000だぜ、アタイが勝ったらお前がタマモの何なのか教えろヨ」
「…っ!」
へっ、コイツぁ良い。ふてぶてしい奴のクセに他人の闘志には敏感と来た。大抵のウマ娘ァな、静かな闘志ってモンには気づけねェもんだ。だがコイツはアタイの体内で静かに闘志が練り上げられてンのをビリビリ感じてるに違ェねえ。少なくとも、ジュニアやクラシックで燻ってる様な奴たぁ一線を画してるってこった。
「3…2…1………そぉれ!」
コインが投げられて落ちた。このイナリ、伊達に何年もレースに出ちゃあいねえ。集中する特殊な技術なンか要らねェ、ただその刻を予測するだけでい。
「ッシ!出だしは頂きィ!」
一瞬で前に出てサッサと引き離すとすっか。ギアをちっとばかし上げ、加速する。自慢げにチラリと後ろを振り向きゃあ、ヤツの姿は無かった。
(…何だ?姿が見えねェ。そォか、ビッタリ張り付いてやがんな?さすがだぜ。だがな!テメェの魂胆なんざ見え見えなんでい!)
アタイは外ラチにほんの少しズレ、奴さんの姿を目視しようとしたっつぅのに、全く姿を見せやがらねえ。何だ?アイツは何を考えて…
「言ってなかったね…私は、最強なんだ」
少しでもミスれば大怪我でもしちまいそうな程の前傾姿勢に、地面が深く抉れる程の力で踏み込みをかけてアタイよりも内ラチ側の真横に並んでいた。
「ッ!コイツ、
「化け物…違う、私は…『最強』だぁぁぁぁ!」
バケモンはバケモンでも、コイツはまだ
「ハッ!最強が何だァ!?今この場で最も強えのはァ、アタイだろうがァァァ!!!」
更にギアをブッパしてトップスピードになる。コーナーはとうに過ぎてる。後は直線でブチのめすだけ。なのに何故、差が開かねェ…!?
「負けるかぁぁぁぁ!!!」
「クソッタレがァァァ!!!!!!」
────⏰────
結果は、アタイのたった数ミリでの勝ちだった。だが、この勝ちは実質負け見てぇなモンだ。シニア級のアタイが、ジュニア級のガキと拮抗した勝負を強いられただと?そんなモン、アタイのプライドが許さねえ。
「はぁ…はぁ……私の、負け…ですね…」
「圧勝出来なかったんが業腹モンだが、はぁ、勝ちは勝ち、だろ?約束通り教えて貰おうじゃねェか。お前はタマモの何だってんだ?」
そう聞くと、ヴィクティミアはちぃと考える素振りを見せた後、首を傾げながら言った。
「──────手間のかかる後輩?ですかね。よくトレーニングに手伝ってくれますし。勉強とかも教えてくれるんですよ。タマモクロス先輩は言うなれば、第二のトレーナーさん?って感じですね!」
「いや、絶対そんなんじゃ無かった。」
いけねぇ、つい標準語が出ちまった。
「え?そうですかね…。まぁ、貴方ほどの人が言うんですから間違いはあんまりないんでしょう」
「よせやい、アタイだっていっつも正しいってワケじゃあねェんだ。ま、今日の所はこんぐらいにしといてやらァ」
突然素直になったヴィクティミアに困惑しつつ、アタイはそのままメアドを交換した。認めたくはねェが、コイツは強え。だから、アタイは絶対に今のアタイを超えてみせる。
そう決意して帰路についてたらヨ、やけにギラついた目をした会長サンと出会った。何も言ってァ来なかったが、ありゃアタイを睨んでたに違ェねえや。アタイは何も見なかった。うん。そうに違いない。
(その後のヴィクティミア)
「なんだったんだろ…あの人」
「ヴィクティミア、この後時間はあるかい?」
「あっ、ルドルフ会長。どうしたんですか?」
「──────君は本当に…。良いだろう、君がそういう態度ならそれに合わせよう」
(え…何?怖。)
◆本日のヴィクティミアは強者日和だった為、無事過労でシリウスの部屋に居た。