やがて"最強"と呼ばれるウマ娘の話 作:心折れた騎士
ですが、めげずに頑張ろうと思います!
いよいよ、明日が京王杯という日まで来た。
粗方対戦相手の情報も調べ終わった。私が戦う中で一番強そうだったのが、ルインズエトワールちゃん。中々の好タイムを出していて、レース運びも上手いらしい。このまま順当に成長していけば更に上も取れるだろうというポテンシャルも端々から感じ取れる。
その他にも、瞬間的な爆発力がすごいバゼルダイナマイトちゃんや2回の大きな加速が出来るギアセカンドちゃんも警戒するべき相手だ。
「お、ヴィク。それ対戦相手か?」
「トレーナーさんですか。はい、そうですよ。私の目から見て強そうだなぁって思った子たちをリストアップして対策を考えてるんです。」
そう言うと、トレーナーさんは鼻で笑った。
「ハッ、お前に対策なんざ必要ねぇよ。お前は最強だからな。影も踏めねえんじゃねえか?確かに、お前の技術はまだまだ未熟だ。だけどな、この程度のレベルなら万が一にでも負けるわけがない。」
「油断大敵ですよ!天文学的な確率で負けるかも知れないじゃないですか!私は0%が良いんです!」
「その心意気や良し。だが、このレベルなら…そうだな、レース前に足を折られるか、レース中に全員に囲まれて肘やら砂やらを当てられまくらないと負ける事は無いだろうな。もっとも、G2レースでそんな事する奴は居ないだろうが」
「そんな物騒な事、する人いるんですか?」
そう聞くと、トレーナーさんの顔に影ができる。さてはこれは心当たりがある顔だな…?
「居るさ。かく言う俺も、ゴッドスピードの大事なレースの前に拉致されかけてな。俺の命と引き換えに出走をやめさせるつもりだったらしい。な?怖いこともあるもんだろ?」
え、怖…勝負の世界はもっと綺麗なものだと思ってたから衝撃が隠せない。そんな事起きたら…私は強いから大丈夫だとしても、トレーナーさんがもう一度襲われる可能性がある。
そうなった時、私は動揺せずに走れるだろうか?
「怖いこと言わないでくださいよ。最強の私のトレーナーさんなんだから、攫われないでください。攫われてもその場の全員のして来てくださいね」
「任せろ、あれ以来俺は合気道をやってるんだ。武術の心得がないウマ娘なら俺でもやれる」
ふ、不安だ…万が一の為に、GPSとか仕込んでおいた方が良いのかな。いや、なんかそれ重い女みたいで嫌だな。
そんな事を考えていると、トレーナー室をノックする音が聞こえた。
「はーい」
「失礼します。今日は鬼築トレーナーに要件があってまいりました」
「なぁっ…!?あ、貴女は…!」
訪れたのは、まさかの人物だった。以前の事もあって、もうちょっかいはかけて来ない物だと思っていたんだけどなぁ。
「樫本トレーナー…!?なぜ、ここに…!?」
トレーナーさんが驚愕の声をあげる。それはそうだろう。以前、私の教育方針を巡って痛いところを突かれまくったからだ。
あのまま私が現れなかったら、もしかしたら私は樫本トレーナーのモノになってたかもしれないと思うとゾッとする。この人の元では最強にはなれないから。
「鬼築トレーナー、そしてヴィクティミア。私はあなた達に宣戦布告をします。明日の京王杯、私の教え子であるデフィナイトウィンが出ます。そこで勝負しましょう。私が勝ったら、ヴィクティミアを私のチームに引き入れさせていただきます」
「まだ諦めてなかったのかよ!?んで、アンタが負けたらどうするつもりだよ。ヴィクと釣り合う対価、用意できんだろうな?」
「私が二度とあなた達に関わりません。これでいいですね?」
トレーナーさんと二人でポカンとする。
何を言っているんですかこの女は…!?こんなの賭けになってないし、勝つ事に対してのメリットが無さすぎる…!もしかして、すこし抜けてる人なのかな?
「はぁ?そりゃねえぜ。第一、アンタが絡んで来たって来なくたってヴィクは俺とやってくんだよ。それに聞き捨てならねぇな、まるでヴィクが負けるみたいな言種じゃないか。いいぜ、ぶっ潰してやるよ。デフィナイトウィン、だったか?その子のメンタルケアの用意をしておくんだな」
あ、トレーナーさんのメガネがキラキラ光ってる。これは本気モードのトレーナーさんだ!
それにしても、凄い煽るなぁ…戦うのは私なのに。
「良い威勢ですね。その高い鼻っ柱、追って差し上げましょう」
二人がカッコよく決めた後、樫本トレーナーは去っていった。
────⏰────
時は流れ、当日。私はパドックの控室にいた。
今のところ私は一番人気だ。周りの子達は私に向かって鋭い目線をぶつけてきている。
その中でも特に視線が厳しいのは、濡羽色の髪に漆黒の目、私と真反対みたいな姿をした子だった。
「デフィナイトウィンさん、出番ですよ」
「はい」
そうか、あの子が。樫本トレーナーが私に差し向けてきた刺客か。成る程、
でも、私の方が強い。
「ヴィクティミアさん、出番ですよ」
「はいっ!」
私はパドックの小ステージへの道を堂々と歩く。
横断幕を抜けると、沢山の人の期待する顔が見えてくる。私はジャージを投げ捨てると、高らかに宣言する。
「私は──────勝つよ!」
『ウオオオオオオオッ!』
会場は大盛り上がり。ま、トリだから多少はね?
────⏰────
「ヴィク、祝勝会は"らぁめん三郎"でやるぞ。先に行って待ってるからな」
「当然、奢りなんでしょ?」
「当たり前だろ。じゃ、頑張れよ」
トレーナーさんから激励の言葉を貰うと、私はターフに足を踏み入れた。凄い観客だ、席は満席。流石は国民的スポーツの二番目に格が高いレースだ。
「ねぇ、あなたヴィクティミアでしょ?」
「…君は、確かデフィナイトウィン。何か用?」
「正直、あたしは今回このレースに出るつもりじゃなかった。でも、理子ちゃんが勝ってってお願いしてきてくれたからね。あなたに勝つよ」
「負けても泣かないでね?」
「そっちこそ」
デフィナイトウィンと熱い視線を交わし合い、いよいよレースが始まる時が近づいてきている。
『二番人気からご紹介しましょう!5番、ステラクロニクル!』
『やはり、G3に勝っているだけあって実力が伺えますね』
『この評価は少し不満か?飛び入り参加の黒きウマ娘!8番、デフィナイトウィン!』
『今回がはじめての重賞レースですから、緊張していなければ良いのですが』
『今日の主役はこのウマ娘をおいて他にいない!傲岸不遜、最強を名乗る白い影!3番、ヴィクティミア!』
『実力は完全に上位の雰囲気ですね。この子に勝てるウマ娘は果たして出てくるのでしょうか?』
ゲート内の全員の視線が一瞬こちらを向く。これは囲まれるかな。なら、ぶち抜くだけだ。
『各ウマ娘ゲートイン完了しました。』
これに勝って、G1に出る。大丈夫、余裕だ。
神経を張り巡らせて始まりを今か今かと待つ。
『スタートしました!』