やがて"最強"と呼ばれるウマ娘の話   作:心折れた騎士

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京王杯

 

『スタートしました!各ウマ娘、順調な出だしだ!先頭に躍り出てきたのはやはりヴィクティミア!ぐんぐん差をつけていくぞ!』

 

出だしは快調、このまま引き剥がしてスタミナを削り切ってやる!大丈夫、普段通りに…!

 

『おおっと!ヴィクティミアの影に黒い影!デフィナイトウィンがいるぞ!非常にハイペースのヴィクティミアの真後ろにピッタリくっついている!』

 

「何っ!?ここまでとはね!」

 

「………勝つ。勝つ。勝つ!」

 

『なんという事だ!デフィナイトウィン、ヴィクティミアを抜かしたぞ!これは少し掛かりすぎているかもしれません!ヴィクティミアの表情にも焦りが見えます!』

 

まずい、自分の力を過信しすぎたか!?でも、私は諦めない。私は最強なんだ、ターフの王様なんだ!

 

『さぁ第一コーナーに差し掛かって…出ました!ヴィクティミアの芸術的カーブ!あっという間にデフィナイトウィンとの差を縮めていく!後続の子達は全くついていけてないぞ!?』

 

「出た…!落ち着け。あたしは、弱く、ない!」

 

「ッ!?私のカーブを真似した!?でも、これ以上速くなれないでしょッ!」

 

『ヴィクティミア更に加速!デフィナイトウィンとの差をどんどん離していきます!デフィナイトウィン少しよろけたが大丈夫か!?』

 

「あっ…!?くうううっ!」

 

「これ以上無理する事は無いッ!私に勝ちを譲れ!」

 

「あし、痛い…!でも、ここで負けるのが、一番、痛いッ!!!」

 

『なんとぉ!?デフィナイトウィン、ヴィクティミアの走りを完全トレースだ!まるで光と影、この勝負は影が上回るか!?』

 

「どうなっても、知らない…よッ!!」

 

私は地面を思いっきり踏みつけ、まるで直線にいる時のような加速力で曲がる。一歩、足りない。このまま私はまた負けるのか?

 

嫌だ。負けたくない。こんな所で、私は終われない。

だから。

 

──────全部、奪う。

 

「私にィ…!全部寄越せぇえええええええっ!!!!!」

 

「ッ!?」

 

『ヴィクティミアここで再点火!心なしか彼女から黒いオーラが見える気がします!しかしデフィナイトウィンも負けじと加速!この勝負はどちらが勝つのか!』

 

「もっとだ!お前のスベテを、私の物に…!」

 

一瞬、私の視界に映る謎の景色。純白の空間に大扉が一枚。これを破れば、私は…!

 

『ヴィクか、デフィか、ヴィクか、デフィか!』

 

扉に手をかけて、力強く押す。重い音を立てて扉は開いていく。この先に行けば、私は最強だ。さぁ、王様の凱旋だ!

 

『ヴィクティミア勝った!ヴィクティミア勝った!ヴィクティミア大勝利ッ!漆黒と純白の対決は、純白が制した!G2とは思えない程のハイレベルの戦いでした!二着はデフィナイトウィン!三着争いは…』

 

 

 

…………え?もう、終わり?

まだ走り足りないよ。あと少しで見れたのに。

 

「…おめでと、ヴィクちゃん」

 

「ぁ……そっか、私…勝ったんだ」

 

今の私には、勝てた喜びよりも"領域"に至れなかった事に対する失望感しか無かった。

あと少し、あと数秒、それさえあれば私は至れていたというのに。でも、そう悲観する事じゃない。私は今日、好敵手に出会ったのだ。私を成長させてくれる善き敵に。

 

「デフィナイトウィン…いや、デフィちゃん。お願いがあるの」

 

「何?」

 

「朝日杯FS出てよ。そこでまた勝負しよ?」

 

私がそう言うと、デフィちゃんは人形みたいだった顔をにっこりさせて頷いてくれる。それと同時に私も笑顔になる。ただし、私達の目はいつになくギラついている事は二人のトレーナーしか気づくことはできなかった。

 

────⏰────

 

 

「一着おめでとうございます!今の気持ちを聞いても良いでしょうか!?」

 

「勝って当然ですね。でも、デフィちゃんはとっても強かったです。それ以外は名前と戦術ぐらいしか覚えていません。」

 

私は今、入着者インタビューをしている。隣ではデフィちゃんと三着だったロックウェルちゃんがインタビューを受けている。これが終わったらライブだ。

今回はしっかりライブの練習もしてきたんだから!

 

「流石は【傲岸不遜】!威勢のいい言葉ですね!ではお聞きしますが、お次に出られるレースは何にするつもりでしょうか!?」

 

「朝日杯フューチュリティステークスです。デフィちゃんも出ますよ」

 

私は予め決めておいた答えを言う。それを聞いて記者の人はニィと笑うと、小声で「スターの誕生だな」と口走った。聞こえてるからね。

 

このあと、私は上機嫌でトレーナーさんの財布の中身を消し飛ばしたのだった。

 

______________________

 

 

ずっとあたしは一人だった。

トレーニングの時も、メイクデビューの時もずっと一人ぼっち。お世辞にも性格が良いとは言えないあたしは、下手に才能があったのもあって友達といえる友達がいなかった。

理子ちゃんがあたしに声をかけてきてくれた時は飛び上がって喜びたかった。でも、あたしは昔から表情筋が死滅してるみたいに笑うことが出来なかった。

そのこともあって、チーム「ファースト」のみんなとも打ち解ける事が出来なかった。

あたしの口下手も災いして、仲良くなろうと話しかけてくれているチームのみんなにも嫌な思いをさせちゃっているんじゃ無いかってずっと不安に思っていた。

 

でも、今日初めて友達と呼べる子が現れた。事の発端は理子ちゃんがご執心のウマ娘、ヴィクティミアと戦うと決まってからだった。

初めて見たヴィクティミアはあたしとは真逆で、真っ白な髪に真珠色の目。でもその目はただひたすら強さを求める力強い目だった。

そして走りでもヴィクティミアは綺麗だった。欲しい。そう思った。身体は自然と着いてきていた。

自分でも驚いたのは、本来圧倒的な負荷がかかるような走り方なのに走りやすかった。それでも、ヴィクティミアは想像を超えてきた。

一瞬、ヴィクティミアの周りだけ雰囲気が違っていた。開けてはいけない扉の前に立たされている幻覚を見た。あたしは何とかその幻覚を振り払って前に出ようとした。

でも、気がついた時にはヴィクティミアはゴールしていた。勝ったはずのヴィクティミアはどこか呆然としていて、現実をうまく把握できていないみたいだった。

 

やっぱり、あたしなんか眼中に無いのかな。

そんな考えが浮かんできて、つい声をかけてしまう。すると、予想外の答えが返ってきた。

 

「私と朝日杯FSに出て欲しい」と、ヴィクちゃんは確かにそう言った。それはつまり、あたしをライバルとして認めてくれた事に他ならない。やっと現れた、あたしをぶつけられる友達。

 

あたしは負けて悔しい気持ちと友達が出来て嬉しい気持ちで一杯になりながら理子ちゃんの所に戻った。

 

「ただいま、理子ちゃん…ごめんね、あたし負けちゃった」

 

そう言いながら部屋に入ると、理子ちゃんやチームのみんなが抱きついてきた。突然の事に困惑してると、みんなから答えが出された。

 

「「「デフィちゃん!よく頑張ったね!」」」

 

「──────え?」

 

「あのヴィクティミアにあそこまで喰らいつくなんて、凄いよ!」

「いつも一人でトレーニングしてると思ったら、いつの間にか私達より強くなっちゃうなんてね!」

「ね、私たちにもコツ教えてよ!」

 

「わ、あの、えと…」

 

「二着、おめでとうございます。あのヴィクティミアに惜しくも勝てなかったのは残念ですが、次があります。頑張っていきましょう」

 

理子ちゃんから微かにする涙の匂いで沢山泣いてくれたんだとわかる。それは他の子達も同じだった。そっか、あたしは一人なんかじゃ無かったんだ。

 

「ねぇ、あたし朝日杯FSに出るよ。そこでヴィクちゃんとまた闘う。そう約束したしね。だから、その…」

 

言ってる途中で恥ずかしくなって言うのを躊躇うと、ビターグラッセちゃんが肩を組んで「大丈夫」と言ってきてくれる。

 

「あ、あたしとっ!一緒に強くなって下さいっ!」

 

「当然です。私達チームファーストが最高のチームである事を証明しましょう!」

 

「「「おー!」」」

 

 

______________________

 

 

「──────俺の財布が」

 

「ご馳走様でした!」

 

私は今、待ち合わせのラーメン屋さんでトレーナーさんの財布の中身を消し飛ばした所だ。初めは微笑ましそうに私を見るトレーナーさんの顔が途中から真っ青になっていく様子には驚いた。

 

「お嬢ちゃん、よく食べるねぇ。そんなお嬢ちゃんにはチャーシューをサービスしちゃうぞ!」

 

「わぁ、ありがとうございます!」

 

店主さんからサービスのチャーシューを頂いて、締めのご飯を頂こうとしたその時、大きな音を立てて店に入ってくる人が一人。知らない女の人だ。

女の人は呆然としているトレーナーさんの元に行くと、感極まったかのように震えた。

 

「す、すすす…素晴らしいですっ!トレーナーでありながらウマ娘の食生活を体験しようとするその熱い精神!感服しました!」

 

「……あ?あぁ、乙名史さんか。どうしたんだこんな所まで」

 

何やらハイテンションで騒ぐ乙名史?さんを尻目に私はご飯を食べる。それにしても、ちょっとトレーナーさんと距離が近すぎじゃない?大人なんだから、もう少し節度を持って…それに、トレーナーさんは私のものなのに。

 

「今日はですね、貴方に密着取「ダメ」…あら?」

 

「だめ。トレーナーさんは私の。あげない」

 

「ヴィク…」

 

「おぉ!でしたら、貴女も是非ご一緒に!」

 

た、爛れてる…!?この女、そうとうなやり手…!でも、ここで諦めるわけにはいかない。トレーナーさん無しでは私は最強になれないんだから。

私はトレーナーさんの手をひいて、店主さんにお礼を言いつつお店から出る。

 

「お、おいっ!どうしたんだヴィク?様子が変だぞ?」

 

「あー、もう!とにかく着いてきて下さい!」

 

私はトレーナーさんを近場の公園まで連れていくと、話を切り出す。

 

「トレーナーさんは、誰のトレーナーですか?」

 

「え?そりゃあお前のだが…」

 

「なら、私の事だけ見ていてくださいよ。私はそんなに魅力の無いウマ娘ですか?ほら、私の顔を見てください。これでも私だけは見れませんか?」

 

「っ!」

 

トレーナーさんの生唾を呑む音が聞こえる。

私はそのまま……

 

 

 

「ヒョエーッ」

 

あ、デジタルちゃんだ。何してんだろこんな所で。夜の公園に一人なんて危ないなぁ。

 

「た、助かった…」

 

「トレーナーさん、私デジタルちゃんを寮まで送るからまたね。デジタルちゃん!ダメじゃないこんな夜中に!」

 

「アッアッ、違うんでしゅ!思わずフィヒってしまった次第でありまして…!ど、どうぞ続きを…」

 

相変わらずよくわからない話し方をする子だ。きっと疲れているんだろう。私は妙なことを口走るデジタルちゃんをお姫様抱っこして寮まで走って帰った。

夜の街灯に照らされながら走るのも、また乙な者だった。

 

────⏰────

 

「ポニーちゃん?今日は外泊だって聞いたんだけど…あぁ、デジタルちゃんか。いやあ助かったよ、突然食堂で『尊みの気配を受信した』とか言ってトレセン学園から逃亡したんだもの」

 

「フルカヌポォ…いえ、違いまして…!あれは必然というか、絶対の花園というか…!」

 

「妙な事言ってないで、もうお休み。ポニーちゃんもレースで疲れたろう?今日は私の部屋を貸してあげるからゆっくり寝ると良い」

 

「はーい」

 

私はフジキセキさんのお言葉に甘えて眠る事にした。フジキセキさんの部屋は私の無骨な部屋とは違って、可愛らしい小物で一杯だった。

翌朝、食堂に顔を出すとオグリ先輩が出迎えてくれた。

 

「ヴィクティミア、昨日の京王杯を見たぞ。良いレースだった。思わずガッツポーズを決めてしまった。だが、まだお前は強くなれると思う。」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

私が感激していると、遠くから騒がしい声達が近づいてくる。この声はタマモクロス先輩とイナリちゃんだろう。関西弁と江戸言葉が混ざってよくわからなくなっている。

 

「なんやぁ?ウチが何オカズにしようとイナリには関係ないやんけ!一々口出してくんなや!」

 

「ンだとォ?アタシは物もわかンねェ外れモンに優しく教えてやってるだけだろうが!普通ウドンはご飯と一緒には食わねぇんだよ!」

 

「はぁ!?ウドンはオカズや!」

 

何やら不毛な事で争っているらしい。まぁ、私は関西人では無いのでウドンをオカズにしようとは思わないかなぁ…

 

「タマ、イナリ、今日も元気そうだな」

 

「おぉ、オグリン!聞いてくれや、コイツがな?ウドンはオカズやないって言いはるんや!な?おかしいやろ?」

 

「すまない…私はとにかく沢山たべるせいでそう言うの意識した事ないんだ」

 

「ほならヴィク!お前さんはどうやねん!?ウドンはオカズか、主食か?選びなはれ!」

 

えっ、そこで私に振るの!?困った。先輩に花を持たせてあげたい気持ちもあるけど、先輩に嘘はつけない。うぅ、どうすれば…!

 

「………ええいっ、ままよ!ウドンは主食です!ごめんなさいっ!」

 

言った後に恐る恐る目を開けると、そこにはウマ娘が雷喰らったような顔で呆然とするタマモ先輩と、どこか勝ち誇った笑みを浮かべるイナリちゃんが居た。

 

「ナ?言ったろ?ウドンは主食だって」

 

「…み、認めん…!ヴィクは誰かに言わされてるに違いないんや!せやろ!?なぁ!?」

 

再び争いが起こったので、私はこっそり逃げ出した。これ以上はいけない。

私が食事を受け取り、空いている席を探しているとふとシリウスと目が合った。待って、なんでそんなニヤニヤしてるのさ。

 

「………会長サマよ、あんたがご執心だって言うヤツの事だが…別に、私が貰っても良いんだよな?」

 

「──────は?」

 

「おうおう、そう怖えカオすんなって。来いよ、ヴィク」

 

何で私を巻き込むの?何か恨みでもあるんですか!?

私は渋々シリウスの隣に座ると、ルドルフ会長が「中央を無礼るなよ」とでも言いたげな顔でこちらを睥睨していた。怖いって。

 

「ご飯食べながらで良い?冷めちゃうからさ」

 

「好きにしろ…ま、こういうこった。会長サマ?ほら、どうした?顔が怖えぞ?御大層な理想とやらが剥がれかけてきてんじゃねえのか?」

 

「──────一つ、聞くが。君たちの関係はどんな物だ?」

 

シリウス。何で顔を赤らめた。変に勘違いされちゃうでしょ。

シリウスは少しもじもじした後、消え入るような声で「友達…」と言った。この顔を男の人が見たら絶対にプロポーズするだろうな。

 

「ほう、友達か。君にそう言ったものが居るとは思わなかったが…私とヴィクティミアは宿敵なんだよ。決して破れない誓いで結ばれた仇同士、という訳だ」

 

どうしてドヤ顔で敵である事を自慢げに言うんだろう。ていうか、宿敵?何か不味い事しちゃったのかな。割と良好な関係を築けていたと思ってたんだけど…。

私は食べ終わったのと、居た堪れない空気に耐えきれないのもあってその場を去った。

 

 

────⏰────

 

 

「来たか、ヴィク」

 

「遅くなってすみません!」

 

いつもの運動場。エグめのトレーニング用品が散見される私のホーム。私は次の標的である朝日杯FSを想い、心を弾ませた。

デフィちゃんも出るこのレース。今度こそ大差でぶっちぎってやる。

 

 

「目指せ一着!私は最強になるぞ!」

 

 

朝日杯まで残り2ヶ月。

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