やがて"最強"と呼ばれるウマ娘の話   作:心折れた騎士

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ジュニア級⑨

 

京王杯に勝ってから、周りが私を見る目が変わった。

以前のような嫌悪や敵意のある目ではなく、好奇や賞賛の目で見られる事が多くなった。それはウマ娘だけに限らず、トレーナー達にも顕著に見られた。

 

「君、私のチームに入らないか!?」

 

私が廊下を歩いているとすぐこれだ。金色や銀色のトレーナーバッヂを付けたトレーナー達が私を勧誘しにくる。因みに、私のトレーナーさんのバッヂの色は銅色。おそらく最低ランクって意味だろう。新人の人が銅のリボン付きバッヂだから、トレーナーさんは不当な扱いを受けているんだろう。

そう思うと、何故だか少しムカムカしてくる。

こういう時には、甘いものを食べるのが吉だとウマッターでスイーツ品評家として有名な魔空院さんが言ってたから、食堂でスイーツでも買いに行こう。

 

私がスイーツを買い、ルンルンで他人のトレーニングを眺めていると、突然足を触られる感覚に襲われた。でも、私は上機嫌だったので無視していると、足を触る手は段々上がってくる。

悪寒を覚えた私は丁度スイーツを食べ終わったから変態を蹴り飛ばした。

 

「良い加減にして下さいね。通報しますよ」

 

「ま、待ってくれ!」

 

見ると、爽やかなイケメンが居た。トレーナーさんとは真逆な優男風の見た目。好きな子はとことん好きそうな顔だなぁ。何人か歯牙に掛かってそうだ。悪の芽は早めに摘んでおこうかな…?

 

「すまない、僕はトレーナーになったばっかりでね。以前はチームデネブのサブトレーナーとしてやらせて貰っていたんだ」

 

「何ですか、いきなり自己紹介なんかして。初対面で悪いんですけど、私は貴方のことが嫌いです」

 

「ひどっ!?」

 

「当然です。勝手に足を触ってくるような変態、嫌いになるに決まっているじゃありませんか。」

 

うぐ、と声を漏らした変態は冷や汗を流しながら弁解しようとして私に色々言ってきたが全部無視した。

 

「で、私に何の用ですか?」

 

「ぜひ、僕のチームに入ってほしい!」

 

またこれか。いい加減飽き飽きしてきたな。いくら私が才能の塊だからって勧誘が酷すぎる。それに、今はトレーナーさん以外のトレーナーに価値を見出せない。樫本トレーナーは勉強教えてくれるから好きだけど。

 

「嫌です。何で私があなたのチームに入らないといけないんですか?言いましたよね、私は貴方のことが嫌いですと」

 

「そこを何とかっ!せめて、走っているところを生で見せてくれ!」

 

「はぁ、仕方ないですね。一回だけですよ」

 

「本当かっ!ありがとう!」

 

私は軽いウォーミングアップを済ませて、実力の三割程の力で走る。こんな事してないでさっさとトレーニングしたいんだけどなぁ。

走り終わると、感激したような顔の変態が居た。顔だけは良いなこの変態。好みじゃ無いけど。

 

「これで満足ですか?」

 

「やはり、僕のチームに入ってくれ!チームが嫌なら、せめて専属にしてくれ!」

 

 

 

──────は?何を言っているんだこいつ。専属?お前が?あり得ない。

 

「僕は特別な力を持っていてね!ウマ娘の能力を数値化する能力を持っているんだ!君は近年稀に見る逸材だ!だから、僕と共に歩んでほしい!」

 

「………………が。」

 

「ん?なんだい?聞こえなかったから、もう一度だけ言ってくれないかな?」

 

鼓動が高まるのを感じる。頭に焼けた鉄を入れられたように熱くなってくる。そう、この感情を言葉に表すとするのなら──────

 

 

 

怒りだ。

 

「この、下郎が…誰に話していると心得る?」

 

「…えっ?」

 

「よくもお前のような変態が私に話しかけられると思ったな。その豪胆さにはあきれるよ。ウマ娘の能力の数値化?そんな事、トレーナーなら出来て当然だ。というより、数値なんて不確定な物信じる前に自分のウマ娘を信用する方が先だろう?そんな事も出来ない人に、私は靡かない。」

 

私は踵を返して校舎内へ戻る。私を呼び止めようとする声が聞こえたけど、それを無視して私は怒り心頭のまま教室に入る。

怒気を発しすぎていたのか、クラス内が静まり返る。

 

「ね、ねぇ…ヴィクちゃん…?何か、あったの?」

 

「シャウトちゃん…。何でも無いよ」

 

「そう…?うん、なら良いんだけど」

 

私が机に向かうと、汚れ切ってボロボロの机と椅子があった。それは掃除された後が幾つも残っていた。恐らくシャウトちゃんが綺麗にしてくれていたのだろう。私は心の中で友達に感謝しつつ、首謀者に目を向ける。

私は別にこのことに関しては怒っていない。所詮は僻みだから。でも、この時の私は少しだけ虫の居どころが悪かった。

 

「………誰?」

 

ザザザっと人垣が割れて一人の子が炙り出される。

 

「えっ、アタシ!?待ってよ、みんなやってたじゃん!?」

 

「君は…確かロックエルドラゴ、だよね」

 

「はいっ!」

 

「やめてね」

 

「はいっ!」

 

「次やったら…レースで容赦なく叩き潰すからね」

 

「の、望むところです…!というか、普通に一緒にレースしてみたいですっ!」

 

おや?そうだったのね。

なるほど、たしかに効果的かもしれない。全て私とレースがしたいが為に気をひこうとした行動なら可愛いものだ。というか、そこまで想ってくれると逆に嬉しい。

 

「良いよ、今度一緒に走ろ?」

 

私が表情を崩してそう言うと、パァッと顔を輝かせて嬉しそうにする。

 

「えっ、良いんですか!?やった!メアド交換しましょう!」

 

「しよしよ、他の子も一緒に走る?」

 

次の瞬間、私の連絡先は倍増した。

 

 

────⏰────

 

 

「──────んで、お前は沢山の子とレースの約束をしたと。何してんだ?」

 

「スミマセン…」

 

私は今、トレーナーさんに遅刻した事を叱られていた。あの後、楽しくなっちゃってみんなでウマトック?を撮ったりウマスタに集合写真を投稿したりした。そのせいで1時間も予定に遅れてしまったのだ。

 

「はぁ、まぁ良い。友達が出来んのは良い事だからな。さて、今日は珍しい客人が来てるぞ」

 

「誰なんですか?その珍しい客人って」

 

「来てくれ!」

 

トレーナーさんが呼ぶと、机の下から会長さんが出てきた。何で会長さんともあろう人が机の下から出てくるんですか?

 

「ふふ…たまには童心に帰って狭い所に隠れるというのもまた乙な物だね」

 

「今日はルドルフが来てくれたぞ。さぁ、トレーニングを開始するか!」

 

 

────⏰────

 

 

「そういえばルド…会長さん、私のトレーニングって他と比べたら大分キツいらしいですけど大丈夫ですか?あ、すいません。失礼でしたよね」

 

「構わないさ。それと、私の事は気軽にルドルフと呼んでくれ。一々生徒会長という立場を気にしていては疲れてしまうだろう?」

 

ここに器の違いを見た気がする。なるほど、これが皇帝…何事にもどっしり構えて動じない心が必要なのか!勉強になるなぁ。

 

「では、ルドルフさんと。それにしても、ルドルフさんともあろう人がどうして私と練習を?」

 

「それがね…」

 

ルドルフさんは語り始める。

 

 

______________________

 

 

私が今朝、生徒会室でエアグルーヴとモーニングティーを嗜んでいたら突然君のトレーナーが来てね。

 

「頼むっ!俺のヴィクとトレーニングしてくれないかっ!今のアイツには、お前の力が必要なんだ!」

 

と頼まれたんだ。以前から君のトレーニングには興味があったからね。私は二つ返事で了承しようとしたんだが、エアグルーヴに止められてね。

なぜなら、君のトレーナーはゴッドスピードの件で少し問題になっていたからね。

 

「会長のお体に何かあれば、一大事です!」

 

と言って止めたんだ。それには私も少し弱ってしまってね。確かに、君のトレーナーの悪評は私も知りうる所だ。やれ非道だ、やれ最低だ。おっと、そう怖い顔をしないでおくれ。私はもうそうは思っていないからね。

私はエアグルーヴのその言葉を優しく断って君のトレーニングに参加する事にしたのさ。

当然、君のトレーナーからも警告を受けたよ?

 

「俺のトレーニングは非常に過酷だ。そこの女帝サマが危惧してるように、最悪壊れてしまうかもしれない。それでも良いのか?」

 

とね。だが私はそれでもOKを出したのさ。

強くなりたい、君と走りたいという本能を抑えきれなかったわけだ。

その後はトレーナー君に連絡をとって、ここに来たと言う訳さ。

 

 

______________________

 

 

ルドルフさんは話し終わると、ダンベルを持ってニコッと微笑んできた。わぁイケメン。

 

「さぁ、やろうかヴィクティミア。時間は有限だからね」

 

そのあと、いつも以上に有意義な時間を過ごせた。私としてもしっかりと成長を感じることが出来たし、途中でやって来たオグリ先輩とも一緒に練習出来たのは僥倖だった。

 

 

────⏰────

 

 

夜。やけに部屋の外が騒がしかった。

窓を開けると、外で追捕物が繰り広げられていた。

 

必死の形相で逃げるシノビちゃんと、やけにギラついた目でシノビちゃんを追いかける謎の緑色の服を着たウマ娘。緑の方が優勢かな。

私がそれを眺めていると、たまたま緑と目があった。あっ怖い。

あの目はヤバい。ルドルフさん、いやそれ以上の圧力を感じた。ひと睨みで勝てないと思わせる覇者の目。羨ましい限りだ。いつか私も同じ目が出来る様になるのかな?

 

 

朝、トレーナーさんにその話をしたらどこか遠い目で「その人は…まぁ、余計な詮索はしない事だ」と言われた。何、怖いよ?

それにしても、どこかであの格好見たことあるんだよな。

そう考えながら廊下を歩いていると、理事長秘書のたづなさんが歩いてきた。相変わらず緑色だなぁ。

 

 

待てよ、緑…?まさか。

 

 

 

 

「気づいてしまいましたか」

 

「ヒュッ」

 

顔は見えないけど、背後から恐ろしい圧を感じる。これは、昨日受けた圧と同じ物。

 

「昨日見たことは、秘密ですよ?」

 

「ハイッ」

 

「もしこの話が広まったのがわかったら…うふふ」

 

「ハイッ」

 

「では、私はこれで」

 

「ハイッ」

 

段々と魔王が遠ざかっていく。怖いよ。

待てよ?私もこの圧を出せば、圧同士相殺し合って影響を受けなくなるんじゃ…!そうと決まればいざ鎌倉!

 

ルドルフさんの元に向かおう!

 

 

朝日杯まであと1ヶ月と27日。

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