やがて"最強"と呼ばれるウマ娘の話 作:心折れた騎士
「……それで、私に威圧感の出し方を教えてほしいと。よりによって何故私に…まぁ良い。一朝一夕で獲得できるようなものではないから、何日か通い詰めてもらうことになるぞ?」
「はいっ!お願いします!」
ルドルフさんは少し怪訝な顔をしていたけれど、快くOKを出してくれた。頼るべきは生徒会長様だね!
「ではまず、ヴィクティミア自身の圧はどのぐらいあるかの自覚から始めよう。試しに、私を威圧してみてくれ」
「はい!ふんぬぬぬぬ…!」
「はは、それでは力をこめているだけだ。良いかな?コツは、『自分はこの場の誰よりも強い』『自分に勝てる者はこの世界に一人たりともいない』と考える事が大切なんだ」
穏やかだったルドルフさんの顔が段々マジの顔になっていく。凛々しくも可愛らしい顔つきは、今にも私を処刑する皇帝かのような威圧感タップリのものに変わっていた。
「──────こういう風…かな?私も意図的に威圧したのはレース以来ご無沙汰だったからね。参考になったかな?」
「は、はわ…はい!」
私は目を瞑り、『最強』である事を想う。誰もが私に平伏し、私が通った場所が道となって、誰も私に勝つことはない。そんな未来が必ず来るだろうと思って目を開ける。
「ッ!フフ、一発で勘を掴むとはね…流石だ」
「ククク…ありがとうございます」
「あの、部費の事なんです……が」
私たちが二人してほくそ笑むというよくわからない構図の中、不幸にも書類を届けに来た書道部の子が現れた。その子は私たちを一瞥すると硬直し、目は殆ど白目を剥きかけている。
「あっ、すまない。これが嫌だから普段は威圧感を無くしているんだ」
成る程なぁ、ルドルフさんが普段あんなに親しみやすいのってルドルフさんなりの努力があったんだなぁ。
「………ルドルフさん」
「何かな?」
「解除の仕方わからないです」
────⏰────
結局、あの後も威圧感が解除できずに帰ることになった。そのせいか、やけに先輩方に絡まれるようになった。
「あァ…?てンめェ…何ガンつけてやがりますかァ?レースで勝負じゃボケコラァ!」
「お断りします。この後トレーニングがあるので」
「あ"ぁ"!?オレ様との勝負とテメェのトレーニング、どっちが大事なんだよォ!ぶちレースで勝つぞゴラァ!」
その他にも、
「──────あらあら、うふふ。わたくしにガンつけてらっしゃいますの?ぶちのめしますわよ?」
「わはー!お前舐めてんじゃねえぞー!」
「ふえぇ…!舐められたら負けですぅ…!」
ゆるふわ鎌倉武士団に絡まれたりして。きっと彼女達は出る時代を間違えていると思う。ウマ娘が舐められたら終わりっていつの時代の話なんだ…?
「む、ヴィクティミアか。どうしたんだ?そんなにやる気で。もしかして、私とレースがしたいのか?」
「オ、オグリ先輩!聞いてくださいよぉ!」
────⏰────
「──────なるほど、つまり今ヴィクティミアはルドルフの真似をしているんだな。どこか雰囲気が似ていると思ったんだ」
「どうにか出来ませんかね…?」
「すまない、私も昔同じような経験があったが全て実力で黙らせて来ていた。そんな私が今のヴィクティミアに出来る助言は少ないと思う」
か、カッコいい…!これが私の夢、オグリキャップその人なのか!
私がオグリ先輩への尊敬の念を高めていると、陽気な空気感と共にタマモクロス先輩がやって来た。
「何や、喧嘩かいな?せやったらウチに話してみぃ、自慢とちゃうが、喧嘩の仲裁は得意なんや」
「タマ、別に私達は喧嘩をしているのではないんだが…実は、ヴィクティミアがルドルフの真似をしていたら戻れなくなってしまったらしいんだ」
「はえー、道理でそないな圧出しとる訳やな。せやなぁ、昔のレース後のオグリもおんなじ感じやったけど、飯食って寝たら元に戻っとったで?」
「そ、そうなんですか!?良かったぁ…」
「ほな、ウチは行かせてもらうわ。今日は樫もっちゃんのトコの講座があるさかい、行かな損っちゅうモンや」
「待て、私も行かせてもらおう」
そう言ってタマモクロス先輩とオグリ先輩は行ってしまった。それにしても、解決策がまさか食べて寝る事だとは…。伝説の二人は凄いな!
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私が久々にヴィクの奴を揶揄ってやろうと思って河原をぶらついていると、橋の上に見慣れた白い影が見えた。
その表情はよく見ると硬く、何か思い詰めたような顔だった。私の脳内に最悪のシュミレーションが展開される。気がつけば私は走っていた。
「おいヴィクッ!お前何するつもりだッ!?」
「──────ぁ、シリウス。元気?」
「〜〜っ!そう聞きてえのはこっちだっての!お前は何でこんな所で一人でぼうっとしてんだ!?」
私がそういうと、ヴィクの奴はどこか揶揄うような目つきで私の顎に手をかけてきやがった。
「もしかして、私が落ちちゃうって思ったんでしょ?シリウスは心配症なんだから」
普通の状態なら多少ドギマギしてるような場面だが、顔がやべえ。今にも壊れそうな張り詰めた顔だ。そんな顔でこんな事されたって、怖えだけで全く可愛らしさの欠片もねえ。
それに、コイツが人形みてえな顔をしてるのもあって余計に怖さが増してる。
「なァ、お前なんかあったのかよ?」
「別に?まぁ、トレーニング終わりだからちょっと疲れてるかもしれないけど。強いていうなら、ルドルフさんに威圧術を教えてもらって、それがまだ抜けないぐらいかな」
「──────はァ?つまりアレかよ。私の勘違いっつう事か?」
「…うん、そうだね」
「ぎゃあああああああああああっ!!!!」
私は気がついたら走り出していた。恥ずかしさで死ぬかと思った。顔は茹蛸みてェに赤いだろう。私がヴィクの心配?ンだよそれ、まるで私がヴィクを意識してるみてえじゃねえか!
あり得ん。認めねえぞ、ヴィクが私の大好きな友達だなんて絶対に!
頭の中に天使の姿をした私と悪魔の姿をした私が現れる。
「大好きなんだろ?仲良くなっちゃえよ」
「もうっ!それを隠そうとするから可愛いんでしょう!?」
「だぁぁぁぁぁぁっ!!!!うるせぇ!うるせぇ!うるせぇええええ!!!!」
結局、その日は悶々として眠れなかった。
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翌朝、私が起きると顔の険は取れて元の腑抜けた顔に戻った。うん、これは暫く封印しておこう。これは災いしか呼ばないからね。
せめて、レース中だけにしておこう。うん。
「お、ヴィク。おはようさん。昨日は何か圧が凄かったが今日はいつも通りの可愛い感じだな。さて、今日のトレーニングについてだが…」
この人はしれっと可愛いとか言って来るからいけない。油断してると私の中の何かが疼きだす。恐らく勝利欲かな。
それにしても顔だけは良いなこの男。鬼畜なのを除けば草臥れたクール系メガネイケメンだし。好きな人は好きそう。
「おい、聞いてるのか?」
「はっ、はいっ。聞いてますよ!」
「そうか、なら良い。朝日杯まであと約2ヶ月しか無い訳だが、お前に今足りてないものは何だと思う?」
「んー…速さ?」
「そうだ。お前には当然皐月賞にも出てもらうからな。今のうちからスピードトレーニングをしておくのも悪くはない。他の能力も及第点だからな。皐月賞では圧倒的な勝利をしてもらうから、覚悟しておけよ」
話が早いなぁと思いつつ、来る朝日杯に思いを馳せる。朝日杯にはデフィちゃんも出る。デフィちゃんには悪いけど、今度こそ圧倒的な勝ちを狙いに行こう。その為には、これまで以上の力が必要という事だ。
「さて、今日のトレーニングを始めるか!」
「はいっ!」
朝日杯まであと1ヶ月と20日。