やがて"最強"と呼ばれるウマ娘の話 作:心折れた騎士
「あっ!ヴィクちん!ちょりーっす!」
「ヘリオスさん。こんにちは」
私が食事終わりに歩いていると、ヘリオスさんが声をかけてくれた。あれからヘリオスさんとは良く甘いものを食べに行ったりする仲になった。行くたびにウマスタを撮るから、私も少しおめかししなきゃと思って数少ない私服を取り出して行くことにしている。
「ねね、今もしかして暇だったり!?」
「うーん…まぁ、お休みの日ですから暇といえば暇ですが。何かあるんですか?」
「あんね?今日はトレちんとスイパラ行く予定だったんだけど、トレちん風邪ひいちゃってさ!良かった一緒に行かない的な?」
「行きますっ!」
即答した。トレセン学園でスイパラと言ってはいけない。すぐに誰かが食いついてくるから。当然、私もその中の一人である。
数多く存在するスイーツバトラーの中でもその頂点に位置する匿名「パクパクさん」は強敵だ。これまで彼女の付近100m以内のスイパラ情報を逃した事は無いという。
「それじゃ、今から行くよ!」
────⏰────
「──────え?カップル以外入店禁止ィ!?何ですかそれ、ありえないですよ!」
「たはは、めんご…調べ忘れてたぽ。どうしよっか」
このままでは私のスイーツが無くなってしまう。それだけは何とか避けなければ。
「ヘリオスさん、いえ。ヘリたん!」
「どしたん?ヴィクちん。何か閃いたみたいじゃん?」
「とっておきの秘策があるんです……ごにょごにょ」
私はヘリオスさんに耳打ちして秘策を伝える。多様性のこの時代、これは実に有効な作戦と言える。
「ちょマ?ホントにやんの?ちょい恥ずいんですけど…まいっか!やろ!」
────⏰────
「いらっしゃいませ、当店では今カップルフェアを開催しておりまして…お二人はカップルですか?」
「「はい」」
私はヘリオスさんと手を繋ぎながらそう言う。当然、変な噂が流れたら困るから変装はしている。私は髪を結んでおさげに。ヘリオスさんはツインテに。お互いにメガネをかけているのでバレる事は無いと思う。
しかも、私のメガネはトレーナーさんのものだ。男物だから「そういうの」って理解してくれるはず…!
「では、カップルの証拠として皆さんの前でハグしてください」
「ヘリたん、ほら」
「任せてヴィッたん!はいっ!ぎゅーっと!」
遠いところで誰かが爆死した気がしたのは気のせいだろうか。それはさておき、無事に私達はスイパラに潜入成功した。
「何食べよっかなー!」
「ウチこれね!マカロン!」
「いいねぇ!なら私は取り敢えず全部一個ずつもらおーっと!」
「え"…ヴィクちゃん、煎餅とチョコレートケーキは合わないんじゃないかな…」
「物は試し!ゔっ」
「わぁーっ、ヴィクちゃん!?」
そんなこんなで楽しんでいると、ふと見知った顔が私の視界の端に捉えられた。
トレーナーさん…?なぜここに…?しかも男の人と…?おかしい、トレーナーさんは異性愛者だったはず…トレーナーさんのパソコンに「巨峰」フォルダがあるのを知っているからな…。
「………へ?トレちん、何でここに…?」
「え?ヘリオスさんのトレーナーも居るんですか?」
「うん。あのメガネの男の人と一緒にいる人…もしかして」
「ちょっと話しかけてみませんか?」
「いいね!」
私達はそれぞれのトレーナーの後ろに立つと、耳元で「何してるの?」と囁いた。
「ッ!?ち、違うんだヴィク!これにはマリアナ海溝よりも深いわけがあってな!?」
「ヘリオス、おれを信じてくれ!おれ達はそう言うんじゃ無いんだ!これから会議なんだ!」
「「会議?」」
私達が首を傾げると、二人は説明をし始めた。
「おれは今日、仕事でヘリオスとスイパラに行くことが出来なかった。そしてその仕事とは」
「即ち、次期理事長への接待だ。そして次期理事長は未だ来ず。今は仕方なく男二人でスイーツを啄んでる所だ」
「次期理事長はこのような場に来るのは初めてだと言う。理事長秘書曰く、『あなた達はどうせ担当と行っているでしょう?』と言っておれ達の抗議を無視した」
「俺達の他にも、数名のトレーナーが待機している。すまないが、お前達に構っていられる余裕はあまり無いんだ」
そうだったのか。大人って大変なんだなぁ…ヘリオスさんも引き攣ったような笑い方しか出来ていないし。にしたって、大の大人の男二人がカップルとして入店するのは大分心に来るんじゃないんだろうか。
「あの…ご愁傷様です」
トレーナーさんの 調子が 下がった!
────⏰────
今回は体重増えなかった。あ、危なかったぁ…
因みに今、私は最後の仕上げの段階に入っている。威圧感を出しながらフォームチェックやカーブの練習をしている。
まぁ、カーブに関しては練習はもはや必要ないレベルなんだけど。それでも、デフィちゃんという不確定要素がいる以上手抜きは出来ない。
領域に関しても練習をしているけど、全くと言っていいほど成果が無い。私が焦ってしまうたびにトレーナーさんから叱咤が飛ぶ。
「はぁ、ふぅっ!こんなもんかな…?」
「ヴィクッ!ヴィクッッ!!!大ニュースだ!」
私がひとしきりトレーニングを終えて一息ついていると、トレーナーさんが凄い形相で駆け込んできた。その手には週間ダービーの新聞がある。
「なぁに?どれど──────れっ!?」
私は絶句した。出走予定バの中には確かに『トウカイテイオー』の名前があったのだから。そんな、あり得るのか?出走優先権はもう取られてたはず。そうでなくともG1レースなんだから、とんでもない倍率のはずだ。
「不思議に思っているようだね」
「っ!シンボリルドルフ…!」
「ルドルフさん?」
私たちの背後から思わせぶりな登場をしたルドルフさんにトレーナーさんは警戒心を顕にする。普段から目つき悪いのにさらに目つきが悪くなってる。これ子供に見せられないよ。
「フフ…何もおかしな事では無いさ。私はトウカイテイオーの名目上の後見人でもあるからね。私が運営委員会にテイオーのアピールをさせてもらっただけさ」
「ふっざけんな!やり方が汚ねえぞシンボリルドルフ!」
「汚い?フッ、君なら判ると思ったんだけどね」
「──────ッ!まさか!」
「フフフ…そのまさか、さ。私は期待しているんだよ?」
汚い大人たちが悪い顔をしている。何なの?二人の間にどんなダークな関係があるの?何でそんなに以心伝心してるわけ?少し怖いよ。
「ヴィクティミア。君は私のトウカイテイオーを倒せるかな?一度戦った君ならわかるだろうが、強いぞ。テイオーは」
「もう、負けませんよ。私は最強ですからね」
決め台詞と威圧感を放ちながら軽くポーズをとる。うん、これ良いな。カッコいい。ルドルフさんも普段こんな事考えてたりして!流石に無いか。
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ボクの朝日杯への出走が決まったのは出走二週間前だった。
最近やけにトレーニングが厳しいなぁと思っていたらそう言う事だったらしい。
ボクは未だにメイクデビュー以外を走ってはいない。それなのにG1に出れるって事は、それぐらい期待されてるって事だと思う。トレーナーさんもまさか出走出来るとは思ってなかったのか、すっごく驚いてたけどね。
「トレーナー!ボク勝てるかな?ま、勝つけど!」
「………分からん。ただ、この推しようは何事だ?1枠、それに発注してないはずの勝負服まで無償?何か裏があるに違いない。何者だ…?」
「もーっ!トレーナーったら、ボクの事だけ見てよー!」
「っ、すまんテイオー。しかし気がかりでな」
トレーナーは不安そうに思案顔をしている。もう、ボクはどうせ負けないんだから心配なんかいらないのに。ボクの無敵のテイオーステップさえあれば、どんな子も一網打尽なのに。
「──────そうか、もしかしたら。すまないテイオー、俺は少し会長の所に行ってくる。ここで大人しく待っててくれ」
「えーっ!ボクも行きたいよーっ!カイチョーはボクの憧れなんだから!良いでしょ?」
「ダメだ。絶対に、ダメだ。頼むから着いてきてくれるなよ」
そう言ってトレーナーは行ってしまった。トレーナーの意地悪!着いていっちゃおうかな…でも、ダメって言われたし。
仕方ないから、ボクはクラスメートの所に行くことにした。最近仲がいいメジロマックイーンと話をする為だ。あの有名なメジロ家の末っ子で、ボクのライバルになる予定の子。
「マックイーン!会いにきたよーっ!」
「あら、テイオー。今日も元気ですわね」
「へへーん!ウマ娘は身体が資本だからね!元気すぎるのはむしろ良いことだよ!」
「それもそうですわね。ところで、このレースをご存知でして?」
そう言ってマックイーンが見せてきたのは、この間の京王杯の物だった。凄まじい応酬だ、これがジュニア級…?いや、これはコラ映像だね!ボクにはわかるんだ。
「マックイーンったら、ボクにドッキリ?甘いね〜!」
「何のことですの?それよりも、このレースの駆け引きと言ったら素晴らしいですわね!これが私たちと同じジュニア級でしてよ!」
「そっ、そんなわけないじゃん!嘘はダメだよマックイーン!」
認めたくない。こんなの嘘だ。嘘に決まっている。
「嘘をついて何になりますの?この勝負は先日行われた物ですわ。惚れ惚れしてしまいますわね、お話だけでも伺えないものでしょうか…?」
「そういえばテイオー、貴女が出るらしい朝日杯にもこの方々が出るらしいですわね。羨ましい限りですわ!」
なにも、ききたくない。
ボクは 最強 なんだ。
そのはず、なんだ。
それなのに。なんで、
「──────テイオー?テイオー?どうしたんですの?具合が悪くなりまして?」
「ッ!マックイーン…!大丈夫、ボクは大丈夫。大丈夫、勝てるんだ、ボクは……」
「ちょっと、顔色が悪いですわよ!?保健室に行きますわよ!」
────⏰────
ボクは一人、ベンチに座ってどうやって勝つか考える。
実力は完全に向こうのほうが上だ。だから、少し意地悪なことをしなきゃ勝てない。
でもそれで勝ったとして、それが本当にボクの勝利と言えるの?ただの恥じゃないの?
延々とループする思考の中、ボクは一つの答えに辿り着く。
「そうだ!カイチョーなら…!」
ボクは急いでカイチョーのいるだろう生徒会室に行った。でも、生徒会室はもぬけの殻で。仕方なくボクはカイチョーの行方を探った。
そしてそれは、案外早く見つかった。
「あっ!カイチョーだ!カイチョーっ!」
「──────そんな物ではないだろうッ!ヴィクティミアッ!もっと私に喰らい付いて見せろッ!」
「はいッ!くううううっ!」
「ハハハッ!良いぞ、その調子だ!」
「………なに、あれ」
カイチョーが、ボクだけのカイチョーが。何で無名なんかと?確かに、カイチョーには『全てのウマ娘の幸福』という目標がある。けど、一番のお気に入りのボクをほっといて知らない奴と…?許せない。
「ねーっ!カイチョーーーッ!無視しないでよーっ!」
「気が高まる…溢れ…む、テイオーか。どうした?」
「むぅーっ!そんなコ無視してさ、ボクと練習してよ!ボク勝ちたいレースがあるんだ!」
「そう言うな、ヴィクティミアは素晴らしい才能をだな…おっと、すまない。テイオーにはあまり関係ないかな?」
何で、ボクを見ないの?
ボクはカイチョーに憧れてるウマ娘なんだよ?
ボクは才能のある一流のウマ娘なんだよ?
ボクを見てよ。ボクだけを見てよ。
「──────トウカイテイオー…?」
「誰?キミ。さっきからヤケにカイチョーに近……嘘。」
カイチョーと一緒にいた奴の顔が見える。そのシルエットは、まさしく京王杯の白い影。こいつが、ボクの、敵。
「あ、もしかして挨拶しにきたんですか?朝日杯、頑張りましょうね」
「フンだ!キミなんか、このトウカイテイオー様がギッタンギッタンにしてやるぞ!震えて眠れ」
「たはは、負けても泣かないでくださいね」
こいつ…ボクを舐めてくれちゃって!
何か搦手を使おうと思ったけど、もうやめだ。
絶対に、ボクはこの生意気な奴に正々堂々勝ってみせる!
朝日杯まであと二週間
リアルが死ぬほど忙しかったため遅刻です。