やがて"最強"と呼ばれるウマ娘の話 作:心折れた騎士
トウカイテイオーに宣戦布告されてから4日経った。その話をして以来、私よりもトレーナーさんの方がヒートアップしちゃって最後にまともに練習できる一週間全てをトレーニングに費やすことになりそうだ。
当然、スイーツはお預け。食事はトレーナーさんが用意した栄養食だけだ。正直、料理できるとは思ってなかったから意外だ。
「トレーナーさんはどこで料理を覚えたんですか?」
「料理?そうだなぁ、トレーナーの必須技能らしいから覚えたんだが。それは嘘だったようでな、お陰様で俺は料理を多少出来るようになったってわけだ」
「道理で味と栄養が両立してる訳ですね。盛り付けは終わってますけど」
「言うな」
そうなのだ。トレーナーさんの作る料理は味と栄養素は最高なんだけど、盛り付けのセンスが壊滅している。
例えば、キャラ弁を作ろうとして挫折した痕跡が見られる米。お好みとばかりに刺された旗付き爪楊枝。しまいにはカロリーメイトを直接乗せてきたりする。
見た目は美しくないけど、味は良いのがなんかムカつく。
「んな事より、お前のことをシリウスシンボリが探してたぞ。何でも、『忙しいのはわかるが顔ぐらい見せろ』だそうだ。あのシリウス派のボスと面識があるなんて良いことじゃねえか。行ってこいよ」
「シリウスが?すいません、行ってきますね?」
「おう」
────⏰────
私はシリウスに会うために第8体育館の倉庫裏に来ていた。なぜかと言うと、普段はシリウス一味はこの辺で屯していることが多いからだ。
「シリウスー?シリウスー?いる?」
「──────おう、来たか。今日はな、お前に聞きたいことがあンだよ」
誰もいない静かな空間の中、私を見下ろすようにして座るシリウスは厳かに話しかけてきた。
「…それは?」
「もうすぐクリスマスだろ?私は毎年、クリスマスに人を招いてパーティーやってんだ。そんでよ、お前来ねえ?」
「えっ!行く!行きたい!」
「へっ、話は決まったな。そんじゃ、場所はここだ。絶対来いよ」
そういうとシリウスは手紙の封筒を投げつけてきた。どれどれ…?これはシリウスの住所かな?
私は紙を受け取ったあと、シリウスと一緒にご飯を食べることにした。勿論、ラーメンだ。私はラーメンに胡椒や辛子をタップリかけるタイプなので、胡椒デカ盛りにしたらシリウスに少しキレられた。解せぬ。
────⏰────
夜中。私が寝ていると扉を叩く音が聞こえた。不思議に思って開けてみても誰もいない。床を見ると、泥だらけの足跡が外に向かっている。
私は注意してやろうと思って足跡を追いかける。その足跡は、校舎の屋上まで続いていた。
「──────追いついた。あなただね?私の部屋をノックしたの」
私が下手人に声をかけると、下手人は月を背景にゆっくりと振り向いて悍ましい笑みを浮かべた。
「ッ!あなたは、何者!?」
「………汝に、啓蒙を。ワタシは…そうさね。Amendofghsと呼んでもらおうか。此度はこの娘の身体を借り、汝に啓蒙を齎しにきた」
「啓蒙…?それに身体を借りたって…?」
「ま、わからなんだな。良い。ワタシが汝に知恵を授けてやろうと言うのだ。良いか?汝の『領域』は未だ開かれてはいない。当然だ、汝の『領域』は余りにも危険すぎるのだ。」
「危険?どうして。『領域』は強いウマ娘なら誰だってあるものでしょう?」
「汝の『領域』はな、他の者を巻き込むのだ。通常、『領域』と言うものは己のみに見えるもので、他者から見たら多少は雰囲気や目の色が変わったように見えるかもしれんが、その程度だ。汝のは、自身の領域に近くのウマ娘ごと引き込むのだ」
「それの何が危険なの?」
「汝も体感した通り、汝の『領域』は扉を開けるイメージのものだ。その扉の中に何があると思う?」
「それは…私が見たのは、どこまでも暗い闇の中で光る一条の光。扉を抜けて、あそこに到達出来れば私は完璧になれる気がした。あそこが、私の終着点だと──────まさか」
「そうだ。汝があの光に辿り着いた時、その命は失われる。それ故に汝は一人だと辿り着く事は絶対にない。だが、汝の周りに他者がいた場合は別だ。汝の周りのウマ娘達の想いを糧に、汝は進むことが出来てしまう。言わば、諸刃の剣よ」
「そんな…なら、私は『領域』を諦めるしかないって言うの?そんなの、ルドルフさんやオグリ先輩達には通用しない!あの人達は私なんかよりも数段強い。『領域』が無いと勝てないんだよ!」
「──────だからこそ、だ。ワタシは汝に啓蒙を齎すのだ。進めば死ぬるのならば、進めなくすれば良い。その為に、己を縛る鎖が必要だ。その方法はただ一つ。」
「その、方法とは?」
「飛び降りよ」
私の意識は暗転した。
────⏰────
「はっ!?こ、ここは!」
「大丈夫かい?デジタルくん、水を」
「ヒャイッ!今すぐに!」
私は目が覚めると、自分の部屋にいた。はて、私は何をしていたんだっけ?確か…寝ていた時に何かを見て、聞いた覚えがあるんだけど。思い返そうとしても、ただ月が思い浮かぶだけだ。つまり、何も覚えてないって事だ。
「ポニーちゃん、随分と魘されていたようだけど…大丈夫かい?」
「はいぃ…あたしが気づかなかったら今頃もっと魘されて…目覚められて良かったですぅ…」
どうやら、魘されていた私をデジタルちゃんが介抱してくれていたらしい。人を呼ばれるほど魘されるってどれだけなんだろうか。
「あの、私どれぐらい魘されてました?」
「息苦しそうに。もがくように苦しんだ後、顔を押さえて唸っていたんだよ。何かを恐れるように、何かから逃げるように。見ているだけで罪悪感を感じるような感じだったよ」
「たはは…私は大丈夫ですよ。ご心配おかけしました」
「………今日は、デジタルくんと一緒に寝ると良い。彼女ならキミの異変にいち早く気づけるだろうからね」
「ヒョエーッ!デヒュ、イイインデシュカ!?」
「うん、私もいいと思う。よろしくね?デジタルちゃん」
その日はよく眠れた。
────⏰────
翌朝、私が朝日杯に備えて調整をしていると、トレーナーさんが突然よくわからない事を言い出した。
「なぁ、ヴィク。『領域』はどうなったんだ?何か掴めたか?」
「……領域?何のですか?」
「は?だから、『領域』の事だよ。お前、悩んでただろう?」
何のことだろう。領域?それに悩み?特になかったような……どうでも良いや。それに、領域の事を考えようとすると月が浮かんでくる。何の関係があるの?
「…………ごめんなさい、トレーナーさん。私本当に何のことだかわからないのですが」
私がそう言うと、トレーナーさんは目を見開いて慌てて駆け寄ってきた。なんだろ、変な事言ったかな?
「お、お前…!まさかッ!くそ、保健室に…いや、こう言うのはシンボリルドルフの方が頼りになるな!行くぞヴィク!」
「わ、どうしたんですかトレーナーさん!?ルドルフさんの所に何を!?」
────⏰────
「──────何だと?」
「聞こえなかったか?ヴィクが記憶喪失だ!『領域』に関する事だけスッポリ抜けてやがるんだ!何とかならないか!?」
「…わからない。どう言う事だ?前例が無いんだ、全く無い。一度『領域』に目覚めた者は二度とその前には戻りはしない。ましてや記憶が無くなるなんて…起こったことが一度もない」
「だったら!」
「………走ってみる他、ありはしないだろう。ヴィクティミア、並走をしようか?」
「あ、良いんですか!?ありがとうございます!やりましょう!」
なぜだか知らないけど、ルドルフさんともあろう人と並走出来るなんて嬉しいことがあるだろうか?いや、ない。少なくとも、オグリ先輩との練習と同じぐらい嬉しい。
「よーい…スタート!」
私はルドルフさんと並んで走っている。速い。明らかに手加減しているのが分かるのに、追いつけない。でも、コーナーなら私は誰にも負けない。
「ふッ!」
いつも通りにコーナリングをする。あ、あれ!?全然違う!ルドルフさんのペースはさっきよりも少し上がったおかしい。何かが、違う。
「その程度か?さらなる本気を出して見せろ」
「言われ、なくてもぉッ!」
私が本気を出そうとしたその時、鎖で縛られる感覚に陥った。これは、何?真っ白な空間にポツンとある扉。これは私…?扉は固く縛られている。扉は無理やり閉じられているのか、中から黒が溢れそうになっている。
「ハッ!くっ、わけわかんないッ!」
「ッ!?今のは…」
「なんッで、全力を超えようとするとッ!チラつくのおっ!?」
「なんだ、なんなんだこれは…!」
結果は、私のボロ負けだった。私は一度も限界の先を出せずに終わってしまった。悔しい。こんな屈辱的な負け方があるものか。
「──────ヴィクティミア。アレは一体…?」
「わからない。わからないんです…。アレが何かすら、思い出せないんです。月が、月が邪魔をして…」
「月?」
「はい、領域の事を考えようとすると月の事しか考えられなくなってしまうんです。」
「そうか…いや、まさかな。すまない、ヴィクティミア。私は少し調べ物が出来た。これにて失礼させてもらうよ」
そう言って、ルドルフさんは行ってしまった。
何だったんだろ?
朝日杯まであと一週間と2日。
夢の下りは私の趣味です