やがて"最強"と呼ばれるウマ娘の話   作:心折れた騎士

19 / 20
朝日杯

 

時は過ぎ、いよいよ明後日が本番となった。

私は今ダンスの練習をしている。今回ばかりはふざける訳にはいかないからなぁ。なんて言ったって、G1の大舞台だ。下手なことはできない。

ウマ娘にとって、G1の舞台というのは出れるだけでも栄誉ある事だとトレーナーさんから言われた。

 

「恋の♪行方は〜♪」

 

「精が出るなァ、ダンスの練習かヨ」

 

「あっ、イナリちゃん」

 

練習を始めてから3時間ほど経った時、私の元にイナリワンが来た。何の用だろうか。

 

「………あン?何かおめェ弱くなったかァ?」

 

「は?」

 

いきなり来て暴言とは良い度胸じゃないか。レース前で良かったな、そうでなきゃ勝負してた。それにしても弱く?どういう事?

 

「ちっと前に見た覇気が無え。力自体は落ちちゃあいねえンだろうがヨ、強そうには見えねェんだわ。何かあったかよ?」

 

「──────っ、貴女もルドルフさん達と同じ顔をするんですね。教えて下さい、領域って何なんですか?私に何が起こったんですか!?」

 

「……………マジで?何だってこんな…ハァ、良いぜ。教えてやらァ。領域っつぅのはよ、ウマ娘なら誰でも持っている固有の思考領域の疑似顕現術…要するに、テメェの夢、希望をそンまま力に変えるウマ娘特有の現象だ。ただし、発動には『実力』と『強い想い』と『原初の光景』が必要だ」

 

「へぇ、そんなものがあるんですね」

 

「あァ、領域を展開すると一瞬だけ脳裏に思考領域が浮かんでくるワケだ。ンで、原初の光景っつーのはテメェが一番初めに憧れを抱いたイメージだ。『こうありたい』『こんな事をしたい』っつう事だナ」

 

「成る程…私にも出来ますかね?」

 

「出来るに決まってンだろ。京王杯でその片鱗ぁ見せてただろうがよ。まさか、それすら覚えてねェって言わねえよな?」

 

京王杯での事?もちろん覚えている。デフィちゃんと勝負して…どんな、勝負だっけ…?あれ、何かおかしい。あんな勝負、忘れるはずがないのに。

 

あの時、私は…見た。見たんだ。何を?思い出せない。どうして、私は確かにあの景色を……光を見たのに。

 

「その顔を見るに、何か思い出したみてえだな?うし、もう一度…と言いたい所だが、アタシはここで帰らにゃいけなくなった。つぅ訳で、じゃあな。朝日杯までには間に合わせておけよ」

 

そう言ってイナリワンは行ってしまった。

 

 

 

────⏰────

 

 

 

そして、いよいよレース当日になった。

結局、ゲートインまで何も思い出す事は出来なかった。

 

「ヴィクちゃん、今回はあたしが勝つから」

 

「はぁーッ!?ボクが勝つんですけどぉーっ!?」

 

「フッ、あたしには勝てないよ」

 

「なにをー!」

 

私の目の前で二人がはしゃいでいる。でも、私の心中は見えぬ記憶しかなかった。イナリワンは言った。『強い想い』が必要だと。私のこの、最強になりたいという気持ちでは足りないのだろうか。

それぞれがゲートインした。あとは走るだけ。

 

大丈夫、技術が落ちた訳じゃない。

 

 

『スタートしましたっ!』

 

私に出来る最大限の出だしだ。早速先団に付けた。今回、私は先行で行く。デフィちゃんは後ろの方。差しでいくみたいだ。トウカイテイオーは私の少し後ろに。

 

『さぁ第一コーナー入って…おっと!?ヴィクティミア、体勢が以前よりも悪いですね!大丈夫でしょうか!?』

 

いつも通りカーブをしようとしたら、何故だか身体が思うように動かない。どうして私は()()()()()()()()違う、こんなのじゃない。もっと、速く。

 

『第二コーナー差し掛かっても調子が上がりませんヴィクティミア!一番人気の意地を見せられるか!?』

 

ダメだ。本気を出せない。何で、前までできたのに。私は、こんな所で終わっちゃうの?

 

『最後の直線だ!ヴィクティミア内で埋もれています!これはもう終わったか!トウカイテイオー、速い!デフィナイトウィンも来ているぞ!来年のスターはこの二人で決まりか!?』

 

いやだ。

 

──────ギシッ

 

私の負け()はここじゃない。

 

──────ギシィ!

 

勝つ為なら、私はどんなものでも…!

 

──────ミシィッ!!!

 

捨てて行こう。

 

──────バキッ、メキメキッ!!!

 

 

 

「さぁ、勝ちに行こう(扉を開けよう)か?」

 

──────パキンッ!

 

 

 

『おおっと!?何という事だ!ヴィクティミア上がって来た!ヴィクティミア来た!速い速い!ヴィクティミア速い!』

 

「来たねッ!でも負けないよ!」

 

「ねじ、ふせる…!」

 

目の前の敵たちが邪魔だ。

私の覇道を開けろ。

どけ、私のお通りだぞ。

 

 

「何を今更…ヒィッ!?」

「せめて三着を…ッッッッ!?」

「な………ぁ…」

 

「ご苦労」

 

『ヴィクティミアの道が開いていくぞ!何という威圧感だ!こっちにまでプレッシャーが来るほどだ!残り100!3人並んだ!誰が勝つのか!?帝王か、影か、傲慢か!』

 

「「「負けるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」

 

 

『ヴィクティミア一着!ヴィクティミア一着!ヴィクティミアが僅かに差し切ってゴールイン!ジュニア級のマイル最強はヴィクティミアで決まりだぁぁぁぁ!!!!!傲岸不遜の魔王、ここに誕生か!?』

 

 

…勝った。そして思い出した。私の力を。

 

「お疲れ様、ヴィクちゃん。最後の、凄かったね。後ろから『来るッ!』って分かったもん」

 

「悔しいケド、今回は二着に甘んじといてあげるよ。あんな負け方したら、ボクも認めざるを得ないしね?」

 

「…………ありがとう。」

 

 

────⏰────

 

 

レースが終わって、いざライブをする事になった。曲名は【LOST EDEN】だ。この為に練習はしたからね、当然成功したとも。

今の私は物凄く上機嫌だ。力を取り戻して、その上勝ったからね。むしろ、このシチュエーションで喜ばない子は人の心を失っているんじゃないかな?

 

「──────へっ、やりゃあ出来んじゃねェか。次はどうすんだ?」

 

「イナリちゃん。当然、ホープフルでしょ」

 

「期待してんぞ。お前には人参5本が懸かってんだ」

 

は?なんて?ニンジン?まさかとは思うけど、ウマ娘賭博…?あれって大昔に全世界で違法になったってテレビで見た事あるよ。レース史でも言われてたし。

 

「あン?あぁそうか、大丈夫だぜヴィク。アタシ達はな、金ァ賭けてねェ。つまり、賭博じゃねェんだ。つうか、そろそろあの勝負師に勝たにゃいけん。期待してんぜ。じゃな!」

 

イナリワンは嵐のように去っていった。というか、この後はインタビューかぁ…めんどくさいな。適当に済ませちゃおうかな?

 

「おや、ヴィクティミア。来ましたね。鬼築トレーナーなら居ませんよ。全くあの男は…自分の教え子が勝ったのだから祝いに来ても良いでしょうに」

 

私が会場に着くと、謎の金髪のウマ娘に抱っこされた樫本先生がいた。え、何?どういう表情をすれば良いの?笑えば良い?

 

「あの、何で抱っこを?」

 

「デフィナイトウィンに抱きついた拍子に足首を挫きました。何ですか?笑いたければどうぞご自由に。私も笑いたい気分です。状況は笑えませんが」

 

「樫本トレーナー…かわいい…」

 

樫本先生が金髪の子とよろしくやっている内にインタビューは始まった。全員が初見…という訳では無い。乙名史さんとか知った顔が居るから安心だね。

 

「では、早速質問です。三着のデフィナイトウィンさん、今回のレースはどうでしたか?」

 

「そうですね、あたし的には序盤は楽でしたけど後半がとても厳しかったです。特に、ヴィクちゃんの威圧感が半端なかったです。あの、抜かれたら食べられちゃう感覚は中々味わえないですよ」

 

「なるほど、それ程に恐ろしかったと。では次に、今回は惜しくも二着となったトウカイテイオーさん。今回のレースの感想をお聞かせください」

 

「えーっとね、最後の勝負に関してだけどね?アレは完全に負けた!って思ったもんね!それまでは勝つ気マンマンだったのに、あの威圧感と末脚を見てから勝てる気がしなくなったもんね。ま!次はこのテイオー様が勝つけどね!」

 

「ありがとうございます。では最後に、今回勝利を手に入れられたヴィクティミアさん!まずはおめでとうございます。では、今回のレースの感想をお聞かせ下さい!」

 

「扉は開かれた。私はもう負ける事はない。じゃあ帰りますね」

 

とにかく、速く帰りたかった。というより、速くトレーナーさんのあのぶっきらぼうな顔が見たかった。悩みも解決したし、そのことを話したくて仕方ないって奴だ。

 

「ま、待ってください!最後に、次のレースは何にする予定ですか!?」

 

「ホープフル。じゃ」

 

私は帰った。

 

 

────⏰────

 

 

「トレーナーさん!勝ちましたよ!」

 

「知ってる」

 

私がトレーナーの待つモツ鍋屋に行くと、そこにはメガネを曇らせながらモツ鍋をつつくトレーナーさんがいた。飯食べてる時ぐらい眼鏡外したら?

 

「ヴィク、この後客人が来るからな。丁重にもてなせよ」

 

「?」

 

私が首を傾げていると、突然外から大きな声が聞こえた。

 

「猜疑ッ!こんな所に本当にヴィクティミアが居るのか!?」「なーん」

 

「………子供?」

 

出て来たのは、子供だった。まだ小学生も良いとこの小さい子。その子は頭にネコを乗っけてセンスをはたいていた。そして偉そう。

 

「驚愕ッ!いきなりヴィクティミア本人と鉢合わせたぞ!たずな、これはどういう事だ!」

 

「あらあら、お出迎えありがとうございます♪朝日杯見ましたよ?凄かったですね、最後の加速。そして……うふふ」

 

げ、激怖秘書もいるじゃん。この人怖いから苦手なんだよなぁ…しかも、この人足速いし。

それにしてもこの子供誰だろう。私がトレーナーさんに目を向けると、そこには目が死んだメガネ男がいた。現実から逃げるな。

 

「提案ッ!早速で悪いのだが、私は雑談をしに来た訳ではない!ヴィクティミア、君の功績を讃えて称号を贈ろうではないか!」

 

「代々、G1レースに勝ったウマ娘には理事会から称号や二つ名を与えられるんですよ〜。例えば、【皇帝】、【ロード・オブ・エンペラー】シンボリルドルフとかですね〜」

 

「贈与ッ!君に与えられる称号は【PUREWHITE EVIL】だ!由来を説明したまえ!」

 

「はい〜!由来はですね、白い姿と、鬼気迫る走りだそうです。称号は更なる功績を上げれば変更されますので、ご注意を」

 

何だ、そのカッコいい名前は。しかもEVILって、私の勝負服の文字と同じじゃん。昔からこういうのに弱い私からしてみれば、最高の称号だ。悪の純白、いい響きだ。

 

 

その後、二人は去っていった。

私はこの日、モツ鍋にハマった。




リアルが忙しくなって来たので、投稿頻度が落ちています!
申し訳ありません!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。