やがて"最強"と呼ばれるウマ娘の話 作:心折れた騎士
はわわ…理子先生とトレーナーさんが喧嘩を…!と、止めなきゃ!?でもどうやって?ええいっ、どうにでもなれーっ!
「喧嘩はやめて下さいっ!」
思い切って扉を蹴り開けて喧嘩を止めるように言うと、二人は硬直していた。さぁ、どうしようかな。ここから先は何にも考えてないからなぁ…
「ヴィク…!?」
「良いところに来ましたね、ヴィクティミア。貴女に聞きたい事があります」
「へっ?」
「貴女は─────無理な走りを止めるつもりはありませんか?」
昼間の事かな?考えてなかったや。
「勝てるなら、それでも良いですよ。」
そう言うと、二人とも複雑な顔になった。なんで?
「ヴィク、あの走りは天からの贈り物だ!それを上手く活用しないなんて、あり得ない!勝ちたいんだろう?なら俺に任せておけ!俺が必ず勝たせてやる!何なら、出れるG1全部勝たせてやる!」
そこまで言われたらなぁー…やる他ないでしょ?だって、私の目的は"最強"。誰にも勝てない無敵のウマ娘になるんだ。特に目的は無い。お金も、名声も、必要ない。私が欲しいのは、勝ち。どうしようもないくらいの勝ち。
これは私の魂に刻まれた命題なんだから。
「トレーナーさん。私……」
トレーナーさんの唾を飲む音が聞こえる。そっか、トレーナーさんも不安なんだね。私に捨てられちゃうんじゃないかって。理子先生のところに行っちゃうんじゃないかって。
「私、勝ちたいです。トレーナーさん、約束ですからね?」
「っ!ああ!当然だろう!?必ず、お前を"最強"にしてみせる!」
これで決まりだね、ごめんね理子先生。
────⏰────
あれから数週間が経った。
トレーナーさんはあれ以来更に張り切っちゃって、私の体力が続く限り無限にトレーニングをしてる。ま、嫌じゃ無いんですけどね。
数週間の間に、カフェさんやタキオンさんと何回も並走して、その度に新しい問題点が見つかったりした。シノビちゃんとはたまに食堂でお話ししたりする。
「そうだヴィク、今月末にメイクデビューだからな。備えておけよ。」
「ふぇ?」
突然そんなこと言われても。
というか、普通メイクデビューって6ヶ月ぐらい経たないとダメなんじゃなかったっけ…?
「お前は同期の中じゃ一番だからな。それに、朝日杯FSにも間に合わせなくちゃいけないからサッサとデビューは済ませておきたいんだ」
「なるほど。でも、G1レースってある程度勝たないとダメなんじゃないの?」
「そうだな、だからお前には京王杯に出てもらう事になる。まぁ、目立ったライバルは居ないし余裕だろう。」
そんな楽に勝てる物なのかな?まぁでも、まずはメイクデビューだから、気を引き締めなきゃ!
────⏰────
さぁ、いよいよ出走だ。ううっ、緊張するなぁ。
「トレーナー…私、勝てるよね?」
「当然だろう?お前が負けるはずがない。何故ならお前は今この場にいるウマ娘の中で最強なんだからな。」
「あはっ、頼もしいこと言ってくれるね!任せてよトレーナー!勝ったら、ラーメン奢ってね!じゃ、行ってきます!」
トレーナーは悪そうな顔でニヤリと微笑むと、手を振って送り出してくれた。さぁ、あとは勝つだけ!
パドックを見て、強そうな子が居ないか確かめてみようかな。トレーナーさんはよく「レースはパドックから」とか言ってるし。
『1番、クリオーリョ3番人気です。がっしりとした体格と、鋭い眼光は驚異的ですよ』
この子はあんまり強そうな気配を感じないな。
『5番、セクタムセンプラ2番人気です。小さいですが、全身から溢れ出る闘志は凄まじい物を感じますね!』
この子…緊張してるのかな?身体が少し震えてる。
「ヴィクティミアさん、パドックお願いします」
「あ、もう私か。はーい!」
『では、1番人気をご紹介しましょう。7枠1番ヴィクティミア!他を圧倒するような実力差を感じますね!もはや貫禄すら感じます!』
10人ぐらいの人たちが私を見てる。うぅ、なんか全身ジロジロ見られてて気分悪いな。早めに撤退しよ……。
そして、いざゲートインの時が来た!ゲートなぁ、なんか嫌なんだけどそこまで嫌じゃないっていうか。むしろ、闘志がムンムン湧いてくるような…。
『ゲートイン完了………』
おっ、もう始まるね。さぁ、勝ちに行こう!
──────○──────
ガタンという音と共にゲートが開く。
私は、一気に前に出る。でも、私の作戦は逃げじゃない。先行だ。
『一斉にスタートしました!先頭に躍り出たのはクルックシャンクス!続いて、ボーキサイト、コマンドマンと続きます!1番人気、ヴィクティミアはいい位置をとって居ます!』
まずは温存だ。出来るだけ内を取って、スタミナの消耗を抑えるんだ。
『第一コーナー曲がって…おおっとヴィクティミア、綺麗なコーナリング!なんとも芸術的です!』
「くっ!アンタなんかに負けない!」
「1番人気だからってぇ!」
私の存在で掛かった子が二人。あれじゃ失速するね。
『続く第二コーナー。ドリームライフとワクワクキョウシツが上がってきた!これは少し掛かってしまっているかも知れません、落ち着くタイミングがあれば良いのですが!』
「何っ!?くそっ!」
「行かせないよ!」
『ここでボーキサイトとコマンドマンも速度を上げる!非常にハイペースなレース展開となって来るのか!?』
『後ろ直線入ってヴィクティミア、追い抜く事が出来るか!?中山の直線は短いぞ!後ろの子達も追いつけるか!?』
もうすぐ第三コーナーだ。仕掛け時は──────ここだ。
『ヴィクティミアが凄まじい速度で上がってきている!牛蒡抜きだ!あっという間に一位に躍り出る!だが大丈夫なのか!?この先はコーナーだぞ!?曲がりきれる事が出来るのか!?』
イメージするのは、最強の自分。私は負けない。もう、二度と。
『なんとぉ!?猛スピードのまま綺麗なコーナリングだ!脚は保つのかヴィクティミア!他の追随を許さない走りだ!恐ろしいスピードでコーナーを駆け抜けていく!おおっとクルックシャンクスすこしよろけた!ヴィクティミアに釣られたのでしょうか!?』
最後の直線は短い。もう、私を止められる奴は居ないんだ。良い、良いな!これが強いって事か!昂る気持ちを足に込めて、更に加速しつつゴール!
はぁ…気持ちよかった。
『ヴィクティミアが大差でゴールイン!圧倒的実力を見せつけた!これが新時代の幕開けだぁぁぁぁぁぁ!!!!!二着争いは……』
「ヴィク!」
「トレーナーさんっ!私勝ったよ!余裕だった!」
ついトレーナーさんに抱きついてしまう。この身に宿る高揚感は随分と私の行動を軽率にしてくれた。
「ははっ!言ったろ!?お前なら余裕だってな!ハーッハッハッハ!!!!さぁ、ウイニングライブを楽しんでこいよ!」
「へっ?」
ウイニング、ライブ…?何ですか、それ……?
「お前まさか!ダンスの練習してなかったな!?」
「あ、えーっと……社交ダンスなら、ちょっとは…」
そういうと、トレーナーさんは頭を抱えて蹲ってしまった。で、でも頑張らなきゃね!最強だもん!私!
────⏰────
結果として、ライブは大成功だった。
と言っても私は最後まで歌詞が分からなかった。
見かねたトレーナーさんが、「俺がなんとかする!」とか言って、曲をワルツに差し替えてステージに飛び入りしてくれた。
結局、トレーナーさんと踊る事になった私は学園のみんなから白い目で見られる事になったのだった。
「うぅ〜……恥ずかしいよぉ…」
道を歩けばヒソヒソと噂をされる。
内容は「あの人がトレーナーと踊った…」だの「デキてる」だの下らないのばっかりだ。デキてないし。勘違いしないでよね!
「ヘーイ!ヴィクちゃーん!どうしたのさー!元気無くしちゃってぇ!」
私がトボトボ歩いてると、ふと声をかけられた。
うわ、スッゴイギャルだ。
「えと、あなたは?」
「アタシ?アタシはねぇ、ダイタクヘリオスってゆんだ、よろたん!ウェーイ!」
「よ、よろたん…?うぇ、ウェーイ!」
とりあえず、無視するのもかわいそうだしノリに乗ってあげよう。
「アタシさぁ、こないだのヴィクちゃんのライブムビ見てさ、ヴィクちゃんの事ブチ気になっちゃってウマ垢調べたんだけど!ヤバくない?ヴィクちゃんウマ垢無いじゃん!ねね、アタシが教えたげるからさ、作ろ?ほら、ウマホ貸して?」
私は流されるままにウマホをヘリオスさんに貸してしまう。そして流れるままにウマッターを作ってしまった。
「写真とろーよ!記念にさ!はい、チーズ丸五倍盛り☆」
「えーっと、さ、三種のチーズ盛り牛丼特盛り温玉付きっ!」
写真も撮って、ウマッターに上げたけど誰も見ないでしょ。だってフォローしてるのヘリオスさんのアカウントだけだよ?と、そう思っていた時期が私にもありました。
「あはっ!ヤバみ澤深志(53)なんだけど!?見て見てヴィクちゃん!もう1万ウマいね付いてるよ!」
「はわ、はわわわわ…」
ナンデ!?ウマッターナンデ!?危うくウマッターリアリティショックを受けそうになったけど、なんとか耐えた。え?何これ。ウマッター怖。
「うわ、うわうわうわ!フォロワーがもう3万人にぃ!?怖いって、何これ!?リプライも飛んできてるし…何何?『メイクデビュー見ました!応援してます』?『草ですわ!』『やあやあやあ! 祭りだ祭りだ!袖振り合うも多生の縁!つまずく石も縁の端くれ!共に踊れば繋がる縁!この世は楽園!悩みなんざ吹っ飛ばせ!笑え笑え!』……長いわ!」
とにかく、これからはウマッターを見ないようにしよう。これ、怖い。封印、と。
使うとしても、日記帳程度で使おう。
「ヴィクちゃんさ、今暇?」
「まぁ、暇…ですけど。」
ヘリオスさんが目をキラキラ輝かせてる。うっ、かわいいな…?
「ならさ!タッピーしにいかね?はちみーも売ってるから、一緒に飲もーぜウェイ!」
────⏰────
何がなんだかわからないうちに、私は青春を謳歌していた。初めて飲むタピオカ、初めて飲むはちみー、見知らぬ都会の街。全部楽しかった。
「あの、すいません。ヴィクティミアさんでしょうか?」
突然声をかけられた。私って、声かけられやすいのかな?
「はい、私がヴィクティミアですけど…」
振り向きながら返事をすると、そこにはカメラを構えた大量の人たちが居た。え、何?
「ヘリオスさん、これ…」
「ヴィクちゃんがヤだったらトンズラしてもおけまる水産だからね」
やけに真剣な顔つきで私に警告してくれてるヘリオスさん。メディアってそんなにヤバいの?
「では、今話題のヴィクティミアさんに取材する事が出来たので早速取材していきましょう!」
は?別に許可してないが。なんだァ…こいつ…?
「ヴィクティミアさん、貴女はメイクデビューで勝利した際、「余裕だ」と発言しましたね。その発言で傷ついたというウマ娘の方々が大勢いるらしいのですが…その事について何かありますか?」
知らないよそんな事…。しょうがないじゃん、私が一番強かったんだから。まぁ、雑に答えて心象悪くするのもアレだな。ここは丁寧に答えよう。
「私は、勝ちました。勝てなかった子の気持ちは理解しているつもりです。確かに悔しくて、自分の存在価値を否定されたような気持ちになるでしょう。でも、今回は仕方なかったんです。何故なら、私が"最強"だからです。」
「なっ…!?そんな事で、被害者が納得するとでも思っているんですか!?最強だからって…理由になってないじゃ無いですか!反省の色はないんですか!?」
「無いです。当然でしょう?私は強かった。周りが霞んでしまう程に強かった。これは、私とトレーナーさんの成果であって、他の子の怠慢ではありませんよ。だから、仕方なかったんです。」
「そんな詭弁で…!貴女に夢を潰された子だっているんですよ!?」
「それしきで潰れる夢なら、見ない方が良いですね。では、失礼します。ヘリオスさん、行こ?」
「う、うん……」
私はヘリオスさんの手を握って、トレセン学園まで戻ってから事の重大さを実感した。
「ああああああああああ!!!恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!なんであんな事言っちゃったのかなぁ私は!?うううっ!」
現在、私は噴水前で転がりながら羞恥に悶絶している。この間のワルツもそうだし、どうして私は目立つような事しちゃうかなぁ!?
「アハハ!ヴィクちゃんカッコよかったよ!だからモーマンタイだね!アタシちょっとドキッとしちゃったもん!」
「ヘリオスさん…」
ヘリオスさんが優しくて良かったと思いつつ、私達はしばらくそこで談笑していたのであった。