(提督視点)
翌朝、鎮守府。
清々しい朝に反して食堂内には、重い空気が流れていた。
提督「…おはよう。天龍は…?」
いつも騒がしい天龍の席が空いており、それがより一掃食堂内の空気が重苦しいものになっているのを感じた。
利根「何度呼び掛けても部屋から出て来ぬのじゃ…」
提督「…やはりか……」
あの後、全てを話した。
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時間を巻き戻し、前日戦闘後。
帰港した天龍は自分に刀を向けた。
切っ先をガタガタと揺らしながら、どうしようもない怒りと哀しみが混ざったような目で、こちらを睨んでいた。
また鈴谷、利根も天龍程ではないがこちらを睨み、暁と響は不安そうに見つめている。
そしてその周りには麗香達をはじめ長門、ヒリュウ達がいる。
天龍「提督……深海悽艦って何なんだよ……?」
提督「……」
天龍「なんで…龍田が……深海悽艦になってんだよぉおおおおおおおお!!!」
日が傾き、紅く染まる空に天龍の叫びが響きわたる。
龍田……確か天龍型二番艦だったか……。
…………そうか……この子は妹を……。
提督「…そうだな……知る限りの事を、話すよ」
奈良と明石がヲ級の艤装を解剖して『艤装が寄生生物』の類いということが判明したこと。
艤装が艦娘に何らかの方法で寄生することによって人型深海悽艦になるということ。
そしてヲ級として捕獲した彼女は元艦娘、正規空母飛龍だということ。
その場にいる全員にしっかりと説明していく。
天龍をはじめ、皆信じられないといった表情になっていく。
天龍「なんだよ……それ…なんで分かった時点で言ってくれなかったんだよっ!!言ってくれたら」
提督「言っても信じたか……!?それに分かったとしてその後の戦闘で、その砲を!刀を!奴等に向けられたか!?お前達の姉、妹かもしれない人型深海悽艦をっ!お前は知ってて沈められるかっ!!??」
天龍「っ!」
思わず感情的になり、大声を出して反論してしまった……。
自分の言葉に反論する術が無く、膝から崩れ落ち俯いてしまう天龍。
目元はわからないが悔しそうに歯を食いしばり、涙をながしているのがわかる。
鈴谷「…熊野…」
利根「……筑摩」
北上「大井っちや球磨姉かもしれないやつを……」
木曾「沈める…」
暁「うっ……いや……いやぁっ!」
鈴谷や利根をはじめ姉妹艦を持つ何人かの艦娘も同様の反応を見せる。
金剛「そ、そんなのウソに決まってるデース……!」
ヒリュウ「いいえ、金剛さん…。残念だけど…私が、深海悽艦になってしまった私がここにいる事が…何よりの証拠です……」
金剛「……」
気丈に振る舞おうとした金剛もヒリュウの言葉に砕け、へたりこんでしまう。
蒼龍「そんな…飛龍……なの……!?」
口元を抑え、信じられないといった……いや、絶望した表情でヒリュウを見る蒼龍。
ヒリュウも申し訳なさそうに彼女から目を逸らす。
ヒリュウ「ごめん、蒼龍…」
蒼龍「いや……いやっ!!」
その場から逃げるように去っていく蒼龍。
ヒリュウはそんな彼女を黙って見ている事しか出来なかった。
その後の事は正直思い出したくもない…。
葬式のような沈んだ空気で麗香と事後処理を行い、鯖江と一緒にへたりこんだまま動かない天龍をヘリに押し込んで鎮守府へ帰投。
録に日程確認も出来ないまま夜が明け、今に到る。
そして現在、鎮守府食堂にて。
言いたくはないが…昨日真実を打ち明けた以上、改めて彼女達に戦う意思を問う必要がある。
提督「皆…辛いと思うが、答えてくれ。これからも深海悽艦と戦う覚悟があるか?」
静かに、ハッキリと問いかける。
問いかけてから数秒で手が挙がる。
提督「龍驤…」
龍驤「うちは戦うで。まぁ、姉妹艦がいないってのもあるけど、そもそも深海悽艦と戦うのがうちら艦娘の使命でもあるわけやし」
提督「ありがとう…」
正直悩んですぐに答えが出ないだろうと思っていたから、真っ先に龍驤が戦う意思を見せてくれた事がありがたい。
また何処からか手が挙がる。
提督「鈴谷…?」
震えた手を挙げ、少し怯えた様子の鈴谷。
鈴谷「ゴメン…提督……。今は、戦う覚悟が無いや……ちょっち、考えさせて……」
提督「構わないさ。覚悟が出来ないのも分かるし、覚悟が無い娘を無理矢理戦場に出す気も無いよ」
鈴谷も姉妹艦を複数人持っている娘だ。躊躇ってしまうのも無理はない。
暁「司令官……」
提督「ん?」
暁「暁も…雷と電の事を考えちゃうと…」
提督「分かった」
今にも泣きそうな暁を撫でる。
わかってはいたが…ここで彼女達が離脱するのは戦力的に大きな痛手だ…。
響「私は…戦うよ。司令官」
提督「響…」
響「怖くないって言ったら嘘だけど…。これ以上誰かが傷付くのは見たくない」
利根「そうじゃな…。吾輩も覚悟を決めたぞ、提督よ」
覚悟を決めた強い眼差しでこちらを見る響と、彼女の決意に感化され、覚悟を決めた利根。助かる。
提督「ありがとう、2人共」
更にヒリュウが手を挙げた。
ヒリュウ「私も艦隊に入れてください」
提督「俺は構わんが、どうだ?皆?」
大丈夫だと思うが昨日の件もあり、3人の反応を伺う。
龍驤「うちはええで!」
響「もう敵では無いんだ。構わないさ」
利根「戦力は多い方が良いからな。頼むぞヒリュウ」
ヒリュウ「…はい!」
ヒリュウを受け入れる利根達を見て内心ホッとしたと同時に、こんな状況じゃ無かったらと思わず悔やんでしまう。
……悔やんでばかりじゃダメだ。自分が皆を引っ張っていかなければ…!
提督「……よし。この後建造もして、昨日ミーシャが保護した艦娘がいるから彼女を加えて、利根を旗艦とした艦隊で運営していく予定だ」
ヒリュウ「そういえばその保護した艦娘は?」
提督「まだ目覚めていないから、紹介は後になるな。あと暁と鈴谷は鎮守府内の業務を手伝ってもらう。いいな?」
暁「うん」
鈴谷「それくらいはね?」
そして今日の日程を改めて伝えて解散、その後執務室へ戻り、電話をかけた。
提督「俺だ」
74『よう、昨日は散々だったな…』
電話の相手は教導連隊の74式。
最初は麗香に電話を掛けてみたのだが、忙しいのか掛からなかった為電話に出られそうな彼女に掛けて今に至る。
昨日の件もあり、どことなく真剣な様子が声から感じられた。
提督「麗香達はどうしてる?」
74「今は結構忙しそうだが…安心しろ、特に変わらねえよ」
提督「すまなかった……君達にもあの話を聞かせてしまって…」
74『……あんなの……責める気にはなれねえよ』
ハァ…と受話器から74式の溜め息が聞こえる。
気を遣わせてしまってるなと、少し自己嫌悪に陥ってしまう。
提督「艦隊の様子は?」
74『長門と蒼龍が参っちまった。今金剛が必死に皆を引っ張ろうとしてる』
提督「…すまない」
74『…謝んじゃねえ……』
提督「すまない…」
74『だから謝んな…!こっちには16やザマスメガネがついてるし、こっちでも奴等についてデータを集めて浄化剤が出来ないか研究してみる。だから……あんたもそんな情けない声出すんじゃねえよ…』
提督「……あぁ、ありがとう…!」
74『それでいい。それじゃ、また何かあったら連絡する』
提督「わかった。こっちでも研究を続けるよ」
74『おう、じゃあな!そろそろ戻らねえとメガネにドやされちまうからな!』
まさか、あいつに元気付けられるなんてな…。
そんな感傷に浸っていると扉がノックされ鈴谷が入ってきた。
鈴谷「保護した娘、目が覚めたから連れてきたよ」
提督「ありがとう。入ってくれ」
「失礼いたします」
提督「ここの鎮守府を任されている提督だ。よろしく頼む」
こちらの挨拶に対し、長い黒髪が美しい彼女は礼儀正しくお辞儀をしてから自己紹介をはじめた。
扶桑「扶桑型航空戦艦、姉の扶桑です。よろしくお願いいたします」
姉、という単語に思わず眉が動いてしまう。
提督「扶桑、姉ということは妹が?」
扶桑「ええ、山城という妹が。えっと…なにか?」
提督「……聞いてくれ」
扶桑に深海悽艦について一通り説明していく。
そして、扶桑も先日襲い掛かってきた戦艦級であった事も。
扶桑「そんなっ…!」
こちらの話に驚く扶桑。
そして今朝の問いを、彼女にもぶつける。
提督「扶桑……この事実を聞いた上でも、戦えるかい?」
扶桑「……」
目を閉じ数秒考えた後、静かに深呼吸する扶桑。そして
扶桑「はい。例え出会った敵が山城であったとしても、戦います」
提督「…ありがとう」
しっかりとこちらの目を見て、ハッキリと答える。
その瞳から確かな決意を感じられた。
提督「じゃあ鈴谷、彼女の案内役頼めるかな?」
鈴谷「え…?あぁ任せて!扶桑さん、行こ?」
ボーッとしていたのか突然仕事を降られてハッとなる鈴谷。
そして鈴谷と扶桑は自分に挨拶した後、執務室を後にしていった。
(鈴谷視点)
執務室でのやり取りが、鈴谷にはどうも気に食わない部分があった。
扶桑さんの言っている事は別に間違っているわけじゃないんだけど……鈴谷達がこんなに迷っているのに、あそこで即決められた事が妙に腹が立った。
鈴谷「ねえ」
扶桑「はい?」
廊下を歩きながら声を掛ける。だが顔は廊下の先に向けたままだ。
鈴谷「なんであんなに即決出来たの?」
自分でもビックリするくらい、トゲがある言い方をしてしまった。
扶桑はそれを感じ、思わず黙ってしまう。
鈴谷「答えてよ…?それとも口任せだった感じ?」
段々言葉に怒りが篭っていってしまう。けど彼女に対する苛立ちが止められなかった。
そして終いには立ち止まって彼女を睨む。
鈴谷「それとも実感が無いの?そりゃそーよね?扶桑さん、"艦娘としての"実戦経験まだ無いもんね?…ねえ…黙ってないで答えてよ?」
捲し立てるように次々と言葉が出てしまう。
扶桑「…私は、深海悽艦になってしまった艦娘の不幸を無くしたい。そう思ったから決意したのよ」
怒りを隠さない鈴谷に静かに言い放つ。
鈴谷「…沈めて楽にしてあげるって事…?」
そんなの言うのは簡単だけど、実際に出来る訳ないじゃん。
扶桑「寄生されて意思を、自由を奪われて苦しんでいるなら…それは艦娘としてこれ以上の不幸はないと思うの…。だからこれ以上不幸にならないように楽にしてあげる事が、深海悽艦だった私の使命だと感じたわ」
鈴谷「…」
何も言い返せなかった。
それでも何とか反論しようと口を開けるが、何の言葉も出てこなかった。
扶桑「そして沈めて、彼女達の無念と不幸を背負って戦い続ける。それが私の戦う意思よ」
鈴谷「でも……助けられるかもしれないじゃん…………沈めちゃったら…もう、終わりなんだよ……?ヒリュウも扶桑さんも助けられたじゃん…!なんとかなるはずだよ…!」
もう反論じゃなく願いに近いものだった。
けど扶桑さんは容赦無く現実をぶつけてくる。
扶桑「皆さんは今日迄何体の人型深海悽艦と戦ってきたか、わかりますか?」
鈴谷「……そんなの知らないよ…!」
扶桑「では質問を変えましょう…。私のように艦娘として戻ってきた娘は居ますか?」
鈴谷「……」
答えられなかった。
これまで数えてはいないけど結構な数を倒してきたことは覚えてる。
けど、その中で扶桑さんのようなケースは今迄無かった。
扶桑「助けられるかもなんて、甘い事は言ってられないのよ…」
鈴谷「でも、でも…」
扶桑「そこで躊躇ったら…姉妹艦を更に苦しめる事になる。私は、そう思うわ…」
その言葉に、鈴谷は反論出来なかった。
ただ俯いて、受け止めるしか出来なかった。