魔法?よく分からんわ!殴ろ!   作:集風輝星

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ダブルセブン編 その二

「…おやおや、達也達もお熱いね~」

 

「仕方ないよ、あの水波って子も一緒に登校するようになっちゃったら、二人きりの登校が出来なくなるからね」

 

「俺達はほのかちゃんが一緒の時以外は基本二人きりだからな~」

 

「この道通ったらもうみんなが来るけど、それもこの道だけだからね」

 

 

新年度初日、前方の司波兄妹、後方の総司と雫のカップルのイチャつきを間近でくらわされている非リアの一高生の顔が青ざめて、今にも吐血しそうな今日この頃。様々なしがらみで二人きりとはいかない司波兄妹と違って、自分達は比較的自由である事の喜びをかみしめていた総司達。

 

 

「オハヨ~」

 

「おっ、エリカちゃん。それにみんなも」

 

 

そんな総司達に話しかける声が。その声の主はエリカであり、レオにほのかに幹比古、美月も勢揃いだ。そして少し前に司波兄妹を見つけたエリカはそちらへも挨拶をする。それに手を上げて答えた達也。少し歩を進めて合流する総司達。

 

 

「幹比古、一科生の制服の着心地はどうだ?」

 

「からかわないでよ、達也。達也の方こそ、真新しいブレザーの着心地はどうだい?」

 

「新しいといっても今のところは看板だけだからな」

 

 

進級するに伴い、幹比古は一科生に、達也と美月は魔法工学科へと転科した。その際に制服も替わった為、この三人は去年までとは違う制服を身に着けている。

 

 

「なんだよ、冷めてるなぁ」

 

「ホ~ント。美月なんか頬が緩みっぱなしだっていうのに」

 

「ゆ……緩んでなんかないよ!」

 

「いや、緩んでるね」

 

「もう!総司君まで…」

 

 

二科生三人の揶揄いに美月が抗議する。彼女としては、二科生の三人を気遣っていたつもりなのだろうが、その表情からは喜びが隠しきれていなかった。

 

 

魔法工学科の教室は本校舎三階の中央階段横にあった。クラスはE組。つまり達也と美月にとっては先月まで通っていた教室の真上という事になる。ちなみにエリカとレオ、総司は同じF組である。

達也が教室に入った時、席は約半数が埋まっていた。達也は自分の席へ向かった。廊下側一列目、前から二番目。隣の席は昨年度に引き続いて美月である。

 

 

「よーす!どーも俺だ!」

 

「うるさいなぁ、ぶっころすよ?」

 

「挨拶だねぇ達也。そんなに俺が教室に遊びに来るのが嫌か?」

 

「そう言う訳では無いが、少しウザいとは思う」

 

「それ嫌って事じゃないか」

 

 

達也の教室は去年までいた教室の真上、つまりF組の上だ。こうして総司やレオにエリカが遊びに来ても不思議ではない。今でこそ総司しか来ていないが、別に立ち入り禁止という訳でもないからである。

 

 

「…それよりさ、何か見覚えない奴多くない?」

 

「お前にとっちゃ全校生徒の八割が見覚えない奴だろうよ」

 

「バカを言うな、九割だよ」

 

「より悪いよ…自信満々に言うことじゃないよ総司君…」

 

 

総司のボケに美月が呆れながらツッコミを入れている横で、達也自身も確かに総司の言うとおりだと思考する。

 

 

「仕方ないですよ、達也さん目当てで転科を希望した人も多いって聞きますし」

 

「やっぱそうだよ、俺は間違ってなかったんだ!」

 

「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる…か」

 

「オイこらどう言う意味だ」

 

「意味分かってる?」

 

「分からんから聞いたんだろうが」

 

「本当に意味を知らないパターンってあるんですね…」

 

 

そんな会話をしていた三人の元に、声が割り込んできた。

 

 

「ちょっと良いかい?」

 

 

後ろから掛けられた声に達也が座ったままで振り向く。それと同時に美月と総司の視線もそちらへ向く。そこには教室に入ってきた男子生徒が爽やかな笑顔を浮かべていた。

 

 

「ちゃんと挨拶するのは初めてだよね? 僕は十三束鋼。よろしく、司波君」

 

「そうだな、名前は知っているが実質的には『はじめまして』か。司波達也だ、よろしく、十三束」

 

「十三束君、はじめまして。柴田美月です。よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしく」

 

「俺の名前は工藤新一…高校生探偵だ」

 

「うん、よろしくね、橘君」

 

「…はい、よろしく」

 

「(コイツ…出来る!)」

 

 

十三束が達也と美月に挨拶を返す。その後の総司のふざけた挨拶も、完全に無視して切り返した。これには総司もテンション爆下げだ。達也は対総司の切札が一つ増えたと思った。

 

 

「しかし意外だな…学年総合五位の十三束が工学科に来てたなんて」

 

「僕の家は戦闘やレスキューよりこっちが本領だからね…それに僕は……実技に問題があるからね」

 

 

その十三束の返答に、申し訳ない気持ちになりながらも、達也と美月は彼の二つ名とそれについての噂を思い浮かべる。モチロン総司はそんなもの知らない。

 

レンジ・ゼロ。射程距離ゼロという彼のニックネームは、ゼロ距離なら無類の強さを発揮するという敬称であると同時に、遠隔魔法が使えないという蔑称でもある。しかもゼロ距離で無類の強さというなら眼前の総司の方が数千倍強い為、その異名自体も微妙なものだったりする。

 

その後、つつがなくホームルームを終えた。

 

 


 

 

一時限目こそ履修科目の登録に当てられたが、二時限目からいきなり通常通りのカリキュラムが始まって、今は昼休み。達也は生徒会室に来ていた。

 

彼は今日から生徒会副会長。達也が風紀委員会から生徒会へ移籍させるというあずさと花音の秘密の計画が、達也の意思を無視して遂行された結果だ。そして今、生徒会室には生徒会推薦枠で風紀委員に入った幹比古、同じく部活連推薦枠の雫、そして風紀委員長の花音、何故か居る総司と生徒会メンバーの九人が揃っていた。

 

九人もいれば会議用のテーブルも手狭だ、という理由で、花音は先ほどから五十里にピッタリくっついている。総司は何の理由も無しに雫を膝に乗せ、ずっと頭を撫で回している。雫の表情は最早猫と言っても過言じゃないものになっていた。

 

昼休みも半ば近くになると、間近に迫った入学式の話題が展開される。

 

 

「今日の放課後もリハーサルなんですか?」

 

「リハーサルというより打ち合わせですね。答辞のリハーサルは春休み中と式直前の二回だけです。それも段取りを練習するだけで、実際に原稿を読み上げたりはしませんよ」

 

「そうなの?今回はちょっと特殊だから、もっと何かあるのかと思ってた」

 

「…それ何処から聞いたんですか?」

 

「そりゃ総代本人よ」

 

 

幹比古の問いに深雪が公の場ならではの礼儀正しい言葉で返答を返す。それに練習無しで大丈夫なのかと問うた総司。それもそのはずである…

 

 

「だって今回は異例も異例、新入生総代が三人もいるんだからさ」

 

 

そう、なんと本年度の新入生総代は、過去に例を見ない三名。それぞれのテストで点のばらつきがあるものの、奇跡的に三人が横並びになったため、三人合同で総代として扱うことにしたのだ。その三人こそ…

 

 

「流石は真由美パイセンの妹達、あの真面目ちゃんな琢磨に並ぶとはね」

 

 

そう、その三人とは、七草の双子こと七草香澄と七草泉美。そして総司の愛弟子でもある七宝琢磨であった。本人から聞いただけあって、総司の口からは情報がまだまだ出てくる。どうやら琢磨は師匠の悪い点(戦闘以外でバカ)を少し引き継いでしまったらしい。

 

 

「なんか七草の双子の…あれ、零次によりなついてる方が、こっちを敵視してくるって」

 

「それは…次世代の数字付きでも十師族を抜き去って最強と称される七宝の定めなんじゃないだろうか」

 

 

原作においては、琢磨は七草家に強い憎しみを抱いていたが、そんなものこの世界には存在しない。琢磨は今や次世代でも克人、将輝に並んで三強とすらされており、琢磨が家督を継げば、十師族のメンバーが変動するとまで言われている。別に十師族の立場に固執している双子ではないが、同年代でそこまで言われた人物がいると、敵視したくもなるだろう。

 

 

「変なイザコザがないと良いが…」

 

 

 


 

 

 

入学式当日…

 

 

「……」

 

「ええ…」

 

 

その壇上、新入生総代の答辞にて。

琢磨を露骨に睨み付ける香澄、困惑顔で「この状況でもその態度なん?」と言いたげな琢磨、表面上は笑顔だが、冷や汗を流している泉美。

 

その様子を見て生徒会メンバーは…

 

 

「「「「「(あっ…これ今後大変なやつだ…)」」」」」

 

「琢磨~、そんな小娘ぶっ飛ばしてやれ~」

 

「七草先輩の妹だぞバカ」

 

 

これからの学生生活に気苦労の気配を感じたのだった…




魔法科世界の秘匿通信


・総司が九島の関係者だったり、安倍晴明の血族であることは最早一高の常識だが、魔法が下手な事に変わりないので、二科生続行。



・香澄はライバル的な認識で琢磨を見ているが、琢磨は昔はともかく今は七草へ恨みはないし、総司と出会った事で原作ほどの気性の荒さが無くなった(外敵は例外)ので、ライバルとかの競争相手を求めない。故に琢磨は香澄に睨まれている理由がサッパリ分かっていません。

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