魔法?よく分からんわ!殴ろ!   作:集風輝星

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ダブルセブン編 その三

「…世界はオワオワリ…」

 

 

達也が絶望したような表情で呟く。今も尚、壇上にて競り合う(香澄目線)総代三人を見つめる。本音を言えばこのまま何も言わずに静かに壇上を降りてほしいものだが、そもそも前に出てきた意味が無くなってしまうので、できるだけ手早く終わらせてくれないかなぁ…と願いながら眺めていると、まずは先陣を切って琢磨が答辞を行うようだ。

 

 

「…全略」

 

「え…」

 

「…新入生総代、七宝琢磨」

 

ザワ…ザワ…

 

 

静かに降りていく琢磨「ちょっと待ったー!!」

 

「…何だよ」

 

「いやいや!今の何!?前略しか言ってないじゃない!?」

 

「ちゃんと言ったじゃないか、全略って」

 

「…まさか、前略じゃなくて、全部略すって意味の全略?」

 

「そうだけど?」

 

「うっそ正気!?アンタ正気!?」

 

「正気って、何を持って正気と…「ああ、そういうのいいから」あっそう?」

 

 

前代未聞の琢磨の行動に、香澄だけでなく体育館に居る全生徒、全教師が驚愕し騒がしい。そらそうよ。

だが琢磨はこの行動をまったくおかしいと思わない。いや、思わないように育ってしまった。小学生の時、たまたま上京していた総司に出会った事が原因で、性格が総司に限りなく近しいものに変化してしまった。その変わりようと言えば、親の反対を押し切って総司の居る孤児院に一人で遊びに行く(東京から京都へ、それも複数回)など、破天荒な事をし出し始めた程だ。更には総司を狙う『伝統派』の連中や、二八家の琢磨を狙う者など、様々な敵を総司と協力して打倒してきた経験から、琢磨は頭が良い、魔法も一流だった場合の総司の様になったのだ…あれ?それって上位互換じゃ?

 

 

「ほら、次お前の番だろ?早く答辞をしたらどうだ」

 

「じゃあ降りないでよ!?普通発表者って複数人いたら一人が発表している時は他の人は後ろで座って待ってるのが普通じゃない!?」

 

「何を持って普通と…「だからそう言うのいいって!?」あっはい」

 

 

琢磨は面倒くさがっていた。正直、琢磨は総司と会う度に行う決闘を早くやりたいとウズウズしていた。この一年、勉強に専念するため会うのを避けていたのだが、それも必要は無くなった。総司なら誘えば式典程度抜け出すだろう。一刻も早く自分の実力を尊敬する総司に対して試したくてたまらないのだ。

だからこそ、全略とか言うふざけた答辞とも言えない答辞と、おざなりな態度でこの場をやり過ごそうとしているのだ。やっぱコイツバカかもしれない。

 

 

「っく、コケにしてくれるわね…!」

 

 

まったくしていない。琢磨は同年代のライバル的な人材の事を把握しており、モチロン七草の双子の事もだ。しかし琢磨にとってライバルとは総司の事なのだ。同年代の人材の評価は正当だが、それ以上に琢磨にとって総司は輝きが強すぎた。琢磨にとって同学年など取るに足らないのだ。

故に、香澄が怒っている理由が分からない…いや、普通こんなことをやれば怒るに決まっているのだが、事実この体育館に爆笑している者(総司)もいる。その爆笑マンの弟分ともなれば、正常な判断が出来ないのも仕方ないのかも知れない。

 

 

「いいから、はやく戻ってきなさ…「あ、あそこに総司先輩に似た人が…あれが安部零次?」え!?どこどこ!?零次君どこ!?」

 

「香澄ちゃん…」

 

「…っは!?し、しまった!?」

 

 

琢磨は賢い、何かに使えないかと、総司からの情報で眼前の女子が誰にゾッコンなのかも把握していた。琢磨はあたかも観客の中に総司に似た…つまりクローンたる零次を見かけたとして香澄の気を引いて、その間に逃げ出すことに成功した。大好きな零次が来ているとなって興奮して探し始めてしまった香澄だが、泉美がため息をついているのを見て、思い出す。一高の入学式には保護者は同伴しない、完全に生徒だけで執り行われる。そもそも悪目立ちしている総司のそっくりさんなんて騒がれて当然だ、それが無かった以上、零次はこの場にいない。

騙された事を理解した香澄だが、もう琢磨の姿は見えないし、さっきまで聞こえていた笑い声…つまり笑っていた総司すら体育館から消えていた事に気づく。

 

 

「…く、悔しいー!」

 

 

まんまと出し抜かれてしまった事への悔しさが、思わず爆発してしまった香澄なのであった…

 

 

 


 

 

「っふ…!」

 

「久しぶりだが楽しいな、琢磨!」

 

 

そんな問題児二人は、現在人が一切居ない実習棟の第三演習室にて、組み手を行っていた。ルールは少ない、琢磨側に一切の縛りはなく、総司が琢磨に掛かっている身体強化を異能で打ち消さない。これだけしか決め事がないほぼルール無用のガチンコバトルである。

 

この組み手では、大抵の場合琢磨から仕掛ける。今回の琢磨は右足を用いたハイキックから入ってきた。迫ってくる蹴り、総司は左手首を琢磨の足首に合せるだけでその蹴りの威力を完全に相殺する。普通の組み手であれば、このまま足を掴まれ、バランスを崩して琢磨が負けるだろう。だがこれはルール無用の魔法師同士の組み手である。

 

琢磨は軸足という概念を無視した左ハイキックを繰り出す。簡単な浮遊魔法で一時的に肉体を浮かせる事で、足が地面についていなくとも問題無くなった故の攻撃である。普通はこんな異常な攻撃はくらって当然だが、ここは魔法の存在が普通の世界、そして幾度となく琢磨と戦う総司には大した奇襲にもならず、右と同じように手首と足首を合せられる…それを予期した琢磨は、合わさった瞬間に足首に力を、自身の肉体に魔法を掛け、インパクトと同時に後ろへ跳躍する。物理法則を無視した動きで後退する琢磨だが、物理にのっとりながら物理の常識を越える総司は縮地の要領で距離を再び詰める。

 

 

「もらった!」

 

「もらって…ないです!」

 

 

普通にくらえば大怪我しそうな程の威力を秘めた総司の右ストレートを、拳が当たる直前に総司を掴んで若干力の向きをずらし、直撃を回避する。からぶった拳はおおよそ人間が起こして良いものでは無いソニックムーブを引き起こし、暴風が吹き荒れる。

微妙に体勢が崩れた総司に蹴りによる追撃を行う琢磨だが、その足を掴まれ、投げられてしまう。投げられた方向に魔法式を投射、魔方陣を形成し、その中をくぐることで速度を軽減するも、その行動を行う隙を逃す総司ではなく、お前には重力や空気抵抗がないのか?と問いたくなるほどの直線的な跳躍。無理な体勢から行ったその跳躍によるダメージは総司の体には見受けられないが、残念なことに実習室の床がお釈迦になった。

 

まっすぐ向かってくる総司を見た琢磨は、おもむろに制服のジャケットを脱ぎ捨てる。すると…

 

 

「う…おっと!」

 

 

その脱ぎ捨てたジャケットから大量の紙切れが総司を襲いに来た。七宝家の切札、『ミリオン・エッジ』である。ただの紙切れと侮るなかれ、普通の紙のような薄さでこそあるが、その繊維の中には硬化や振動系など、強度を高めながらも殺傷力も上げようとする魔法式が、刻印術式として織り込まれている。努力が見られる代物だ。織り込まれた術式の中には、『切られたら切り痕が残る』という概念を具象化する魔法もあり、総司は無かった事に出来るが、気づかなかった場合に限り、総司にすら傷をつけられる強力な能力を持つ。

 

そんなものを数千と放ってきたのだ、総司は思わず上に跳躍し、回避を試みるが…

 

 

「それは…予測済みだ!」

 

 

総司の行動を人読みで見抜いた琢磨は、逃げるであろう場所にも刃を向かわせていた…だが、ここで終わる総司ではない。

 

 

「…これでもくらえ!」

 

「馬鹿な、総司先輩がま、魔法だと!?」

 

 

総司は身体を捻って体勢を変え、足を天井に向け、そして足をめり込ませる事によって擬似的な空中浮遊を実現する。そして総司は、脳天のあたりから魔法式を投射する。そこに込められた意味は『停止』の一工程だけなのだが、流石は安倍晴明の血族と言ったところか、強大すぎる出力で、強引に『ミリオン・エッジ』によって操られていた紙切れ達は、そのまま地面に落ちる。琢磨が驚愕している隙に足を天井から引っ張りだして、距離をとる。

 

 

「成長したな…琢磨!」

 

「総司先輩こそ…面倒になりましたね!」

 

 

二人はまだまだ余裕、これからだと言いたげな表情のまま戦闘を仕切り直す。その様子を影から見ている者がいた。

 

 

「…こ、怖くて声掛けられない…」

 

 

そう、何を隠そう、中条あずさ会長である。彼女は生徒会長として、抜け出した不良共を体育館に連れ戻そうとしていたのだが、二人の気迫は本気で殺し合うときのそれなので、ビビりまくって動けなかったとさ…




魔法科世界の秘匿通信


・やけに琢磨が強化されていますが、もちろん七草の双子も強化しています。お楽しみに


・総司が使えるのは一工程の魔法だけですが、何故か出力が馬鹿馬鹿しい程高いです。やろうと思えば達也の『質量爆散』による物質のプラズマ化すら止められる。

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