今後もこれぐらい期間が空くことが多くなりますが、ご了承ください。
「…ハァ、ハァ」
「お疲れ、琢磨。強くなったな」
「…先輩こそ、ハァ、以前よりも強くなってますよね」
「そりゃ、守らなきゃならない人が居るからな」
「お、お二人とも~!」
「ん?…あーちゃん会長か」
「あっ!総司君、その呼び方やめてくださいよ~!一年生の前なんですから!」
「別にコイツは総代だからいずれ聞くことになるでしょ」
「いえ、俺は部活連に行くつもりなので」
「あら、誘う前に振られちまったな、生徒会」
総司が不意打ちで放った魔法に気をとられ、総司のボディブローをモロに受けた琢磨は、演習室で横に寝転がり大の字になっていた。そこにとことこやってくるあずさ、真面目な彼女はサボり魔二人を見過ごせなかった。だがあずさが来ることなど総司にとっては予想済み。彼女では自分達を止められないことをしっかり理解していた。故に高を括っていたのだが…
「…ほう?どうやら随分とじゃじゃ馬を連れてきたようだな?総司」
「っげ、はんぞー先輩」
「服部君!?」
「貴方が、あの…」
あずさの後ろから現われたのは、怒りの表情を浮かべた範蔵であった。特段範蔵でも止められない事が多い総司だが、範蔵があずさよりは数百倍やりにくいのは確か。苦虫を噛みつぶしたような顔をする総司。そんな範蔵だが、とてつもなく優秀であり、現三年生から『ジェネラル』などと呼ばれ、旗印として掲げられる程だ。その噂は校外にも響いており、琢磨はそれを耳にしたのか、噂の人を目にした事により、「この人が…」と言いたげな表情をしている。
「何しに来たんだよ先輩」
「無論、お前達を連れ戻しに来た…と言いたいところだが」
「…?」
「…もう入学式は終わった」
「ええっ!?」
「なんであーちゃんさんが驚いているんですか」
「ちょっと、七宝君!?その呼び方は!?」
「そうか、分かったぞ。どうせ中条の事だ、殴り合っている二人を恐れてしばらく声を掛けられなかったのだろう」
「あー…ありそう」
「は、服部君…」
既に入学式は終わった事を告げられ、入ったばかりの新入生にあだ名呼びをされ、同輩からほぼ直接的に、「お前びびってたんだろ?」と言われたあずさの表情は七変化もいいところであった。入学式が終わったと知った時の驚愕の表情、琢磨にあだ名で呼ばれたときのショックを受けた感じの表情から、範蔵の言葉を聞いた時のしょんぼりとした表情の変化に、思わず男子三人はほっこりさせられてしまう。その光景はさながら小動物を眺める不良集団と言ったところか。
「…そんで、結局何しに来たんだ」
「…七宝の事は、総司を尊敬するなどという、あってはならない愚行を犯しているという事から、警戒していたんだ」
「おいこら、俺は孤児院の子達からは滅茶苦茶慕われてるんだからな!」
「洗脳か?」
「違うわい」
「総司先輩を尊敬して悪いことしかありませんでした」
「琢磨ぁ?」
「ほう…実は物事の本質を見抜けていたと言うことか…」
「あの…えっと…私戻った方がいいですかね…?」
「中条、気にすることはないぞ…だからいい加減落ち込むのはやめろ」
範蔵の失礼すぎる発言にツッコミを入れる総司だが、それを琢磨に肯定され、その琢磨を裏切り者を見るような目で見ている。その横で範蔵の制服の裾をクイクイと引っ張り、自分が会場に戻るべきがどうかを問うあずさの顔は、やはり青ざめていた。流石に範蔵は可哀想に思ったのか、軽くフォローを入れる。
「俺がここに来たのは…七宝琢磨」
「っ、はい!」
「お前を、部活連に勧誘する為だ」
「おっと、こりゃ丁度良いじゃん」
「…はい!よろしくお願いします!」
「…え?もしかして私、生徒会の勧誘まだしなきゃいけないんですか?」
「いやいや、男子の琢磨は終わったんだから、後は女子二人でしょ。いけるって先輩」
元々連れ戻すつもりもなかった範蔵。その目的は琢磨を自身が長を務める部活連に入れる為だった。元から入りたかった事もあり、体育会系のような挨拶を返す琢磨。それを眺めながら、もしかするとまだまだ仕事がつづくことに気づいてしまったあずさを総司が慰めていた…
しばし時間はたち…
「七宝琢磨!ボク…私達と勝負しなさい!」
「え、嫌だけど」
「なんで!?」
「なんでって…考えれば分かるでしょ香澄ちゃん…」
今にも下校しそうになっていた琢磨を見つけた香澄は、ビシィ!と効果音が付きそうな勢いで勝負を申し込むも、顔面にありありと「面倒くさい」と書かれた琢磨によってそれは呆気なく却下される。その答えに驚愕を漏らす香澄、今にも目が飛び出しそうだ。対する泉美はこの展開を予想していたので、まったく動揺していない。
「俺、これから久々に先輩と遊んで帰るから」
「先輩って…」
「あの、橘総司って奴?」
「…?知ってるのか、魔法が下手くそで有名だったりするのかな」
「お前毒吐きすぎな」
「痛いです」
香澄と泉美は驚愕の表情で琢磨の後ろに現われた総司を見る。その総司は今現在、琢磨の頭をグリグリして懲らしめるのに夢中で、自分を見つめる視線に気づいていない。
そして、その総司を見た二人の感想は、やはり息ぴったりな双子と言うこともあり、完璧にシンクロしていた。
「「(なんか…この人の方が
彼女達は、昨年の1月頃から香澄の一目惚れが原因で、総司のクローンたる零次を匿っているのだが…その零次を数ヶ月見てきた上で、本物を改めて見た二人の感想がこれだ。二人とも、クローンである零次の方が作り物である事は分かっている。だが彼女達は、どこか総司から、
「そこで何をしているの?」
「あっ…」
そんな集団に声を掛ける人物が一人。その声に反応して振り返った香澄は、その人物の腕に付いている風紀委員の腕章が目に入って、思わずと言った様子で声を出してしまう。
まさか誰かが、この現場を見て喧嘩していると思って風紀委員に通報したのか?と思考する泉美だが…
「おっ、雫ちゃん」
「どうも、ご無沙汰しています」
「うん、よろしくね琢磨君。…それより、貴女たちは何をしているの?」
此処で七草の双子は目の前の風紀委員が誰か理解する。総司の恋人にして最高の理解者である北山雫だ。恐らく彼女の目的は喧嘩の仲裁ではなく、総司とその後輩とに会いに来たのだと。
どこか不安げな泉美の態度を不自然に思った雫は、自分が風紀委員である事が災いして、彼女達に要らぬ不安を抱かせてしまったかと考え、安心させようと口を開く。
「大丈夫だよ、別にとって食べようって訳じゃないんだし」
「いえあの…」
「?」
言えない。よもやこの場で琢磨に喧嘩をふっかけていたとなれば、注意を受けてしまうかもしれない。別に雫は、その程度の事でいちいち取り締まりをしたりはしない。去年のこの時期にこの校門でいざこざを起こした雫としては、魔法が不正使用されない限り、争い事も見逃すつもりであった。それにいちいち細かに取り締まるなんて面倒くさいとすら思っている。だがそんな雫の心の内を知らない泉美。
入学早々に風紀委員に目を付けられてしまう…それは嫌だと黙秘を決めようとした泉美であったが…
「七宝君に勝負を挑んでいました!」
「香澄ちゃん!?」
自身より本能的に動く香澄にその目論見を踏み潰されてしまった。泉美は驚きの表情で香澄を見た後、すぐさま雫の方を振り向いた。もちろん雫の反応を伺う為だ。そして香澄の発言をを聞いた雫は目を細めながら…
「いいね、せっかくだから受けてあげなよ、七宝君」
「「「…え?」」」
「…雫ちゃんったら、いつからこんなに嫉妬深くなったんだか」
まさかまさかの、その勝負を行うのを勧めてきたのだ。一体どう言うことだと、双子と琢磨は考えるが、総司だけはその細めた瞳からの視線で、俺に構われている琢磨が羨ましいのだろうと察した総司。その表情のまま総司に身体をすり寄せてきた雫。その行動の真意をやっと理解した琢磨は総司から距離をとる。
「…と、言うことだ。お前達は用意をしてこい、俺はどこか場所が取れないか掛け合ってみる」
「えっ、なんでいきなりそんなに乗り気なの!?」
「…まさか、気づいていないのか?」
「ウチの香澄ちゃんが本当に申し訳ありません…」
琢磨としては、双子からの挑戦を受けても良いとは思っていたが、今回は久々の尊敬する先輩との放課後を過ごそうという思いを優先したのだ。そんな先輩が別件で自分と遊べないと分かれば、琢磨に勝負を断る必要は無くなった。寧ろ暇つぶしに丁度良いとすら考えていた。…この琢磨の相手を上から見る態度は、プライドではなく自分の方が絶対に強いという、過去からの経験があるからだ。
それは良いとして、拍子抜けした様な表情で琢磨の心変わりに驚く香澄。これで琢磨と泉美は悟った、香澄は雫の行動の真意を理解していないのだと。随分と朴念仁な女だなという感想を持つ琢磨、自分も恋をしているのに、他人の恋路には気づけない香澄に呆れたようにため息をつく泉美。
二人から呆れ気味に見られる理由に心当たりがない香澄は「えっえっ何?」と二人の顔を交互にをキョロキョロと見る。このやり取りにはもう意味がないと悟った琢磨は、自分の連絡先を簡潔に泉美に伝え、自分は勝負の会場を探しに行ったのだった。
魔法科世界の秘匿通信
・入学式の締めは生徒会長が担当するはずだったが、二人を追いかけて演習室にいたせいで出席出来なかった。代理として深雪が出席する。
・本作にしては珍しく、双子にはアッパー調整が施されていないので、ほぼ原作通りの実力。その時点で琢磨に対する勝ち目はゼロだが、一体どうするつもりなのか
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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