「「……」」
「ふ、二人とも…?なんだか空気が重「「悔しいぃぃぃ!」」ひゃっ!?」
「何なのアイツ!何なのアイツ!」
「勝てはしなくとも、善戦はすると思ったのに…あそこまで完膚なきまでに負けてしまうなんて…!」
七草家の夕食の席にて
暗い空気で食卓を囲んでいた双子。その空気に耐えきれなくなった真由美が、問うて見たところ、二人は至極悔しそうな顔をして絶叫する。二人の発言から推測するに、数時間前に手合わせをした琢磨に対する感情だろう。あの後問題無く演習室を借りられた三人は、双子対琢磨の模擬戦を行ったのだが…
『甘いな、地力は悪くないが、連携が荒削り過ぎだ。そんな体たらくでは、一人で戦った方が勝算があったんじゃないか?』
と言う言葉と共に、琢磨の『ミリオン・エッジ』に香澄達は完封されてしまったのだ。今だ十師族ではない師補一八家の琢磨に、自信のあったコンビネーションを掛けたのにも関わらず、余裕の態度で受け流された。二人はさして十師族という立場に固執してはいないが、十師族でない者に負けた事を引きずっている、彼女達も悔しいものは悔しいのだ。
尚、この二人の連携は世界でも通用する程の練度であり、荒削りなどと呼べるものではないのだが、総司とのアイコンタクトすら不要とする連携を行える琢磨にとってはそう映ってしまったようだ。要するに、自分のレベルが高すぎて、二人の連携がまだまだであるという結論に至ってしまった。その時点で、双子と琢磨の実力の差が如実に表れている。
「…アンタはどう思う?」
「七宝の子息は第七研が生み出した中で最強の魔法師だ。加えて実戦経験も豊富、億が一にもあの子達が勝つことなど出来なかっただろう」
「だよなぁ」
「それとも何だ、君が娘達の仇をとってくれると?」
「バカが、分かって言ってんだろ。俺が七宝を叩いたらオリジナルが出てくる。アンタ、九島と戦争でもする気か?それにただの学生のお遊びだろこれ」
「フン、分かっているとも。それと、私はテロリストに与した覚えなど無い。もしお前が九島の秘蔵と差し違えたとて、九島がテロリストを処理したという記録が残るだけだ。」
「あくまで自分は関係ないですよーってか」
不満顔をしながら小声で「狸野郎が…」と呟いたのはこの家の居候、安部零次だ。零次は双子が早速総司と出会った事を非常に気にしていた。あの男はすぐに周囲をおかしくしてしまう。あの子達もそれに巻き込まれないか…と思っていた。なので、今彼は結構焦ってたりする。何せ琢磨は総司に非常に近い。その琢磨に近づくという事は総司に近づくと同義。だからこそ今の双子の感情の動きに胃を痛めていた。この二人、放っておけばリベンジを挑みに言ってしまうだろう。そうやって総司に近づいてしまうのは何とか回避してもらいたかった。
そんな零次と会話をしていたのは、この家の頂点にして、十師族七草家の当主。七草弘一だ。実の娘である真由美から「あの狸親父が…」と言われてしまう程陰謀が大好きな人間だ。今でこそ、零次を七草に部分的にだが従う兵力として捉えており、一応は味方扱いをしているが、結局の所零次はテロリスト。何処かで潰れて欲しいと願うのも無理はないだろう。故の発言だったのだろう、彼は遠回しに「危険な力を持つ総司と相打ちにでもなってこい」と言ったも同じであった。
「ねえ零次君!どうしたらアイツに勝てるかな!?」
「いや…それは「それは無理って意見は無しで」ハハハ」
弘一に変にプライドがなく、双子のリベンジを後押しする気が無いのは良かった。それなればこちらで関わらないように誘導すれば…と考えていた零次だが、基本的に双子の尻に敷かれているこの男が、相談などされてしまえば、断る事も出来ない。こちらをキラキラとした瞳で見つめる香澄を見返しながら、冷や汗をかいてどう返したものかと悩む零次。結論として、彼は中間の提案をする。
「…今は勝てないだろ、せめて力を付けないといけない」
「どうやって?」
「学校のカリキュラムをこなしたり、自主練なんかで順当にレベルアップするしかないだろ」
リベンジを否定せず、それでいて極力近づけない提案。それすなわちリベンジの為に修行しようと言うものだ。キチンと練習や勉強をして、訓練を行う。そうやって戦闘力を高めてから再度挑戦すると言うものだ。だがこの提案はある否定材料があった。
「それじゃアイツも同じぐらい強くなっちゃうじゃん!」
「…ダメかぁ」
香澄に見えない様にしながら苦虫を噛んだような表情を浮かべる零次。この提案は、時間を掛けて強くなっていくという性質上、相手にも時間を与えてしまう。総司という遙か高みの目標を持つ琢磨は、時間さえあれば更に強くなっていくだろう。香澄もその点に気づかない程バカではなかった様だ。因みに泉美は一旦気持ちを切り替え、深雪の素晴らしさを真由美に説いていた。真由美は困り果てた顔で相づちを返しているが、それに泉美が気づく様子はない。
泉美に真由美が捕まっている以上、真由美から効果的な案を出してもらうことは出来ないだろう。
「ああもう!こうしてる間にもアイツは訓練をしてもっと強くなろうとしているかも知れない!」
「そ、そうだな」
「ううううう!アイツは時間をどうやって使っているのー!」
七草家に香澄の叫びがこだまする…
少し前…
「それではこれより、中条に着せるコスプレの案を出すぞ!」
ウオオオオオオオォォ!!
「は?」
「無難にメイド服とか良いんじゃないのか?」
「ここは猫耳でしょ!」
「いーや、犬耳だね」
「猫でしょ!」
「犬だね!」
「ここでワンニャン戦争はやめろ」
異様な熱気に包まれた此処、部活連の会議室。それぞれからの報告が終わったあたりから、各部の部長達が頭の狂った事を話し合い始めた。書記として早速会議に参加させてもらった琢磨は、絶句する。
「何てことだ、もう助からないゾ♡」
いい笑顔で琢磨に笑いかけた総司に、琢磨は総司が周囲に及ぼす影響力を忘れていたことを痛感した…
白熱する会議の中、やっと気持ちの整理が追いついた琢磨は、議長を務めている範蔵に断りを入れて、クロス・フィールド部2095年度部長こと、総司に近づいて質問を行う。
「…総司先輩、普段の部活連ってこんな感じなんですか?」
「そうだな、部費やらなんやらの事務的な報告が終わったら、こんな感じで雑談してるよ」
「雑談と言うには白熱しすぎですし、内容がおかしくないですか?」
「あーちゃん会長は全学年から大人気だからなぁ、卒業前に遊びたい先輩方は特に白熱してるよ」
「人で遊ぶとか人の心ないんか?」
困惑し、聞こえていないとはいえ先輩達にめちゃくちゃ失礼な発言をする琢磨。しかしこればかりは、あずさのカルト的な人気が問題だろう。先程から度々「ハイレグレオタード!」やら「スク水白ニーハイ!」やら「逆バニー!」やら、明らかに卑猥な格好を挙げて行く者達もいる。因みにいずれもあずさの友人と呼べる女子達だ。あずさは人付き合いを間違えたらしい。
「おいおい、逆バニーとか何とか、そんなモラルに反した格好はダメだろう」
「人を着せ替え人形にしようとしてる時点でモラルに反してんだろ」
思わずツッコミをしてしまう琢磨。だがそんな真っ当な人間の意見などこの魔の巣窟に必要は無かった。しかし…
「…そうだな、そういうのは良くねえ」
「俺もそう思うぜ、武明先輩」
すっと立ち上がって範蔵の意見に賛同し始めた桐原と総司。それを見た範蔵と琢磨、特に範蔵は嫌な予感を感じていた。桐原はともかく、総司がこう言ったおふざけに加担しないという事は、別に面白いと思う事を考えているときだ。更にその兆候を見せたのが自分の意見に賛同したが故というのが、範蔵にとっての嫌な予感を更に助長させていく。
「「だって…」」
「…だって?」
「「そういう格好は彼女にしてもらいたいものだよなぁ服部ィ!」はんぞー先輩ィ!」
「お前達ィ!表に出ろやボコボコにしてやるよォ!」
「「やってやろうじゃねえかよこのヤロー!」」
予感的中。総司の企んでいた事は、結局卒業前に告白しそびれ、以降思い人たる真由美とほぼほぼまったくと言って良いほど関わりが無い範蔵への揶揄いであった。それを理解した範蔵、あまりにも鮮やかにブチ切れる。そして揶揄った側、もしくは彼女いる側たる桐原と総司は、範蔵の怒りはモチロン予測通りであるため、ハンドサインでかかってこいと煽る。そのまま会議室を後にする三人。
それを見た琢磨は、三人を止めなければと思い行動をしようとして…周囲の先輩達を見て、思いとどまった。
「どっちが勝つと思う?俺は桐原と橘にジュース一本」
「ちょっ、ずっけえ!それ賭けにならないじゃねえか!」
「フッ、じゃあ敢えてここで俺が、我らが『ジェネラル』どのに賭けようじゃないか」
「ねえ、紗耶香~桐原君が言ってた事って、もしかして実体験だったりしない?」
「ど~かな~?」
「あ~!紗耶香めっちゃニヤニヤしてる~!ヤらしいんだ~!」
最早あの喧嘩が他の先輩達にとって娯楽と化しているようだ。琢磨はよく知らないが、桐原の彼女とおぼしき…と言うか彼女の壬生も、同年代の女子と猥談している。やっていることがただの高校生だ。ホントに魔法科高校かここは?
遠い目をしだした琢磨に話しかけたのは、マーシャル・マジック・アーツ部の部長、沢木だ。彼は若干の苦笑をしながら口を開く。
「ビックリしたでしょ?」
「めっちゃしました、正直俺、総司先輩の事理解したつもりだったんですけど、まったく分かってなかったんだって」
「そう気落ちしないでくれ、彼も最初からああだった訳では無いんだ。…そうだな、彼が丁度北山さんと付き合い始めてからだったかな」
そう言われて、琢磨はハッとした。変わらない人間などいない。証拠として、総司と出会った自分は、七草への憎しみを全て捨てて前に進む事が出来た。総司は雫と出会って変わった。ただそれだけの事なのだ。
妙に納得した表情をした琢磨に、大した言葉を言ったつもりもなかった沢木は少し困惑顔だ。すると沢木は、彼に話しかけた本題を告げた。
「七宝君、橘の奴を気遣ってやってくれ」
「…どう言うことですか」
「…4月に入ってから、アイツの様子がおかしい…いや元々おかしいけどさ。でもこの変化は、北山さんと付き合い始めた時の前向きで分かりやすい変化とは違う、後ろ向きで分かりにくいものだ。もしかすると、春休みの間に何かあったのかもしれない、大した繋がりはないが、心配なんだ」
それは、時たま手伝いとして風紀委員の仕事をしていた総司と、たまに一緒に仕事をする程度でしかないが、仲が悪いという訳でも無いという関係性だった沢木の、中途半端な立ち位置だったからこそ見えて来た総司の異変。
それを聞いた琢磨は、何か気になるものを覚えた。それは勘違いではないだろう。そう琢磨が考えたのは、先日の入学式を抜け出しての模擬戦の時に、総司が魔法を使った事だ。
「(…総司先輩に何が)」
琢磨の思案顔は、窓から下に見える、いつの間にか二対一から一対一対一になっていた三人の喧嘩を見ることはなかった。
京都府内某所…
「…それで、考えていただけましたか?老師殿?」
「…意図が読めんな。何故そこまで要求に固執する?」
政界のVIPでも知らない、秘匿された屋敷。此処は『元老院』藤原道長の屋敷であった。そこで相対するは、年齢にそぐわない若々しさを発揮する男、藤原道長と老齢な容貌に、丸で現役の軍人かのような覇気を放つ翁、九島烈であった。
立場では道長の方が上であるが、烈はその重ねて来た功績により、本来であれば失礼に値する物言いでも許される。そしてその烈は、心底理解出来ないという顔で道長に問うていた。
「簡単ですよ…彼は子飼いにするには勿体ないのですよ…それに、貴方にとって彼は息子同然です、構わないのでは?」
「……」
烈は沈黙したままだ。だが道長に気分を害された様子はない。寧ろ楽しそうな笑みすら浮かべていた。
「…貴方がお亡くなりになられれば、正直なところ九島は十師族ではなくなるでしょう。失礼ながら現当主の真言様は、当主たるカリスマをお持ちでないように思われます。今なお九島が十師族でいられるのは、貴方様がご健在であるからでしょう」
「それと、あの男に権力を握らせる事の何が関係するのだ」
烈の問いに、ニヤリと笑って返した。
「無論、彼はいずれにせよ、この日の本を…いえ、世界を牽引するであろう人間だ。今のうちにこの日の本で立場を用意しておけば、いずれ世界の勢力図で我々は有利に立てます」
「根拠は「ありますとも!何故なら彼は、世界を救う救世主なのだから!」…」
道長の狂気的な笑みに、烈は何も言えなくなっていた。その様子に、自分がヒートアップしすぎた事に気づいた道長は、最後にこう締めくくった。
「まあ、考えておいてください。彼に…橘総司に、九島を継がせる事を…」
こうして京都の夜は更けていく…
魔法科世界の秘匿通信
・クロスフィールド部部長:正直言ってクロスフィールドの描写がないからどう言う活動してるか描写出来ない。助けて
・今回もノリで書いているので、何が設定と齟齬があった場合や、違和感があった場合は意見をください。
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~