魔法?よく分からんわ!殴ろ!   作:集風輝星

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今回から完全にオリジナル展開です。


ダブルセブン編 その七

「…私達も行って良いのかな、司波先輩の誕生日パーティー」

 

「別にそんな気にすることないでしょ!北山先輩と橘先輩はオッケーだしてくれたんだし」

 

 

放課後、それぞれ生徒会業務に風紀委員業務を終わらせた七草の双子は帰路に付いていた。そう言った業務は多忙を極める為、帰宅は他の生徒達よりも遅い時間になってしまった。泉美は本来なら深雪と帰宅したかったのだが、やはり達也とのイチャラブ空間の間に入るのは至難の技の様で、渋々諦めたのだ。

 

 

「…それでさ~」

 

「…ちょっと待ってください、香澄ちゃん」

 

「ん?どうしたの?」

 

「…周りが静かすぎませんか?」

 

 

学校と駅までの中間とも言える地点にて、香澄の話を止めて、泉美が周囲の様子を伺う。それにならった香澄も周囲を見渡すと、確かに人の気配がしない。先程帰宅は遅くなってしまったとあるため、人が居ないのは別におかしい事ではないはずだ。だが、ことこの二人にはそれがあり得ない事を理解していた。

 

七草の双子は十師族の直系である。ならば本来、彼女達には護衛がいて然るべきなのだ。そして事実彼女達には、いつでも彼女達を守れる様に待機している護衛がいたはずなのだ。だが今、その護衛達の気配すら感じられない。

 

 

「…ちょっと、変じゃない?」

 

「っ、急ぎましょう、香澄ちゃん!」

 

 

おかしいとは思っているが、未だに危機感を持てない香澄。そんな香澄の手を、嫌な予感を感じていた泉美が引っ張って走り出す。いくら人が居ないといえども、駅まで行って個人車両(キャビネット)に乗り込めば大丈夫なはずだと判断したのだ。そしてその判断は正しかったのだろう。

 

二人を数人の人間が囲む。

 

思わず足を止めた二人。どこからともなく現われた謎の集団、しかも二人が駅まで逃げようとしたタイミングで現われたと言うことは、間違いなく二人が目的と考えて良いだろう。

 

 

「だ、誰ですか貴方たちは!」

 

「……」

 

「だんまりか、泉美!」

 

「ええ、行きますよ香澄ちゃん!」

 

 

明らかな不審者、この状況を考えれば、人払いを張った上で護衛達を無力化したと言った所か。だが、それでは不充分だ。香澄と泉美の連携は、評価のレベルが異次元な琢磨からしてみれば、まだまだという判定だが、達也の所感では、もっと練度を上げれば世界でもトップクラスの連携を行える…そう判断されるほどの実力を持っているのだ。その要因として挙げられるのはやはり…

 

 

「…!」

 

「よしっ、一人撃破!」

 

「順調ですね!」

 

 

二人が発動した…同時ではなく()()()発動した魔法、『熱乱流(ヒート・ストーム)』が二人を囲む者達の内の一人を行動不能に追い込む。『熱乱流』は500℃近い温度の空気塊を生成し撃ち出す魔法である。だが、この魔法は特別おかしい点はない。だが、彼女達にはあるのだ。

 

乗積魔法(マルチプリケイティブ・キャスト)

 

複数の魔法師の魔法力を掛け合わせて一つの魔法を発動させる技術の事であり、魔法式の構築と事象干渉力の付与を分担して一つの魔法を発動する事ができる。これを高い練度で発動できる事こそ、七草の双子の真骨頂である。故に一人一人ならばともかく、二人揃った双子は、並の魔法師では太刀打ちできない…のだが、

 

キィィィィィィン

 

 

「「あぐっ…!?」」

 

 

突如として甲高い音が鳴り出したと思えば、二人は頭を抑えて膝をついてしまう。一体何があったのか…

二人を囲む者達は、自身が付けている指輪を二人に向けていた。

 

()()()()()()()

 

『キャスト・ジャミング』の条件を満たすサイオンノイズを作り出す真鍮色の金属の事である。『キャスト・ジャミング』とは、魔法式が対象物のエイドスに働きかけるのを妨害する無系統魔法の一種であり、無意味なサイオン波を大量に散布することで、魔法式がエイドスに働きかけるプロセスを阻害する魔法である。

 

この金属は以前、一高を襲撃しようとしていた反魔法組織『ブランシュ』が有していた物である。本来ならばこれを用いて一高を制圧する手筈だったのだが、魔法が使えなくとも剣で戦える武人である桐原と壬生、そして魔法すら使わずに一国を相手取れる武神の如き存在、総司によって制圧されたため、あまり目立ってはいないが…本来ならばこれを用いられるだけで魔法師は魔法が発動できなくなり、圧倒的に不利な状況へと追い込まれるのだ。

そして以前、雫とほのかがアンティナイト持ちに襲われるという、総司が知ればブチ切れ必至案件の事件では、使用者が非魔法師であったため、不安定なジャミングしか行えていなかった為、その程度は自身の領域干渉力で無効化できてしまえた深雪によって制圧されたと言うこともあった。この出来事から考えるに、十師族レベルの魔法力を持っていれば、()()()()によるジャミングは無効化できるのだろう。

だが、今双子はそのジャミングによって苦しめられている。と言うことは、発動しているのは魔法師であると言うことだろう…

 

苦しむ二人に一人が近づいてきた。体格的に男であろうか、他の不審者達の様子から察するに、どうやらこの男がリーダーのようだ。相手を無力化したのであれば、やることは二つ。殺害か誘拐かだ。

 

 

「…泉美!」

 

「香澄ちゃん…!」

 

 

最後の抵抗をするために、二人の力を合わせようとお互いに手を伸ばす香澄達…だが、それの直前で二人は昏倒してしまった…

 

 


 

 

 

翌日…

 

 

 

「…七草達が居ない?」

 

「ああ、どうやら家にも帰っていないらしいんだ」

 

「おいおい…それってYO!」

 

「十中八九、連れ去られているだろうな」

 

 

会話していた総司と琢磨の間に割って入ったのは森崎であった。彼は風紀委員として七草香澄と関わっていたからこそ、この情報をいち早く知れたのだろう。それにしても耳の早いことこの上ないが…

そしてここ一年、何かしらの情報が入ったときには総司に相談するのも何時も通りだ。だが、今回の話はかなり大事であった。

 

 

「…七草の現当主は、誘拐事件を毛嫌いしている…」

 

「え、そうなのか?」

 

「総司先輩知らないんですか…」

 

 

総司はありとあらゆる情報にアクセスできる『フリズスキャルヴ』を有してはいるが、彼が知っていることは実に少ない。それは彼が普段ニュースを見ない上に、興味が無いことにはとことん興味が無い質なので、ツールを使ってまで調べる気にならないのだ。

だが、七草の当主が誘拐という言葉に敏感なのは誰もが知っているはずなのだが…

 

七草家現当主、七草弘一は右目を義眼としている。それはかつて、大漢の有していた魔法師開発機関、『崑崙方院(こんろんほういん)』によって、四葉家現当主、四葉真夜が誘拐された事件にて、巻き込まれて負傷した際のものだ。この事件がきっかけで、当時は婚約関係にあった真夜との婚約が破談になっている。そしてその事件にて真夜は生殖能力を失っているのだが、それを受けてか「自分だけ何もなかったかのように無傷で生きる事はできない」と治療を拒んだのだ。

 

こう言った事から、弘一は誘拐と言う言葉に敏感…というより、若干トラウマになっている節がある。前回は婚約者、そして今回は実の娘二人…事情を知らない者はこう思うだろう、『七草弘一は今回の一件に腹を立てている』と。

 

 

「でもよ、俺達で何とかできるのか?」

 

「俺達は無理だが…お前ならできるだろう?総司」

 

 

一応調べれば居所ぐらいは簡単に割り出せそうだと思いながら、ポーズとして何もできない風を装うとした総司だが、森崎はあたかも総司に対抗策があると分かっているかのように発言する。これには総司も目を見開いて驚く。去年のこの時期とは比べものにならない程成長している自分の友人に、少し嬉しい気持ちを覚えている。

 

 

「…?何とかできるんですか、先輩?」

 

「ああ、友達に言われちゃ、何とかしてやるしかないだろ」

 

「いいのか?言っちゃ何だが、此処にいる全員、七草の双子とあまり関わりないだろう」

 

 

森崎の疑問はその通りだ。森崎は泉美とは接点がなく、香澄と同じ風紀委員と言うだけ、琢磨は確かに家同士で因縁があるが、それは琢磨本人には関係が無い。そして総司は、なんやかんやで絡まれる琢磨の先輩というだけ。三人全員、あの双子に対してそこまでする義理はないのだ。だが…

 

 

「…あの二人の連携はもっと高レベルな物になると思うので…此処で死んでしまったりするのは勿体ないかなと」

 

「照れ隠しだね~」

 

「うるさいですねぇ、ぶっころしますよ?」

 

「おー怖…まあ俺達はな、あの小悪魔ババアになんだかんだで世話になったしな」

 

「お前それ後で七草先輩に伝わるように言っておくから」

 

「この呼び方で誰か分かったお前も同罪だぞ」

 

「この事は墓場まで持っていくことにするよ」

 

「鮮やかな掌返しですね…」

 

 

琢磨は、なんだかんだであの双子の事を気に入っていたらしい。様は友達を助ける為に動くと言う事か。そして森崎と総司の動機はやはり、七草真由美という先輩に世話になった礼とでも言ったところであろうか。何はともあれ、七草の双子は救出に行かねばならない。

 

 

「…俺は早速調べてくるよ。お前達は早退の用意でもしておけ」

 

 

そう言った総司は、瞬間的に速度を出し、眼にもとまらぬうちに二人の前から立ち去った。残された琢磨と森崎が顔を見合わせ、覚悟を決めたような顔で頷いた後、早退許可を取ろうと事務室に…

 

 

「ちょっと待ってくれ、そこの二人」

 

「…!貴方は」

 

「俺も一枚、噛んでもいいだろうか」

 

 

向かう二人を呼び止めたのは、この学校において、数字を持たない者の旗印…『ジェネラル』であった。

 

 


 

 

プルルルル…ガチャ

 

 

「…よう、零次」

 

『…何の用だ、オリジナル』

 

 

しばらくした後、学校の屋上にて、自身のクローンたる零次に連絡を取る総司。そして電話口から聞こえる零次の声は、どことなく疲弊していた。恐らく、昨日からずっと探し回っているのだろう。

 

 

「…双子の居場所が分かったと言えば、どうする?」

 

『…!?そ、それはどこだ!?早く教えろ!』

 

「…教えてもいいけど、お前がどう判断するかは知らないぞ」

 

『どう言う意味だ、オリジナル!』

 

 

居場所が分かったと知るや否や、いつもよりも大きな声で、早く答えろと言外に言うような零次。その言葉に従う訳では無いが、総司も本題を切り出した。

 

 

「双子を攫ったのは、お前のお上…大亜連合だ」

 

『…何だと?』

 

「正確に言えば、その現代魔法派だな。お前がどっちに属してるのかは俺の知ったことではないが、奴らは双子のスキルを狙っているようだ」

 

乗積魔法(マルチプリケイティブ・キャスト)…!』

 

「ああ、どうやら大亜連合は、自国の魔法師の弱さを、乗積魔法で底上げしようとしているらしい」

 

 

それは零次にとって最悪の展開だった。双子は助けたいが、まさかの連れ去った犯人は自分の上司だと言うでは無いか。零次は今、双子を失うか、立場を失うかの二択を迫られている。電話越しの零次が、一瞬だけためらいの息を漏らす…だが、それは本当に一瞬だった。

 

 

『…具体的に何処にいるんだ?』

 

「…組織は裏切るんだな?」

 

『…ああ、だが俺はお前の味方というわけではない。それだけは覚えておけ』

 

 

最早零次にとって、どちらが大事かなど明白であった。送られた座標に即座に向かう零次。願わくば、二人が無事なことを祈って…




魔法科世界の秘匿通信



・七草弘一:表面上は真顔で何時も通りだが、内心焦りまくってるしブチ切れまくっている。腹心からは、裏側で火遊びを好みながら結局は表側の住人であると表されるような人間。



・零次:表面上も内心も、焦ってるしキレまくってる人。流石に大亜連合とは糸が切れた。だけど伝統派と手を切った訳では無い。

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