魔法?よく分からんわ!殴ろ!   作:集風輝星

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一年前にもこの様な話題を出したのですが…次のスティープルチェース編で本作がタイトル詐欺になる可能性が浮上してきました。

と言う事で、ここでタイトルを変えるか否かのアンケートを取ろうと思います(再放送)。

今回は作者の案がいくつかと、皆さんの意見(ある方は感想へ)、変える必要ないの選択肢を用意しました。皆さんご協力よろしくお願いします。


あ、今回ちょっと胸糞注意です。後ギャグないです。


ダブルセブン編 その八

「急がなくては…!」

 

 

金曜の昼下がり、市街地に突風が吹く。その正体は、視線を逸らす簡易結界を発動しながら全速力で街を駆け抜ける零次であった。彼は、昨夜誘拐されたと思われる香澄と泉美を死に物狂いで捜索していた。だが零次は式神を使っても尻尾すら掴めずに半日が経ってしまい、絶望感に苛まれていた。そんな中、自分が打倒するべき敵である総司から、二人の居場所の座標を送られて、そこに向かっていたのだ。場所は横浜の中華街の辺りだ。やはりあの地域は諸外国からの侵入者が多い印象だ。更には総司からの情報を信じるのならば、二人を誘拐したのは自分のお偉方に当たる現代派の魔法師達だった。

 

その目的は双子のスキルたる『集積魔法』の解析という事らしいが…大亜連合の過去の誘拐事件にて…あの四葉がアンタッチャブルと呼ばれる様になった要因たる事件では、現当主四葉真夜は非人道的な人体実験に加え、強姦も行われたと言う。当時の事件は研究所が向こうのホームにあったのに対し、今回は未だ敵地に留まっている事を考えると、一概に比較することもできないのだが、もし二人が真夜と同じ行為を行われていたら…

 

 

「…外道共が…!」

 

 

零次は奥歯を噛みしめながら、呟く。彼はクローンだ。自分の生まれた国がどれだけの非道を行ってきていたか、記録では知っていた…知っていたつもりだった。ただ、実態はもっと悪質だっただけだ。そして彼は、今や大亜連合を優先するのではなく、七草香澄を優先して動くようになった。これもクローンの定めと言うべきか、総司とやることが似通っている。

雫と出会う前の総司に、誰か一人しか守れないのならば、誰を守るかという質問を投げかけたならば、迷わず「烈爺」と答えていた。しかし雫と出会った彼は、食い気味に「雫ちゃん」と答えるだろう。似たような変化は零次にも起こっていた。

 

 

「待っててくれ香澄…!泉美…!俺が、俺が助けてやる…!」

 

 

零次は鬼の形相で、後悔が滲み出る口調で本能的にこう呟いた。果たして…零次は二人を助ける事ができるのだろうか…

 

 

 


 

 

ドガァン!!

 

 

横浜の中華街近くの廃墟。そこに壁を蹴破ってダイナミック入場する零次。この時点で彼の冷静さが失われている事を気づくことができるだろう。本来の彼ならば、一旦この廃墟内を式神で索敵するだろう。だがそれをしなかったと言う事は、彼は今二人を助ける事以外の…つまり、どう助けるかのプランすらも固まっていないと言う事だ。

だが、零次の単体性能ならば、それでも問題が無いのかも知れない。事実、零次は轟音を聞きつけて集まってきた敵の魔法師達を一瞥すると、激情に駆られた、おぞましい形相で叫ぶ。

 

 

「邪魔だ!この産業廃棄物共がァ!」

 

 

『身体強化』で尋常ならざる力を得たまま、零次は突貫する。その零次へ向けて、魔法が殺到する。だがその魔法は全て、零次の展開した結界に防がれてしまう。

…ここまで明言した事は無かったが、零次の本領は『身体強化』ではない。彼の本領は、類い希なる式神操作の技術と、『結界』という魔法を拡大解釈した攻撃だ。

 

数名の魔法師が射程距離内に入る。此処で零次は、『亡別(なきわかれ)』を発動する。すると、射程距離内の魔法師達の丁度身体の上下半分の地点に、『結界』が生成され…

 

 

「っあ」

 

「ぎゃああああああ!?」

 

 

生成された『結界』に阻まれるように、上半身と下半身が綺麗に『泣き別れ』になった。そしてその魔法師達は、絶叫と共に気絶する。このまま放置していれば失血死は確定だろう。

『亡別』とは、零次本来の戦闘スタイルを象徴するものであり、いずれ零次が総司を打倒した時にはこの戦術に()()()()()()()()()()ものでもある。それは零次の『身体強化』には制限が設けられていると言う事でもある…

 

 

「香澄は!泉美は!二人はどこだ!?さっさと返しやがれェ!」

 

 

零次が単純な力だけで制圧しないのは、理由がある。それは自身の超パワーを使ってしまえば、二人を巻き込み兼ねないのだ。何処にいるかも分からない状況では、迂闊に廃墟を壊せば、二人が無事では済まないかも知れない。そういった理由で、彼は力をセーブしたまま、戦闘を行っているのだ。

 

とある程度進んだところで、嫌な予感をひしひしと感じる扉を見つける。ここに無策で突撃すれば、どうなるかは分からない…そう感じさせる異様な雰囲気を漂わせる扉。だが、零次の頭脳は理解していても、本能と肉体はその危険信号を無視し、その扉を開いて中に突入した。

 

 


 

 

 

その扉の先は、本当に廃墟の中なのかと錯覚させる程の異質感を放っていた。そうまるで、このフロアそのものが()()()()()かのように…

 

パッ

 

 

「っ…!香澄!泉美!」

 

「おっと、動くなよ製造番号零番」

 

「お前は…大亜連合の研究者か?」

 

「左様」

 

 

フロア内の照明が一斉に点灯する。明るくなった事でよく見える様になったフロア内は、様々な実験器具が所狭しと並んでいた。そしてその中央奥に、縛り付けられている香澄と泉美、そして今回の首謀者らしき研究者の男がいた。そしてその三人を囲むかのように、武装した男達がこちらへ銃口を向けていた。おそらくは銃を扱いながらも、魔法を併用してくるタイプの兵士達だ。口を塞がれているが、目は解放されている二人が、こちらに助けを求める視線を投げかけている。

 

 

「テメエ…!その娘達に何もしてねえだろうな!?」

 

「ああ、していないとも。今の所はね」

 

「今の所だァ?」

 

「折角面白い事をするんだ。どうせならこのガキ共を気に入っているらしい君が来てから始めようかと思っていてね」

 

「ゲスが…!」

 

 

ニタニタと笑う研究者に、怒りを滲ませて叫ぶ零次。零次の怒りメーターは最早上限を突破していた。

 

 

「…最近の君は勝手が過ぎた。上でも処分した方が良いという意見すら出てきてね…そこで君に提案だ。我が国に帰還したまえ。そうしたらこの娘達を君の性奴隷として使わせてやってもいい。…無論、実験が済んだ後であるし、君専用という訳でもないが」

 

「…は?」

 

 

零次の中で何かが切れた。怒りの感情だけに染まり、完全に思考が飛んでしまった零次は、フラフラと歩みを進める。

そんな零次を余所に、兵士達の何人かが、二人の衣服を剥ぎ始める。その中で、何を思ったのか口を塞ぐガムテープを剥がした者がいた。微かに聞こえる声から判断するに、「絶望の叫びが聞きたい」との事だ。事実、口が自由になった二人は、全力で抵抗しながら、拒絶の言葉を叫んでいる。

そして…

 

 

「「助けて!零次!」さん!」

 

 

その叫びで零次は爆発した。身体中にサイオンを巡らせ、最短最速で二人を救出するべく、『身体強化』を発動する。そして全力で駆け出す為、視線を正面に向ける。そこで、零次はどこか引っかかる事があった。明らかに零次が何をするつもりなのかが分かっているのに、研究者もその周りの男達も、未だにニヤニヤしていた。そして研究者は何かのスイッチを握っていた。だが、何があろうと、押される前に殺してしまえば…そう考えて零次は一歩を踏み出す…

 

 

「…あ」

 

 

そこで、零次は自分の下策をしった。()()()()()()。いつものような超スピードが出ない、精々が一般的な魔法師の『身体強化』であった。その事に戸惑っている内に、研究者がスイッチを押した。

 

 

キィィィィィィィィィィン

 

 

「ッァ、ガァァァァァァァァ!?!?!?」

 

 

途端、零次は異常な程に苦しみだして、その場に膝をついた。そしてそのまま倒れ込み、もがき苦しんでいる。

その様子を面白がっているのか、香澄達を犯そうとしていた兵士達も零次を眺めている。双子は何が起こったのかさっぱり分からず、理解ができないという顔で硬直している。苦しむ零次に近づいていく研究者。手を伸ばせば容易く触れる距離に来たにも関わらず、零次は研究者に危害を加えようとしない。いや、できないと言った所か。

 

 

「ァガ、な、何をっ!ァグッ!?した!?」

 

「何をした、か。そうだね、簡単に言えば、『キャスト・ジャミング』だよ」

 

「そんっな、馬鹿な!?ァァァ!…それはここまでのものでは!ッッッ!」

 

「そりゃ、君の為にチューニングしたものだからね…他の魔法師には全く効果を与えないが、君だけには…ほら、ご覧の通りだ」

 

 

心底面白いという顔で研究者は零次を足蹴にする。のたうちまわっている零次にそれに抵抗するだけの力は残されていなかった。

 

 

「チューニングだと!?そんな事っ、できるはずが!」

 

「できるんだよ、君限定…正確には()()()限定だけどね」

 

「…っ!?ま、まさか貴様ァ!?」

 

 

研究者の言い回しで何かに気づいたのか、零次が信じられないという顔で研究者を見上げる。

 

 

「そう、この部屋には波を発生させるCADが複数あるのだがね…それら全てに、『ソーサリー・ブースター』が用いられているのだ」

 

「っ、ほ、本当にやったのか!?」

 

 

驚愕する零次。それほどまでに研究者の発言が信じられないのだろう。『ソーサリー・ブースター』とは、起動式を提供するだけでなく、魔法式の構築過程を補助する機能も持つCADの一種である。魔法師が本来持っているキャパシティを超える規模の魔法式形成を可能にする補助具なのだが…CADには本来、感応石というアイテムが用いられているのだが、この『ソーサリー・ブースター』はその感応石の代わりに()()()()()()()()()()()()を中枢部品にしているのだ。そして何故それで対零次用の『キャスト・ジャミング』を作り出せたのか…

 

 

「全く、君以降のナンバー共も、こんな使い方があったとはな。奴らも国家に貢献できた事を喜んでいるだろう」

 

「…貴様ァ!俺の…よくも俺の()()()をォ!」

 

 

そう、この『ソーサリー・ブースター』には、零次の兄弟…つまり、零次以外の総司のクローン達が用いられているのだ。性能が低すぎて実用に耐えなかった者、横浜事変の際に投入される予定が、撤退を選んだことで投入されなかった者、密かに横浜事変を生き残っていた者。そう言ったクローン達の脳を一律で『ソーサリー・ブースター』に加工し、対零次用の『キャスト・ジャミング』を作り出したのだ。

しかしだ、この装置が起動する前に、零次は魔法を使って動き始めていた。何故、彼の動きは遅くなっていたのか…それも、研究者が自慢げに語り出す。

 

 

「だが、君の『身体強化』の前には、起動前に何とかする事も可能だっただろう…だが、此処は君が知っている世界ではないのだよ」

 

「…!『結界』…!?」

 

「その通りだ、君の『身体強化』は、簡単に防ぐ事ができたよ…何せ私は、そのロジックを理解しているからだ。原理は簡単だ、自身の肉体を、橘総司の物だと定義する事によって、君の『身体強化』は真価を発揮するのだ」

 

 

一体どう言うことなのか…それはこちらで解説するとしよう。本来、零次の『身体強化』は大した出力を持たない。だが、零次にはある特徴があった。それは、()()()()()()()()()()()()()()と言う事だ。これにより、自身の肉体は安部零次の物ではなく、橘総司の物だと定義する事によって、世界の修正力から本物と同レベルの身体能力を得られるように補正が掛かるのだ。総司を殺してしまえば使えないというのはそう言うことだ。零次の『身体強化』は、総司という生き証人がいたからこそ成り立っていた物だったのだ。

そしてこの研究者はそれを利用した。このフロアを『結界』を用いて異界化させる。異界化した地帯では、世界のルールから暫くの間外れることができる。すると、総司という物差しを失った零次は、『身体強化』を十全に扱えないという事だ。

 

そして、研究者は懐から注射器を取り出したかと思うと、それを零次の首に刺して注射をした。

 

 

「っ、何を…!?」

 

「これは君たちクローン共の細胞を死滅させる薬品だ。人工的に生み出された物にしか効かないから、本物に使えないのは残念だが…」

 

 

零次の意識が朦朧とする。既に口もきけないかも知れない。それを機に、研究者や兵士達は零次へ興味を失ったのか、香澄と泉美へ視線を投げる。その視線に二人は思わず悲鳴を漏らす。

 

 

「全く…使えない奴だったよ、君は。丸で産業廃棄物そのものだ。罰として、愛した者達が穢されていくのを見ながら死んでいくといい」

 

「あ…ま、thえ」

 

 

自身に背を向けて去って行く研究者に手を伸ばす零次。その口から漏れる言葉は最早言葉としての体裁を保てていなかった。

 

 

「しかし…此処を短期間で探し当てるとは、()()()()()()達は存外優秀なようだな…兵士は脆弱なようだが…」

 

 

そう呟きながらこちらに向かってくる研究者の後ろにて、事切れたかのように倒れ伏している零次を、香澄と泉美は絶望の表情で見つめていた。そしてとうとう、自分達は下着まで手を掛けられてしまった。そしてそれを乱暴に引きちぎる兵士達。遂に生まれたままの姿にされてしまった二人は、泣き叫ぶ事しかでき無かった。これからの自分達の未来への絶望、そしてなにより、大切な人が死んでしまったのだという悲しみに、二人は包まれてしまった。そして彼女達の純潔は、今にも散らされる…

 

 

 

ドガァァァァァァァァン!!

 

 

「ぐばっ!?」

 

「ガハッ!?」

 

「「…っえ?」」

 

 

…その寸前に、零次の背後の壁が爆発する。そして一陣の風が吹いたかと思うと、二人はいつの間にか、二人の男に抱き留められていた。そしてその二人にそれぞれの男が自身が来ていたブレザーを着せる。香澄と泉美は、自分達を守るかのように立つ、憎きライバルと、自分達の家族と同じ顔をした男達の後ろ姿に、涙を滲ませた。

 

 

「悪いな、遅れてしまった」

 

 

そのライバルの、聞き慣れた素直じゃない口調と共に、香澄達の後ろから二人の男が追加で現われた。その場にいた四人の男…一高男子生徒達は、眼前の敵達に視線を投げていた。

 

 

「ここからは、俺達の時間だ」

 

 

助けに来た男達のリーダー…総司が、そう宣言した。




魔法科世界の秘匿通信


大亜連合の研究者:圧倒的な力を持つ零次を完封したやり手。そして趣味がクソみたいな男。零次の目の前で双子を穢して、絶望させながら殺す為の計画は完璧だったが、あまりにも軍事や政治に関わりすぎたせいで、敵対しているにも関わらず、その敵に手を貸すお人よしの存在を勘定に入れられなかった。


安部零次:ブチ切れて突貫するが、ガッチガチにメタられて、自身の得意とする『結界』を用いた策によって敗北した。実は総司が存在しないとそこそこの強さしかない。大亜連合の現代派と縁を切るとは言ったが、自分が負けて死ぬことは勘定に入れてなかった。縁切るどころの騒ぎではない


異界:本作オリジナル…なのかな?理論。本来の世界から隔絶した空間。だが、これと言った特権を術者に付与する訳ではない為、使う魔法師はほぼゼロ。今回は零次の身体強化対策に用いられた。



…何だ、この話は…本当に俺が書いたのか…?嘘だろ…?(←ギャグを書きたい人)

次回までちょっとギャグないかな…流石にメイン級キャラ死にかけてる状況でぶっ込む自信はない。



前書きで書いた新タイトルの案です

A:魔法を使うより殴った方が速いし強いよね?

B:魔法が現実となった世界なのに、拳で敵をシバき倒す奴

別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?

  • いいともー!
  • 駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~

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