魔法?よく分からんわ!殴ろ!   作:集風輝星

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ダブルセブン編最終回です


ダブルセブン編 最終回

「…先輩!」

 

「…馬鹿な、総司の奴あの傷をどうやって!?」

 

「だが、ファインプレーだ!」

 

 

双子に襲いかかったミュータント達を吹き飛ばした総司と零次。その姿を認めた琢磨達が喜びを露わにする。逆にその姿を見た特殊なミュータント…研究者の男が変身したミュータント(以下ミュータントα)は頭を掻きむしっている様子だ。どうやら言語は話せなくとも、意識はあるようだ。散々頭を掻きむしった後、二人がいた場所に向き直る…しかし、その場には座り込んでいる香澄と泉美しか見えなかった。

 

 

「「…上だよ」」

 

 

ミュータントαは反射的に上方向へ腕を振るう。しかし全く手応えがなかった。ミュータントαが遅れて上を向くと、そこには小さな紙切れのような物が浮かんでいた。それを認識した直後、ミュータントαは下方向からの二つの強烈な拳を受けて吹き飛ぶ。どうやら先程の声は零次が式神を用いて出した物のようで、完璧に不意を突かれたミュータントαはその巨体を宙に浮かせる。そこからの怒濤の連撃が始まる。

浮いたミュータントαの腹部に追撃を入れる零次。斜め45度から叩き込まれた拳により、反対方向へと吹き飛ぶミュータントα。その移動先を完全に把握していた総司により、顔面に対して真下へ向けた音すら置き去りにした蹴りを受ける。リニアモーターカーもかくやという勢いで地面に激突するミュータントα。その威力はαの巨体をバウンドさせる程でもあった。そしてバウンドしたαの腕を掴んだ零次は、右から左へとまるで鞭でも扱っているかのようにαを振り回す。その後投石機でも使っているかのような勢いで投げ飛ばされたα、その身体にどこからか飛んで来た無数の機材達がぶつかる。そして総司が再びαの移動先に先回りしていた。今度は部屋にあった巨大な機材を両手に持っている。どうやら他の機材を投げつけたのも総司のようで、最後に特段大きかった物を引き抜いてきたようだ。その機材を思いっきりαに叩きつける総司。その威力に粉々になる機材達。だがそんな事お構いなしと言うかのように総司が拳を握って振り抜く。その驚異的な速度の拳撃に晒されたαはそのまま部屋の壁にぶつかって動きを止める。

 

それを見ながら総司と零次が着地する。

他のミュータント達を捌きながらも、琢磨達は二人の完璧に息の合った連携に喉をうならせる。オリジナルとクローンの関係性故か、それともお互いの実力に、双方信頼を置いていたからなのかは分からないが、美しいとすら言える完璧な連携であったのだ。αはまだ息はあるようだが、最早抵抗する力は見受けられない。その様子に、総司は零次をチラリと見る。その目は『これで満足していいのか?』と言外に問うていた。総司はあれほどの仕打ちをしてきたクズ相手にこれで手打ちにするにはまだ零次に不満があるのではと考えたようだ。だが零次の表情は憑きものが取れたかのようにスッキリとした顔だった。

 

 

「…今まで、俺はあの子達と、大亜連合…というより、俺の生みの親、どちらを取るか悩んでいた」

 

「おい、お前正気か?絶対あの双子の方が良いに決まってるだろ」

 

「…お前は気楽で良いな。どうせお前の事だ、九島烈と北山雫。二択を突きつけられた時、ノータイムで北山雫と選ぶんだろう?」

 

「お前みたいにどっちの味方につくかで悩むならまだしも、その二人俺にとってどっちも味方なんだが…後、それは勘違いだぜ」

 

「何だと?」

 

 

双子に目をやりながら、肩の荷が下りたとでも言いたげに話す零次は、総司への問いかけに意外な返答が来たことで思わず聞き返してしまった。そんな零次に、ニヤリと笑った総司は答えた。

 

 

「全部ひっくるめて守るんだよ、多少の優先順位はあっても、二人とも俺の大事な家族だ」

 

「…そうか、だから俺は勝てなかったのかもしれない」

 

 

その言葉を聞いた零次は、目を伏せる。無惨に死んで行ってしまった他のクローン達の事に思いを馳せているのかも知れない…

そうしている内に、他のミュータント達も殲滅し終わったらしい。

 

 

「…じゃあ終わらせるか」

 

「そうだな…」

 

 

二人はαに歩み寄って、再び同時に拳を叩き込んで上空に打ち上げる。そして総司と零次はαに背を向けて歩き出す。そして打ち上げられたαは、琢磨、範蔵、森崎の最高火力で木っ端微塵に爆発してしまった。それをバックに仲間の元へ歩を進める二人。その瞳は奇しくも、まさしくオリジナルとクローン(愛する者と仲間を守る決意)と言うべき炎が宿っていた。

 

 

 


 

 

その後…

 

総司と関わりが深い人物達が、七草邸に集められた。そこには卒業生である克人や摩利の姿もあった。

 

 

「…それで、安部。話とはなんだ?」

 

「その名で呼ぶのはよせ十文字克人。今の俺は『名倉』だ」

 

 

名倉とは、第七研の数字落ち(エクストラ)ではあるが、当主である弘一が護衛として雇っている者の名だ。日本で生きていく上で、親類としていた方が都合が良いという弘一の判断により、零次は養子として迎え入れられた。そしてこの会談の場を用意したのは零次らしい。

 

 

「…今から話すのは、総司の正体についてだ」

 

「…俺の?」「総司君の?」

 

 

零次から出てきた言葉に、本人と雫が疑問を持つ。総司の事を一番理解している二人(本人と恋人)が聞き返すと言う事は、零次しか知らない情報という事だろう。

零次は一拍おいて話し始める。

 

 

「…お前達は、以前俺と香澄達を総司が助けたときに、総司が『再生』を使ったのを知っているか?」

 

「『再生』?なにその魔法?」

 

 

零次が口に出した魔法を知らないと言う千代田。彼女達は原作と違い、達也が『再生』を用いた事を知らない。その点を考慮して、深雪が解説を始めた。此処にいる人達のことは、達也も深雪も信頼しているようだ。そして事情を聞いた者達が口々に驚愕の言葉を漏らす。そんな中で、会話を進めようと深雪が質問をする。

 

 

「…確かに総司君が何かしらの魔法を使って貴方を助けた事は知っていましたが、それがまさかお兄様と同じ『再生』だったとは思いませんでした」

 

「そうか…七宝、お前は何か感じたか?」

 

 

次に零次は、琢磨に目線を向けて問いかける。琢磨は既に数日経ったあの日の事を思い返して、しばらくして確信を持った言い方で返す。

 

 

「いえ、何も感じませんでした。魔法を使った予兆などが丸で見えませんでした」

 

「…やはりな」

 

 

琢磨の返答に納得した様子の零次。そして零次は、正面の位置に座っている総司を見据えて、結論を話した。

 

 

「…端的に言おう、総司。お前は…()なんだ」

 

「「「「「…は?」」」」」

 

 

零次以外のその場の人間が、口を揃えて疑問を示す。ハッキリ言って零次の言ったことが突拍子もなさ過ぎたのだ。だが、零次の話は止まらない。

 

 

「正確には()()()と言った方が正しいか…以前にお前がお前でなくなると言う様な話をした気がするが、この事だな」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!?」

 

「なんだ、総司」

 

 

至極真面目な顔で話を続ける零次に、衝撃の事実を伝えられた当人以外は、口を塞ぐ事しかでき無かった。

 

 

「お、俺が…神の器!?いったいどう言うことだ!?」

 

「落ち着け、それを今から話すんだよ。…そしてその理由だが、お前のその肉体の異常性は先祖由来の物だからだ」

 

「先祖由来…と言うと、安部清明?」

 

「正確に言えば、晩年に清明が自分の血筋に仕掛けた()()の影響だな」

 

 

零次の言葉に誰も返答を返せない。確かに総司は人間離れしている。だからと言って、総司が神の器?そんな話を信じるには、未だ情報が足りなかった。

 

 

「じゃ、じゃあ、俺が達也の『再生』を使えたのも何か理由があるのか!?」

 

「大いにあるな。その理由は神の器としてお前の身体に宿っている機能にある」

 

「機…能?」

 

「そうだ。先程七宝に質問したが、お前が『再生』を使った時、七宝達はその予兆を感知できなかった。それは何故か。魔法師は普段、展開された魔法式や、そこに流し込まれるサイオンで、相手が使おうとしている魔法の大体の種類を判別できたりする。逆に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()すれば、普通の魔法師に魔法の判別は困難だ」

 

「あり得ない、そんな魔法師が存在するものか!」

 

「存在するんだよ司波達也。…そうだな、分かりやすい例を出そうか」

 

 

零次の言葉を否定する達也。技術者として、何より魔法師としての経験が、零次の言葉を認めさせないのだろう。だがそんな達也を横目に、零次がディスプレイモニターに問題を表示していく。表示されたのは二問。一つは、俗に『フェルマーの最終定理』と呼ばれる数式、もう一つは1+1というあまりにも簡単な数式だった。

 

 

「さてお前達、こういうことだよ」

 

 

そしてその数式の横に、『魔法師』と、『総司』という文字を書いた。『フェルマーの最終定理』の数式の横にある『魔法師』という表記を指さしながら話し出す零次。

 

 

「俺達にとっては、極論魔法発動は、コンマ0.000数秒で、魔法演算領域にて行われる計算によるものだ。仮にこの『フェルマーの最終定理』を解くことで俺達がやっとこさ魔法を発動できたと過程すると、総司はこの1+1を解けるだけで魔法が使えるんだ」

 

「おいおい…イマイチ意味が分かんねえぞ」

 

「アンタ考えずに言ってるでしょ」

 

「なんでお前そんな突っかかってくんだよ!?」

 

 

零次の説明で理解出来なかったらしいレオにエリカが文句を言う。そしてその最中で、達也が分かったとばかりに口を開く。

 

 

「途中式の有無か?」

 

「その通りだ。俺達魔法師が相手の魔法の種類を判断するときは、言わば解かれている数式の途中式を覗いて、何の数式を解いているのかを予測しているのと同じなんだ。それに対して、1+1なんて問題に、途中式なんて書く奴がいるか?いないだろう?…総司の魔法発動が認識できない理由は、総司が俺達がついて行ける為の途中式を用いない…いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」

 

「…でも俺は普段魔法を上手く使えなくて…」

 

「その点に関しては、司波達也が詳しいんじゃないか?」

 

「…俺が?」

 

「総司が『再生』を使えるのならば、誰かに使用された時点で総司の内に眠る神の人格に記憶されただろうな。そしてその魔法を使えるのはお前しかいないんだ…当時、何か違和感はなかったか?」

 

 

ここで達也は思い出す。過去二回、横浜事変の時と、パラサイト事件において、達也は総司を治す為に『再生』を用いていたのだが、その両方とも、自身の演算領域がオーバーフローを起こしかけ、酷い頭痛に襲われたのだ。それはつまり、達也の脳では処理しきれない()()()があった可能性が…

達也は自分の考えを零次に伝えた。

 

 

「まさしくそれだよ。総司の奴は、生まれつきから魔法式を発動し続けているんだ…肉体を神の器として昇華させる為のものだな。流石の神を生み出す魔法式は規模が大きく、総司の脳でも処理しきれなくなって、大魔法の一つも使えない僅かな領域しか残されてなかったんだよ」

 

「…そんな」

 

「そして、その魔法式は完成に近づいている。総司が最近魔法を少し使えるようになったのが理由だ、お前の肉体の進化が終わり、徐々にお前の脳にリソースを返却しているんだろうな。だからお前の進化は最終段階に入ってしまったんだよ」

 

 

再び沈黙が訪れる。その沈黙を、雫が切り裂いた。

 

 

「…このままだと、総司君はどうなるの?」

 

「恐らく完全に器が完成した時、総司の人格を神の人格が消しに来るだろうな」

 

「それを対策する方法は?」

 

「ない。強いて言えば、いずれ起こると認識しておいて、総司がいつでも対抗できるように気を引き締めている必要がある…ぐらいだな」

 

 

雫の表情が落ち込んだ物になる。そんな雫を見て、困惑してばかりであった総司の顔が引き締まる。

そして零次に質問を投げかける。

 

 

「まだ、その時じゃないんだよな?」

 

「恐らくはな。お前の使える魔法の規模が大きくなればその危険性が高まっているのだと思う」

 

「…分かった、結局の所、俺が頑張れば良いって事だろ?その神の人格って奴とはこないだ争って勝ったからな。もう一度勝てば良いってだけだ」

 

 

総司の表情は、激戦を覚悟したものになっていた…

 

 

 


 

 

数ヶ月後…

 

 

「ふにゃああああああああああ!?」

 

「ど、どうしたんですか中条会長!?」

 

「…これはこれは」

 

 

いきなり奇声を上げたあずさによって生徒会室が騒然となる。どうしたどうしたと一同が気にする中、あずさが今見ていたメッセージを確認した深雪は思わず声を出す。そこには、『九校戦の競技内容の一部変更のお知らせ』と記載されていた…




魔法科世界の秘匿通信


・零次:「名倉零次」に改名し、香澄と泉美の護衛として一高付近で待機することが多くなる。衝撃の事実をメンバーにぶちまける。因みにこの会話に参加していたのは、あずさ、市原、十三束などのそこまで総司と絡みがあるわけではないメンバー以外が来ている。


・総司:実は神の器、所謂現人神であった事が判明。だが人格さえ破壊されなければ問題無いという零次の情報を信じる。彼は雫を悲しませないためにも死ぬわけにはいかないのだ。


次章予告…!


「本当にこの競技に…!?」

「総司君は総てにおいて最強、一切合切問題なし」

「深雪様、さすがです!」

「七宝!スティープル・チェースで勝負だ!…えっ!?男女別なの!?」

「おい、なんで、アイツがいるんだ…!?」

「北山雫…貴女と私、どちらが総司様にふさわしいでしょうね?」

「やってみせろよ、総司!」

「何とでもなるはずだ!」

「一条将輝だと!?」

「橘、お前、今…」

「誰よアンタ達!?」

「お前らの事情なんざ知らねえよ!いくぜエリカ!」

「これは…情報通りパラサイト!」

スティープル・チェース編、開幕…!



今回の話、自分の頭の中ではちゃんとまとまっているんですけど、イマイチ分からないって人が多かったなら、コメントで教えていただけると次回辺りの前書きで解説しようと思います。

別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?

  • いいともー!
  • 駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~

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