「…総司は?」
次の日の朝、朝食を取りに来た達也は、雫が来ているのに総司が居ない事に違和感を覚えた。雫は一秒でも長く総司と傍に居たいと言うタイプなので、起こさなかった…という可能性は低い。大体総司は睡眠こそ取っているが、睡眠を必要とするほど一日に疲れないので、彼は基本雰囲気で寝ている事が多い。よって総司が起きないという事はあり得ないのだ。
と言うわけで達也は、総司の事を最も知っている上に、今日も同じ部屋で寝ていた(部屋を交換している事はカップル・婚約者持ち組の間の秘密である)雫に問い掛けるた。
「…実はさっき、デモ隊が騒ぎを起こしてて」
「…デモ隊と言えば、人間主義のか」
人間主義というのは、魔法師も人間であるとして、未来ある若者である魔法科高校生達の殆どが軍に入隊している事実はおかしいと騒ぎ立てる連中のことである。そんな事を言ったって、現状魔法を一番有効活用出来るのは軍事関係である。文句を言うなら、まずは魔法を有効活用出来る職種の開拓を進めてからにしてほしいものなのだが…
「それで?アイツはデモ隊の言っている意味があまりよくわからんだろう」
「それは総司君を嘗めすぎ…デモ隊が騒いでた場所が私達の部屋から近くて、デモ隊の声で私が起きちゃったの」
「…ああ」
達也は納得した。つまるところ、愛する人の安眠を妨害してきたうるさい奴らに拳を振りかざしに行ったのだろう。流石にやりすぎはマズいので控えて欲しいが…
「それにしたって遅くないか?アイツならもっと早くに鎮圧させてこっちに来ているだろ」
「デモ隊をボコボコにした事が、服部先輩にばれちゃったんだって」
つまるところ、総司は暴れすぎたとして範蔵に叱られているのである。達也は随分と運がなかったのだな。と思った。聞いた限りでは朝早くであったようなので、その時間帯に範蔵が総司を同じ場所にいたのを達也は少し疑問に思った。因みに範蔵が総司の暴れっぷりを目撃した…つまりデモ隊の元に居た理由は、範蔵は総司と出会って頭のネジを数本持って行かれてしまったので、範蔵もデモ隊を懲らしめにやって来ていたのだ。総司がやってなかったら範蔵がデモ隊をボコボコにしていただろう。
それと、仮にその時間に現場に赴いていたのならば、総司の行動を把握した上で人間主義を集めて、騒ぎを起こさせて総司と話をしようとして、失敗して落ち込んでいた名家のお嬢様(束の事)の姿が見られたであろう…
時間は飛び、九校戦が開幕した。初日は本戦アイス・ピラーズ・ブレイクの男女ペア予選とロアー・アンド・ガンナーペアが行われる。
そして場所は女子アイス・ピラーズ・ブレイクの会場…
「いけ~雫ちゃん!花音先輩雫ちゃんの足引っ張るなよ!」
「騒ぎ過ぎだよ総司君…」
自分の愛する人を全力で応援する総司の姿があった。その隣にはほのか、またレオやエリカなどのイツメンも揃っている。総司としては去年のように控え室まで行きたかったのだが、今回は千代田もいることから控えている。
総司は去年真由美に行ったように、法被などを着て全力で応援する構えを見せていた。その光景に周囲のメンバーは少しでも自身への風評被害を避けようと、「この人とは席が近くなっただけです」感を装っており、試合に出ている二人に至っては赤面している。尚、この赤面は雫(あまりのうれしさに照れていた)と千代田(羞恥心によるもの)で意味が違ってきていた。お前千代田に足を引っ張るなとか言ってるくせに、お前のせいで千代田調子を崩しかねないぞ。
「…そろそろ開始ですね。相手のペアは…」
「取るに足らない雑魚だ!」
「言い方ァ!」
そうこうしている内に試合が始まった。雫と千代田のペアは、基本的に前年優勝者でもある二人のペアである事も相まって、本競技の最有力候補だ。また両者ともに、魔法の精密さは欠けるが、事象干渉力や広い範囲への干渉が得意だ。更には千代田、彼女には千代田家一子相伝の『地雷原』の魔法を習得している。水上の氷柱を倒さないといけないこのゲームにおいて、地面を揺らすことに何の意味が…と思われる方も居るかも知れないが、水面を地面であると定義する事で、水面にすら『地雷原』を適用することができるのだ。それ故、千代田は氷柱の同時破壊が容易である。対する雫は点の火力においては他を大きく突き放しているが、面での攻撃が最も効率がよいであろうこの競技では、防御にも意識を割かなければならなかった。しかし、その攻撃役を千代田が担う事で、雫は防御に集中できるのだ。最近になってかなりの時間維持出来るようになった『神風』で自陣の氷柱に干渉する魔法を吹き飛ばし、千代田による敵陣の氷柱の破壊を待つ。
まさに攻防一体の二人のペア。事実開始した試合では、敵がいくら魔法で氷柱を破壊しようとしても、雫の『神風』に押し返される。ならば防御に徹して、雫のスタミナ切れを狙おうとしてもここ数日で磨き上げた千代田との完璧な連携、千代田の『地雷原』を消さず、それでいて相手の魔法は消す。この合わせ技により、二人は何の問題もなく勝利した。
「よっしゃー!ナイスだ二人ともー!」
「…正直言って今回の女子氷倒しは一高の優勝で確定でしょ」
「深雪も雫達も、止められる人はいないだろうしね…」
そう、この試合で全力で応援するのは総司ただ一人なのだ。他のメンバーは、深雪と雫・千代田ペアの優勝を疑っていないし、他の学校の生徒ですら、女子氷倒しは半ば諦めている程だ。そんな意見が出るほど、一高は広範囲高火力アタッカーが多いと言う事。力こそパワーである。
時は流れ、今日の試合が全て終了した。朝一から試合に出場していたエイミィ達のペアが女子ロアー・アンド・ガンナーのペア本戦で優勝、男子ペアも三位と好成績を残した。そしてアイス・ピラーズ・ブレイクは男女ともに決勝リーグ出場決定。女子は言わずもがな、男子は総司にしごかれた(圧倒的なまでの敗北)おかげか、所々危ない場面を見せながらも無事決勝に出ることができる。
しかしながら、一高幹部陣の表情は優れない。それはロアー・アンド・ガンナーで七高が見せた仕上げっぷりにあった。
「…女子ペアでは優勝できたが、男子ペアでは三位…そして七高が女子二位、男子一位か…彼らも頑張ってくれたが、現状七高にリードを許している状況だな…」
「流石は『海の七高』だね。術式の精度は負けていなかったけれど、選手の練度が桁違いだったよ」
「明日のソロは七高が一位を独占してくれた方が、後々の点数勘定は有利になるやもしれんな」
「三高と点差が開かないからかい?」
「自分でも消極的だとは思うがな」
目頭を押さえ、昨年の先輩方の苦労を感じる範蔵。そこに千代田が暴論を挟む。
「じゃあさ、司波君にロアガンのソロを担当させるのはどう?司波さんならどうせ誰が担当しても、北山がいないなら勝てるでしょ」
「今からのエンジニアの担当変更は不可能です。更に言えば、今回は術式ではなく練度の問題なので、俺が担当しても実践訓練を多く積んでいる七高や三高相手に状況が好転するとは限りません」
「何お前どした?めっちゃ焦ってない?」
幹部席に吹き込んできた凍てつくようなプレッシャーを感じた達也が、即座に千代田の案を却下する。その慌てぶりに首を傾げる総司。お前は深雪のプレッシャーに気づけ、つーかなんで幹部席にいるんだ。
「でもさ、結局ロアガンで七高や三高に負けてても、アイス・ピラーズ・ブレイクで取り返せばいい話じゃね?女子はソロペアどっちも優勝できるだろうし、アイツらはともかく、俺は勝つぜ?」
総司は言外に焦り過ぎだと言う。確かに七高はともかく、三高と点差が付くのは避けたい展開ではあるが、氷倒しで巻き返せば良いだけの事。女子はほぼ一位の点が入ってくる。そしてソロには総司が居る。
普通なら確かに、と安心するであろう。だが今回はそうも言えなかった。
「…だが、男子ソロアイス・ピラーズ・ブレイクには、三高から一条将輝が来る。一条とお前をぶつける意味を、三高の幹部陣が理解していないはずはない。必ず何かしらの策があるはずだ」
そう、男子ソロ氷倒しには、一条将輝が出場してくる。この事に関して幹部陣が何故警戒しているのかと言うと、三高の選手名簿の公開が、一高のそれより遅かった事にある。仮に将輝が氷倒し用に調整を進めていたにしても、魔法を無効化する術を持った総司の名前を見て、モノリス・コードに変更せずにピラーズ・ブレイクのままで通してきた。モノリス・コードとは違い、正面からの勝負であるピラーズ・ブレイクにおいて、総司を相手にすれば三高は大エースを二位という順位に甘んじさせてしまいかねない。去年とは違い、同時に選手登録できる競技がスティープル・チェース・クロスカントリー以外にない以上、将輝はモノリス・コードに出場できない。総司に将輝が負ければ、三高は一高との点レースにおいて、圧倒的なディスアドバンテージを背負うことになる。
しかしながら、そのリスクを承知で将輝をピラーズ・ブレイクに出場させた。何かしらの、総司打倒策があってもおかしくはないだろう。範蔵他幹部陣はそれを警戒していた。しかし…
「そんなの、どうせ小細工っすよ。俺に任しといてください!」
と大胆に総司は言い放つ。その言葉に、幹部陣は一人(あずさの事)を除いて安心感を覚えるのであった…
魔法科世界の秘匿通信
・人間主義達と見せかけて実は束の息が掛かった者達であった。そして彼らをダシに総司とお話ししようと束は企んだのだが、先に範蔵がOHANASIをしてしまったので凹んでしまった。
・将輝は原作で、スティープル・チェース・クロスカントリー以外の何の競技に出場したのか明言されていないが、原作での結果を元に、本作ではアイス・ピラーズ・ブレイクに出場。
幹部陣の懸念の通り、総司対策をしてはいるが…?
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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いいともー!
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~