「…ああ!総司良いところに!」
「ファッ!?」
初日の日程が終わった頃、雫はチームメイトとお風呂に入りに行くと言うので、手持ち無沙汰になってホテル内をぶらぶらとしていた総司に、大きな声を掛ける人物がいた。驚いた総司がその声の方を見れば、そこにはレオがいた。その隣には、見慣れない男性がいる。その光景を見た総司は、いつもは働かない勘を無駄に働かせて思いつく。「もしやダル絡みされているのでは?」と。
「…レオ!やっと見つけたぜ~!って言うか別に今ほど大声で呼ばなくてもよくね?」
「おう…悪いな、お前の姿を見つけたもんでよ…悪いが、俺はコイツと先約があるんだ」
レオは総司がすぐに察してくれたことに安堵の表情を浮かべつつ、眼前の男性へ告げた。総司の予想通り、ダル絡みされていたらしい。
すぐにその場を離れる二人。その後ろ姿を一瞥して、男性も反対側へと歩き出していった。そしてその男性の姿が見えなくなった辺りで、レオが警戒を解いて総司に感謝を述べてきた。
「…助かった総司、今度礼はさせてくれ」
「安心しろ、友達の貞操の危機を救って、それ以上を望むほど俺は落ちぶれちゃ居ないぜ」
「……」
レオの表情が一瞬で怒気をはらんだ物になる。総司はどうやら、ダル絡みと言っても性的な誘いであったと解釈しているようだ。丸でレオが魔法科のBL本に出てきやすそうな体つきしてるからって…!だが先程の男性との邂逅はレオに取ってはあまり周知されて欲しくないこと。今回は癪であるが総司の勘違いに乗っかった方が良いとレオは判断した。
「…そういうことだからさ、この事は誰にも言わないでくれ」
「モチロン、それくらいのことは俺でも気遣うさ。特にエリカちゃんには絶対に言わないようにするよ」
「そこでなんでアイツの名前が出てくるんだよ!?」
唐突に出てきたいけ好かない女同級生の名前が出てきた事に困惑するレオ。そんなレオに総司は「分かってるから!そんな誤魔化すなって!」と言いたげな表情でまあまあとレオをたしなめている。そもそも普段の二人を端から見ていると、お似合いの喧嘩ップルにしか見えないのだ。流石にこれは訂正するべきだとレオが口を開こうとする前に、総司は「大丈夫だってこの事も誰にも言いふらさないから!」と言いながら足早に去って行ってしまった…
さて、そんなこんなでレオと別れた総司だが、此処で自分が何故あの場に居合わせたのかを思い出す。彼は暇であったのだ。だがレオが性的に襲われる可能性に動揺してしまい、折角の暇つぶしの相手をみすみす失ってしまう形となってしまった総司。なんだか引き返す気にもならず、暇だな~とホテル内のカフェに立ち寄る総司。窓際の席に座った総司は、そこでコーヒーを飲みながら夜景を眺めていたのだが…
「相席、宜しいですか?」
「んお?…君は」
「うふふ…」
総司の席の対面に座る女性。その女性へと目を向けた総司は、それが束であった事に気づくだろう。どうやら予想外に夜景が美しかったため、気配を読むのが遅れたらしい。
相席可かどうかの確認をしながら、まるで断る事など無いでしょう?と絶対的な自信を持った表情で対面に座る束。束を見て、総司は彼女に聞きたかった事をもう一度聞いてみることにした。以前は仲間達にデリカシーがないと半ば強制的に却下された質問ではあるが…
「君は、なんで俺のこと好きなんだ?」
そう、総司には束に好かれる原因が分からない。彼が救った人間は数知れずだが、束はあの『元老院』の四大老に次ぐ権力者たる藤原道長の娘だ。元老院の権力を持ってすれば、総司がその場に居合わせでもしない限り、すぐに事件が解決してしまうのだ。故に、総司は何故自分が束から好かれているかの理由が分からない。彼女は本気だ、雫から鞍替えするつもりなど毛頭ない総司が今できることは、せめてその気持ちに応えようと、彼自身も本気で向き合う事だ。それにあたって、総司は束に質問したのだ。以前彼女にしてやられたように、彼女は総司の実力を把握している節がある。ならば彼女は…
「幼い頃、貴方が神に進化することを知ったお父様から見せられた映像で拝見致しました。初めて貴方様を拝見した時…私に感情が芽生えたのです!」
「あたかも素晴らしい出会いかのように恍惚とした表情で語ってるけどさ、君が俺を一方的に認識していたってだけだよな?」
大方総司の予想通りではあった。だがそれによって今度は、ここまで執着する理由を知りたくなってくる物である。動画で見ただけで、それで一目惚れしただけで、誰かの恋路を邪魔してまで自分の物にしようと思うだろうか。総司はダウンしていたので分からないが、彼女は今大分猫を被っている。本来の彼女はもっと快活に話す。しかし総司の前ではそうしない、それはあたかも、
「どうして君はそこまで俺に執着するんだ?」
相変わらずストレートな質問の仕方をしてくる総司相手に、いやな顔一つせず、束は答えた。
「…当時の私は、身体が弱かったのです」
「…それで?跳ね回ってる俺が好きになったと?」
「いえ、確かに憧れてはいましたが、そこが決め手ではありません」
そう言うと束は懐から何かしらのアクセサリーを取り出してきた。そのデザイン…と言うより見た目は、貝の様な形をしていた。
そこから、力の残滓を感じ取ることができた総司。まさかとは思ったが、その真偽を考察できるほど総司の頭はよくない。故に普通に質問する。
「…ひょっとして、その貝のアクセサリーは…」
「はい、お察しの通り『レリック』です」
『レリック』、この世界でのレリックとは、「魔法的な性質を持つオーパーツを意味する物質」を指す言葉である。現代の魔法科学技術でも再現が困難または不可能である、貴重な物だ。そしてその『レリック』を愛おしそうに撫でながら、彼女は嬉しそうな表情で言葉を紡ぐ。
「この『レリック』には、「愛」の魔法が込められているんです」
「「愛」…それが魔法だって?」
「ええ。…誰かを思う「愛」の気持ち。その大小によって、様々な力を人に与えるのです」
撫でる手を止めた束は、ふと夜景に目をやった後、昔の事を思い出すかのように目をつむる。そして語り出すのだ。
「私は、貴方様に愛という名の信仰を捧げることで、自分の身の健康を手に入れようとしたのです。最初は確かに少し憧れているという程度の惚れ具合だったのでしょう…ですが、貴方様に愛を、信仰を捧げる度に、その度に体調が回復していく。その様は、丸で信者に見返りを与える神様のようだと感じました、だから私は、貴方様に永遠の愛を捧げても構わないと真剣に思うようになったのです」
「…随分と歪んだ愛だな」
「そうでしょうか?人々が神を信じるのも、神を愛している故とは思いませんか?」
「結構珍しい物の見方だと思うよその考え方」
「お父様はは私を勘違いしていらして、私が貴方様を人として愛していると思われているのです。確かに人としても好意的だとは思いますが、私のこの感情は、貴方様に私だけの神になって欲しいという独占欲と信仰心なのです」
「…それを君は『愛』と表現するのか…」
眼前の少女の狂ってしまった情緒を心配しながら、総司は目頭を押さえた。まさかここまで予想を裏切られるとは思いもよらなかった。まさかあまりにも大きい信仰心と独占欲が、巡り巡って恋をしているように見えるのだから。彼女の気持ちに応えるわけにはいかない。彼には雫がいるし、何より彼は神になる気など毛頭ないのだ。ならば彼女に伝える言葉はただ一つだ。
「…ごめん、俺は神じゃない。確かに今は神になりかけているんだろう。でも俺は人間でありたいんだ。そして俺には、雫ちゃんがいる。彼女を手放すわけにはいかない。だから…」
「…ダメです」
「え?」
「それだけではダメです!…北山雫は、物心ついた頃から貴方に焦がれている私から、貴方をかっさらっていった泥棒猫!私の感情が間違っているとしても、あの女にこのような負け方をしたままではいられません!」
歪んだ愛を持つ彼女なりのプライドを見た総司は呆然とする。そんな総司に束は今裏で動いている陰謀について語る。
「…女子スティープル・チェース・クロスカントリーで、『パラサイドール』が使用されます」
「…パラサイドール?パラサイトか!?」
「ええ。それを人形の中に入れ、人間の制御下に置いた兵器です。…お父様は女子スティープル・チェース・クロスカントリーに投入されるパラサイドールに仕掛けを施し、競技が始まると同時に暴走開始するように仕組みました。暴走したパラサイドールは、そのまま北山雫と司波深雪を狙い始めます」
「…なんだと?」
道長は娘のことを多く知ろうとはしなかった。故に気づかない、自身の配下の三分の一は既に自身ではなく束に従っていることを。その配下から得た情報が総司に伝えられる。そしてその情報は、総司を一瞬でキレさせるのに最適であった。
「…何のために雫ちゃんと深雪ちゃんを狙うんだ?」
「おそらくは、貴方か司波達也、どちらかの世界を滅ぼしうる魔法師を怒りで暴走させ世界の危機を招く。貴方の御身に宿る神は、この世界の防衛機構のようなものです。この世界が滅び欠けるとなれば、降臨を前倒しにしてくるかも知れない…それを理由として、あなた方の心の支えであるあの二人を殺す。それがお父様が今回の九校戦で暗躍する理由だと思います」
「どうすれば止められる?」
「女子ということもあり、貴方が介入しようとすると会場の人に止められてしまうでしょう。それに九校戦は全国に放送されます。仮に貴方がパラサイドールを処理してしまうと、将来の貴方の評価は著しく下がるでしょう。だから…」
「だから?」
「私と北山雫の模擬戦を執り行ってはもらえないでしょうか?」
「…は?」
怒り心頭であった総司の表情が一瞬でマヌケズラを晒す事になってしまう。束の真意とは…
魔法科世界の秘匿通信
・レオの隣にいた男性:正体はエルンスト・ローゼン氏。ドイツのCADメーカーにして、業界第一位を誇るローゼン・マギクラフトの日本支部支部長にして、正当なローゼン家の血筋。
・束の『レリック』:効果は本編通りだが、その作り方として、存在しないはずの難題として有名な秘宝、『燕の子安貝』を燃やされたはずの『蓬莱の薬』に浸して作るという、いかにも藤原製と言いたくなる素材が使われている。
ごめん、眠気と戦いながら書いたから支離滅裂なところが多いと思います。ですが個人的な納期に間に合わないので、投稿しました。この作品がノリだけで作られているメリットとデメリットを同時に味わいましたわ…
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~