「…何悩んでるの総司君?」
「え?悩んでる?このひょっとこ踊りしてる奴が悩んでいるだって?」
「流石は雫ちゃんだな…実は…」
「マジで悩んでたのか…」
「オイ服部。お前長いことコイツの相手してんだからいい加減慣れろよな」
ホテルの談話室的なところで、ひょっとこ踊りで自分の内心を隠していた総司の足掻きを見事に看破した雫によって、イツメンによる会議が始まろうとしていた。
「…ほう、あの一年は北山との模擬戦をお望みと」
「私はいいよ、受けて立ってあげるから」
「北山、総司が悩んでいるのはそこではない…そうだろう?」
「おおよそ、自分すら凌駕しうる身体能力を持っていることを問題視してるんだよね」
「…そうだよ、それに彼女、雫ちゃんを泥棒猫とか言ってたし、事故に見せかけてそのまま殺す気かもしれない…」
思い詰めた表情をする総司。なら受けなければ良いじゃんという男性陣の意見は、受けないと不意打ちで雫ちゃんに牙を剥くかもしれないという総司からの不安の言葉に、掛ける言葉を見失ってしまった…そんな感じで若干暗い空気の男性陣を見て、雫を含めた女性陣がコテンと首を傾げている。その仕草に各々の恋人が彼女の可愛さで心臓が止まってしまう。苦しそうに胸を押さえる三人を余所に、ノーダメージであった範蔵が質問をする。
「どうしてお前達はそこまで余裕そうな顔をしているんだ?」
「だって…北山は総司の速度は見切れるはずよ」
「「「「すげぇ…?、は?え?嘘だ!?」」」」
男性陣は彼女達が能天気なのだとばかり思っていたのだが、千代田から飛び出てきた発言に驚きの表情を見せずにいられなかった。ただの人間が総司の速度を見切れるはずはない。そう思い立った男性陣…特に総司はすぐさま行動に移した。彼は立つこともなく、ノーモーションで雫の背後に回ろうとする。そして彼女の後ろに立った…そう思った時総司の目の前にあったのは、雫から向けられている指鉄砲だった。
「やべえ!マジじゃん!?雫ちゃんパネエ!」
「嘘だろ…?俺達ですら何処に移動したか気づくのにしばらく掛かるのに…」
「総司君は自分一人で移動する時、高速で目的の場所に行くクセがあるから…目が慣れちゃった」
「「「「いやそうはならんやろ!?」」」」
「「「なっとるやろがい!」」」
尚も否定する男性陣に女性陣の一喝が飛ぶ。とりあえずしみったれた顔をするなとのことだ。
「とりあえず、今は北山さんに直接挑戦状を出せないビビりの一年の話はもう良いの」
「言い方ァ…」
「今私達が話し合わないと行けないのは、明日からの九校戦の事よ」
「そういやあーちゃん会長以外の三年幹部いるな」
「…コホン、とりあえず一旦は不二原の話は忘れよう。そこまで話したいなら九校戦の話をするが…結局の所、アイス・ピラーズ・ブレイクは確実に勝ち上がるだろうし、ロアガンはキツいって話ぐらいしかできないだろう?」
「そうじゃなくて、どうして三高のクリムゾン・プリンスがアイス・ピラーズ・ブレイクに出ようとしたのかって事を話し合いたいのよ」
「…はあ」
「何よ!?」
「おまえ、ルール確認してないのか?」
千代田の無知っぷりに呆れながら、範蔵は端末を操作し、今大会のルールを見せる。そこには…
「…『競技の進行が困難になる程の防御を禁ず』…!?これって!」
「おそらくは総司対策だろうな」
「こんなの誰が!?」
「そりゃ、烈爺でしょ」
「アンタね、その呼び方心臓に悪いからやめなさいって!…でもどうしてそう思うの?」
「だって先輩、この九校戦の正式名称知ってますか?『全国魔法科高校親善魔法競技大会』ですよ?魔法を使わずに優勝した人に文句を言わない人が居たと思いますか?」
明らかに総司だけを縛るルールに千代田が文句を言うと、どこか怒っている雫が説明を始めた。どうやらあの試合の後、魔法を使用せずに戦っていた事が何処かから漏れたらしく、総司の生まれもった身体能力と異能の事を、『ズルい』だの『卑怯』だので片付けて文句を言う奴が多すぎたらしい。総司にとってはそれらの要素は『伝統派』にウザがらみされる理由にもなっているので、苦労の種とも言える。それに対して不躾に文句だけを言う奴らが雫には許せないのだ。しかし対称的に総司はそりゃそうだよな、と納得していた。なので総司の評判を心配した烈老師が競技委員会に頼んでルールに一部追加をしてもらったのだ。
「でもこのルールってちゃんと読み込まないと分からない様に小さく書かれてるから、花音が気づかなくても仕方ないとは思うよ」
「まあ俺も烈爺から直接言われなきゃ知らなかっただろうし」
「…毎年ルールを律儀に確認している俺が間違っているのか?」
「安心しろ服部。お前はよくやってる、恋愛以外はな」
「一言余計だ、はっ倒すぞ」
再び彼女いない煽りをされた範蔵が青筋を立てながらも総司に質問をする。
「しかし、お前。その条件であの一条将輝に対抗できるのか?お前の情報強化に異能を合わせれば容易だろうが、逆に異能をフルに使えなければ厳しい相手だぞ」
「大丈夫、心配するなって」
笑いながら心配は無用だと宣言する総司。雫以外の一同が、総司の能天気な発言に不安になったその時、
「「「「…!?」」」」
突如として一同を『圧』が襲った。それは何か見えない物…というより、形のない膨大なサイオンに感じた。そしてその『圧』の発生源に全員が目を向けた。
「…俺は負けないよ」
何処か機械的な笑みを浮かべた総司が、いつの間にか金色に変色した瞳で一同を見つめていた。
「明日は試合もあるし、俺は寝る事にするよ…まあ、寝る程疲れてるワケじゃないんだけどな」
椅子から立ち上がり、そのまま自室へと向かって行く。そんな総司の様子を見た雫は…
「アレは…誰?」
そう、言葉をこぼしたのであった…
翌日…
「さあ、元気よくやっていこうか!」
「「「「「……」」」」」
「…え?なんでみんなそんなテンション低いわけ?」
「みんな疲れてるんだよ、そっとしといてあげて」
「そう…?昨日はそうじゃなかった気がするけどなぁ…花音先輩・啓先輩、紗耶香先輩・武明先輩ペアは、昨日はお楽しみでしたねで片付けられるんだけど…ねえ」
「おう、また性懲りもなく俺煽りか?いい加減喧嘩買うぞ?おん?」
一高テントで意気揚々としている総司を見た一同は、昨日最後に見せたあの謎の迫力が総司から消えている事に、内心安堵していた。その安堵ぶりたるや、総司の煽りに動揺せずに即座に反応できるほどだ。此処で反応できなかったら範蔵は総司から体調を心配されていただろう。そんなことで体調の異変の有無を判断するな。
「今回のアイス・ピラーズ・ブレイクは、一条将輝以外敵ではない。思いっきり暴れてくるんだな」
「おうともよ、達也!深雪ちゃんもファイト!」
「ええ、お互い頑張りましょう総司君」
男子アイス・ピラーズ・ブレイク本戦会場…
一人の男子生徒は汗を流していた。理由は眼前にいるワケの分からない格好をしている男だ。ほぼ水着のような服を着用し、そして頭にはヒヨコのかぶり物をした対戦相手…橘総司の実力に恐れ慄いて居るのだ。
「(ック、何だよコイツ、強すぎる!魔法が全然効いている様子はないし、俺の氷柱は魔法の気配も何もないただの拳圧で破壊されている…いやどういうことだよ!?)」
総司の戦い方は、以前にも言及したように、圧倒的な出力の『情報強化』で防御しながらの、拳から放たれる衝撃波による攻撃だ。此処で使用されているのは単純な『情報強化』だけ。猿まねをするだけなら全魔法科生が可能だろう。問題があるとすれば、『情報強化』が論外な出力をしているという点と、そもそも普通の人は魔法無しで衝撃波を生み出せないという点だ。
また、ルールに追記されたのは『競技の進行にが困難になるほどの防御を禁ず』である…つまるところ、攻撃に異能を用いても全く問題無く、男子生徒側の防御術式をいとも簡単に破ることができていた。
「(これが…『一高の暴力兵器』…!」
「なんか不名誉な名前をつけられている気がするピヨねえ…」
総司の猛攻に耐えられるはずもない一般男子生徒は、ものの一分程度で敗退を決められてしまった…
魔法科世界の秘匿通信
・雫の強化:実は単純な実力だけでいえば、かなりの上位に位置する。本作では基本的に殆どのキャラがアッパー調整を受けているが、雫はそれが分かりにくい。範蔵と同じでオールマイティに能力が上昇しており、不意打ち込みとはいえ数字落ちトリオを一人で制圧できる実力を有している。因みに予定だと雫はまだ強化入ります。
・総司の様子の変化:これが起こり始めた理由として、総司の中にいる神の人格が無意識の領域で未来予測を行い、達也もしくは総司によって世界が滅びかける可能性が浮上してきた為、予定を前倒しして総司を乗っ取ろうとしたと言う理由がある。今回は束の相談で、雫の身の危険に恐怖していた隙を狙われた。一晩経ってその隙も埋まった為、今はなりを潜めている。
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