結果として、深雪と総司は圧倒的な試合によって、予選を突破した。しかし、それに対してあまり一高首脳陣は喜びの感情を見せなかった。それはやはり、前予想の通りにロアー・アンド・ガンナーの上位を他校取られ、特に一位を七高に独占された事が大きいだろう。一高は男女ともに四位であり、ポイントはゼロだ。
「…やはり、ロアガンには森崎を使うべきだったか」
「それを今議論しても仕方ありません。私達の見通しでは三高は一条将輝さんをモノリス・コードに出場させると思っていたのです。それに本戦モノリス・コードは、スティープル・チェース・クロスカントリーを除いて一番ポイントが高い競技です。そこに全力を尽くすというのは間違っていなかったと思います」
「…だが」
「ちょっとみんな~!そんなへこたれてちゃダメだぞ?」(甲高い声)
「「「「…」」」」
「こんな時は、僕と一緒にぴえヨンブートキャンプで汗を流そうじゃないか!」(甲高い声)
「「「「遠慮します」」」」
範蔵が今更森崎をモノリス・コードの選手に登録した事を後悔していたのをたしなめるあずさ。彼女は気こそ弱いが、真由美の姿を見てきただけはあり、最低限の生徒会長としての威厳を持っている。二人の会話に他の首脳陣が口を挟むこともできなかったその時だ、まだ変態的な格好をしているバカがアホな提案をしてきたのは。
「というか、あのなあお前。なんでそんな格好で競技出てたんだよ」
「別に良いじゃん、ピラーズ・ブレイクってコスチューム自由でしょ?」
「確かにそうだが…そう言った事が大々的に行われていたのは女子の方だけでな…」
「じゃあ俺が前例となれば実はコスプレしたかった男子もできるようになるじゃん」
「…それはそうだな。だが、お前のそれは何のコスプレなんだよ」
「え!?苺プロの稼ぎ頭たるぴえヨンを知らないのか!?」
「なんでさも一般常識かのように語ってるんだよ!?」
肩で息をする範蔵。いつもツッコミお疲れ様です。
そんなのを端において、総司が話し出す。
「七高が水上競技で強いなんて今回に始まった事じゃないだろ?去年のバトル・ボードだって摩利パイセンと事故りかけた先輩も七高で優勝候補だったワケじゃん?寧ろ去年のせいで七高を俺達が蔑ろにしすぎただけなんだと思うぞ」
「……」
「…?どしたんパイセン」
「いや、お前そんな事を覚えてたんだな…」
「ははは、ぶっ殺すぞ?」
範蔵と総司のやり取りは、一見すると普段と同じように見える。だが、範蔵は確かに困惑していた。総司の記憶力にだ。彼は本当に興味のないことには記憶の容量を全くと言って良いほど割かない。そんな彼が、摩利が事故に遭いそうだった事を記憶していても、その相手が誰かまで覚えていただろうか。あの時、もし摩利が怪我をしていたなら覚えていたのかも知れない。だがあの時、摩利が怪我をせずにすんだのは、他でもない総司によるものだ。
一年以上彼と絡んでいる以上、流石にこれぐらいのことは見抜ける。よって一高首脳陣…あずさはあまり絡みがないのでノーカンとする…は全員違和感を覚える。そして彼らが違和感を覚えたとするならば…
「…確かに、妙だな」
「でしょう達也さん?総司君があんな事覚えてるはずがないよ」
幹部テントをのぞき見している二人、達也と雫。この二人、特に雫は総司との繋がりは尋常ではない。達也も、過去に自身の叔母から警戒するように申しつけられた事によって、総司を注視していた事が功を奏しているのだろう。他のメンバーが違和感程度に感じている事柄を、明らかに異常であると結論づけた。何も知らない人が聞くと、流石に総司をバカにしすぎだと感じるだろうが、実際それぐらいバカなのだから救いようがない…のは置いておいて。
「…実は、九校戦のルールが変わったり、競技が変更されたりした頃あたりから、違和感は持っていたの。でも確信に至ったのは今日の昼頃。会話が明らかにいつもより理知的になってる」
「雫は、これをどう見ている?」
「総司君が賢くなった…それで済ませればいいんだろうけど、十中八九神絡みの案件だと思う」
「もしかすると…総司の中の神は、乗っ取りを画策するのと同時に、総司の人格との統合も狙っているのかもしれないな」
達也の考えついた可能性、それは神の人格が総司を乗っ取れなかった経験を元に、乗っ取るのではなく統合するという道も試しているのかも知れない…というものだ。仮に再度試みられるであろう主導権の乗っ取りが失敗しても、本来の人格と混ざりあっていれば、神の人格の目的に沿うように誘導すれば、実質的に乗っ取られたのと同じ、神の肉体を神に獲得されてしまうということになる…そうなったとき、人類がどうなるのかは誰も予想が付かない、何せ神など信仰の対象であり、本当に降臨して良い存在ではないからだ。
だが、当の本人はそのリスクを話されても「問題無い」の一点張りだ。おそらくは本人がそう考えているのに加えて、若干統合しかけている神の人格が、そう思うように思考を誘導している可能性まである。
だから今は…
「…総司君」
「静観するしかできない…か」
テントから出て行こうとする総司に見つからないよう、身を隠す二人。その二人に見えない角度で、総司の口元だけが歪に弧を描いた…
次の日、一高の成績はアイス・ピラーズ・ブレイク男子ペア三位、女子ペア一位。シールド・ダウン男子ペア一位、女子ペア予選落ちという結果に収まった。特にシールド・ダウンの女子が予選落ちというのは予想外の出来事であり、雫と千代田のペアがピラーズ・ブレイクで優勝した事をすら祝う雰囲気ではなかった。総司が狂ったように踊って祝っていたが、それに続く者は居なかった。しかし夕食終わりに達也の作業車に全員で集まった時、始めてみんなが祝いはじめた。
「お疲れ様雫!絶対勝てるって思ってたよ!」
「当然。あの程度の敵、私と千代田委員長のコンビの前には塵芥も同然…」
「別の選手の事塵芥って言うのはやめなさい!」
千代田からのツッコミチョップを「いて」と受ける雫。夕食の席で盛り上がらなかった分、達也が作業している横で宴会のような雰囲気でワイワイし始めた一同。そして話題は明日の試合の話へと移る…
「明日は深雪と総司さんの試合だね、二人なら絶対優勝できるよ!」
「当たり前だろ、俺と深雪ちゃんと雫ちゃんが負けるわけがない」
「さりげなく雫入れてるのは相変わらずって感じ…」
ほのかの激励に総司が答える。その返答の仕方に総司らしさを感じて苦笑してしまうエリカ。総司の様子におかしな所は見受けられない。
「でも、総司の方は一条将輝だろう?防御に異能を使えないなら、かなりきついんじゃないか?」
「それパイセン達にも言われたわw」
「そりゃ言われるだろうなぁ…実際どうやって倒すつもりなんだ?」
「そりゃ簡単でしょ」
「?」
「「!」」
来た…!達也と雫は内心で身構えた。総司の雰囲気が変わったのに気づいたからだ。
「…誰が相手でも、徹底的に叩き潰すだけだよ」
「「「「「!?」」」」」
「「……」」
またあの『圧』だ、雫はそう思った。そして話を聞かされていた達也も「これが…」と思っていたぐらいだったが、他の面々は面食らっていた。総司の目は、変色していないはずなのに金色に輝いているように見えた…
四日目…男子ピラーズ・ブレイク、決勝戦…!
「…橘総司!」
「人違いです」
「…いやお前っていうか、君なんで!?」
一条将輝の目の前に立つのは、身長158cmの少女…というか、北山雫に『
魔法科世界の秘匿通信
・女子ピラーズ・ブレイクがコスプレ会場的になっているのは、自分の一番やる気がでる服装で参加できるというルールがあるから。故に総司の一番やる気の入る格好は、雫そのものであった。
はい、三日目は総司の異変を知らない人達に総司の現状を知ってもらう為に犠牲になりました。次回は一条との戦闘が始まります。
後、アンケートは締め切っておきます。魔法を使えるようになるかもなのに、分からないままなの草生えますよ
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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いいともー!
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~