魔法?よく分からんわ!殴ろ!   作:集風輝星

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最近いい話が書けなくなってきたな…


スティープル・チェース編 その八

「いいからとっとと始めよう」

 

「…その格好どうにかならないのか」

 

「この姿が一番俺のやる気を沸き立たせてくれるんだ」

 

 

ざわざわと騒がしい男子ピラーズ・ブレイク会場。彼が最初雫の姿で出てきた時、「男なのに女の格好して恥ずかしくないのか!」などと言う実に前時代的な発言が飛んで来て、かの有名な「女装とは最も男らしい行為である」という反論をして、そういった野次を黙らせてはいたのだが、やはり静かにはならないのがスポーツ観戦というものだろう。

観客席は、次世代十師族でも圧倒的な力を発揮するだろうと思われている将輝と、その対面に位置する異様な魔法科生の試合を心待ちにしていた。

 

 

そうして、試合開始を合図するランプが灯った…!

 

 

「ふっっ!」

 

 

先手はやはり、拳を突き出すだけで攻撃を行える総司であった。見た目が雫の為、腕は細い。しかしそこから出ているとは到底信じがたい威力の指向性を持つ風が将輝の氷柱を狙う。

 

 

「…そう来るだろうなと思っていたよ」

 

 

バン!という破裂音と共に、その風は見事に霧散した。会場が騒然となる。今まで相手の防御を無効化して氷柱を確実に倒していた風が、防がれたのだ。そしてその理由を、観客席にいる総司の仲間達が考察する。

 

 

「総司君の攻撃を防いだ!?」

 

「総司の奴、異能の使い忘れとかじゃねえよな?」

 

「流石にアイツでもそんなことはしないだろう。…あれは、去年も使っていた『偏倚解放』だな」

 

「確か…空気を圧縮し破裂させ、その爆風を一方向に与える魔法でしたか?」

 

「そうだ。そして、この『偏倚解放』は総司の異能では防げない」

 

「…総司の異能は魔法そのものに対して発動する。だけど既に魔法によって生み出された現象は対処出来ない。既に爆風が生み出されているから、総司が風に異能を乗せても届く前に押し返されるんだ…!」

 

「そんな…!じゃあ総司さんの攻撃は届かないってことじゃないですか!」

 

「一応、魔法とただの物理攻撃により発生した自然現象という違いで、一条のサイオン切れまで粘れれば、総司の勝ちが見えてくるだろう。だが…」

 

 

達也が試合の方へ目をやると、二人のファーストコンタクトはどこへやら。方や将輝は特化型CADを相手に向けて、総司は右の掌を相手に向けて、そのまま睨み合っていた。端から見れば二人とも何もしていない様に見えるだろう。だが実際は…

 

 

「マズいな…一条の攻撃に対して、総司が完全に受け身になってしまった」

 

「あの…もしかしてお二人は…」

 

「一条は総司の氷柱に『爆裂』を行おうとして、総司が今なお上乗せしている『情報強化』を破れないでいる。…しかし一条の干渉力は総司の『情報強化』の強化倍率よりも高く、そして早く上昇している。総司ですら集中しなければ一条からの干渉を防ぎきれないのだろう」

 

 

そう、達也の推測通り、将輝の干渉力は想像以上に高かったのだ。防御に異能を使ってしまえばルール違反になってしまうここでは、総司は『情報強化』でやり過ごすしかない。だが圧倒的なサイオンから形成されるそれを、将輝は乗り越えるべく、サイオンだけの大雑把な『情報強化』を技術を伴った魔法で突破しようとしていたのだ。流石は十師族のエリートと言った所だろうか。並の魔法師であれば、総司の『情報強化』を破るどころか拮抗する事など出来はしない。

 

 

「(マズいな…このままだと押し負けてしまう…)」

 

 

総司は将輝を侮っていた訳ではないが、自分の力を過信していた事に間違いはないだろう。総司は今まで『情報強化』はおろか、サイオンの使い方すら知らなかった総司にとって、身体能力と違い自分の魔法の限界をまだ知らない。そして、未だ細かい調整をできない総司は力で押しつぶすしかない…だが、よくスポーツの試合などで言われるように勝負には、心・技・体が揃っていなければ勝てないと。

 

そして…バァン!!という轟音と共に、総司側の氷柱が一つ破壊されてしまった!

 

 

「なっ…!?」

 

「総司様!?」

 

「行け、将輝!」

 

 

一高側の人間は、目の前の出来事に驚愕で満たされた。この中で最も驚いていたのは、雫…ではなく、雫程の理解度を持ってはいない琢磨と束であった。琢磨は総司が展開していた暴力的なまでの『情報強化』を突破して見せた将輝の実力に、束は全能と崇めてすらいる総司が押し切られた事に。

 

そして反対に、歓喜の渦が巻き起こったのは三高側だ。彼らは将輝を信じていなかった訳ではない、寧ろ勝てると信じていたが、実際に勝てそうな状況になっているとボルテージが上がるというものだ。特に吉祥寺はガッツポーズを決めて喜びを露わにしていた。

 

そして会場もざわめきと共に、このまま将輝のではないか?という雰囲気になっていた。

 

 

「どうした、橘総司。お前の実力はそんなものなのか?」

 

「…」

 

 

…将輝に煽るという目的はない。彼は本当に総司がまだ何かを隠し持っているのだと思っている。だが、総司は言葉を返せない。何故なら彼は本当に何も持っていないからだ。『情報強化』しか防御策がない総司は、将輝がサイオン切れになるという一縷の望みに掛けて耐えきるしか方法は無かった。

…総司は異能がなければ魔法に対して無力なのだ。

 

 

「総司君!何へこたれてんのよ~!」

 

「一本ぐらいで諦めてんじゃねえぞ総司!」

 

 

エリカとレオが檄を飛ばす。総司は立ったまま脱力しているように腕を揺らしている。それは、端から見れば絶望して諦めたかのように見えるだろう。しかし、総司の心とは反して、体は魔法を行使していた。反撃に回った瞬間に全ての氷柱を破壊されてしまうであろう状況で、総司は相変わらず全力で『情報強化』を掛けるしかない。

一高の生徒達は普段とはまるで違う総司を見て、応援すらでき無い者もちらほら居る。特に一度助けられ、総司を絶対的な強者として見ている七草の双子などがそうだ。

 

 

「しずっ…!総司さん、頑張って…!」

 

「…頑なに北山の姿を取り続けるのか」

 

 

そう、まともに使える魔法を突破され、反撃の兆しが見えない中でも、総司は『仮装行列』を解除せず、雫の姿で居続けた。その在り方は、親友たるほのかが一瞬呼び間違えてしまうほどだ。今の総司は、総司であって雫のようにも見える。

 

そうしてやがて…

 

 

バァン!!!

 

 

「…ラスト一本!」

 

 

会場の熱気は最高潮に達していた。魔法を知らない者が見れば二人の人間が向かい合い、しばらくすると女子に近い方の氷柱が破裂していくだけなのだが、魔法を少しでも知っているのならば、圧倒的な力とそれを打ち破る技の応酬が見て取れていた。

…会場の空気は、もう将輝の勝利を確信していた。まだ将輝の余裕はある上に、総司の氷柱は後一本、対する将輝は全て健在だった。勝負は確定した、誰もがそう思った。

 

 

「…?」

 

「「…!」」

 

 

そんな中で、今まで顔を俯かせていた総司が顔を上げ出す。その様子に、対面の将輝はまだ何かあるのか?と反撃を期待し、達也と雫は…

 

 

「「…マズい!」」

 

 

目を黄金に輝かせた雫(総司)の姿に、()()()()()()()()()と臨戦態勢を取る。

 

 

「…解析完了」

 

 

総司の口から機械的に発された声と共に、フィールドを覆っていた膨大なサイオン流が止まる。総司が『情報強化』を解除したのだ。少しの様子の変化には気づいたが、明確な異常が総司に起こっている事を認識できていない。諦めたのか…と失望感に苛まれていた…そんな事をしている余裕などないというのに。

 

 

「…適切な対処法へシフト。『情報強化』から『再生』のループキャストに変更」

 

 

諦観と共に将輝が放った『爆裂』は確かに氷柱に命中し、その形を粉々にしていた…()()()()()。将輝が疑問に感じ、何度もトリガーを引く…しかし、それは全て無意味だった。何度やっても総司の最後の氷柱は砕けなかった。

 

 

「…一体何が?」

 

「…『再生』のループキャストだと!?」

 

 

美月の疑問は、半ば独り言のような達也の言葉によって返答をもらうことができた。そしてその返答はその場の仲間達を、特に深雪を大きく驚かせる形となった。

それは一体どう言うことなのか、それを深雪が達也に問おうとしたとき…!

 

 

「…対処の効果を確認。続いて対象の撃破に移る。…対象の氷柱をターゲットとして、『()()』の発動を実行」

 

 

その瞬間、将輝の氷柱が轟音と共に全て破裂した。

 

 

「…な」

 

 

判定機器は正しくこの結果を読み取ったようで、会場の画面は総司が勝者であることを告げる。

自分の家の秘術たる『爆裂』を、親族的な関わりのない目の前の相手が使ってきた事に、将輝の体は硬直した。

 

 

「……」

 

 

そんな将輝に目を向けることなく、総司は早々に控え室へと向かって行った…

 

 

 


 

 

「総司君!」

 

「総司!」

 

 

急いで総司の控え室に向かった一行は、そこで異常な存在を目にする。

 

 

「…疑問、『仮装行列』の解除に難航。原因推測…個体名『橘総司』が抵抗しているものと断定」

 

 

そこに居たのは、総司であり雫であった。より正確に言えば、半分総司の半分雫と言える存在である。半分と言っても別に中心で真っ二つに分かれているのではなく、雫という『外套』にできた綻びから総司という『中身』が出てきている、それが直感的に肉体の半々を占めている様に感じるのだ。

 

 

「ひっ…!」

 

「なんと面妖な…」

 

 

雫の友たるほのかと深雪は、しかし二人のそれぞれの感性から違う反応を見せる。ほのかは単純にあまりの不気味さから、深雪は不気味さよりも歪さに驚いていた。総司の体格は男性の平均的なものであるのに対し、雫の体格は女性の平均でも華奢と呼べる程だ。そこには誤魔化しきれないほどの確たる差があり、その差は特に現在の総司の顔を見れば分かる。やはり総司の意思が多めに抵抗の意思を示しているのか、顔の大半は『仮装行列』で作成された雫のテクスチャが貼られているが、総司から見て左側の顔が総司に戻っている。二人の顔のサイズの差から放たれる異質さは並大抵のものではなく、美月に至っては今にも気絶してしまいそうな程に顔面蒼白だ。

 

何故こんなことになっているのか、雫や達也達には分からないが、総司…の中にいた神の人格とおぼしき存在の発言から察するに、総司が抵抗をしているのだろう。恐らく体は乗っ取られているのだろうが、本人が先程将輝に言った「この格好は一番俺のやる気を出してくれる」という発言はあながち間違いではなかったようで、『仮装行列』が解かれることに全力で抵抗している証なのだろう。

 

 

「…術式そのものへの干渉、失敗。対象の『異能』によって防がれたと推測…続いて対象の精神を取り込み…」

 

 

再び総司と雫を掛け合わせたような『ナニカ』の姿をした存在がブツブツと呟き、再び何かしらの行動をしようとしているときに、雫のテクスチャが生き残っている左拳が握りしめられる。それに気づいた様子がない『ナニカ』はそのまま左側の総司と化した顔に、とんでもない威力を持つ左拳が叩き込まれた。

 

一瞬衝撃を受けた姿勢で止まり、突如バグったかのような奇天烈な挙動をしたのちに、総司の姿が完全に雫のものに変わる。それは『仮装行列』が正しく展開されたことに変わりない。

 

 

「総司君、大丈夫!?」

 

 

倒れ込む見た目だけは自分自身となっている恋人に、酷く泣きそうな顔で声を掛ける雫。その声を聞いたのか、『仮装行列』を自分の意思で解除した総司は、力なく笑い返したのだった。

 

 

そして、その状況を式を使って確認していた者が一人…

 

 

「残された時間は長くない…北山雫と決着を付けて、どちらが彼の隣に…彼を救うのにふさわしいか早々に決めなくては…!」

 

 

束は一人、決意を固めた表情で会場を去った。




魔法科世界の秘匿通信



・総司の焦燥につけ込んで一時顕現。肉体の操作権を得る。試合中殆ど俯いていたのは、総司が最後まで抵抗していたから。気づけばラスト一本まで追い込まれていた状況に更に焦ってしまった総司を横目に、主導権を握った。



・一番やる気のある格好をしていたお陰で乗っ取られなくて済んだ。これは『仮装行列』で着込んだ雫のテクスチャを、自己暗示で雫そのものであると自分に誤解させることで抵抗を可能にした。だがそれは、総司の愛ですら、神は容易に超えかねないと言う事である。

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