しかし聞かせてくれ。何故バジリスクタイムはオッケーだったんだ…
本当にご心配をおかけしました。
今回はデー…散歩回なので総司君のボケは控えめです(当社比)
これは部活勧誘期間が始まる少し前…
北山雫は高校入学早々に巻き込まれたトラブルに際して出会った男子生徒、橘総司のことが気になっていた。
別に好きだとかそんなんじゃ無い。ただ一科生をあの一瞬で黙らせたあの身体能力が気になっているだけであり、学校で見かけたときはついついそちらを見てしまうが別に好意は抱いてない…というのは本人の談だ。
だが今彼女にとって重要なのは下着を見たことに謝らないどころか色をバラしやがったあの男の事などではなかった。
彼女が眺めている端末には『今話題の大人気スイーツ!』という見出しがついたネット記事が映っている。どうやら彼女はその記事で興味をひかれるようなスイーツを探しているようだ。
やはり女子というものはスイーツを好むのだろう(偏見)、彼女もそれは変わらないようだ。そして彼女が一際興味を持ったのは最近オープンしたクレープ屋だ。
だがその店の場所は自身が住むこの場所から少し遠い位置にあった。確かに気にはなるが、クレープ一つのためにわざわざ足を運ぶというのも…と彼女は下にスクロールしようとしたが、
ピコン♪
「!?…何、これ」
唐突に端末がメッセージウィンドウを表示した。雫は驚くも、ほのかが送ってきたのだろうと送り主を見る。するとそこにはほのかの名前は無く、非通知のアドレスからのメールだった。
こんな怪しいメール、本来ならばハッキングを警戒して開かないのが一般的だ。それは雫も分かっているため、メールを削除しようとする。だが…
「えっ!?何で?開いていないのに…!」
雫が削除の操作をした瞬間、そのメールが開かれてしまったのだ。消そうとしたのに開いていることに何が何だかという表情をする雫。ちなみに、これは彼女には知り得ないことだが、このメールには細工がしてあり、通常の操作は勿論のこと、削除の操作でもメールが開くように設定されたものだった。
「…何このメール」
ハッキングされてしまうと慌てた雫だったが、その形跡は一向に現れない。本当にただのメールだったようだ、仕掛けはハッカーのそれだが。
そしてそのメールにはこう記されていた。
『明日、この公園に行くといい。君にとって大事なものが見つかるはずだ。ついでにクレープも楽しんでくれ byRC』
「ここって…」
そのメールには位置情報が添付されており、それが示すのは何の変哲も無いただの公園だった。ただ一点、今雫が食べたいと思ったクレープ屋の近くにある公園であるという点は疑わしい。メールには『クレープも楽しんでくれ』とあった。となると送り主は雫がこのクレープに興味がひかれたことを知っていたかのようだ。
普通ならば、誘拐などを警戒して行かないだろう。特に大企業、『ホクザングループ』の社長の娘である彼女は。だが、彼女はこの時、何故かここに行ってみようと思ったのだ。
時間は進み翌日。
雫はメールの通りにクレープ屋近くの公園にやって来ていた。
距離がある、という考えで彼女はしっかり朝食を取ったのだが、予想以上に早く着くことが出来た。まだクレープを食べる気にはなれなかった。
なので、昨日のメールの意味を知るため彼女は公園の敷地に入る。
だが、特段目を引くものなどない。強いて目につくと言えば子供達が、所謂戦いごっこ、のようなもので遊んでいる事ぐらい…
「…?…!?な、何やってるのあの人?」
雫が目にしたのは遊んでいる子供達を木の陰から見つめている男…体格は高校生くらい、顔からして年齢は雫と同じくらい…などと考察するまでも無い。雫は彼に見覚えがあった。
木の陰にいたのは先日自分に恥をかかせたくせに何故か本気で怒れなかった相手、橘総司だったのだから。
雫はそんな彼に疑いの目を向けていた。「彼はもしかしてショタコンという奴なのでは無いか?」と。確かにこの光景は異常だ、その疑いも無理は無い。だが、雫には謎の安心感…いや、信頼と言ったほうがいいだろうか?彼を異常性癖の持ち主だとは本気で考えることはなかったのだ。
これもやはり、出会ったばかりの学友に向けるものではない、普通初対面に近い相手にそんな感情を抱けるはずはなかった。しかし、雫はそんな彼を見ても警察に通報する用意をしなかった。
すると、子供達に変化が表れる。拮抗した戦いを演じていた二人の男の子の内一人が押され出したように見える。見えるだけだ、なにせごっこ遊びなのだから。
そしてその不利になっている(ように見える)男の子が木の陰に総司を見つける。
普通不審者を見つけてしまってその不審者が隠蔽の為に男の子を襲う…そんな状況を想定すべきだろう、そんなことは滅多に無いのだが。だがやはり、雫は子供では無く、変質者の疑いを受けるだろう総司を心配する。声をかけてフォローをしようとするよりも早く、子供が声を上げてしまった!
「ダディヤナザン!ナズェミィティルンディス!?」
「!?」
「……」
その男の子はいきなり訳の分からないことを言い出した。あまりの予想の出来なさに驚愕する雫、叫ばれたにも関わらず変わらずに男の子を見つめる総司。
「アンタトデューレハ!ナカマジャナカッタンデ、ウェ!」
「……」
男の子がもう一人の男の子に追撃されているにも関わらず総司を説得(?)している。しかし総司は尚も答えない。
「ナジェダ!ナジェダ!ダディヤナザン!オンドゥルルラギッタンディスカー!?」
「……」
男の子の再三の問いかけにも答えず総司はその場を離れていく。慌てて雫は総司を追いかけた。
「ねえ、橘君」
「うん?あれ?雫ちゃん?」
総司に追いついた雫は彼に話しかける。すると彼は雫が此処にいることに驚いている様子だ。
「さっきのあれ…何?」
「さっきのって…ああ、あれか。見てたのか?」
総司は理解出来ないと言う顔をしながら答える。
「今あの子達の間で『先輩に裏切られて絶望しながらもギリギリのところで敵に勝つヒーロー』ごっこが流行っているみたいでさ、その先輩役だったんだよ」
「何それ、マニアック過ぎない?」
「同感だね」
今時の子供って不思議だ…などとぼやく総司をジーッと見つめる雫。その瞳には隠しきれない熱があった。本人と総司は気づかないだろうが。
「ところで、雫ちゃんはどうしてここに?俺はこの辺りに住んでるんだけど…」
「っ!…そうなんだ、私は届いたメールがここに行けって書いてあったからかな」
「メール?なんだそりゃ?」
雫が昨日、知らないアドレスからのメールを受け取った話をした。
「で、そのメールには送り主のイニシャル…なのかな、RCって書いてあった」
「RC…レイモンドの奴、何考えてやがる…?」
「もしかして…知り合い?」
「俺の予想してる限りじゃな。次からはそんな変なことしないように言い含めとくよ」
そうして話している内に二人はクレープ屋に着いた。二人がそれぞれ欲しいものを注文した後、ふと雫が問いかける。
「今日はどこかに出かけるの?」
「え?なんで分かったんだ?」
「…?ごめん、私にも分からない」
「なんとなくってヤツか」
総司の格好は全身が黒一色ではあるが、不思議と不審者感はない服装をしていた。さすがにこれで子供を眺めていたら不審者であるが、町中を歩く分には特に問題ないような格好だ。
そのことを問われた総司は驚くが、実のところ問いかけた雫本人もよく分かっていなかった。これは後に雫本人が「アレは乙女の勘」と証言するのだが。
ともかく総司はよそ行きの格好だった。少なくともあの公園で遊ぶだけが目的ではなさそうだ。
「ちょっと知り合いと飯食うことになっててよ、時間は夜だからその間までこの辺りふらついていようかなって」
「…その格好で?」
先程総司の姿は不審者には見えないと言ったが訂正する。さすがにこの服で徘徊は不審者だ。そのことを雫は総司に伝えた。
「デジマ!?そっかーもっとラフな格好がよかったかなー?」
「住宅街を歩くのだけが目的ならね」
「でもなー、雫ちゃんみたいなかわいこちゃんに見せるんならこれぐらいの格好の方がよさそうだなって、今思った」
途端、雫の顔が紅潮する。可愛いと言われたことに対してだろうとは雫本人も分かっていたが、何故ここまでの反応を自分がしているのか分からなかったのだ。
「…そういう事は女性の前ではあんまり言わない方がいいよ、特に面と向かっては」
「え?なんで?褒めてるだけなのに?」
照れ隠し…と無意識のうちの独占意識が雫を動かし、総司に警告する。しかし、総司にはいまいち届いていないようだ。
「…あ!デザインあ!」
「…どうしたの?いきなり」
唐突に総司が「思いついた!」と言う顔をする。問いかけた雫に総司はこう答える。
「俺が今一人だと不審者に見えるんだろ?ならさ…
デートしようぜ!雫ちゃん!」
「…え?」
魔法科世界の秘匿通信
・今回総司がデートという単語を使っているが、冗談のつもりであるため彼はこの出来事をデートとは認識していない。
・総司が子供達にダディヤナザンと呼ばれているのは、初めて総司が公園に顔を出したときに子供達の保護者…つまりご近所さんに挨拶したとき、その人物が風邪気味で声が枯れていて、こう聞こえてしまったのをずっと総司の本当の名前だと勘違いしているため。
なんか長くなったんで前後編、もしくは前中後編にします。
はよリローデット・メモリさせてくれ
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
-
いいともー!
-
駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~