妄執の
「…みんな」
「やっときたわね、雫」
総司が行方不明になってから三日後。雫はクロスフィールド部の会議室に呼び出されていた。そこは臨時の会議をするときに前部長である十文字克人が愛用していた部屋であった。ただ行方不明になっただけでなく、総司がこの世から居なくなってしまったという恐怖で、精神がボロボロになっている雫は、俯きながらどこか活気のない部活動生達とすれ違いながらこの部屋にたどり着く。そして扉を開けると、中にいたエリカから声を掛けられる。その声で顔を上げた雫は、その部屋には総司の友人達が多く集っていることが分かった。そしてその奥には…
「…先輩方?」
「よく来たな、北山。お前は俺達の中でも一番辛いだろうが、話を聞いてくれると助かる」
部屋の奥に、卒業したはずの克人を中心として、同じく卒業したはずの真由美と摩利が厳しい顔つきで佇んでいた。何故此処にいるのかと思った雫の考えを読んだのか「今回特別に使わせてもらった」と答えを教えてくれる克人。どうやら雫達をこの部屋に呼び出したのは克人達らしい。この部屋に来たのは雫が最後らしく、雫が席に着くと克人がおもむろに話し始めた。
「…さて、お前達に今日集まってもらった理由は…分かるな?」
「ええ、十中八九総司の事でしょう?」
「そうだ、奴の事で共有しておきたい事があるんだ」
克人の放つ圧に口を開けなかった下級生一同、そこに率先して質問した達也によって、克人が話を続ける。
「…俺達は先日、総司いや、奴の中にいる神とおぼしき存在と交戦した」
「「「「なっ!?」」」」
「へ、平気だったのですか!?」
「落ち着いてはんぞー君。私達がこうしてここにいる事が、平気である事の証明よ」
心配した様子の範蔵をたしなめる真由美。丸で去年の生徒会が戻ってきたかのようだったが、今はそんな感傷に浸っている場合ではないので、克人は話を続ける。
「どうやら奴は、世界を統一する事を目指しているらしい」
「「「「……はあ!?」」」」
そして、そんな克人から何気なく発された言葉に、在校生一同は驚愕した。世界を統一する?何故そんなことをするのかが分からない。総司という人格を破壊しておいて、何故そんなことを企むのか。その答えは、克人から返ってきた。
「奴は、我々十師族を手駒にできないかと考え接触してきた。その交渉の際に奴が話したのだが…どうやら、奴の目的は世界を破壊する悪魔を打倒する事なのだそうだ」
「…世界を破壊する悪魔?」
「どこにそんな奴がいるのよ!?」
「それに、そんな存在と戦うために世界を支配するとか、意味が分からないわ!」
雫、千代田、壬生。彼氏を持つ女性陣が疑問の声を上げる。そして言葉を続ける克人曰く、どうやらその理由も神はご丁寧に教えてくれたそうだ。
「…奴はあくまで旗印に過ぎず、悪魔を打倒するには世界の団結が必要なのだと。奴はそう言っていた」
「なるほど、それで世界を統一すると…」
「だけどよぉ、どうやって世界を統一する気なんだ?何処の国だって、「ハイ分かりました」なんて言って従うなんて事ないだろ?」
「…そうか、だから神なのか」
神の目的は分かった。それを成そうとする理由も。だが今度はその方法論が分からない。しかし、ここでその方法を思い立った男が一人。古式魔法の名家、吉田家の神童こと吉田幹比古である。
「恐らく奴は、自分を信仰の対象とすることで、世界の統一を図っているんだ。だって、人に取り憑かせるなら悪魔でも構わないはず。だがその存在を神と呼称したなら…」
「人々からの信仰が目的、と言う事か」
「そう言うことだね達也。確かに世界中の人間を狂信者に変えれば、世界は神である奴の言葉に絶対服従になる」
「…鋭いな、吉田」
「え?」
「俺達が奴と接敵したとき、奴は無数の市民と少数の古式魔法師を連れていた」
克人の言葉に騒然とする会議室。それが本当なら、奴は一日二日で信者を増やしていると言う事だ。
「古式魔法師達は恐らく、『伝統派』でしょう。総司を狙っていたのも自分達の物にならなかった腹いせだと、本人から聞いた事があります」
「それで、奴が出てきたことで便乗してるってワケか」
「…でも、市民まで連れていたんですか?」
美月の口から出た疑問には、これまた克人が答える事になる。
「無数の市民達は何の力も持たない一般人だったが、うわごとの様に『神よ…我らが神よ…世界をお救いください…』と呟き、俺達の魔法師部隊に襲いかかってきた。制圧はさほど苦ではなかったが…」
「何か問題が?」
「…彼らには最上級の精神干渉系魔法が掛けられていた。あの様子では…もう助からないだろう」
「そんな…!?精神干渉系魔法は確かに危険ですけど、それだけで命にも危険が!?」
「彼らは捕らえられた後、先程も言った様に神への崇拝の言葉を呟くだけで、支給された食事すら取らない始末だ。このままでは大量に餓死で死人が出る」
「…待ってください?もしかして私達が此処に集められた理由って…」
「そうだ。このまま奴に対する信仰が進めば、それにのめり込んで餓死してしまう人間が多くなるだろう」
そう、総司が変質した神の厄介な部分はこの点にあるのだ。かの神は悪魔を打倒するために、世界を統一するために信仰を広めるのだが、その信仰を得るために精神干渉系魔法を用いているため、一般人はすれ違うどころか遠目で目にしただけでも神を信仰してしまう。そしてその信仰を捧ぐ事に精一杯になって、自分のことを顧みなくなる。これにより食事をする時間すら惜しんでしまう様になってしまい、餓死してしまうのだ。
「更に、奴自身の行動力も問題だ。奴は我らと交渉しに来たが、十文字と七草が取り合わないと分かった瞬間、こちらに牙を向けてきた」
「…使用魔法は一体?」
「…あまり思い出したくはないがなアレは…」
「渡辺先輩がそこまで言うのですか?」
「…アレは、人を世界に最初から居なかった事にする」
「「「「!?」」」」」
恐らく神が周公瑾を消した時と同じ手法を目にしたのだろう、至極怯えた様子で摩利は語る。そしてその意味を理解した達也達にも鋭い緊張が走った。そんな魔法、勝ち目がないのではと…
「…よく無事で帰ってこられましたね」
「重要なのはそこなのよ、はんぞー君」
「…と言いますと?」
「そんな驚異的な魔法を持つ相手を前にして、私達が生きて帰ってこられると思う?」
「!?…ですが!」
「服部!少し考えれば分かるだろう?奴はこちらと魔法力で争う必要がない。私達が魔法で火を起こす様に、奴は人を消す事ができる。人体のエイドスではなく、世界のエイドスに変更を加えているからこちらからは防ぎようがないんだ」
そこまで話されて、一同に更に絶望感が広がる。自分達が知っている友が、後輩が、そして恋人が、ここまで恐ろしい化け物に変質するなど思いもよらなかったからだ。だが、克人の言葉に在校生達は耳を疑う事になる。
「…奴は俺達三人に同様の魔法を発動しようとして…失敗した」
「失敗…した?」
「そうだ。そして俺はあの失敗の仕方に覚えがある。アレは失敗したと言うより…『無かった事にされた』のだ」
「…それっで!」
「ああ、総司の異能だろう」
そう、十文字家、七草家の合同魔法師部隊と交戦した時、神はこの場にいる元一高の三巨頭にも所謂『消去魔法』を使おうとしていた。だがその魔法式のロードは途中で中断…いや読み込みという行動がなかった事にされたのだ。これはつまり…
「総司の意識が…まだ生きている?」
「俺達は、そう考えている。その可能性に掛けるしか道がないほどにはな」
雫の絞り出した様な声に克人が是を示し、場の雰囲気がほんの少し和らぐ。もしかしたら、総司を取り戻す事ができるかもしれない。そんな希望が、全員の胸に到来した。そんな中で、克人が扉を見ながら口を開く。
「そして、この件に関して一番知見の深そうな人間に、協力してもらうことに成功した。…入ってくれ」
そうして部屋の扉が開く。一同が扉の方を振り返って見るとそこには…
「…不二原さん?」
「どうも、北山さん。あの方を引き留めきれなかった様で残念です」
やれやれと言った顔をした束と、総司に瓜二つな男、名倉零次が扉を開けていたのだ。
魔法科世界の秘匿通信
・総司に宿っていた神を創造する術式は、平安からの長い年月を掛けて、プログラムに異変が起こってしまった。
・悪魔とは、司波達也を指す。
ちょっと作者は忙しくなるので、今週来週は投稿できません。
そこで意見をいただければと。
総司の中の神を奴だとか神だとかで表現してますが、作者的に納得できる呼び方ではないので、呼び方を考えていただければありがたいです。コメントに書いていただければ、採用させていただくかもしれません
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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いいともー!
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~