「…ゲッボ」
「…疑問。なぜそこまで抗う?この戦いは全くの無意味であると私は考える」
「言ってくれるなぁ…」
偽神の精神世界。ここで現在繰り広げられているワンサイドゲームは順調に進んでいた。総司の意識が覚醒したあたりでは、とても美しい景観を保っていた京都も、見るも無残な荒野になり果ててしまっている。これはすべて、総司を弾丸として偽神が破壊しつくしたものだ。そんな扱いを受けている総司は、精神世界であるにもかかわらず満身創痍の様子であり、立つのもやっとのようだ。
だがその瞳からは未だに火が消えていない。その瞳は、何を映しているのか。
「…無意味だって考えるなら、見逃してくれないか?」
「不可能。貴様を生かしておくのは、こちらに一害あって百理なし。排除が適切だ」
「そっか…なら、尚更負けるわけにはいかないな」
総司の瞳に、自分と同じ顔をした偽神は映っていなかった。その瞳には仲間と、自身の愛する人が映っていた。
「…おかしいわね」
「何がだ?」
「人が少なすぎるわ、こんな非常事態なら藤原の私兵が動いていてもおかしくないのに」
「ッフ!…今攻め込んできているこいつらは違うのか?」
「悪いことを聞くのねあなた。…私兵にしては弱すぎるでしょう?」
「それもそうだ」
こちらは潜入チーム。現在藤原家が実質的な権利を有している土地の範囲に侵入してきているのだが、ここに来るまでも来た後も、藤原が有する私兵団が動いていないのが奇妙なのだ。敵に回ったにしろ味方のままであったにしろ、こんな事態になって動かないのは異常だ。
「…こっちは片付いた」
「流石は五つの難題ですね、魔法師へと与える力が段違いです」
「…素直になれない人」
達也と束と少し離れた場所で戦闘を行っていた雫が戻ってきた。彼女はネックレスの力により身体能力がブーストされており、そこに振動系の強力な魔法を使いこなせる。その実力がアイテムだよりではないことを知ってはいても、恋敵としてなかなか認められない束は素直には褒められなかった。
「二人とも、また新手だぞ」
「あら、雑魚がうじゃうじゃと」
「…一応市民だからな」
束が苛立ってきたのか、言葉遣いが荒くなる。それを見ながら、達也は「この人大丈夫かなぁ」と思いながらも、さっさと目的を果たすために気にしないことにしたのだった。
そぅしてしばらくして…
「ここが私の家ですね。ここの地下に難題が安置されているはず」
「…ホントに貴族の家?人の気配がしないけど…」
「それは、そうだろうな」
「「??」」
一行は藤原家の前にたどり着く。だが雫の言ったとおりに人の気配がしない。その発言を肯定したのは『精霊の眼』で家の中を確認した達也であった。
「…入ればわかるさ」
『精霊の眼』を知らないため、達也の発言の意味を理解できない二人を連れて、達也が門を『分解』した。そこには…
「…そ、そんな…」
そこは、まるで地獄絵図であった。あったのは、死体の山。この家に仕えていたであろう老若男女問わず、等しく腹に穴を開けられていた。そして…
「お父様…」
藤原道長は、その死体の山の中心にいた。まるで幸せそうな顔をして、十字架にかけられていた。その体からはおびただしい量の血がこぼれている。
「…いったい何が?」
「…総司か」
「え…?」
達也がポツリとつぶやいた言葉に、雫が信じられないといった声音の疑問の声を出す。その表情を見ながら、達也は苦々しげに自身の考えを話し始める。
「…今、偽神の中には総司の意識がまだ生きていると聞いた。なら、もし総司が自分が怪物となるのを速めてしまった元凶である存在を知っていたなら…」
「なら…?」
「総司の殺意を察して、偽神が本能的にここを襲った可能性がある」
達也の考察は、当たらずも遠からずであった。偽神はここに本能的に来たわけではない。偽神は道長に呼ばれたからここに訪れたのだ。そして訪れた際に、道長が偽神がとても素晴らしい魔法的芸術であると賞賛し、予定よりも早く見ることができて嬉しい。と発言したのだ。
これにより偽神内の総司の意識が本能的に殺意を抱いてしまった。そしてその殺意に従うように偽神は道長たちを一瞬で切り捨てたのだ。ほかの死体の表情は苦悶の表情であるがゆえに、芸術による死を望む狂人は道長だけであったらしい。哀れにも主人の趣味に巻き込まれて死んでしまったのだ。まあ、遅かれ早かれ偽神に洗脳されていたはずなので、廃人になるか死ぬかの二択を強制的に死に決められたといえる。
「みんな…みんな…お父様…!」
束が膝をついて涙を零し始めた。さすがに破綻した考えを持つ乙女であったとしても、家族の情は持っていたらしい。その背中を、いまだにこの惨状を総司が起こしたかもしれない可能性に打ち震えている雫が、動揺していながらもさする。そんな二人の光景を眺めながら、自分も深雪を殺されてしまったらこうなるのだろうか、と感情を宿した瞳で眺めていた。
場面は変わって…
「だああ!埒が明かないぜ!」
「踏ん張りどころですよ西城先輩!」
「わかってるよ!『パンツァー』!」
金閣寺を舞台に、レオと琢磨が『伝統派』を相手取っていた。奴らが使う古式魔法は、現状二人には打破する方法がなかった。一般人を盾にしているため、琢磨の『ミリオン・エッジ』も十全には扱えない。二人は現在、金閣寺の屋根の上で籠城戦を行っていた。さすがに屋根まで一般人を持って運ぶような真似は相手もしてこないらしく、近づいてきた敵を各個撃破している。
だがそれでは何時までたっても仲間と合流ができない。
「クッソ、こんな雑兵どもに時間かけてる場合じゃないんだよ!?」
「そうですね…まだ余裕はありますが、この数じゃ何時になったら終わるか…!」
そしてとうとう、伝統派は覚悟を決めてしまったようだ。
「っつ!?爆発!?」
「まさかあいつら、俺たちを金閣寺ごと!?」
伝統派はどうやら二人を金閣寺の破片で沈めてしまおうという魂胆らしい。仮にも伝統派などと名乗っているくせして、やり口がせこい敵である。ここで琢磨は逡巡する。それは自分の身体強化を使うか否かである。強化を使えば、伝統派の魔法師を倒すことは容易いであろう。しかしその余波のコントロールは、総司よりも下手である。その上、異能が使えない偽神に対して、身体能力で迫れる琢磨はこれ以上消耗するわけにもいかないのだ。
そうして、琢磨は迷う。そして…金閣寺が爆散した!
「…二人撃破」
「これより撤退をかい…」
「ん…!?ど、どうし、ぐわああああああ!?」
崩れ行く金閣寺を見ながら、伝統派の魔法師たちが次なる標的へと狙いを定めようとしたとき、一人が倒れたのを皮切りに、バッタバッタと魔法師たちが倒れていく。
「…これは」
「貴方たちはいかなければならないのでは?」
「君たちが、これを…?」
琢磨とレオは金閣寺跡地から少し離れた地点にいた。その二人の目の前には、ゴスロリと言われる服をまとった
「誰かは分からないけれど、助かったよ…君は、見覚えがある気がするな?」
「ふふふ、気のせいですわよ」
「ウッドフェアリーか…」
「「???」」
琢磨は何気なくこの言葉を口にしている。総司にだいぶ染められてしまっているね、可哀そうに。
「とにかくありがとう。…またいつか会えたら礼をさせてくれ」
「お前たちも気を付けてな!」
そう言って琢磨とレオは走り出す。その後姿を眺めながら、二人の中で胸がない方の少女…いや
「七宝君…姉さんには見覚えがあって、僕にはないんだね…」
「それほど完璧に偽装できているってことじゃない」
「嬉しくないよ!」
少年の嘆きが、京都の空に消えた…
魔法科世界の秘匿通信
・実は、藤原家の庭にあった死体は数が足りない。つまり何人かは洗脳されている可能性がある。
・琢磨が身体強化を使わないのは、対偽神用の主要戦力の一人だからであり、極力の温存をしたかったから。
・一体どこの黒羽の双子なんだ…?
ちなみに本作の二年目モノリスは、身体強化で突風を巻き起こして敵を宙に放り上げ、そこを『ミリオン・エッジ』でたたくという戦法をとった琢磨が、文弥を擁する四高すら轢き殺して優勝している。
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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