「…行きましょう、こんなところで立ち止まっているわけにはいかないわ」
「強いんだね、不二原さんは」
しばらく家族や従者の無残な死体の前で涙を流していた束であったが、次第にその涙も薄れ立ち上がる。その表情には、最早陰りはない。この短時間で短い人を失った悲しみを乗り越えたのかと、雫は驚愕の声を漏らしていた。
その横で、達也も驚いていた。自身に唯一残っている感情は妹への愛情だ。そんな彼は、妹へ危害が加えられようとした瞬間に激昂する。それ故、妹を失ったときはどうなるか自分でも予想がつかないが…この世に意味はないとして暴れだしてしまうやもしれない。
そんな自己評価を持つ達也は、自身にとっての妹…つまり束の家族の死を、悲しみながらもすぐに乗り越え、目的を見誤らない束の精神力に内心感心していた。
「こっちよ。こっちに地下に続く階段が…っ!?」
立ち上がった束が、二人を案内しようと振り向いた時である。無数の死体の、これまた無数の腕が、束の足をガシッと掴んできたのだ。驚いて向き直る束の前で、倒れていたはずの死体たちが立ち上がり、こちらへと虚ろな目を向けてきていた。
その立ち上がった死体の中には、束の父である藤原道長のもあった。親しい者の姿をしていたにも関わらず、命のを危機を感じたが故に束は掴んできた腕を切り飛ばす。急いでバックステップで距離をとると、雫も達也も臨戦状態であった。
束の腕を掴んできた死体の腕は、再生することはなかった…が、その腕がひとりでに動き出す。そんなバイオハザードじみた集団の目的は、ほぼ間違いなく三人であろう。気づけば死体がすべて立ち上がっていた。そして…
「っ、速い!」
本当に死んでいるのかどうか疑わしい速度で、こちらへ向かってきたのだ。この突撃を三人は跳躍でかわす。そして悪いとは思いながらも、達也は死体の首をすれ違いざまに切り落とした。すると、その死体は動きを止めたのだ。
「…首を切断すれば止まるのか」
着地した三人。達也と雫は迫りくる死体たちに向けて戦意を見せる。だがそれを束が手で制した。
「彼らは…私が倒します」
「…できるのか?」
「ええ、情に負けて役立たずを切り捨てられないのは、上に立つ者として失格でしょう?…地下へ続く道は魔法による隠蔽はかかっておりません。貴方ならすぐに見つけられるかと」
束の発言は、暗に「先に行け」と言っていた。確かにここで足止めを食らっていたままでは、偽神が京都の外へ出て行ってしまう可能性もある。束の覚悟を信じて、達也は雫を連れて地下へ続く道へ向かった。
「みんな…お父様…」
迫りくる死体たちと相対する束の眼には、覚悟の火が灯っていた。
束は、死体たちへと向けて駆け出した…!
「…またお前か、結構会う機会が多いな」
「言いたくなる気持ちはわかるわよ…なんで私ここにいるんでしょうね…」
丸で偶然会った知り合いかのように話す二人の人物。確かに二人は偶然ここで出会った、しかしその二人は自分たちに襲い掛かる敵をバッタバッタとなぎ倒しながら会話しているのだ。
「スターズの総隊長の癖に、一番こき使われてるんじゃないか?」
「命令が下った以上従うしかないしね…」
「軍人はつらいな」
その二人とは、名を改めた男名倉零次とUSNA最強の魔法師、アンジー・シリウスことアンジェリーナ・クドウ・シールズである。USNAの軍人である彼女がなぜここにいるのか。それは日本が驚異的な存在である偽神に対抗するために、USNAに対する救援要請を行うことを判断したからである。
それゆえに最大戦力であるリーナが送り込まれてきたのだが…
「正直、ここに来たのは間違いだったわね…」
「間違いじゃないだろ。俺たちだけで総司をぶっ飛ばせるか分からないんだぞ」
「そうじゃなくて、今この場所ってコトよ」
「ああ…」
そう、この二人は雑魚狩りをするにははっきり言って過剰戦力なのだ。方やUSNA最強、方や最強の人間のクローン。この二人の組み合わせを止められる力は、伝統派には残っては…
「…!何か来るぞ!」
「え?キャッ!?」
結界術で周囲に索敵用の結界を張っていた零次が、リーナを俵抱きで抱えて跳躍する。次の瞬間、二人がいた場所に何かが突撃してきた。
地面は抉れ、辺り一帯には紫電が這っていた。
「アイツ、何者だ…?」
「その前に私を下ろしなさい!」
リーナがじたばたと抗議するが、零次は正体を確かめようと集中して飛来物を見つめているため、その願いは届かなかった。
そして煙と紫電が晴れ、その正体があらわになる。
「…これ以上、京都を破壊しないでください、総司さん!」
「…誰だお前?」
その飛来物…いや、襲来者の正体は、九島光宣であった。どうやら、零次を総司と勘違いしているらしい。
対する零次は、光宣のことなど知らないために、目の前の相手が総司の知り合いであるらしいこと以外は分からなかった。
「…僕のことも忘れてしまったんですか!?…そんなUSNAの軍人までも連れてきて、本当に日本を滅ぼす気ですか!?」
「いやだからお前だ「…なんですって!?」アッまずい」
思考よりも先に思わず言葉を出してしまった零次は、その発言で勘違いしたままの光宣に説明をしようと試みるが、途中で光宣が挟んだUSNA煽りのせいで、抱えられていたままのリーナがキレてしまう。
最初からやれよと言いたげな身のこなしで、零次の腕から脱出したリーナは勝手に侵略者扱いしてきた光宣に文句を投げつける。
「アンタねえ!USNAのこと外敵みたいに扱ってくれるけどね、こっちからしたらアンタの方が任務の邪魔をしてくる敵よ!」
「そりゃ、侵略を妨害してくる奴なんて、侵略者からしてみれば敵以外の何物でもないでしょうね」
「くっ、こいつ…!」
…現状、正しい状況を知っているのは一高メンバーとそのOBぐらいしかいない。であれば光宣が情報不足の中で駆け回っていたことが容易く想像できる。そんな中で見つけた、総司(のそっくりさん)と行動を共にするUSNAの出身らしき相手。光宣側からしてみれば、総司がおかしくなってしまったのはUSNAのせいなのだと考えてしまえたのだ。
「アンタは先に行きなさい、アイツは倒さないと腹の虫が収まらないわ!」
「時間稼ぎのつもりか!?」
「いやだから…ああもうめんどい、勝手にやっててくれ…」
その後、言い合いが過激化してしまった二人は、お互いが本来の目的を忘れてしまい、目の前の相手をぶっ飛ばすことしか考えられなくなっていた。
その様子に、まだ偽神と戦う前なのに疲弊した零次は、放っておくことにしたのだった。
魔法科世界の秘匿通信
・藤原家の人間たちの死体が動き出したのは偽神の仕業ではなく、伝統派の魔法師が束への嫌がらせのために使用した。
え~、なんでこいつら(光宣とリーナ)戦ってんの?
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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いいともー!
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~