「…橘総司は、お前すらも大事な仲間と認識しているようだな」
「へえ…そりゃ好都合だ!」
ふっ、と偽神が零次に手を向けてきた。その姿に、かつて周公瑾を消してしまったときの光景が零次の頭をよぎったが、どうやら偽神の中の総司は抵抗を続けているようで、零次は即座に消してしまわれることはなかった。
その事実に冷や汗を流しながらも表情をニヤつかせた零次は、偽神へと突貫する。その姿を見た偽神は…
「…抵抗の意思を確認。迎撃を開始する」
「…っ!?この魔法…現実じゃなくて因果律に干渉している…!?」
迎撃のため、偽神が使用したのは神の手法に近い、現実干渉ならぬ因果律干渉を行う魔法であった。それにより、地面が通常の魔法師では不可能なレベルで複雑な変化を始める。
それを見た零次は足を止め、結界術で形成した投擲槍を偽神の腹目掛け投げつける。しかしそれは、変化の速度を加速させた地面により形成した壁で防がれる。
だがこれにより視界が塞がれた。
「…おらよっ!」
「…無駄、その攻撃は予測済みで…っ!」
視界を塞いだ一瞬に、偽神の背後に回った零次が蹴りを放つ。しかし偽神は容易く予想できていたようで、その攻撃を防ごうとするが…
「アクティベイト!ダンシング・ブレイズ!」
「
攻撃の方向は、更に増えていた。零次の後ろから、零次ごと攻撃するようにナイフが飛翔してきている。意識を取り戻したリーナの『ダンシング・ブレイズ』だ。
そして壁を斬って現れたのは摩利。彼女は愛しの彼氏と再現した斬撃、『ドウジ斬り』によって、三方向からの同時攻撃を行っていた。
背後を囲むようにナイフ、横方向への退避は、零次の横薙ぎの蹴りによって不可能。そして前方には摩利のドウジ斬り。必然的に上方向に回避を試みる偽神。だが…
「…もちろん、そう避けるわよね!」
偽神の退避方向には、真由美が放った『ドライ・ブリザード』が降り注いでいた。そう、彼らは即興で連携をして、一瞬で偽神を追い詰めたのだ。
勿論、彼らはこの程度で偽神が倒せるとは思っていない。総司は素の防御力で対魔法師用のハイパワーライフルを防ぐことができる。リーナはそんなこと知らないが、他の三人は、それでもダメージを見込めると思っていた。
「……」
その瞬間、偽神の姿が消えた。この時、接近していた摩利と零次は、その原理が疑似でもない、正真正銘の瞬間移動であることに気づく。そして真由美もマルチスコープでそれを遅れて知覚し…
「…まずは、索敵持ちから撃破を優先」
「なっ、しまっ…!?」
…真由美の真横に現れた偽神が、真由美を蹴り飛ばす。まるでサッカーボールの様に扱われた真由美は、大きく吹き飛ばされ、倒壊したビルの瓦礫に強く打ち付けられる。
だが、まだ息はありそうだ。
「…橘総司、ここまでの抵抗は予想外」
偽神の口ぶりから考えて、どうやら真由美が即死しなかったのは、総司が威力を最小限にまで押し込めたからのようだ。もし早々に総司の精神が諦めてしまっていたら、この時点で二人の人間が死んでいる。
傍から見れば死んでもおかしくはない攻撃を受け気絶した真由美を見て、結界によってナイフを防御した摩利と零次が激昂する。
「お前…!よくも真由美を…!」
「…!」
摩利は怒りの言葉を吐きながら斬りかかり、零次はその怒りを豪速の右ストレートで表した。
偽神は二人を見つめ、二人に対して的確な反撃を決めようとして…
「…?」
視点が落ちる。痛みという電気信号をキャッチした偽神の脳からの指令で、彼の眼は反射で自身の腹部を確認する。そこには幾何学模様が描かれた半透明の結界と、それによって泣き別れになった下半身があった。
結界というものは元来外界と内界を隔てる技術だが、零次の技量と干渉力が合わされば、人体を結界で切断することも可能だ。
いきなり人体が真っ二つに分かれた偽神…いや、総司の体を見て摩利は驚きで目を見開いている。さすがにここまでの攻撃を零次が行うとは予想できなかったようだ。落ちる視界の中で零次の方を見る偽神。どうやら零次は怒りの中に冷静さを失わずにいられたらしく、右ストレートは囮でどうやら本命は偽神の顔面が落ちてくる丁度の場所に向かっての左アッパーであった。体でうまく隠していた為、偽神は察知が遅れたのだ。
そして零次の拳が偽神の顔面にあたる直前…
「んなっ!?」
「まっず!?」
瞬間的に偽神の体が消え、零次の拳は摩利の顔面に命中する直前であった。刹那にも満たない時間で零次は偽神の位置を探す。そして、偽神の気配は自分の背後に迫っていることに気づいた。切り落としたはずの体は修復されている。
「…うおおおおらぁ!」
「…!…予想外」
それを知覚した瞬間の零次の反応速度は、異常な速度であった。摩利に拳が命中する直前、物理反射の効果を持つ結界を間に張り、自分の拳を無理やり反射した零次。
キャアン!という甲高い音と、グキャグキャ!という到底人体から出てはいけない音が零次の左腕から発せられる。恐らくこの音の大きさからして、左腕は使い物にならなくなったと考えていいだろう。
肝心なのはその後、自分の拳が反射された勢いを利用し自身の体を回転させて、背後から迫る偽神に威力の増したキックを放つ。
それを偽神は驚いたようにガードするが、あまりの勢いに踏ん張っていても数十メートル押し返される。
「ハア、ハア…」
「大丈夫か、零次!?」
「…俺の事はいいから、さっさと真由美を回収してこい!」
「わ、分かった…!」
肩で息をして、左腕が力なく揺れている零次だが、気丈に摩利に指示を出す。その言葉を受けた摩利が一時的に退避する。
「…レイジ!まんまとしてやられたみたいね!」
「ハッ、情けなく気絶してたやつに言われたかないね…!」
零次の隣に、復帰したリーナが降り立つ。今の彼女はアンジー・シリウスという名の仮面を被っていない。全ての魔法力を戦闘に回すつもりで立っている。
「…高々一人増えてぐらいで私を倒せるとはおも「頭上注意だぜ!」!?」
「『パンツァー』!」
「…態々居場所を明かすとは、愚か…!」
「そりゃ、ソイツは囮だからに決まってるじゃない」
眼前に立つ零次とリーナを打ち滅ぼさんと動き出そうとする偽神。しかしそれは上空から聞こえてきた声によって阻まれた。レオが硬化魔法を使いながら、上空から降ってきたのだ。しかしレオが声を出したことで存在を察知した偽神は反撃しようとして…背後から迫りくるエリカに気づけなかった。最大限の助走をつけることができたエリカ。
エリカにとってそれは、自身の最高火力を叩き込む条件であった。千葉家の秘剣、『山津波』。
術者と刀にかかる慣性を極小にして高速接近し、インパクトの瞬間に消していた今までの慣性力を上乗せして叩きつける魔法だ。助走距離が長いほど威力は増大し、偽りの慣性質量は最大で10tに及ぶとのことだ。
見事レオに釣られてエリカの攻撃を防げなかった偽神は、10tの火力を諸に受けた。それによって、偽神は数百メートル単位で吹き飛ばされた。そもそも、斬撃を受けて吹き飛ぶということ自体がおかしいのだが。
必死に攻撃を行う一高メンバーだが、偽神は立ち上がる。その表情に一切変化はない。ダメージはないと考えていいだろう。
「…探す手間が省けた。まとめて消し炭に変えよう」
絶望は終わらない…!
一方その頃…
「雫、こっちだ!」
「この通路にも敵が多いね…!」
藤原邸の地下、『
達也の『分解』、雫の振動パンチで敵をバッタバッタと薙ぎ倒していく。そして、固く閉ざされた扉が目の前に現れるのだが、達也の『分解』の前に強固な守りは塵芥同然の様に破かれる。
「…ここか」
「これは…」
そこには、ケースに入れられて燦然と輝くレリック群があった。
「…経年劣化がほぼない…『蓬莱の薬』で不朽の性質を得ているというのは本当らしいな」
「こんなものが、平安時代に…?」
「おかしくはない。元来レリックとは、現代科学や魔法で作り出すことができない過去の遺物の事だ。ひょっとすると、遥か昔に存在した文明の方が、現代よりも発展していたものだったかもしれない」
達也の相変わらずの解説口調を半々に聞き、雫はレリックが収められているケースに手を伸ばす。どうやら物理的、魔法的な防御が両方かかっているらしく、簡単には開けられない。だが先ほども述べた通り、今この場にはどんなセキュリティをも一瞬で突破できる達也がいる。
達也が『分解』でケースの蓋を消し飛ばす。
蓋が消えたケースからレリック群を取り出した雫は、それを自ら身に着けていく。
『火鼠の皮衣』を加工したマント、『蓬莱の玉の枝』を柄とした、『仏の御石の鉢』を加工して作られた石剣。『龍の頸の五色の玉』を加工した、五つの指輪。そして雫が持つ『燕の子安貝』のネックレス。
偽神に対抗するファクターはそろった。
確かに絶望は終わらない。
だからと言って、希望が生まれないとは限らない…
魔法科世界の秘匿通信
・基本的に偽神は相手の人体に直接干渉する魔法を使えない。総司の異能で止められているからだ。
・フルアーマー雫完成。その実力は如何に…
別小説でキグナスの乙女たち編初めていいですか?
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いいともー!
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駄目だね~駄目よ、駄目なのよ~